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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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状況考察

警察署の中の自分たちに宛がわれた第三会議室に戻ってくるととりあえず変装を解除する


解除するなどと言っても肌についていた特殊素材をはがして化粧を落とすだけだ


軽くタオルで顔を拭きながら本来の自分の顔に戻ったことを確認しながら静希達はテーブルを出して自分たちが手に入れた情報を交換することにした


「とりあえず、あの教会の中には二人の人間が住んでいるらしいわ、一人は神父、一人は巫女様とか言われてる人、なんでも癒しの力とかがあるとかなんとか、それを餌に信者たちに随分と貢がせてるみたいよ?」


「あとは熱心な信者が警察とかに絡まれてると神様が雷落として助けてくれるんだと、これがあの写真の能力じゃねえかな」


恐らく地域住民の中でも信者が多数存在しているようで、教会の話には事欠かなかったようだ


町全体が宗教にはまっているという状況は好ましくないのだが、情報が集めやすいという意味ではありがたかった


「こっちはとりあえず能力を一つ確認できた、お前らの言ってた癒しの能力、あと明利のマーキング済みの種を教会内部と周囲十メートルくらいまでに蒔いてきた、明利、見取り図頼むな」


「うん、任せて」


明利が紙に簡単に教会内部の見取り図を描いていくと、教会の全貌が明らかになっていく


最も大きいのは教会部分、教壇と信者たちが座るための椅子などがあるスペースだ


そしてその奥に合計で四つの部屋がある


先に静希達が見た教会奥に続いた二つの扉、その先には通路があり左右に二つずつ部屋が連なっている


通路をそのまま進むと裏口につながるようになっていて、通路と通路の間には何もない空間がある


「・・・この空間怪しいよね」


「いかにもって感じだな、中庭なんてものないだろうし」


「まぁ、そこは後にしておこう、今は相手の能力の確認と・・・それとちょっとした悪いニュースくらいかな」


静希の言葉に鏡花はもうわかっていたと言わんばかりにため息をついて見せる


そう簡単に話が進むとは思っていなかった


「相手が能力者ならすぐ能力悪用で御用だけど・・・そうはいかないのね?」


鏡花の言葉に静希は首を縦に振って肯定する


今回のことはまだ確証こそないものの、ほぼ確定的と言っていい状況でもある


特にあの史桐とかいう神父、明らかに胡散臭い


「まず、相手・・・特に巫女様とやらだけど、まともな能力者だとは思えないな、信者ならまだしも得体のしれない俺たちの前であっさりと能力使ってたし」


能力は普通なら隠すものだ


急に町にやってきた人間に対して簡単に見せるような真似をする能力者はあまりいない


しかも近くにいた神父も、むしろ自分から見せるようなそぶりさえしていた


「・・・それって、国の登録を受けてない野良能力者ってこと?」


能力者は本来、国に、ひいては委員会に登録されて初めて能力者として認められることになる


その条件はいくつかあるが、多くの人に能力を発現しているところを目撃され、その報告を委員会が受理するか、あるいは自ら申請し、委員会の人間の前でその能力を使って見せること


さらに審査を受け、正式に能力であると確認できたとき、能力者として認められ多くの援助が受けられる


まだ能力者に対しての援助が始まったばかりの頃、能力者であると偽って援助金だけ受け取ろうとした人間が多発したためにこうした制度が設けられたのだが、それは逆に能力者であることを隠すだけの隙間も作ってしまった


以前明利の親が、明利が能力者であることを隠そうとしたように


「多分な、教育受けてるとは思えない・・・あの神父も十中八九能力者だろうな」


「登録されてなきゃ、能力者として裁くことは現状としては無理・・・か・・・」


能力者は多くの法によって縛られているが、それは多額の援助を受け強力な力を持つが故の物である


そして先にもあげたが能力者であることを証明するにはその能力を使ってみるしかない


逆に言えば能力を使わなくてはその人物が能力者であるという証明はできないのだ


そして相手がもし『この力は能力ではなく神の力だ』などと言えば、それを否定できる材料もないのだ


なにせこの世界には実際に神格がいて、そういった能力だってあるのだから


「となると・・・やっぱりあの教会がなんか不正を働いてる証拠をつかんだ方が早そうね」


「だな・・・今のところそれくらいしかできることはない・・・」


相手が能力者であるのであれば、その能力を使って信者を集めるという行動は一種の扇動と洗脳に値するかもしれなかったが、それも確認できない以上静希達が次にとる行動は決まっていた


だがその前に一つやっておくことがあった


「一応確認だけはしとかなきゃな・・・先生、この写真の男、本当かどうかはさておいて史桐っていうんですけど、委員会に登録してある能力者の中で該当するかどうか調べてもらえますか?作戦会議もしたいんで急ぎたいんです」


「・・・わかった、少し時間がかかるが・・・」


「構いません、あと警察の人にも写真を持って行って犯罪者の中でこの顔に該当者がいるかどうかも確認してもらってください」


やっておこうと城島は静希から受け取ったデジカメをもって会議室から出て行く


静希の言葉の意図を理解してくれたようで城島は何の疑問も反論もなく部屋から出てくれた


「確認だなんて随分と回りくどいわね」


「しょうがないだろ、先生の前で犯罪行為の作戦なんてたてられるか」


仮にも城島は引率教師、生徒たちが違法行為をしようとしていたら止めなくてはいけない立場にある


ならば彼女の知らないところで作戦を立てるしかないのだ


「で?実際のところどうするわけ?」


「ん・・・とりあえず相手の能力の分析から入るか、まず癒しの能力、明利あれをどう見る?」


実際に男性の傷がいやされていたのを見ていた明利、同じ治療を行える能力者としてあの瞬間を目に焼き付け、その上で自分の中でしっかりと分析を進めていた


「裂傷が治ったのは治癒能力だったらたいていは簡単だけど、痣が無くなったってことはただの治癒能力ではないと思う、時間を戻してるのか、生態変換が入ってるのかまではわからないけど」


人間が強い打撲などを受けた時にできる痣などは、一般的に皮膚あるいは肉の内部にある毛細血管がダメージを受け血管が破裂し、血管外に血液が溜まることでできる


ただの治癒の場合、治せるのはその血管のダメージだけで皮膚内部に残された血液は元に戻ることはなく痣は残り続ける


だがあの男性の痣は跡形もなく消えて見せた、ということはただの治癒ではないという事だろう


「最悪攻撃手段としても使える生態変換だと考えるのが妥当・・・か、じゃあ裁きの雷とやらは?」


「私たちも話に聞いただけだから何とも言い難いわね、見た人も一瞬光ったと思ったら大きな音と一緒に辺りが黒焦げてたとか言ってたし・・・」


無能力者の表現は基本的に見聞きしたことをそのまま話すことが多く、比較的検討するのは簡単なのだが要領を得ないことがある


能力的な観点で物を見ず、起きた物事を現象としてとらえるためにそれ以上の考えを起こさないのだ


「ところで、神格の類は居そうだったの?実際行ってみてなんかわかった?」


「いや、行ってみたけど少なくとも気配は感じなかったな・・・でも俺みたいな収納系統がいた場合があり得るからいると考えて行動したほうがいいと思う」


実際人外の気配に敏感になりつつある静希ではあるが、さすがに能力で隠されてしまっては気配など読める訳もなく、あの教会内に人外がいるかどうかは不明な状況だ


もし人外がいた場合、それはそれで問題になるが、その場合はメフィ達に力を借りることになるだろう


「この話は置いておこう、とりあえずいくつか能力あるいは武器の候補を上げて頭に入れておくくらいにしておいた方がいいな・・・次はこれからの方針だ」


こればかりは考察しようがないためにこれ以上は不毛と考え、静希は次の議題に切り替える


これから、というとあの宗教団体の不正の証拠を手に入れるということでもある


だがこの方法は一番手っ取り早い方法なだけで絶対にそうしないといけないというわけではない


あの宗教自体が犯罪に加担していれば、必然的に警察の介入が可能になり、強制的に主要人物は逮捕、その後きちんと検査などをすれば信者たちも目を覚ます可能性が高い


無論信者たちの思考を犯罪から別なところに向けることができればそれでもかまわないが、犯罪を進んで行うような人間の考えを変えるというのは容易ではない


時間がかかるうえに面倒だ


「んじゃ、えーっと・・・とりあえず怪しそうなのはその神父と巫女?のいる部屋と、この妙な空間かしらね」


明利が書いた地図を指でさしながら鏡花がそういうと静希は頷いて地図に幾つかの項目を記入していく


「侵入経路は裏口近く、無線が教会にぎりぎり届くような場所で明利と陽太は待機、明利は無線を使って逐一俺らに状況を教えてくれ、実行は俺と鏡花だ」


「なんだ、やっぱ俺の出番なさそうだな」


やることが少ない陽太は少し残念そうにしていたが、静希はそうでもないぞと付け足しておく


「もし俺らがばれた場合はお前に囮を頼むんだ、わざと槍を暴発させてデカい音を立ててもらう、万が一の保険だな」


「警戒の度合いは増えるけど、犯罪が露見するよりまし、そういうことね」


今回の実習で静希達は犯罪行為など一切していないということが前提だ


警察からの依頼で能力者が犯罪を犯したなど能力者を目の敵にしている人間たちの格好の的になってしまう


今回の作戦は見つかってもその場に痕跡を残してもいけないのだ


「鏡花ちゃんの能力を使って侵入して調べものするの?」


「あぁ、鏡花の力で地下を進んで屋内に侵入する、実行開始は・・・深夜過ぎ・・・二時位が理想だな」


ほとんどの人間が寝静まっているであろう時間帯、夜更かしをしている可能性も考慮して少し遅めに行動する方が良いだろう


逆に、もしここでまともな証拠が出てこなかったとき、静希達は正直お手上げ状態になってしまう


「調べられる時間は・・・大体一時間くらいかしらね」


「デッドラインはそれくらいだな・・・熊田先輩がいればもっと楽に調べられたかもしれないけど、こればっかりは仕方ないな」


もしこの場に熊田がいればあの教会に入った段階で屋内のほとんどの構造を把握できていたかもしれない


さらに言えばどの部屋にどのようなものがあるかまでを理解し、潜入時の音などを掻き消すなどの工作もできただろう


いない人間を頼りにするなどと、しても意味のないことではあるが、このような隠密行動には熊田はかなり有用な人物だ


静希や鏡花の能力とも相性が良くきっちりと仕事をこなしてくれる頼れる先輩だったということを今さらながら再認識した


「ちなみにさ移動はどうすんだ?」


「徒歩だよ、タクシーとかなんて使えないんだ、一時間くらい歩くかもしれないけどな」


一時間もかけて歩かなければいけないのかと陽太と鏡花はやる気を減退させているがこればかりは仕方がない、時間と苦労を掛けてでも余計な痕跡は残さないほうが良いのだ


「持っていくものとか、道具とか一応確認しておかなきゃね・・・光源も必要だろうし・・・あとは服装はどうするの?」


「黒い方が溶け込めるだろうな、顔には仮面着けて、ちょっとした黒い外套を作っておくといいかもだな」


着々と不法侵入の準備を進めている中、調べ物を終えてきたのか城島が戻ってくる


その手にはいくつかの資料と飲み物を持っていた


「どうだ?話は進んだか?」


「えぇそれなりに、頼んでいた件はどうでした?」


茶の入ったペットボトルと紙コップを受け取りながらそう聞くと城島は資料の中の一部を静希達が使っていた机に置く


そこには静希の撮影した写真に写っていた史桐の顔の詳細が記されていた


「警察としてもこいつのことはマークしていたようでな、それなりに調べがついているみたいだった、だが首根っこはまだつかめていないようだな」


四人でその資料をのぞき込むと、その資料には大したものは載っていなかった


本名史桐正敏、無能力者として育ち高校を卒業、その後大学に進むも中退、中退後はフリーターとしてバイトを続けて生計を立てていたがここ十年間行方が分からなくなっていた、そして近年この町にやってきて宗教を設立


この行方のわからなかった十年間に何があったかが気になるところだが、無能力者として育ったというのは事実らしい、実際に無能力者かどうかはまだ不明だが警戒は必要だろう


「なんかパッとしない経歴だな・・・この十年何やってたんだか」


「どっかに修行でもいってたんじゃないの?それこそ宗教の総本山とかそんな感じの」


経歴を見て静希が思ったのはそのまま本名を名乗っているという一点だった


まさか本名で神父をやっているとは思わなかったのだ、犯罪などとかかわるならば少なくとも本名くらい隠しているものだと思っていただけに拍子抜けという感が否めない


「後の問題はあの女か・・・写真撮っておけばよかったかもな」


「でもフードで顔隠れてたし・・・あの状況じゃ写真なんて取れなかったからしょうがないよ」


実際に写真と名前があることでの情報の収集力はかなり変わる


名前こそわからないものの、写真さえあれば時間はかかるが個人を特定することだってできる


だからこそあの女性は顔を隠していたのだろうが、それは逆に言えば顔を隠すだけの理由があるということでもある


「実際に能力を使ってたのはその女の人なんでしょ?とりあえず次接触したときは写真でも撮っておきたいわね」


城島の前ということもあって多少言葉を選びながら今回の侵入でさらにやることが増えたということを確認しながら静希達は作戦の内容を煮詰めていく


「先生、晩飯どうします?どっか食いに行くんすか?」


どれくらい話をしていただろうか、あたりはもう完全に暗くなりそろそろ夕食の時間となろうとしている頃、空腹に耐えかねたのか陽太が城島に声を飛ばす


「そうだな・・・近くに蕎麦屋があると言っていたが・・・せっかくだ、休憩を兼ねて夕食に向かうか」


「おっしゃ、先生のおごりっすか!?」


「・・・あまり高いものは食うなよ?」


城島のおごりということが確定して陽太は少しテンションが上がったのか体を伸ばしながら勢いよく立ち上がる


静希達もそれに続き座りっぱなしだったために凝ってしまった体の筋肉をほぐしながら一息ついていた


作戦決行自体に緊張が強いられる分あらかじめ考えておくことにも余念がない静希と鏡花からしたら、適度に休憩をとることも重要だ


そういう意味では陽太はいいタイミングに話を切り出してくれたかもしれない


警察署から出てとりあえずあたりを散策していると、佐藤の言っていたであろう蕎麦屋を見つけることができる


夕飯時だということもあってかなり客入りが良いようだったが何とか五人固まって座ることができた


「俺天ぷらそば大盛りで」


「俺は天玉うどん大盛り」


「私はキツネそば並を」


「それじゃ私は肉うどんにしようかな」


「・・・少しは遠慮というものがないのか・・・」


全員が注文を終えて食事を始めるなか、さすがに外は冷えるのか何人かの男性陣たちが入ってくる


寒い時には温かいものが食べたくなる、その心理は誰でも同じなのか次々入ってくる客をよそに静希達は夕食を平らげ店を後にした


暖かいものを腹に入れたからか、外に出た瞬間に吹いてくる冷えた風に静希達は思わず身震いする


日が落ちれば気温も落ちる、すでに十一月になり、気候はもう完全に秋の物となっており、これから徐々に冬の気候へと移っていくことだろう


朝や夜は活動しにくくなることを実感しつつ静希達はまた警察署へと戻ることにした


誤字報告が十件分溜まったので合計三回分投稿


一回の文章分で六個以上も誤字が出るなんて・・・失態ですわ


これからもお楽しみいただければ幸いです

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