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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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いびつな姉弟関係

「さて、それじゃ仲良し姉弟に変身させますか」


全員が私服に着替えた状態で静希は用意した変装用の特殊素材を適度に各員に取り付けていく


まず最初に取り掛かったのは班長鏡花である


一番顔が整っており、なおかつ髪も長い、少し髪型を変えて各所に肉をつけるだけで印象はがらりと変わる


「なんか変な気分だね、女優か何かにでもなった感じ」


「やってることはどっちかっていうとゾンビのエキストラだけどな」


「相当美人にしなさいよ?せっかく顔を変えられるんだから」


「手元が狂うからしゃべるな、それに変装に美人も何もあるかよ」


今回は情報収集ということで、少なくとも不細工よりは美人に見えたほうが都合がいいが、変装でそれを再現するのはかなり難易度が高い


特に鏡花はもともとかなり整った顔立ちをしており、そこにさらに手を加えて美人にしろという方が難しいのだ


「はい完成、あんまり顔に触らず激しい運動などは控えてくださいね」


まるで医者のようなことを言いながらとりあえず鏡花の変装を終えると、そこには今まで見ている鏡花とは別人がそこにいる


普段ポニーテールにしている髪を二つ結びにし、眉や頬、顎のラインを調節することで少量の素材だけでかなりの変化をもたらしていた


「どう?鏡ない?自分じゃわかんないのよ」


「はいどうぞ」


明利が持っていた鏡を持って鏡花に見せると、驚いているのか感心しているのかおぉーと声を上げながら鏡に映る普段の自分とは違う顔を見つめている


そこまで急激に変わったわけではないが、目の前にあるのが自分の顔ではないということが如実にわかるだけに驚きも一入のようだった


「大したもんね、これだけできるならこれで食べていけるんじゃない?」


「こんなんで食べて行けるか、見る人が見たら一発でばれるっての、それに丸一日つけてると蒸れてやばいぞそれ」


「丸一日つけたことあるのかよ・・・」


何事も試してみなければ気が済まない静希の性格上、どれくらいの時間変装を続けていられるか、また変装をするうえでつけた化粧がどれほど持つかの実験を行った結果、日中でせいぜい十時間程度、それ以上着け続けるのは困難だ


化粧ののりが悪くなるというのもあるが、皮膚に直接つけているだけあって無駄に暑い


少なくともこの変装技能は長時間ではなく短時間人の目をごまかすための物だ


静希自身を含め全員分の変装を終わらせ、とりあえずこれから調査する内容、および自分たちが知りたい内容、そして今の自分たちの設定を軽くおさらいしながら出発の準備を整えていく


「それじゃ先生行ってきますけど何かありますか?」


「ん?あぁそうだな、とりあえず怪我はするな、もう一度言うぞ、怪我をするな、以上だ」


前回のことが効いているのか、やけに怪我をさせないように過敏になっているようだった


無理もないのだがさすがに気にしすぎではないかと思えてしまう


自分たちの不注意が招いた結果でもあるが、少しだけ城島が気の毒に見えてしまう


生徒の安全第一という考えはわかるのだが、聞き込みだけでそこまで過敏にならなくてもよいのではないか


だがその気持ちも分かるだけに静希達は苦笑しながら会議室を出る


小さな小物を入れておける肩下げカバンを静希と鏡花が持ち、とりあえず押野町につながっている道路を走っているバスに乗り込むことにする


「こっからどれくらい?」


「んと、バスで二十分くらいかな、それほどかからないからのんびりしてられるぞ」


すでに顔を変えているため互いに非常に違和感が強いのだが、静希達はあえていつも通りに接していた


そのほうが自然に周囲に溶け込めるからでもある


「ねぇ、お・・・お姉ちゃん、カメラは私たちが持ってていいの?」


「ふふ・・・いいわよ、しっかりいろんなところとってね」


案外明利がお姉ちゃんというのが気に入ったのか鏡花は機嫌よさそうに彼女の頭をなでる


静希達が設定した内容は一番上が陽太、二番目鏡花、三番目静希、末っ子が明利というものだった


年代設定は陽太高3、鏡花と静希が高2、明利が小学生というものだ


体格だけで決定したものだが、明利は中学生くらいでもよかったかもしれないという気がわずかながらにもないわけではない


四人兄弟という設定上仲が良いかどうかも少し悩みどころだったがそこまで気にかける必要もないだろうと高をくくり、静希達はいつも通りに雑談をしてバスでの時間を過ごしていった


そして数十分後、静希達は今回の目的地である押野町にたどり着く


「それじゃ俺たちは件の建物に行ってくる、他は頼んだぞ、兄さん姉さん」


「はいはい任せておきなさい、そっちも気を付けてね」


「んじゃいってくる」


兄さん姉さんなどと呼ばれることが無いからか陽太と鏡花は少し機嫌をよくしながら静希達と別れて行動を始める


二人は宗教団体の建物から離れた場所での聞き込み、そして静希達は宗教団体周辺の聞き込みだ


「よし、それじゃあ行くか」


「うん、お、お兄ちゃん・・・!」


明利がお兄ちゃんなどと言うと強烈な違和感と共に自分がいけないことをしているような気になるから始末に負えない


とりあえず手をつなぎながら二人は目的の建物へと向かっていった


あらかじめ警察で受け取った資料にあった地図で場所は把握していたため、目的の建物を見つけるのに時間はかからなかった


この町自体がそこまで高い建物がないため少し高い場所に行けばほとんど町の全貌を見渡すことができるほどだ


その中で、静希達が目的とする建物、恐らく教会になっているであろう建物は嫌でも目に付く外観をしていた


教会らしく西洋風な屋根と外装をしていて、ところどころには窓、そして高いところにはステンドグラス風のひときわ大きなガラス細工のようなものが見える


教会のすぐ近くには軽自動車があり、恐らくはこの建物の人間の物だろう、近くにはタイヤ痕がいくつか見受けられた


そして屋根のてっぺんから謎のT字の墓標にも似たものがそびえていた


「あれ・・・なんだろうね?Tかな?」


「十字架の代わりかもな・・・いうなればT字架ってところか、宗教の考えることはよくわかんないな」


よくよく見ればそのT字架はもともと十字架だったものをてっぺん部分を切り落としたようで、微妙に上の部分にいびつな変形があるのが見て取れる


恐らくもともとこの町にあったキリスト教の教会をそのまま利用したのだろう


そこにいたキリスト教の人間がどうなったかは知らないが、潰れた建物をそのまま転用したとみるべきか


象徴として十字架のような手に取りやすくそれでいてわかりやすいものが好ましいが、だからと言ってここまで露骨に手を抜いたようなものでなくてもよいのではないかと思える


「どうする?とりあえず入る?」


「そうだな、虎穴に入らずんばだ、写真撮ってから入るか」


軽く建物の外観を写真に収めながら静希と明利は正面の大き目の扉を開いて中に入る


扉が音を立てて開くと、中は正面に屋根の上にあったのと同じようなT字架、そして教壇とそのさらに上にあるステンドグラス


入口へとまっすぐ伸びた道の左右に何人も座れる固定状の長椅子がいくつか、そして平日の昼間だというのに大人が何人か手を組んだ状態で祈りをささげていた


このような状況を見たことが無い静希は一瞬だけ眉をひそめた


「おや、見慣れない顔だね」


静希達に気づいたのか、奥の方から黒い修道服を着た穏やかな顔をした男性がこちらに歩み寄ってくる


こいつが教祖だろうかとその顔を頭の中に記憶しながら静希は少し訝しげな表情を作る


「えっと・・・ここ教会・・・ですか?」


すでに情報はある程度掴んでいるが、ここは何も知らない体で話をする必要がある


もし聞いてもいないのに話をしてくれるのであればこれほど楽なものはないのだ


「そうだよ?知らないってことは君はこの町の人じゃないのかな?」


「えぇ、今度こっちに引っ越してくるかもしれなくて、その下見に来たんです」


その言葉に教祖らしき男性はほうと声を上げた後静希と明利を見比べる


外見はただの学生のようにしか見えない、少なくとも明利の方は小学生に見える背丈だ


家族連れと思ったのか男性は朗らかな笑みを浮かべる


「そうかい、そちらの御嬢さんは・・・娘さんかな?」


「いえ、俺の妹です・・・あ、申し遅れました、石平イズキです、こっちはメイ」


静希の紹介に明利は静希の体に隠れながら頭を下げて会釈する


石平、これは静希達が名乗るときに決めた全員共通の偽名である


五十嵐、清水、響、幹原の四つの名字から一つずつ取っただけのものだが、ないよりはましだろう


そしてそれぞれ自分の名前を付けたり足したり無くしたりして適当にでっち上げたのだ


「おっと、これは失礼、私はここの教会の管理をしている、アラト教の神父史桐という、こんなところに引っ越してくるなんて、ご家族の事情かな?」


名を名乗ればあちらも名乗らざるを得ない、史桐という名前が本名かどうかはさておき、少なくとも名前は把握できた


「えぇ、父が静かなほうが仕事がしやすいとか言ってて、俺らは元いた場所の方がいいんですけど・・・」


「ほう、お父上が・・・失礼だがお仕事は何を?」


「小説家だそうです、売れてるかどうかは知りませんけど」


まるで流れるように嘘をつく静希の後ろに隠れながら、明利は行動を開始していた


あらかじめ受け取っていたフィアに自分のマーキングを施した種を大量に渡してすでに配置を始めている


人見知りの演技をしながら同調のために集中し、どんどんその索敵範囲を広げていた


「ここって・・・キリスト教じゃないんですよね?なにを信仰してるんですか?」


「ここかい?ここはアラト教、と言っても分からないだろうね、マイナーな宗教さ、荒ぶる使徒に神の救いを、神は如何なる所業もあらゆる罪を裁く、そして何もかもお許しくださる、そういう救いを与える神を信仰している場所さ」


「へぇ・・・あ、写真撮っても平気ですか?」


静希の言葉に神父史桐は構わないよと笑顔で答えてくれる


この男がこの宗教の大本なのか、それとも他にも誰かいるのか


今のところ判断はできない


とりあえずこの教会内の写真を撮る際にその顔を一緒に撮影して記録に残しておく


後で犯罪者の中に記録が残っていないかを警察に調べてもらうためである


「君たちは宗教に興味はあるかい?」


唐突な質問に静希は苦笑する、反応が露骨だ、ここまでわかりやすい勧誘もあるだろうか


「ないですね、こういうのが綺麗だっていうのはわかるんですけど、神様みたいないるかどうかもわからないのを信じようとは思いません」


実際は神様と生活しているのだが、そんなことは全くないかのように静希はただの無能力者を演じる


そんな中、史桐の顔が僅かに強い笑みを浮かべた、それは何かを確信したようなものだった


「では、本当に神がいるとしたら、どうかな?」


史桐のその言葉に、静希は素っ頓狂な顔を浮かべながらも気を引き締めていた


相手からこの話に持って行ってくれるとは思っていなかっただけに、内心ガッツポーズをしていたが、それを表情に出したりしないで何言ってんだこいつという表情を作って見せる


「何言ってんですか、神様なんているわけないでしょう?」


「確かに、普通に生きていれば会うことなどできない、だがここでは違う、さすがに目にすることなどはできないが、その意思を伝える存在と、その力の片鱗を目にできる」


特に聞いてもいないのに史桐は得意げに手を開いてこの場所が如何に素晴らしいかを教えようとしている


この人間が本当にこの宗教の大本なのかも怪しくなってくるほどに口が軽い

いや、今まで町の人間が恐ろしいほどに簡単に宗教を信じたせいで饒舌になっているのだろう


静希からすれば有難い限りだが、もしここで本当に神格などが現れた時はどうするべきだろうか


無能力者の反応として、もし神格の力の片鱗でも見せられたら驚くのが道理だ


能力者の力と神格の力では雲泥の差があるとはいえ、それは一見にしては違いを挙げられるようなものはいない


ここにいる信者たちが、ただの能力を見て信じ込んだのか、それとも本当に神格の力を見て信じ込んだのかはわからないのだ


それこそ実際にその力の片鱗とやらを目の当たりにして、トランプの中にいる人外たちの意見を仰がなくては静希でも判断は難しい


今のところ、人外がいるような気配は感じないが、静希のように収納していたりすると知覚はできない


「意思を伝えるって・・・どうやって?」


「私たちに神の御意志を伝えてくれる・・・そうだね、巫女と言えばわかりやすいかな?そんな存在がいる、そして彼女を通して我々に神の御力を発揮されるのだよ」


静希の頭の中に新たな情報が記録される中で、明利が静希の服の裾を引っ張った


どうやら問題なく種の配置が終わったようだ


後は外に出てフィアを回収してからもう少し外からの状態を確認する必要がある


だがまだ外には出ない、少しでも情報を集めておいて損はないだろう


「教会なのに巫女ってのも変な感じですね、それに力って・・・それこそ裁きの雷みたいな感じですか?」


冗談交じりに、信じていないような体を装いながら静希が軽く笑うと、史桐も同じように笑う


「ははは、その通りさ、罰には裁きの雷を、罪なき子には癒しを、神はすべてを見通している、何もかも、善も悪も越えたところでね」


雷、癒し


キーワードが二つ増えたところで静希はまた写真を撮ってもう一度教会内部を見渡す


最低限の光源は確保しているらしく、壁にはいくつかのライト、そして教壇の向こう側には左右にドアが一つずつ、あれが教会の向こう、つまりは史桐の居住スペースになっているとみて間違いないだろう


調べるとしたら教会側より向こう側だ


「胡散臭いですね、何でも見てるとか善悪とか言われてもピンとこない、実際に見せられたらそりゃ・・・まぁ信じられるかもしれないですけどね」


未だ信じていない表情と声音を浮かべると、史桐はまた笑う


まるで獲物がかかったとでもいうかのような笑みを浮かべて静希と明利を見ている


あらかじめ人外たちに何の手出しもさせないように言っておくことで、万が一自分が傷つくような場面になっても、自分がただの無能力者であることを強調させたい


ここで能力が発現したらそれこそ相手に警戒される


史桐だってこれから引っ越してくるかもしれない相手を無為に傷つけるようなことはしないはずだ


「そうだね・・・確かにその通りだ・・・ではお見せするとしよう・・・少し待っていたまえ」


史桐が奥の部屋に向かい、数分後、長いローブのようなものを纏った細身で小さい人影が現れる


その姿を発見すると同時に周りにいた町民たちがわずかな歓声を上げて一心不乱に祈りだした


黒のローブを身に纏い、その腕には黒い腕輪、フードのせいで目元は見えないが口元はわずかに見ることができ、それが女性であることが確認できた


「御神の力を授かるべき迷える子らよ、前へ」


史桐がそういうと、祈っていた信者の中から一人、顔に怪我をしていると思われる男性が前に出てきた


切り傷と打撲のようで、青痣が見て取れるほどの傷だった


女性の前で跪き、その手を合わせて深く頭を下げる


「彼らが神を信じられぬ哀れな子らです・・・どうか彼らに神の御力を・・・」


史桐がそういうと、ローブの女性は男性の頬に触れた後手を振り上げ口を開く


声は出ていなかった


口を開いても声はでず、息を吸ったり吐いたりしているだけのように見える


だが次第に男性に変化が生じた


顔にあった傷は跡形もなくなり、青痣でさえも完全になくなってしまっていた


その光景を見て男性と信者たちは歓声を上げてから深々と頭を下げて祈り始めた


「どうでしょう?これで神の存在を信じることができましたか?」


誤字報告五件分、そしてお気に入り登録件数2100件突破したので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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