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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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方針と設定

「それで静希、これからの簡単な方針を指示してくれるかしら?」


すでにこの班の司令塔としての役割を担っている静希に班長鏡花が弁当を開けながらそう聞くと、静希はわずかに眉をひそめた


まだ少し迷っているところがあるのだ


「大まかにだけど決まってる、まずは現場に行く、押野町に行って二手に分かれて情報収集、俺と明利は宗教団体周辺、陽太と鏡花はそれ以外の主要施設で聞き込み」


「・・・まぁ二つに分けるのはそれでもいいけど、何で私が宗教団体の方じゃないの?構造理解できた方が早いんじゃない?」


鏡花の能力があれば確かに触れるだけでその周囲数メートルの構造などは判断できる


いつか侵入することを考えれば鏡花をそちらに回した方が良いのではないかと思えるが、静希は静希なりに考えがあるようだった


「理由は二つ、まずは明利の索敵下に置くための工作をする、事細かに確認しながら種を置いていかなきゃいけないからな、フィアに手伝ってもらえば建物の中も問題ないだろうし」


静希のいう事しか上手く把握できないフィアと明利の能力を使っての索敵をするのであれば、この二人がセットで動くのは至極当然だ、一度建物の中に入ってしまえばフィアの行動はかなり楽になるだろう


昼間に入ってくる人間を追い出すような宗教だった場合少し困るだろうが、外からフィアをけしかければ時間はかかっても問題なく種を配置できる


「ん・・・まぁ妥当な判断だけど、もう一つは?」


「もう一つは、その宗教団体の建物に人外がいないかの確認だ」


静希の言葉に、その場にいた全員に緊張が走る


人外、それを指す意味を全員が理解しているのだ


「宗教ってのは何かを信仰するものだ、それが銅像なのか象徴的なものかは知らないけど、能力を使ったらしき跡があるんだ、人外がいる可能性だってある」


「・・・もしいた場合はどうするわけ・・・?」


「・・・その場合は、教祖とやらにちょっとお話しなきゃいけないかな」


お話


静希の言葉に鏡花はわずかに身震いする


きっと一方的な会話になるだろうなということが簡単に想像できてしまうところが静希の怖いところだ


この班の中で唯一人外に対して対抗できるのは静希だけだ、なるほどこの組み分けは非常に理に適っている


最悪、人外がその場にいた場合は適切な処理をしなくてはならない


もし悪用しているのであれば人外を収納、共同で行動しているのであればこちらもそれなりの態度をもって接しなくてはいけない


まったくもって面倒な事案だ


「でも聞き込みっていったって、一体何を聞くの?直接聞いたって住民が話してくれるかしら?」


「バカ正直に聞き込みする奴があるか、そうだな・・・俺らは兄弟ってことにして、今度ここらへんに引っ越してくるんだけどこの辺りのことをいろいろと教えてくれませんかとか、気になるような事とかありますかとか、陽太は人当たり良いしそんな感じで話しかければ問題ないだろ」


もし町全体が宗教にはまってしまっているのだとしたら、正面から聞き込みをしたところで教えてもらえないのは目に見えて明らかだ


ならば別なところから掘り返して世間話の体で情報を回収すればいいだけのことである


「でも引越しなんて・・・そんな場所にしてくるような人がいるとは思えないんだけど・・・」


「少なくとも土地が売りに出されているのは確認済みだ、不動産にも確認してある、引っ越しに来る人間が来ても不思議はない」


事前に下調べをするうえで、ある程度その土地のことを調べた際に聞き込みをするうえで必要になるかもしれないような内容はすべて網羅してある


特にその土地でわざわざ広告まで出して売りに出ている土地だ、一応確認しておくのは当然のことだ


「私服は持ってきてるだろ?制服だと一発で怪しまれるから後で着替えるぞ、あと軽く変装もしておくか、顔覚えられると厄介だし」


「変装って・・・なに?サングラスでも着けろっての?」


そんなもん着けたら逆に怪しまれるよと静希が呟きながらトランプの中から変装用の特殊素材と化粧道具を取り出す


以前イギリスでもやった変装、準備に多少時間はかかるがそれなりに違う顔に仕上げることくらいは容易だ


「飯食って資料に目を通したら全員にやってやるから、それと陽太は能力使うなよ?これが燃えると面倒なんだからな」


「・・・あんたこんなんどうやって手に入れたのよ・・・」


「夏休みに部隊の人にもらった」


技術を一から仕込まれたときについでに教わった変装技能、まさかこれほどまで有用だとは思っていなかったが、とりあえず感謝するべきだろう


また今度訓練するときは爆破の仕方を教えてやるとか言っていたが、もう何を仕込まれても問題ないような状況になっているのだ、今さら何も言うまい


「嘘をつくのは鏡花がやってくれ、話をするのは陽太だ、こいつ嘘つくの下手だしな」


「了解、上手くやっておくわ、引っ越して・・・ていうかそこに私たちが行く理由は」


「そうだな・・・親が小説家で自然に囲まれていて静かなところがいいから下見を頼まれたとか、そんなんでいいんじゃないか?」


まるで息を吸うかのように嘘の内容を考える静希に呆れを含みながら感嘆し、その設定を頭の中に刷り込んでいく


自分と一緒に居る陽太は本当に嘘が苦手なバカだ、自分がフォローしなくては上手く立ち回れないかもしれない、何通りにも質問と回答を用意しておくべきだろう


「じゃあ俺が長男、静希が次男で鏡花が長女明利が次女だな、お兄ちゃんと呼べよ?」


「はいはいクソ兄貴さっさと飯食って準備しろよ」


「・・・えっと、鏡花お姉ちゃん?」


「・・・あんたが言うとなんでか違和感がないわ・・・」


自分のことをお姉ちゃんと言われて少しだけ心ときめくものがあったのか、鏡花は口元を押えながら僅かに身震いしている


明利が言うとより一層破壊力があるのはある意味仕方ないことなのかもしれない


食事を終えた後、佐藤が丁度事件の資料と無線をもって会議室に戻ってきた

彼自身も多忙なようですぐに仕事に戻ってしまったが、軽く礼を言った後で全員でその資料に目を通した


だがまったくと言っていいほどに関連性がない


万引き、食い逃げ、酔った末の暴行、引ったくり


起きた場所も、その原因も、その結果も犯人の性別年齢もまったくもって関連性がない、むしろ普通にどこでもありそうなものばかりだ


唯一関連しているとしたら犯人が全員件の宗教の信者だということくらいである


「なんかここまで普通の犯行だと逆に疑いたくなってくるわね・・・能力で洗脳とかされてないでしょうね・・・?」


今まで見た資料の中で特に疑わしいようなものもなく、ただ暴走した信者たちが犯行を繰り返しているだけ、それこそ鏡花の言うように何らかの方法で行動を操られているのではないかとさえ思えてしまうほどだ


「洗脳って・・・そんな能力者いるのか・・・?同調系統として明利、意見が聞きたいな」


「洗脳・・・人の意識や感情とかそういうのを操る能力は聞いたことないけど、行動を操るだけなら無理じゃないよ、脳の信号を操ればいいだけだから」


実際に体を動かしているのは人間の脳だ、以前の江本のように脳の活動の一部を操れる能力者ならば行動を操れても不思議はない


感情や精神など、脳の中でも複雑で未だその本質をとらえきれない部分を操る能力者は、人類の能力の歴史を顧みても存在しない


今まで存在しなかったからあり得ないなどと言うことはないが、少なくとも現段階でその可能性があるかと聞かれると首をかしげてしまう


「少なくとも体だけ操ったって感じじゃないだろ、数日おきの取り調べでも完全に宗教にのめりこんでるような事言ってるみたいだし」


資料には最低限の調書の内容も記されている、名前などの個人情報は伏せられているが、それでも自分から望んで犯行を起こしたような内容の発言をしている


「明利みたいに意識が切れてもマーキングをつなげていられる奴・・・しかも十数人を同時に操る・・・かなりオーバースペックだな・・・現実的じゃない・・・」


「しかもその継続時間や距離も相当なものでしょうね、そんなものを犯罪に使うような真似する?計画的なものならまだしもこれ全部突発だったりして捕まってるし」


班の頭脳からしても人の体を操るというのは現実的ではないのか、考えの中からは取り払われる


万一のことを考えて宗教団体のところには複数の能力者がいることを考慮しておく必要がある


一人は写真にも残っている道路を焦げさせた能力者


これは間違いなく攻撃によるものだ、ある程度出力のある発現系統であるとみるべきだろう


もう一人は先の仮定にあった同調系統の能力者


それが体を操るものかどうかは知らないが、ここまで爆発的に信者を増やしているのだ、一見無能力者にはわからないような能力を使って何らかの演出を行っていても不思議ではない


現段階で考えられる最悪の戦力状況としては発現系統能力者一名、同調系統能力者一名、神格や悪魔などの人外最低一体


もしこれだけの状況が出来上がったら宗教なんて立ち上げるよりももっとできることはありそうだが、今この場では追及はしないでおくことにする


最悪の状況を想定しておくことが必要なのだ、現場に行かなくてはできないことはあるが最低限の心構えはできる


「それじゃ私服に着替えて偵察に行きましょうか、全員で行くの?」


「そうだな、取り合えずこっちもいろいろ準備するからとりあえず着替えててくれ」


そういって荷物を片付け始める静希を見ながら鏡花はわずかにため息をついて静希と陽太の首根っこを掴んで引きずっていく


「着替えるから出て行きなさい!」


そういえば今回は部屋が一緒なんだったなと思い返しながら静希と陽太は荷物ごと廊下に叩き出される


流石に着替えまで一緒はまずいかと思い返しながら静希はどんどん準備を進めていった


「なぁ静希、それってどういうもんなんだ?」


静希が持っている変装用の特殊素材を見ながら陽太は廊下であるのにもかかわらず私服へと着替えていく


もう少し羞恥心というものを学んだ方が良い気もするが、男であるから気にしないというのもあるだろうか


「ん?これか?肌に直接くっつけておける、まぁ簡単に言えば粘土みたいなもんだ、これで肉を作って化粧で皮膚を再現する、後でやって見せてやるよ」


暇なときに練習を欠かさずやっていたためにこれは何気に静希の持つ技能の中でもかなり有用なものになっていた


顔を隠したい時に仮面を使わなくてもよいのだ、不審者扱いされない上に時間をかければすぐに顔を変えられるから便利さもこちらが上である


「ただし激しい運動とかして汗が出るのはNGだ、これでできるのは普通に歩いたり話したりする程度だな、お前の能力とか絶対使うなよ?」


「ふぅん、まぁ今回は情報収集だし使うようなことないだろ、この気温なら汗が出ることもあんまないだろうし」


そういう意味では今回の実習がこの季節に行われたのは僥倖だった


顔を隠しておきたい状況では変装か仮面くらいしかできない中、夏にこの実習が発生していたら阿鼻叫喚の地獄絵図になること間違いなしである


累計pvが8,000,000突破したのでお祝いで2回分投稿


もうここまでやってきました、皆さんのおかげです・・・!


これからもお楽しみいただければ幸いです

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