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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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警察の言葉

校長の有難い言葉を受けてから静希達はいつもの通り移動を開始した


今回はまず電車で押野町の近くにある警察署にむかう


近くと言ってもほとんど隣町のようなものだ


押野町にあるのは最低限の町としての機能を保つための物ばかり、警察署のような大きな建物はないのだ


そしてその警察署から押野町までは歩いて一時間近く、バスが通ってはいるものの、一日の本数は限られていて数えられる程度


これだけで十分にやる気をそぐことができる状況下におかれることになる


「ちなみに先生、先生は宗教団体とかに関わったこととかあるんですか?」


「・・・一応ないと言っておこう、私も宗教自体あまり好きではないしな」


やはり城島にとっても宗教団体などと言うものは面倒でしかないのか、僅かに声音が下がったのが電車の中でも聞き取れる


「どうやって尻尾掴めばいいとかアドバイスないんすか?俺ら敵を倒すのはやってきてるけど調べものってあんまりやったことないっすよ?」


「そこを考えて行動することだな、まぁ注意事項などは向こうの人間からいろいろあるだろうさせいぜい頭をつかえ・・・だが前回のような失態は犯すなよ?」


城島のどすの利いた声に陽太と鏡花はわずかに息をのむ


失態を犯したのはこの班全体の問題だ


静希がいなくなってからの判断もそうだが、静希自身が判断を誤ったというのもある


結果的に全員命は助かっているものの、重傷を負ったものもいる、今回同じようなことをすればさすがにもう言い訳はできない


「まぁ、今回は最初から向こうに能力者がいるってことがわかってるんだし、何とかしますよ」


「・・・それならいいがな」


静希の言葉よりも、城島はその眼を見ていた


自分を見ているはずなのに、どこか冷え切った目


すでに頭の中ではどうやって行動するかがシミュレートされているのだろう

やる気がないからと言って何も考えていないわけではない


むしろ頭を冷やしている状況で可能な限り考えを煮込んでおく必要があるのだ


今回のような、真正面から当たるだけでは解決できない問題なら特に


静希のその微妙な変化に、班の全員が気付いていた


以前煮え湯を飲まされた経験からか、とにかく頭の中で何重にもこれから起こり得る状況を構築して蓄積していっているのだ


静希は連続して事態が急変し、自分の処理能力を超えた状態になると一気に思考力が落ちてしまう


それが運動しながらだと特に


前回は移動しながら状況が目まぐるしく変わりまともに思考できるだけの時間的猶予もなかった


だが今回はこうしている間にもじっくり思考できる


不測の事態が起こっても問題ないくらいに考えを巡らせておくのが、静希なりの前回から得た改善点だった


その変化は城島も何とはなしに理解していた


普通に班員である陽太、鏡花、明利と話しながら、どこか思考は別なところにおいている


思考の分割とでもいえばいいのか


話すための思考と、実習のことを考えるための思考を分けているように見える


もとより静希は体を動かすよりも物事を考える方が得意な人間だが、集中状態になるとここまで変わるものなのかと少し驚いていた


ある程度経験を積むと、思考や集中するためにスイッチを入れ替える人間は多くいる


特に静希達の面倒を見ていた雪奈たちがその部類に入る


彼らは極端に戦闘実習が多かったために、オンオフの切り替えが非常にうまい


必要な時に集中状態を作ることができるのは一流の証だが、静希にもその傾向がみられていた


もちろん実力的には足りない点が多い


だが確かに才能の蕾のようなものが見えた気がした


それがいったい何なのかは、城島にもまだわからない


数時間電車とバスを経由して、静希達はとりあえず目的地の警察署までやってきていた


時刻は昼近く、これから話を聞いて行動を起こさなければいけないかと思うと少しけだるくなってしまう


署内に入ると、平日なのに些か混雑しているように見えた


いや、正確に言うならば混雑というのは正しくない、明らかに異常なほどに騒々しかったのだ


電話が鳴っていたり対応に追われていたり、何人もの人間がいったりきたりを繰り返しながら市民に応対している


警察が忙しいというのはあまりいい状態ではないが、こちらとしても行動を急いだほうがよさそうな状況だった


「失礼、喜吉学園の者です、担当者の方とお取次ぎ願えますか?」


「え?あ、はい、少々お待ちください」


受付にいた係員は内線で担当者を呼び出している、どうやら本格的に忙しいようでどこにいるかわからないのだろうか、あちこちにかけなおしている様子だった


「申し訳ありません、担当者は今第三会議室に向かうとのことですので、そちらでお待ちいただけますか?」


「わかりました、ありがとうございます」


簡単な地図を受け取って早速その場所へと向かうが、その最中にも何人もの警官とすれ違った


片田舎の警察署にしてはやたらと忙しそうだ、これはなかなか面倒なことになりそうだなと城島を含めた全員がそう確信していた


第三会議室と書かれた部屋に入ると、そこには幾つもの長机が端に寄せられ、その上に幾つかの布団が用意されていた


どうやらここが今回自分たちに宛がわれた場所であるらしい


「ふぅ・・・にしてもすごい忙しそうね・・・」


「事件でもあったんだろ?殺人でも起きたんじゃね?」


「陽太君、さすがに不謹慎だよ」


「でも本当に忙しそうだよな、もしかしたら本当に起きてるかもしれないぞ?」


荷物を置いて軽く整理しながらそんなことを話していると、会議室の扉が勢いよく開き、一人の男性が入ってくる


「いやぁ・・・お待たせして申し訳ない、喜吉学園の方ですね?」


入ってきたのは四十ほどの男性だった


白髪と顔のしわが目立ち、物腰柔らかそうな表情が印象的だった


「初めまして、今回担当させていただきます佐藤と申します、今回はよろしくお願いします」


「いえ、こちらこそよろしくお願いします、喜吉学園教師城島です、こいつらが今回事に当たる生徒です」


お互いに挨拶が済んだところで静希達はよろしくお願いしますと言いながら頭を下げる


その対応に佐藤は少しだけ安心したのか笑みを浮かべながら手に持っていたファイルをいくつかテーブルの上に置いた


「えぇと、ある程度の資料は届いてるんだよね?何か聞きたいこととか確認したいことはあるかな?」


あまりにも漠然とした質問だが、今のところ確認したいことはいくつかある

班の頭脳たる静希と鏡花が思考を始めて、数秒の後口を開く


「まず、今回の依頼の目的から確認させてください、対象の宗教団体の不正の証拠の確保と通報、でよいのですね?」


「あぁ、できれば解体に陥るような状態にするか・・・またはこれ以上信者の人たちが犯罪行為をしないようにしてくれればそれでいいよ」


「・・・方法は?」


静希の質問に佐藤は困ったように頬を掻く


自分の口から言うのは憚られるのか、苦笑いをしながら静希の方をちらりと見る


「それは・・・まぁ任せるよ、問題を起こさないでくれれば手段は問わないから」


「・・・わかりました」


問題を起こさなければそれでいい


警察が言うようなセリフとは思えないが、これは同時に問題が露呈しなければ何でもやっていいということでもあるのだ


簡単に言ってくれるが、こちらとしては逆にありがたい


「あと、信者の方が行った犯罪の詳細をください、個人情報はいらないので、何をしたのか、その時の状態、目的、被害などすべて知っておきたいです」


「それは構わないけど・・・どうして?」


「もしかしたら犯行に関連性があるのかもしれません、まぁ、ないとは思いますけど・・・一応」


簡易資料の方には信者の人間が行った犯罪の種別くらいしか載っていなかったが、ここはかなり詳細な資料を見ておく必要があるだろう


もし信者の人間にしかわからないような暗号的な行動や、意味があるのであればそれはそれで問題解決の糸口になるかもしれない


「わかった、けどまだ未解決の物もあるから数えるくらいしか渡せないよ?」


「構いません、開示できるものだけでも考察に値します」


鏡花の言葉に佐藤はメモを取ってとりあえずこの後持ってくるべきものをチェックしているようだった


信者が事件を起こし続けているせいで事件が多発、まだ未解決、というより人手が足りずに放置されているような案件もあるのかもしれない


面倒事が飯の種である警察でもこの状態は少々手に余るようだった


「あの、もしよかったら無線を四つほどお借りしたいです、どんなものでも構いません」


「わかった、それも後で用意するよ、他に何かあるかな?」


今のところ頼みたいことはそれ以上の物はない


後は実際に現場に行ってみて確認するべきことだ


「じゃあ僕はちょっといろいろ用意してくるよ、その間お昼を食べているといい、近くに美味しい蕎麦屋もあるからよかったら行ってみるといい、後この部屋は好きに使ってくれていいからね」


「ありがとうございます、よろしくお願いします」


佐藤が出て行くのを確認してから静希達はわずかにため息をついた


明らかに異常な状態だ、何故町がこのようなことになったのか、書面だけではわからない何かがあるはずだ


まずは情報が欲しい


「にしても、面倒にならなきゃなんでもオッケーとは・・・ずいぶんとぶっ飛んだ方針だな」


「まったくだな・・・先生からしたらどうです?今回多少の違法行為はするかもしれませんけど」


担当教師としては生徒が犯罪行為をするというのは見逃せないだろうか、だが城島は特に気にした様子はなさそうだった


「佐藤さんも言っていたが、ばれなければ問題ない、ただやるというなら絶対にばれないという確証・・・というか計画を私に報告してからにしろ、万が一ということもある」


教師として生徒の犯罪行為を止めるべきではないのだろうかと思ってしまうのだが、今回ばかりは仕方ないかもしれない


相手は犯罪ばかり行う人間の巣窟、不法侵入くらいしないと尻尾はつかめそうにもないのだ


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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