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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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やる気の度合

「そういやさ、この宗教の聖書?みたいなものはないのか?教えとかが書いてあるやつ」


「あー・・・資料にそれらしいのはなかったわね、こればかりは現地に行ってからかな・・・」


実際にその宗教の名前や聖書の内容などがあればまだ対策が取れるかもしれなかったのだが、こうまで資料が少ないとぶっつけ本番になりかねない


押野町の宗教団体などをネットで調べても辺境過ぎてほとんど情報がないのだ


こういう時に隔絶された地域は地味に厄介である


「今回は戦闘よりも情報収集が主な内容になりそうだね・・・でもどうやって犯罪の証拠を見つけるの?」


明利の言う通り、今回のネックはそこだ


こちらが犯罪を犯すようなことは避けたいが、それではどうやって相手の弱みを握るのかということでもある


「・・・教祖を挑発して暴行の現行犯・・・いや非効率だな・・・いっそのこと犯罪をねつ造することも・・・」


「はいそこまで、さすがに発言が不穏すぎるわよ・・・とにかくどんなことでもできるようにあらかじめ準備は必要よ、少なくとも静希と明利には念入りに準備しておいてほしいわ」


実際に『調べ物』をするとなると確実にこの二人の能力が必要なのは確実になってくる


明利の能力で建物内の詳しい索敵、そして静希には万が一の場合潜入してもらうことになる


事前準備は念入りにしておいて間違いはないだろう


「となると今回俺の出番なしか・・・なんかやる気なくなってきたな」


戦闘がないのではないかと思えるような内容なだけに陽太のモチベーションは著しく下がっているようだった


無理もないかもしれない、やることが無いのにやる気だけは充実させるなど無駄もいいところだ


「わからないわよ?もしかしたら相手が逃走したときとかに追い詰めてもらう必要があるかも、それこそ車とかで逃げられたらこの中で追いつけるのってあんたくらいなんだから」


「そうかもだけどな・・・まぁたまにはいいか」


今まで戦闘が行われるような内容の実習ばかりだったため、こういう調べ物というか裏工作がメインになりそうな内容は珍しい


だからこそ陽太の気力も下がっているのだが、仕方のないものである


「となるとそうだな・・・いろいろ準備しなきゃだな、一応仮面も持ってくか」


「そうね、犯罪者になるような信者たちがいるんだし、一応顔は隠せた方がいいかも、全員忘れないようにね」


鏡花の注意に全員が了解と返事をしたところでとりあえず決めることと連絡することは終わりそうだった


実際難儀な内容である


これが目標を倒せとか、建物を破壊しろとかの方がまだ具体的だ


今回の場合犯罪に関わっているであろう証拠を掴めという内容だが、実際に犯罪に関わっているかどうかも怪しいところだ


犯罪者が多発しているというのは確かに事実なようだが、実際なぜこのようなことになっているかは不明瞭


現地に行ってからのお楽しみというわけなのだが、犯罪と宗教が一緒になっている時点で碌なことになっている気がしない


「陽太じゃねえけどさ、今回の内容はさすがにやる気がそがれるな」


「なんで?あんたはやること多そうじゃない」


陽太程ではないにせよ、静希の表情はあまり冴えたものではなかった


特に資料を眺めている時の顔はひどいものだ、嫌気がさしているようなそんな顔をしている


「宗教に自分から関わっていく奴にろくなのはいないっての、そんなのの巣窟に行かなきゃいけないんだぞ?やること多くても気が滅入る」


「なんかすごい暴言な気がするけど・・・宗教だって悪いものでもないでしょうに、たまには人の助けになるし」


「物理的な助けじゃなくて精神的な助けでな、どっかの誰かが言ってたけど、祈ってるだけで金が降ってくるなら世話ねえよって話だ」


その言葉で鏡花は半ば理解した


静希は宗教が嫌いなのだろう


確かに世間一般で宗教と聞いていいイメージを持つ人間はあまりいないかもしれない


やれ宗教同士の対立だの、悪徳宗教だの、起源がどうの制約がどうの面倒は事欠かない


宗教にはまる人間は基本的に弱っている人間でもある、そういう人間に良い意味でも悪い意味でも手を差し伸べるのが宗教だ


「ねぇ明利、静希って宗教嫌いなわけ?」


「うん、昔から嫌いみたい・・・宗教っていうか宗教に縋ってる人が嫌いなんだって」


「縋ってる・・・ねぇ・・・」


縋っている


言いかたからするとまるで宗教が無くては生きていけないようなイメージになるが、実際そんなことはない


純粋にその教えが正しいと思えるからこそ信仰している人もいるだろう


だが一般的なイメージは絶望した人が行き場を無くしていきつく先で、考え方を変え、希望を持たせるのが宗教だと思われる


おおよそにしてそのイメージは間違っていないだろう


静希の場合、それなくしては生きていけなくなってしまった、完全に自分の考えを放棄し、宗教の教えのみを信じるようになってしまった『思考を停止させた人間』が嫌いなのだ


少なくとも、神の裁きとやらを本気で信じているような人間がまともな思考をしているとは思えない


だからこそ静希は今回若干やる気がなくなっているのだ


「ちなみに今回泊まる場所は?この町に宿泊施設なんてなかったぞ?」


「今回は警察の方で用意してあるって言ってたけど・・・詳しくは書いてないのよね・・・」


若干の不安を残しながら静希達は結局その後特に決めることもなく解散し、事前準備をそれなりに整えた後静希達はそれぞれ家に帰ることになった









静希は装備の準備を、明利は種の準備を、鏡花と陽太は特に準備するものはなく実習の当日になろうとしていた


天気は曇り、雨の予報こそないものの、そこまで天候が良いというわけでもなく気温が極端に低いというわけでもない、何とも言い難い普通の日だった


「あー・・・到着っと・・・」


「静希君、もう少しシャキッとしないと怒られちゃうよ?」


いつものように学生たちが校門近くに集まる中静希と明利も例に漏れず早朝と言える時間に学校にやってきていた


相変わらず何とはなしにモチベーションが上がらないのかやる気が出ないのか静希は暢気に欠伸をしている


「あ、来たわね」


「おーっす」


静希と明利が到着する頃にはすでに陽太と鏡花が談笑している最中だった

どうやら今回陽太は随分と早く行動しているようだった


鏡花がせかしたのか陽太の頭にはわずかに寝癖のようなものも見える


「今回は随分と早いな、やる気なさげだったのに」


「鏡花に起こされたんだよ、まさか朝一番に電話してくるとは思わなかった」


そういって大きく欠伸する陽太、今回は戦闘が少なそうということもあり若干の油断が見られるが、それでも必要な時にはきっちりと引き締めるだろう


「まぁ今回は陽太よりもあんたの方が心配だけどね、ちゃんとやる気あんの?」


「ほどほどにあるよ、まぁでも宗教一つ潰せってことだからな、少しはやる気出すさ」


物は考えようだなと言いながら静希はとりあえず欠伸をかみしめながら周囲を見渡す


すでに二学期も中盤へと差し掛かっているせいか、同学年の生徒たちもずいぶんと落ち着いたものだった


先輩たちの補助なしで実習をする際には少し浮き足立っているような印象があったが、さすがにもう慣れたのか、一種の風格のようなものを持っている生徒も何人か見受けられた


そのうちの一人が何度か交流のあるエルフ、石動だ


凛々しいという表現がこれほど似合う人間も珍しい、それほどに彼女が持つ独特の空気が周囲に漂っていた


班員と談笑しながらも、適度な緊張感を保っているのがよくわかる、表情が読めないのにこれほど状態を把握しやすい人間も稀である


静希と目が合うと軽く手を揺らしながら会釈する、さすがに班員との談笑を妨げてまで静希の元に来るようなことは無いようだった


そして他にもそんな空気を纏っている者はいる


そのうちの一人はこの班の人間である


特に鏡花は、ある意味吹っ切れたおかげなのか自信に満ちているように見える


「なんだお前達、ずいぶんとやる気がなさそうだな」


いつものように静希達を見つけた担任教師城島が軽口をたたきながらやってくる


その視線は主に静希と陽太の二人に注がれていた


「しょうがないですよ、好き好んで宗教なんかに関わる趣味ないんですから」


「やることなさそうなのにどうやってテンション上げろっつーんすか、今回俺いらないんじゃないかって思ってますよ正直」


二人の反応に城島は少し呆れながらも、なんとなく二人の気持ちはわかるのか小さくため息をついていた


面倒にわざわざ関わりに行くような人間はいない、いるとしたらそれは面倒事が飯の種である種類の職業の者だけである


そしてやることが無いと言われてテンションを上げる人間はいない、やることが無いというのは人によっては嬉しいことかもしれないが、周りが忙しくしているのに自分だけやることが無いというのは一種の苦痛でもある


「まぁせめてもう少し顔に出さないようにしておけ、ものすごく不満そうな面をしているぞ?」


「それじゃああれだ、ものすごくハッピーな顔をしよう、ヘイ陽太、チェンジフェイス」


「いやっふぅー、まじはっぴー・・・」


「口だけじゃないのよ・・・」


言っていることもその顔も完全にやる気がなくなっているせいで城島は額に手を当ててしまっている


前回の実習が実習だっただけに、リハビリ代わりともなるこの実習で班の半分がやる気を喪失しているとはどういう状況だと、少し困ってしまっていた


その二人に反比例して鏡花は何やら充実した空気を纏っている、班長としていい具合に二人を制御してくれればよいのだがと僅かに期待するが、今までの経緯から考えて難しいかもしれないなと城島は半ばあきらめてしまっていた


「そういや先生、今回の宿泊先ってどこなんです?特に書いてなかったんですけど」


「あぁ、今回は警察署の会議室に寝泊まりする、布団などは向こうが用意してくれているし、シャワーなどは署内の物を使っていいそうだ」


「うぇ・・・今までで一番ひどいかも・・・」


城島の返答に先程まで充実した空気を纏っていた鏡花でさえやる気ゲージが一気に減っていくのが見て取れた


正直に言ったのは失敗だったかなと後悔しながらやる気が著しくなくなっている生徒たちを見て城島は再度小さくため息をついた


土曜日なので二回分投稿


最近深夜投稿ばかりですが、朝の方が都合がいい人っているのかな?


たぶんいないと思いますが・・・


これからもお楽しみいただければ幸いです

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