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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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今度の目的

鏡花が陽太に弁当を作るようになってから数日、週が明け、校外実習の日時が近づいてきたある日、いつものように静希達は教室に残っていた


例によって例のごとく、各班の班長が職員室に詳細の記された書類を取りに行き、大まかな説明を受ける中、静希達一班の面々は少しだけ気が重かった


「今回は平和な内容がいいもんだな・・・」


「前回は散々だったからな、いろんな意味で」


前回の実習、内容的には失敗の部類に入るが、静希達にとってはそれ以上に苦い記憶の残るものとなっていた


なにせ大失態を晒す原因にもなった実習だ、思い出したくないというのは全員が共通して思っていることでもある


「でも、前回失敗しちゃったし、今回は少し簡単な内容になるんじゃないかな?」


「そうだといいんだけどな・・・」


前回の内容、単純に奇形種の相手というだけなら静希達でも問題なくこなせるものだった


だが実習にはトラブルがつきものである


そのトラブルを含めて解決できなくては失敗と同じ、そういう意味では今回は前回よりは楽になるのではないかと期待してしまう


もっとも、それが叶うかどうかはわからないが


数分してから教室の扉が開き各班班長と担任教師城島が戻ってくる


「あー・・・各班班長に資料は配布した、各々体調管理に気を付けて実習に挑むように、では解散」


城島の号令と共に教室内が一斉に騒がしくなる中、静希達はとりあえず鏡花の持っている資料をのぞき込む


「今回はどうだ?楽そうか?」


「さすがに連続で面倒相手はごめんだぞ?」


「危ないことはない・・・よね?」


「・・・何とも言い難いわね・・・とりあえず静希の家に行ってから詳しく話すわ」


もはや通例となった静希の家での事前ブリーフィング、軽く菓子や飲み物を購入した後でやってくると、家に入るなり人外たちが我先にとリビングへと向かっていった


オルビアは何時ものように静希達の荷物を受け取り、生粋の従者の立ち居振る舞いをしている、騎士としてこれで正しいのかは微妙なところだ


静希と明利が紅茶を淹れ、全員に振る舞う中、鏡花は渋い顔をしながら実習の内容が記された資料に目を通していた


「今回の内容、そんな面倒なのか?」


「ん・・・なんていうかな・・・戦闘自体はあまりないかもだけど・・・そうね、面倒は面倒かも」


静希から紅茶の入ったカップを受け取りながら全員に見えるように資料をテーブルの上に置く


「戦闘がないなら私たちやることなさそうね、今回は安心してみていられる?」


「・・・前みたいなことにはならないようにするよ」


メフィの言葉に静希は苦笑してしまう、どうやら人外たちにとっても前回の実習は少し思うところがあるのか、テーブルに置かれている資料に少しばかり興味があるようだった


無理もないかもしれない、なにせ自分たちが関わるようになってから静希が大怪我したのはあれが初めてなのだ


「それじゃ軽く説明するわね・・・今回の目的地は押野町、内容は現地にある宗教団体の調査よ」


鏡花の言葉に全員が一瞬何を言っているのかわからずに首をかしげてしまう


「・・・え?それが内容か?」


「そうよ・・・もっと詳しく言うなら・・・えっと、この宗教団体が設立したのが三年前、ここ一年で町のほとんどの人間がその信者になってるんだけど・・・信者の人たちが犯罪行為を多発してるのよ」


静希がとりあえず目的地の押野町のことを調べると、かなり辺境にある場所であることがわかる


山に囲まれていて、最低限の店や施設などはあるのだが、隣町まで車かバスでしか行き来できないような交通の便がかなり悪い場所だ


季節によっては陸の孤島となることもあるらしく、各所に備蓄用の倉庫やらがあるらしい


朝早くから出発しても到着は昼近く、最悪昼過ぎになるかもしれない


「でもさ、別に信者が犯罪してるからってその宗教が問題起こしてるわけじゃないんだろ?」


「問題はむしろそこね、確かに宗教自体が犯罪思考があるわけでもなし、教祖も犯罪歴は無し、犯罪を行っているのは全員信者、しかも最近信仰するようになった人たち・・・となればその宗教団体を怪しく思うのが当然じゃない?」


「犯罪を誘発させてるってこと?」


そういう事よと鏡花は明利に頷きながら答える


静希が押野町の行き方と軽い資料を印刷した段階でパソコンから離れテーブルの元に戻ってくる


「ちなみに、その信者の犯罪ってどんなの?」


「いろいろあるわよ、窃盗に暴行、器物破損に・・・公務執行妨害もやってるわね」


「うわ、警察相手にもやらかしてるのかよ」


普通警察を相手にしたら逮捕されるのが当たり前だが、教祖などが犯罪を犯したのならまだしも捕まるのは実行犯の信者だ


実際に犯罪をするように誘導なり扇動なりしたのなら話は別だが、どうやらそういう事でもないらしい


「それで捕まるのは信者だけ、もとを断たなきゃどうしようもないっていう話、それでこっちに話が回ってきたんでしょうね」


「それこそ証拠をつかむのって警察の仕事じゃねえの?俺らにおとり捜査でもやれってか?」


「・・・まぁなんというか、いろいろ事情があるみたいよ」


そういって鏡花は一枚の写真を取り出す


そこには黒こげになった地面が映されていた


「・・・これなんだ?焼け跡?」


「能力の跡か・・・?」


写真を見ながら焼け跡に詳しい陽太が細部まで確認している中、鏡花はもう一つ資料を取り出した


そこにはその時の詳しい状況などが記されていた


「なんでも、警察と信者が小競り合いをしている時に突然光って何かが地面を直撃、その結果がこれだそうよ、信者曰く神の裁きだとかなんとか」


「神の裁きって、なんだそりゃ、笑うところか?」


いまどき神が人間なんてものを裁くなどと考えられない、毎日のように甘いものを求めて座禅をしているような守り神を引き連れている静希にとっては冗談か妄言にしか聞こえなかった


鏡花自身も同じような感想を抱いているらしく、呆れながら今度は別の資料を取り出す


「えっと、その写真とは全く別件なんだけど、以前この宗教団体が使ってる建物で人が救急搬送されることがあったのよ、起訴もされてないし、事件になってないから警察も何も動かなかったらしいけど」


「病院に運ばれて事件じゃないって・・・それどういうこと?怪我してる人はいたんだよね?」


「病院に運ばれた人・・・この場合被害者なんだけど、被害届を提出してないのよ」


病院に運ばれて事情を説明した後で、被害を受けた人間、あるいはその親族などが被害届を提出すると事件として正式に認識され警察が動くことになるのだが、今回の場合被害者もその親族も被害届を提出しなかったのだという

被害を受けていないという認識である以上警察は動くことはできない


「なんか明らかにやばいことやってそうじゃんか、警察は家宅捜索とかできないのか?」


「証拠もない、事件も起こってない、そんな建物の中を家宅捜索はできないみたいね、いろいろと組織の厄介な部分みたいだけど」


警察という組織は大きく、国がその実権を握っている以上柵は多い


勝手に住居に侵入したり、許可なく家宅捜索など行うことはできないのだ


強い力を持つものはその力自体に縛られる、まるで神格のそれに似ている


「まぁそういうわけで、警察も事件が起きてないなら問題はないっていうスタンスらしいんだけど、その信者が面倒ばっかり起こすからさすがに解体してほしいっていうわけね、事情は分かった?」


「なんだかずいぶんと情けない国家権力だな・・・もう少し強気に出られないのかよ」


「国民あっての国家、そういう事だと思いなさい」


警察は基本事件ではないという風に済ませることができるのであればそのままで済ませてしまうことが多い


そのほうが仕事が少なくなるし、ドラマや漫画のような陰謀だとかそんなものがあっても無視することがほとんどだ


警察だって人間だ、楽をしたいという感情は理解できる


だが今回のこれは些か面倒が過ぎる


問題を起こしている根源はわかっているのに手が出せない、だがこのままだと地域住民の被害も、犯罪者も増えていくばかり


未然に犯罪を防ぐのも警察の仕事だ、だからこそ今回依頼が来たのだろう


「・・・この能力痕、少なくとも炎や爆発じゃないな」


「わかったの?」


陽太がテーブルの上に写真を置いてある一点を指さす


そこには道路わきにどこにでもありそうな雑草が生えていた


「これだけしっかり焦げてると結構な熱を出したのはわかるけど、これだけ近くの草が焼けてないってことは本当に一瞬だけ高熱を出したってことだ、少なくとも炎やら爆発やらがここに当たったらこの雑草は消し炭になってるだろうよ」


炎のことに詳しい陽太の言葉に鏡花はふむと口元に手を当てる


実際に高熱を出せるだけの能力は結構多い


一点を高熱にするような能力もあるし、雷だって一瞬ではあるが高熱を持つこともある


「これで確かなのはまず間違いなくその宗教団体には能力者がいるってことになるわね、能力者であることが確認できればきちんと法律で裁けるし、その点から攻めるべきかしら?」


「ま、問題はどうやってそれを証明するかだな、普通に粗探しして通報したほうが早い気もするけど」


能力者であることを証明するのは意外と難しいものである


本人が無能力者であると言い、能力を一切使わなければ普通の人間と同じなのだから


魔素の許容量の関係から検査することはできても、無能力者の中にも魔素許容量の多い人間は案外多い


実際能力を使っているところを警察などに見せるのが一番だが、そこまで甘い能力者はいないだろう


少なくとも、これだけ犯罪を起こし続ける信者がいる宗教だ、隠したいことの一つや二つ程度あっても不思議ではない


「物理的に壊しちまえば問題ないんじゃないのか?集まるところ無くなれば自然解散するんじゃね?」


「陽太君、それはほかの場所が集会所になるだけだよ・・・っていうか犯罪になっちゃうよ」


一応書類上その建物は個人の所有物らしく、勝手に壊したりしようものなら普通に逮捕されてしまうかもしれない


相手がもし犯罪者であるとわかったのなら多少は誤魔化せるかもしれないが、今のところ相手はただの宗教団体だ、それで破壊活動を行うわけにはいかないだろう


誤字報告が五件たまったので複数投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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