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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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鏡花のあれこれ

「・・・なんかそれだけ聞くと・・・告白じゃないよね・・・?」


翌日、結果を報告するために鏡花は明利と一緒に珍しく学食にやってきていた


普段あまり利用することのない学食は生徒であふれている、それほど美味というわけではないが、安いのと周りの声である程度の内緒話をしていても気にならないというのがある種の救いだろう


魚定食を頼んだ明利は器用に骨をとりながら焼き魚を口に含んでいく


「いいのよ、なんか逆にすっきりした、絶対にあいつを振り向かせて見せるわ、時間はいくらでもあるんだから」


カレーを口に含みながらそういう鏡花は言葉の通り、すがすがしい表情をしていた


あれこれ考えたり悩んだりするのを放棄したのか、鏡花の頭の中にはもう陽太を惚れさせてみせるという一つの事柄しか無いようだった


これもある意味正しい形だ


陽太に告白するよりも、仲を深めたほうが良いという考えにでも至ったのか、それとも考えることを放棄した結果、感情のままに動いた結果によるものか


どちらにせよ、鏡花の挙動不審な態度はもう見られなかった


今まで通り陽太に助言や暴言を吐きながら、それでも今までより少し物腰柔らかに、声音も少し優しくなっていたのに明利は気づいていた


突然意味不明の言葉を投げかけられた陽太は混乱しているだろうが、そちらのフォローは静希に任せるべきだろう


鏡花は十分魅力的だ


少し攻撃的過ぎる性格を除けばほぼ完璧に近い


勉強、運動、容姿、どれも高いレベルでこなせている


普通の男性だったら一緒に居れば特別な感情を抱くのに時間はかからないだろう


もっとも陽太が普通の男性かと聞かれると首をかしげてしまうが


「でさ、どうやったらあいつの気を惹けるかな?」


「え?えっと・・・んと・・・」


唐突な振りに明利は困ってしまった


思えば男性に対して明利はほとんど免疫がない、というかどのようにすれば好かれるのかなど考えたこともない


唯一好かれたいと思ったのは静希だけで、陽太はとても良い友人だ、好みくらいは知っているがどういう行動をされて喜ぶのかなどは全く分からない


「えっと・・・ありきたりかもしれないけど、手作りのお弁当とかダメかな?陽太君いつも購買とかでお昼済ませてるし」


「なるほど・・・腹から掴む作戦か・・・悪くないわね」


口実ならいくらでも作れそうだわと呟く鏡花に、明利は僅かに頬を緩めた


なんというか微笑ましい光景だ、もしかしたら静希に焦がれていた時、雪奈たちには自分がこう見えていたのではないかと思えてしまう


誰かのために何かをしようとする鏡花の姿は今まで以上に可愛らしく見えた


「そういえば鏡花ちゃんてお弁当用の料理できるの?」


「・・・明利、ひょっとして今バカにした?作り置き用の料理くらい普通にできるわよ・・・そりゃ明利には劣るかもしれないけど」


「ご、ごめん、今まで鏡花ちゃんが料理したところってあんまり見たことなかったし・・・」


そういえばそうかもねと呟きながら鏡花は目の前にいる明利を見る


鏡花の料理の腕前を表すなら静希以上明利以下と言ったところか


静希のようにある程度味が整っていて食えれば問題ないような男料理よりはできる


かといって明利を越せるほどに上手いというわけではない


本気で作ればそれこそ明利に近づけるかもしれないが、それでも練習不足は否めない


以前静希の家で料理を作ったこともあったが、弁当用の料理と普通の料理はまた目的が異なるだけに用意も難しいのだ


「そうね・・・これを機に料理の練習するか」


「うん、頑張って、陽太君も手作り料理なら喜ぶよ・・・たぶん」


「・・・最後のたぶんっていうのがちょっと不安だけど・・・まぁいっか」


何もしないよりはましという理論で鏡花は結論付ける


料理をすれば相手の好感度も上がる、相手の好きな料理も分かる、自分の料理スキルも上がる、一石三鳥の冴えた策だ


「料理の練習・・・ついでにあいつの栄養管理を理由にしてみるかな、ついでに好きなおかずでも聞いておきましょう」


「きっと『肉!』って答えるよ」


「・・・想像できるところがちょっと嫌だわ」


明利の似ていない物まねに苦笑しながら鏡花はカレーを平らげる


陽太ははっきり言ってかなり大食いだ


前衛だからというのもあるが、あれだけ食べてよく太らないものだと感心してしまう


ついでに言えば陽太は濃い味のおかずに白米をくらうのが好きなようだ


よく実習中でもおかずを一口二口放り込んだかと思えば米を大量に口の中に入れて数回噛んだ後で味噌汁を口に含んで飲み込むという動作をよく行っている


もっとよく噛めよと言いたくなるが、きっと陽太の胃はとても丈夫だから問題ないのだろう


自分が普段食べるような量では間違いなく足りない


そう考えると弁当箱から新調しなくてはならないかもしれないと思いながら鏡花はどんなものを作ろうかなと想像を膨らませていた


その様子を見ながら明利はつい笑ってしまう


ほほえましい


今まで鏡花のいろんな表情を見てきたが、今まで見たことのないような穏やかで楽しそうな顔をしている


陽太を好きになったのが鏡花でよかった


そう思いながら明利は手を合わせて食事を終える


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