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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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鏡花の顔

「だから好きって言っても冗談とかにされるかもってこと?」


「まぁ平たく言えばそういう事だな」


「陽太君って真剣な話とか苦手だもんね」


単純に深く物事を考えることが苦手だからこそ笑い話で済ませられるようにしているという節もあるが、真正面から好意を向けられるということに慣れていない陽太からすれば、自分の言いたいことははっきり言う鏡花はあまり相性が良くないようにも思える


それを鏡花自身理解しているからこそ変に悩んでしまっているのかもしれない


「あんたたちから見てあいつの私への好感度ってどれくらいだと思う?マックス百で」


「また変なこと言い出したな・・・そうだな・・・五十から六十ってところじゃないか?」


「もう少し高くてもいいと思うよ、七十とかじゃないかな」


一体どのあたりから好意に変わるのかが分からないが、少なくとも外野から見て嫌われていないであろうことはわかる


だがそれがライクなのかラブなのかが問題だ、まず間違いなくラブではないと思うが


明利と雪奈は平常状態で静希に向けて愛情を向けている


雪奈の場合それが異性と家族二つの状態だったから変に気持ちがこんがらがってしまっただけで、今はその複雑な感情を一つに絞ることができている


鏡花の場合、それが友情からくる好きなのか異性からくる好きなのかというところから気になるのだ


陽太の場合はまず間違いなく友情だろう、だが鏡花は何の因果か異性として好きになってしまったのだ


「あぁもう・・・どんな顔してあいつの前に立てばいいのよ・・・」


「どんな顔って・・・別に告白したわけでもないんだから気にすることないんじゃ・・・」


「告白とかはしてないけどすっごい情けないところ見られたのよ・・・!」


今も情けないと思うけどなと静希は思っているが、あえて口には出さなかった


情けないところというのは霊装の中にいた時の話だろう、あえて突っ込むことはしなかったが、そのことが随分と鏡花の中で強いブレーキになってしまっているようだ


最近陽太の顔を見られないのもそれが原因かもしれない


鏡花は自尊心が強い、いや自分を強く保とうとしているというべきか


普段天才だのエリートだのと言われているからこそ、自分自身でそれを体現しようとしている


そんな彼女が情けないところを見せた唯一の相手、それが陽太、そして陽太はそれを半ば受け入れたのだろう


「じゃああれだ、もうそういう情けないところはあいつにだけ見せてやればいいんじゃないのか?」


「・・・あいつにだけ?」


静希の言葉に鏡花はわずかに顔を上げた


静希が何を言わんとしているかが理解できなかったからである


「俺の趣味かもしれないけどさ、相手が自分にだけ見せてくれるような姿があると嬉しかったりするぞ?自分には何もかも見せてくれてるんだなって思えるし、信頼されてるんだなって思える」


鏡花が明利に視線を向けると、小さな少女は顔を赤くして視線を逸らした


恐らく普段鏡花に見せないような表情や態度、顔を静希には見せているのだろう


信頼の証


そういってしまえばそこまでだが、それをやるのはそんなに簡単ではない


「あんまり参考にならないかもしれないけどね、最初の一言言っちゃえば、後は勢いで何とかなるかもしれないよ?私は・・・そうだったし・・・」


「とりあえず陽太に会ってなんか言っておいた方がいいんじゃないか?そろそろあいつにもちゃんと反応返してやった方がいいと思うぞ?」


明利の場合勢いのまま悪魔にも似た姉の甘言に惑わされ余計な行動をとった節があるが、とりあえずその結果成功しているのだから結果オーライかもしれない


どちらにせよ、今のままではダメだ、一歩でも二歩でも前に行かなければ何も始まらない


静希のいう事ももっともだ、最近まともに陽太と話していない、先に進むにはとにかく会うところから始めねばならないだろう


鏡花は二人の言葉を聞いて、大きく息をついた後立ち上がる


最初の一言を言ってしまえば、そう頭の片隅に入れて


「ありがと、とりあえず行ってくるわ」


「・・・おう、いってらっしゃい」


「頑張ってね」


自分の分の支払いを置いて鏡花は店を出て行った


残された静希と明利は紅茶を飲みながら走り去った鏡花の後姿を見ていた


「鏡花ちゃん・・・どうなるかな?」


「さあな、結果は明日以降のお楽しみだな」


静希と明利がそんな話をしている中、鏡花は走っていた


走りながら、陽太に対して何と言おうかを考えていた


だが考えれば考えるほどに頭が回らなくなる、酸素が足りなくなる


自分がいったい何を言いたいのかもわからなくなり、思考がぐちゃぐちゃになり感情だけがむき出しになっているような錯覚に陥る


学校の校門を走り抜け、いつも二人で訓練をしているコンクリ床の演習場に向かうと、そこには陽太が座っていた


休憩でもしているのか、大きく息をついている


「陽太!」


鏡花が息を荒くしながら叫ぶと、半ば条件反射的に立ち上がり周囲を見渡し、肩を上下にゆらしながらこちらにやってきている鏡花を視認する


「お、おぉう!?きょ、鏡花!?違うぞこれは!?サボってたんじゃないぞ!?小休憩だ!自主練の真ん中くらいまで終わって今休憩中だっただけで」


何も言っていないのにいきなり言い訳を始める陽太に対して、鏡花は何も言わずに近づいていく


陽太からすればある種の恐怖さえ覚えるような光景だ


息をあらくした鏡花が何も言わずに、視線を合わせようともしないでこちらにやってきているのだから


陽太は逃げることもしないで鏡花が眼前にやってくるのを待っていた


もうすでに逃げることが無意味であると知っているのだ、鏡花がその気になれば自分をすぐにでも拘束できるのだから


そうして二人の距離が限りなくゼロに近くなると、鏡花は陽太の顔を両手で挟み込むように掴んだ


「陽太、あんた前にどんな顔してるかって私に聞いたわね?」


「あ・・・あぁ・・・そうだな、聞いた」


「あの時の質問を今返すわ、私は今どんな顔してる?」


陽太の顔をまっすぐ見返す鏡花の顔は、強い眼力を込めてはいるものの、その息は荒く、顔は耳まで真っ赤になっていた


「えっと・・・眉間にしわが寄ってて・・・顔が赤い・・・です・・・」


「他には?」


「あ・・・少し汗かいてて、目がうるんでます・・・」


変に敬語になってしまっているが、陽太はおおむね鏡花の表情を正確に言い当てた


ほとんど距離のない状況で顔を自分の方に向けているのだ、わからないはずない


顔を向けるのも拒んでいた鏡花は、もう少しで触れ合おうという距離まで陽太との距離を詰めていた


彼女の目にはもう何の迷いもない


「あの・・・鏡花?ひょっとして怒ってる・・・?」


一体何が起こっているのかもわからずに陽太は恐る恐るそんなことを口にするが、実際怒ってなどいない鏡花は息を大きく吸って深呼吸して見せる


頭は相変わらずうまく働かない、でももうどうにでもなれというやけくそ感があった


一度口に出してしまえばあとはどうということはない、明利の言う通りかもしれない


勢いというのは大事だ、自分の感情をむき出しにして鏡花は陽太の目をまっすぐに見つめる


今までのような顔を見せられないなんてことはない


もう陽太には情けないところは見せてしまったのだ、今さら恥ずかしがってもどうしようもない


だったら、こいつにだけ、陽太にだけ見せよう


男にとってそれが嬉しいのかなんて静希からの意見でしかないから本当かどうかはわからない


だが、特別という意味だということは、女の鏡花にだってわかる


だからいう事にした、もう恥ずかしくなんてない


こいつ相手に恥ずかしがるなど、もうないのだ、そう言い聞かせ鏡花は口を開く


「私は・・・あんたに、情けないところとか見られた」


「あ・・・?あぁ、あん時のことか?・・・別に言いふらしたりするつもりないぞ?」


陽太の言い訳にも似た弁解に、鏡花は一瞬たりとも陽太から目をそらさない


恐らくは霊装の中の時のことで鏡花が怒っていると勘違いしたのだろう、だが鏡花の中には一片の怒りもない


「私はね、誰かの前ではきちんとした姿でいたいの、凛々しかったりかっこよかったり可愛かったり、そういう姿でいたいの」


「・・・ま、まぁ普通じゃないのか?それくらい」


「これからは!あんたにだけは私の全部を見せる!情けないところも、弱いところも、この顔も!あんたにしか見せない!いいわね!?」


自分の言葉を遮って放たれた言葉に陽太は理解が追い付けずに疑問符を飛ばしてしまう


「え・・・あの・・・へ?」


一体鏡花が何を言いたいのか理解できず、陽太は捕まれたまま大量に疑問符を飛ばす


眼前には顔が赤いままの鏡花の顔がある、何かを伝えたいということは理解できるのだが、その言葉からそして状況から一体鏡花が何を言いたいのか、伝えたいのか、それ読み取れるだけの頭脳が陽太にはなかった


「返事は!?」


「い、イエスマム!」


それは告白とは言えないような、訳の分からない宣告にも命令にも似たものだった


半ば条件反射で返事をした陽太も、ほとんど意味を理解していないだろう


むしろ鏡花も自分がいったい何を言っているのかわかっていない状況だ

だがそれでも、憑き物が落ちたかのように鏡花はすっきりしていた


すっきりした顔で陽太の顔を離し、満足したのかその場から離れようとする鏡花に対して、陽太の頭の中は疑問符でいっぱいだった


訓練をしていてちょっと疲れたから休憩でもするかと思ったらいきなり鏡花がやってきて怒っているような表情のまま意味不明な全部お前に見せます宣言をし始めた


かと思えば鏡花は満足そうに鼻歌まで交えながら自分から少しずつ離れている


陽太は自分が頭が悪いから鏡花のしたいことがわからないのではないかと思えたのだが、この状況を見て鏡花が何をしようとしているのかわかるものはごく少数だろう


事情を知っている静希や明利がこの場にいたとしても陽太と同じように疑問符を飛ばすかもしれない


「あ、そうだ」


何か言い忘れたことでもあったのか、鏡花が陽太の方を振り返る


まだ頬が赤いままの鏡花は、陽太の方を見て満面の笑みを浮かべている


「一応言っておくわ、覚えておきなさい、私はいつか絶対にあんたから言わせてみせるから」


「・・・言わせるって・・・何を?」


「それを言ったらつまらないじゃない、いいからそれだけ覚えておきなさい、バカ陽太」


その呼び方は、今まで鏡花が呼んだ中で一番柔らかく、優しい声だった


一体何のことを言っているのかもわからず、そして鏡花が何を言いたいのかもわからないため、陽太は数分間その場でぽかんと突っ立っていた


一体何の事だかわからない、自分が馬鹿だからだろうかと思い立ち、とりあえず静希に事のあらましを説明するためにメールをすることにした


誤字報告が五件たまったので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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