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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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昔の仲間と今の笑み

「へぇ・・・そんなことがあったんだ」


後日、静希の家に明利と雪奈がやってきていた


海外での疲れもしっかりとり、買ってきた茶を楽しむため、そして数日ぶりに顔を見るためにちょっとしたお茶会を催したのだ


もっともその体勢は少し下品でもある


明利は静希に体を預けるように座り、雪奈は静希の膝に頭を乗せて寝そべっている


「これがその剣か・・・ずいぶんボロボロになっちゃってまぁ・・・」


すでに朽ち果て、刀身は錆び、柄は歪み、紐が朽ちた剣とナイフを持ちながら雪奈はまじまじと武器だったその物体を眺めていた


「それにしてもすごいね、偶々行った骨董屋さんにオルビアさん縁の武器があるなんて」


「私も驚きました・・・ああいうのを運命とでもいうのでしょうか・・・これもマスターのおかげです」


自分の部下の残された意志、それこそオルビアが自らを霊装にしてまでも探したかったもの


ようやく一つかと思うと先が長く感じるが、まずは一つ得ることができたと思うべきだろう


「まぁ、今回は俺よりもセラに感謝だな、あいつが探した店にあったんだし」


「そのセラってのが今回の騒動の原因のお姫様だっけ?なんかいい気しないな」


女の子の前で別の女の子の話をするもんじゃないよと付け足しながら雪奈はオルビアの淹れた紅茶を口に含んでいる


さすがに本場で購入しただけあってそれなりにいいものだが、雪奈にはその違いが分かっているのだろうか


「ところで、オルビアさんの部下の人って、他にはどんな人がいたんですか?副官さんと・・・そのジェシカさんと・・・」


今までオルビアのことについてそこまで深く聞くことが無かったため気になったのか、クッキーを食べながら聞く明利


そういえばそうだねと雪奈も乗り気のようで、視線を向けられたオルビアは少し気恥ずかしそうにしていた


「そうですね・・・思い入れ深いのはエリーとアルでしょうか、よくジェシカと喧嘩したり、からかわれているのを見たことがあります」


「そのエリーとアルっていうのはどんな武器を使ってたんだ?」


二人の体重が体にかかっている状態でも静希はまったく気にした様子もなく紅茶を飲み続けている


帰国してからこの二人のスキンシップが急に激しくなり、もう慣れてしまったのだ


明利も雪奈も常に静希にくっついていようとする、さすがに数日日本を離れただけあって不安だったのだろう


「エリーは非力でしたが、素早い行動をとり、二本のダガーと弓をよく使用していました、彼女はもともと狩猟を得意としていて、刃物より弓の技に優れていたのをよく覚えています」


「弓かぁ・・・狩猟ってことは動いてる動物とかに当てられるの?」


雪奈の質問にそれはもう何匹も獲物を狩ってきたのですよとオルビアが答えると凄そうだと目を輝かせた


「ですが、ジェシカと同じように強気な性格でしたから、彼女ともしばしば衝突することがあり、時には狩ってきた獲物の数で勝負するなどと言うことも・・・」


「ほほう・・・狩りの勝負とはなかなか・・・」


僅かに前衛として、いや奇形種狩りの血が騒いでいるのか、その瞳には対抗心が燃え上っているようだった


無駄に燃え上られても困るから頬と首、顎を軽くなでてやると、気持ちがいいのか静希の体に顔を摺り寄せながらだらしない顔をしていた


「もう一人のアルは体こそ小さく、臆病でしたが、誰もが信頼を寄せる存在でした、彼女は武器を持たず、盾だけを持っていたのです」


「盾?でも昔の人って剣とか持ってるのが当たり前じゃないんですか?」


明利の言葉はもっともだ、昔は剣で武勲をたてて何ぼの時代、そんな時代に剣を持たず盾だけを持つなどと言うのは、何とも矛盾しているというか、不思議な存在だった


「はい、ジェシカからもそれが理由でよくからかわれていたのです、ですがあの子のおかげで何度窮地を救われたことか、彼女の盾は私たちを守るための物、臆病であったが故に彼女は誰よりも優しく、誰よりも強かった」


臆病者、部隊の中でそう呼ばれることも少なくなかった彼女が救った命は数多い


オルビアはそう語る、盾を持った少女


誰よりも臆病だからこそ、彼女はその小さな体に精一杯の勇気を詰め込んで、襲い来る攻撃から味方を守ったのだという


「盾かぁ・・・」


「・・・明利はそんなことすんなよ?危ないんだから」


髪と頬を撫でると、明利はくすぐったそうに首をすくめて見せる、だが嫌では無いようだった


「・・・もう二人はシズキにデレデレね、さっきからずっと離れようとしないじゃない」


自分がよくいるソファを占領されている腹いせか、浮遊しながら僅かに笑って見せるが、当の明利と雪奈は飄々としている、今までなら少し恥ずかしがるようなことがあったのだろうが、何やら心境の変化でもあったのか、今は堂々と静希と体を密着させていた


「そりゃそうだよ、たった数日とはいえ静に会えなかったんだ、いちゃいちゃもしたくなるっしょ?」


「こうしてると落ち着くの、静希君の体温が感じられて・・・」


せっかくからかって微妙な空気にしてやろうと画策していた悪魔も、この糖蜜のような空気に耐えられなかったのか、はいはいごちそうさまと言いながら眉間にしわを寄せながら退散していった


こういう追い払いかたもあるのかと学習した静希は二人の相手をしながら、日常とは良いものだと自らの幸せをかみしめていた






時間は過ぎ、いつものように学業に精を出す能力者たちが集う喜吉学園


学業を終えた生徒たちは各々好きなように放課後を過ごすのだが、そんな中鏡花はある場所で頭を抱えていた


近くには先日恋愛相談をしてもらった明利、そして自分の方をにやにやと眺めている静希の姿があった


そう、明利がこともあろうか自分と陽太のことを静希に話してしまったのだ


原因として、静希が最近鏡花の様子がおかしいことに気が付いたことが発端だった


明らかに陽太を意識して顔を合わせなかったり、一緒に訓練していても挙動不審だったりと、第三者視点から見ていても明らかに異常な状態だった故である


「いやぁ、それにしてもあの鏡花さんがねぇ・・・まさか陽太のことをねぇ」


「・・・明利・・・あんた私に恨みでもあるの・・・?」


「ご、ごめんね鏡花ちゃん・・・あの、少しでも力になれればと思って・・・」


静希にこのことがばれた以上、絶対にバカにされるに決まっている、今まであれほど陽太のことを馬鹿にしておいて惚れたなどと一体何を言われるかわかったものではない


これが雪奈にばれたのであれば


『そうかそうか、ついに陽と鏡花ちゃんにも春がやってきたか!お姉さんは応援するぞ!』


などと親指を立てて無理やり二人きりにさせたりするような行動をとったかもしれないが、ばれたのは静希だ


こいつに弱みを作るのはまずい、鏡花の勘がそう告げていた


「もう・・・煮るなり焼くなり好きにしなさいよ・・・」


「はっはっは、なんだい鏡花姐さん、ずいぶんと弱気じゃないの、いつもみたいに顔上げてろよ、やましいことしてるわけでもあるまいし」


「静希君、そろそろふざけるのはやめようよ」


明利に咎められると静希は悪かったよと呟いてとりあえず周囲に誰もいないことを確認する


ここは以前明利達が来た喫茶店だ、話しやすく、周りからも注目されにくい

この場に陽太はいない


以前のように紙を渡して自主練習をさせている


すでに槍の扱いに関しては鏡花の補助なしでも十分訓練になるほどの練度に達しているために、その訓練の内容に気を付けさえすれば問題ないとはいえ、今までずっと付きっきりだった状態が急に自主練が多くなると陽太でさえも不審に思うかもしれない


「笑うなら笑いなさいよ・・・あんだけバカにしてた相手に惚れたとか・・・」


テーブルに頭を突っ伏しながら呻く鏡花に静希は紅茶を飲みながら一息ついて表情を変える


「お前の男の趣味はともかく、まぁ悪くはないと思うぞ?あいつバカだけどいいやつだしお前が何であいつに惚れたのかとかは・・・まぁ聞かないでおくけど」


きっかけ、とでもいえばいいのか、鏡花が陽太に惚れた原因はあの霊装の中の出来事だ


静希もそれを半ば理解しているため深く追及はしなかった


「ちなみにさ、好きなのはいいけど、どうなりたいんだ?普通に告白したりしたいわけ?」


「・・・わかんない・・・今の関係だって居心地いいし・・・付き合ったからなんか変わるかって言われると・・・それも分からないし・・・」


鏡花は人との距離の取り方が上手いようで下手だ


適度な距離を保つということが苦手なのか、相手の懐にずかずかと入って行ったり極端に離れようとしたり


そんな鏡花が陽太とつかず離れずの関係を続けていられたのは、偏に陽太の性格ゆえだろうか


「まぁお前がそれでいいっていうならそれでもいいけど、今の状態は何とかしたほうがいいぞ?いくらあいつでも今のお前がなんか変だなくらいは思ってるだろうし」


「・・・そうよね・・・いくらあいつが馬鹿でも、そのくらいは気づいてるか・・・」


「陽太君、ああ見えて勘が鋭いからね・・・」


陽太は変なところでその勘の鋭さと実月の弟と思えるだけの頭脳を発揮することがある


本当にたまに起きるか起きないかのその不思議頭脳が今回発揮されないとも限らない


しかも半年以上ほぼ毎日のように訓練してきたのだ、鏡花の不審な点くらい気づいていてもおかしくない


「仮にさぁ、私が告白したとして、あいつどんな返事するかな・・・?」


「・・・まぁ悪い反応はされないんじゃないか?初対面の印象は最悪だっただろうけど、今はむしろ仲いいだろ?」


「ほぼ毎日一緒だしね、嫌いな人と一緒に居るようなことはないと思うよ?」


二人からの反応はそこまで悪くないように思える


だが一拍言葉を切ってから静希はただなぁと呟く


「・・・?なんかあるの?」


「ん・・・なんかあるっていうと微妙なんだけど、あいつを口説き落とすのは難儀だぞ?」


「そうだね、ただ告白・・・っていう風にはいかないと思うよ」


一体どういうことなのだろうか、幼馴染二人が目を合わせて複雑そうな表情をしているのを見て鏡花はわずかに不安になる


「それってどういうこと?」


「あいつってさ、まぁ両親からずっと疎まれたり、先生たちからもうざがられたりされてたからさ、まぁ言っちゃえば好かれることに慣れてないんだよ、実月さんと会ったときとかそんな反応してなかったか?」


静希の言葉に鏡花は五月のことを思い出す


陽太の姉実月が突如来訪したときの陽太の慌てよう、そして実際にあった時、実月に抱きしめられたときの陽太の狼狽の仕方


確かに、直接好意をぶつけられることに慣れていないようでもあった


お気に入り登録件数が2000件突破したのでお祝いで二回分投稿


さりげなく目標に掲げていたものなので非常に嬉しいです、実はもう一つひそかに目指していたものがありそれも達成できました、本当にありがたい限りです


これからもお楽しみいただければ幸いです

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