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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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姫との別れ

「なに?本当にあれ買ったの?」


「あぁ、まぁ気に入ったからな」


「・・・やっぱイガラシって変な人だわ」


どうやら本格的に静希は変な人という認識をセラは抱いているようだった


間違いではないのだが、さすがにここまではっきり言われ続けると少しだけショックを受けないでもない


その後も何度かセラの買い物に奔走し、もう夕方になろうという頃、静希はセラの買った荷物を持ちながら少し疲れた声を出していた


「さてお姫様、今日の買い物は終了か?それともまだどこか行きたいところでもあるか?」


もう朝からほとんど動き続けている静希とセラ、そろそろこのお姫様の買いたいものも終わるころだろうか


少なくとも普段明利や雪奈がする買い物の数倍は動いている気がする


「そうね・・・後はちょっと買い食いでもしていこうかしら、どこかに入りましょ?」


「はいはい仰せのままに」


笑みを浮かべながら静希の先を歩くセラの後を追って、二人は喫茶店の中に入っていく


紅茶とコーヒーの匂いの充満する店の中で静希達は一息ついていた


「今日はありがとねイガラシ、楽しかったわ」


「そりゃよかった、まぁこっちもそれなりにのんびり街を見れたよ」


海外の街並みというのはいつ見ても飽きない、不思議な雰囲気というか、自分の生きている街とは全くの異世界であるような印象があるからこそ、自然と引き込まれるものがある


今回は買い物だったから店の中の物を多く見ることに終始していたが、こういうのもたまには悪くないだろう


「また遊びにきてね、その時は歓迎するわ」


「そうだな、次はもっと平和的に、こっちの都合も考えて呼んでくれると助かるよ」


今回はいきなりの招集かつ依頼だったためにまともな準備も心構えもできない状態だったのだ、今度はもう少し事前に事を伝えてほしいものである


「あはは、テオドールには私からきつく言っておくわ、今度はイガラシのスケジュールに合わせる、それか私が日本に行きましょうか?」


「勘弁してくれ、能力者が一人海外行くのと姫様が海外行くのとじゃまったく話が違ってくるんだから」


「そうかしら、私はただの女の子よ?」


「お前がそう思っても、周りはそう思わないんだよ、少しは自覚しろ」


互いに笑いながら話をすること数分、セラは紅茶の入ったカップをテーブルに置き、窓から町を眺めた


「イガラシ、私はあなたにこの国を好きにさせてみせるわ、その時は約束守ってよね?」


「お前が完全にこの国を支配したらな、そん時は専属の護衛だろうと執事だろうとなってやるよ」


「ふふ、将来の楽しみが増えたわ」


静希は苦笑しながら紅茶を飲み干す


すると店の外からサングラスとスーツを着た男性が入ってくる


本日二度目のテオドールの登場だ


「セラ、時間だ、今日はもうお開きだな」


そういって店の外を顎で指すとそこにはすでに迎えの車がやってきていた


「なんだ、もう時間?もうちょっといいじゃない」


「わがままを言うな、もう十分楽しんだだろう」


セラの言葉を一蹴してテオドールは彼女が購入した物品を車に運び始める


どうやらこれで姫様のお守りは完遂らしい、長い一日だったとため息をつきながら静希は立ち上がって荷物を運び出す


テオドールが店の会計を済ませた後、車に乗り込んだセラが別れを告げるために窓から顔を出した


「イガラシ、今日はありがと、またいつか会いましょ」


「そうだな、次はもう少しお淑やかなレディーになってることを期待するよ」


「失礼ね、私は今だってお淑やかなレディーよ?」


どの口が言いやがると軽く額を小突いて静希は軽く笑って見せる


セラもこの扱いが嫌いじゃないのか笑いながら見てなさいと、逆に強気になっていた


「部下の車を迎えによこす、お前たちはそこで待っていろ」


そういってテオドールの車が走りだす同時に静希は大きくため息をついた


『あの方は、セラ様は王の素質がありますね』


『へぇ、そう思うか?何でまた』


今日一日セラと行動を共にして、その一挙一動を観察していたのか、オルビアがふとつぶやいた


何気ない言葉だったのだろうが、静希は興味深かった


何故そう思うのか、実際に王が国を統治していた時代に生きたオルビアだからこそわかるものがあったのかもしれない


『私の生きた時代にも、今の政治家に似た職の者がおりました、その者たちは民に向かい合って話をまとめるのです、争いがおきぬように、衝突が少なくなるように、妥協点を模索するのが政治家です』


政治家、今この世界を統治しているほとんどの人間は政治家の側の人間だ


彼らがいなくてはこの世界がどれほどのレベルまで下がるのかわかったものではない


『ですが王は民に向かい合うことはなく、民に背を向け、民を率い導くのです、時に争いなどが起ころうとも、民を守り、行く道を示すのが王です、あの方は、私がかつて見た王のそれに似た背中を持っていました』


王の背中


静希はそれがどんなものか知らない


だが今日、自分より先を歩く彼女の背中に、オルビアはかつて見た王のそれに近いものを感じ取ったのだろう


感性というのは案外バカにならないものだ、特にそれを実際に見たオルビアにとっては特に


もしかしたら本当に彼女はこの国を支配することになるかもななどとあり得るかもわからない可能性を考えながら静希はまた一つため息をつく


「お疲れ様、大変そうだったね」


「元気な子だったわね、お姫様と言えど子供ってことかしら」


恐らくずっと静希達についてきていたであろう大野と小岩が状況終了を確認したと同時に静希の近くにやってきていた


その手にはいくつかの買い物袋が存在していた


この二人もそれなりに買い物は済ませていたようで、海外の雰囲気を満喫できたようだった


「お二人もお疲れ様でした、付かず離れずついてくるの大変だったでしょう?」


「まぁ、そんなでもなかったよ、それなりに楽しませてもらったさ」


「あのテオドールって人が喫茶店で待ってた時はちょっと肝が冷えたけどね」


二人の言葉に静希は全くですと同意する


なにせあの場でまさかテオドールとチェスをさせられるとは思ってもいなかったのだ


あの時間に意味があったかどうかはわからないが、お姫様を上手くいなせたのは僥倖だっただろう


テオドールの部下らしき人物の車が三人の前に停車し、確認をとった後で三人は車でホテルまで帰ることになる


「そう言えば骨董屋で何か買っていたみたいだけど、何買ったんだい?」


「あー・・・ちょっといわくつきの武器を」


「え・・・また霊装とかそういうの?」


「いえいえそういうのじゃなく、ただの古びた剣ですよ」


オルビアの事情を話したところでこの二人はあまり興味がないだろう


この剣はしっかり日本に持ち帰って、オルビアと対面させてやらなくてはならない


なにせ数百年ぶりの対面なのだ


静希達の宛がわれたホテルに戻ると、静希は送ってくれたテオドールの部下に窓越しに声をかける


「送ってくれてありがとう、テオドールに伝えてくれ、明日の予定に関しては電話しろ、もしまだ何かあるようならその時に、あと、明日時間をよこせと」


「わかった伝えておこう」


そういって静希達から離れていく車を見送って三人は今日のお勤めが終了したことを察知し、疲れた体を引きずってホテルの最上階のスイートに戻っていく


「そういえば二人は何を買ったんですか?」


「ん?いろいろよ、服に香水に、あとはインテリアとお茶と・・・ちょっとお菓子とか、お酒も買ったわ」


「・・・案外楽しんでますね」


自分が無理を言って連れてきておいてなんだが、しっかりこの海外旅行もどきを楽しんでいるようだった


実際戦闘などなく、ただ二人の後を視界に入らないようについていきながら自分たちも買い物をするだけなのだ、二人にとってはそこまで負担ではなかったのかもしれない


「いやそれにしても女性の買い物は長くていけないな・・・もう少しテキパキ動けないのかな?」


「大野さん、女性はそういうものですよ、そこでしっかりとついて行ってあげられるかが重要です」


「あら、五十嵐君よくわかってるじゃない、聞いた?そんなんだからもてないのよ」


「もてるかもてないかは関係ないだろ?!そうだよな!?」


女性づきあいが長い静希からすればそこまで気にするようなことでもないのだが、恐らく大野はそこまで女性と付き合った経験がないのだろう、小岩はそのあたりを見透かしているのかにやにやと笑みを浮かべている


同意を求められても静希からしたら苦笑いするしかない


言えるわけがない、約二名ほど彼女がいるなどと、しかも二股が彼女同意の上だということなど


「ところで明日はどうなるのかしら、電話を待つしかないの?」


「そうですね、お姫様が十分満足してくれたなら明日の午後には帰れるかもです、明日は自由時間も取りたいですよね」


「せっかく来たのに買い物しかしてないんじゃな、前もそうだったけど、少しはゆっくりしたいところだ」


大野の言う通り、前回も今回も基本急遽出国することになってしまったからゆっくりできた時間などあまりない


今回は少しは時間的猶予があるとよいのだが


「それにさっきテオドールに時間よこせとか言ってたけど・・・何するつもりだい?」


「一応・・・その、戦闘はやめてほしいのよね、護衛としては」


「いやいや、戦うつもりはこっちにはありませんよ、ただちょっと仕事を頼みたくて」


仕事?と大野と小岩は首をかしげる


静希がいったいどんな仕事を頼むのか見当がついていないのだ


無論大野と小岩も全く無関係ではないが、主に静希が片付けたい案件である

可能ならば一秒でも早く片付けたいが、実際そこまでうまくいくものではない


今年中、いや静希が在学中に解決できればまだいい方だろう


今回のことでテオドールにはまた貸しが増えているのだ、そろそろまともに動いてもらうのも必要だろう


そして自分も動かなくてはならないだろう


自分だけの問題ならばまだ放置もよかった、だが自分だけの問題ではないのだ


自分のトランプを眺めながら静希はため息をつく




テオドールからの電話がかかってきたのは、静希達がホテルのレストランで夕食をとっている時だった


食事中に電話というのは些かマナーが悪いが大野も小岩も事情を知っているために何の問題もなく通話することができた


「もしもし、五十嵐です」


『やぁイガラシ、今日は助かった、我儘姫の相手をしてくれて感謝するよ』


上機嫌、とまではいかないが、少しだけ肩の荷が下りたのかテオドールの声は軽い


あのお姫様に振り回されるのは勘弁だとでも言いたいのか、大きくため息をついた後でテオドールは本題に入る


『明日の予定だが、好きにしてくれて構わない、十八時の飛行機をとってある、それまでは好きに動け、連絡をくれれば部下を迎えによこす』


明日には帰れるということを知って静希はわずかに頬を緩めた


こちらの料理も悪くはないが、さすがに日本食が恋しい、なにせこちらの料理は少し味が濃いのだ、明利の作る料理が食べたいなどと考えながら静希はため息をつく


「あぁそりゃありがたい、さっさと日本に帰れるならそれに勝るものはないね、だけど一つまだこっちには用件がある、部下から聞いてるだろ?」


『・・・あぁ、明日時間を作れとのことだったな、電話じゃ難しいのか?』


「電話じゃ無理だな、別にここにきてくれても構わない、外部に話が漏れないようなところであればな」


静希の返答にテオドールは数秒沈黙を作っている


何か考えているのだろうか、その内容まではわからないが、沈黙を破るようにわかったと返答してくる


『じゃあそうだな・・・明日の十時にホテルに行く、そこで話をしよう』


「わかった、待ってるぞ」


用件だけ告げて静希が電話を切ると話の内容が気になるのか大野と小岩がこちらに視線を向けていた


「明日の十八時の飛行機で帰れるそうです、それまでは自由行動、十時にテオドールがホテルに来ますから、その後からのんびりできますね」


「そうか、考えてみれば二泊三日しかしていないのかな?」


「旅行的に言えば二泊四日になりそうね、日本に帰るころには朝になってるし」


十八時の飛行機で日本に戻るとなると、日本につくのは早朝、静希はそのまま学校に行くことになるだろうからかなりつらそうだ、飛行機で睡眠をとれるのはありがたいことである


「お二人にはご迷惑をかけてすいませんでした、急にこんなこと頼んで」


「気にしないでいいよ、こっちはイギリスへの旅行がタダみたいなものだったんだから」


「確かにね、それなりに楽しめたし、ホテルのスイートなんてのにも泊まれたし、むしろこっちがありがとうよ」


二人はそう言いながら朗らかに笑っている、静希からすれば有難い限りだ


もう二度とこんなことが無ければいい、テオドールに釘をさすのは明日行うことにするとして、今日はとりあえずゆっくりとこの時間を楽しむことにしよう


「せっかくだ、五十嵐君もどうだい?美味しいぞ?」


そういって大野はワインの入ったグラスを静希に向ける


恐らくこのワインも高級品なのだろう、護衛中に酒を飲むってどういう事よと小岩がたしなめていたが、大野はどうやらかなり酒に強いようだった


「未成年に酒を勧めないでください、それにそれかなり強いでしょ?」


「あはは、そうでもないよ、食事しながらだからただの飲み物と変わらないさ」


「ごめんね、無視していいから」


そこまでひどく酔っているというわけではないだろうが、少し顔が赤い


良い酒を飲めて気持ちよくなっているのだろう、大人にとって酒とは必需品のようなものなのかもしれない


「今回はかなり平和だったわね、前回が強烈過ぎたけど」


「そうですね、まぁあいつらを外に出さなければそんな派手なことにはなりませんよ」


前回の騒動の原因は悪魔たちだ、今回はお姫様の我儘を利用したテオドールと政治家たちが原因、そう考えれば平和なのはある意味当然かもしれない


ある種の外交接待のようなものだ、ここで問題が出たらそれはそれで面倒になる


「お二人にはもしかしたらまた頼ることになるかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」


「おぉ、どんどん頼ってくれ、その代わりと言っちゃなんだが、君が軍部にきてくれればいいんだけどな」


「一応将来の選択肢の一つには入れておきますよ、まだ先のことはわかりませんから」


実際、これからどうするのか


エドモンドにも言われたが、静希はこの先どうするべきか


卒業すればそれだけでもうただの能力者としては見られないだろう


確実に悪魔の契約者として多くの柵にとらえられることになる


学生生活、今年を含めてあと三年


この三年でこの先のことを考えなくてはならないのだ


エドモンドに言ったように父親の仕事を手伝うのもありかもしれない


大野たちの言うように、陽太とともに軍部に行くのもありかもしれない


または鏡花のように大学に進学するのもありだ、静希の学力なら無理な話ではない


なんにでもなれるというのは、ある意味恵まれている、だからこそ選択肢の多さに困ってしまう


まだまだ自分は子供であることを自覚しながら静希はグラスに入った水を口の中に含んだ


土曜日なので二回、さらに誤字が五件分溜まったので合計三回分投稿


稀にあることだけど、執筆がやたらはかどるか、まったく逆の症状が起こります、最近はちょっと不調気味、でも休まず書きます完結させるまでは


これからもお楽しみいただければ幸いです

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