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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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少女の未来

「あー・・・ちょっと離れた場所にあるけど・・・どうする?バスとか使う?」


「いや、どうせなら歩いていこう、街並みも見たいし、何より荷物も預けたし」


時間稼ぎが目的なのにバスで移動しては意味がない、もっともらしい理由として街並みを見たいなどと言ったが、それも本心だ


せっかく海外にきているのに面倒ばかり押し付けられて楽しめないのでは少し悔しい


以前はロンドン大学付近での行動だったが、地下に移動したり高速で追いかけたりとまともに町を見るだけの余裕はなかった、写真ではなくこうしてその場所にいられるというのは非常に貴重な経験だ


「ねえイガラシ、イガラシはテオドールに殺されかけたのよね?」


「また唐突だな、そうだけど、それがどうかしたか?」


セラは最低限の事情は知っている、テオドールがあれやこれやと話したのだろうが、実際のイメージは子供らしく拙いものだろう


命を狙うなどと言う言葉を口にしてみてもそれが実際どういうものかまでは考えが及んでいない、子供らしいと言えばそこまでであるが、事実そのほうがいい


「言ってみれば、テオドールはイガラシの敵なんでしょ?なんで今回来てくれたの?」


「・・・まぁ敵には違いないけど、今回は委員会の方にも手を回されたからなぁ・・・」


静希は学生という微妙な立場だ、上の人間からあれやこれやと手続されてしまうと良くも悪くも行動を拘束されてしまう


今回の場合、静希とメフィのタブーに触れないレベルでのやり取りだったために見逃したが、恐らく二度目はないだろう


静希が何とはなしに事情を説明してもセラは理解できていないようだった、今回は互いの外交関係に巻き込まれた形になるが、まさか自分がその出汁に使われているとは思わないだろう


「イガラシはテオドールが嫌いなのよね?」


「あぁ嫌いだね、大嫌いだね」


可能ならば近づきたくないレベルで静希はテオドールが嫌いだ、同じような人種だからなのかもと先刻思ったが、その考えは頭から吹き飛ばすことにする


「じゃあこの国は嫌い?」


「・・・難しい質問だな・・・んん・・・嫌いか好きか・・・そうだなぁ・・・」


思わぬ質問に静希は首をかしげてしまった


正直静希はイギリスという国にあまりいい印象がない


なにせ最初は漂流、二度目は悪魔と戦闘、そして命を狙われかけ、三度目に来た時には拉致されかけているのだ


これでいい印象を持てるほど静希は聖人君子ではない


だが悪い印象ばかりではないのだ


オルビアと会ったのはこの国だし、エドモンドと会えたのもこの国だ


見たことのない景色や、きれいな光景を見れたのも記憶に新しい


全てが嫌いかと言われるとそうではない、嫌いなのは一部の人間だけ、他は好感が持てるかもしれないのだ


「・・・国自体は好きでも嫌いでもない、普通だな、ただ一部の人間は嫌いだ」


「・・・父様とか、そういう仕事をしてる人たち?」


「全員じゃないけどな、頭の固いお偉いさんは何を考えてるかわかったもんじゃないからな・・・正直言って関わりたくない」


静希はただの能力者である、だが同時に悪魔の契約者だ


強い力を持てば必ずと言っていいほどに利用しようとする何者かが現れるのが常である


静希は利用されるのが嫌いだ


頼られたり、誰かのために動いたりするのはまだよくても、当てにされたり利用されるのは大嫌いだ


特にイギリスの政府高官の誰か、静希を殺すように指令を出した張本人に関しては二度と関わり合いになりたくない


「なんかわかるかも、あの人たち脂ぎってて嫌い」


「またすごい女の子みたいな理由だなおい」


「私は女の子よ」


そりゃ失礼しましたと返しながら静希はセラの横を歩く


恐らくこの子は小さいころから大人たちと接してきたのだろう


そして人の良い面も悪い面も、そして腐った部分も見てきたのだろう


頭で理解できなくとも、なんとなくわかるのだ


子供ならではの直観というものだろうか、邪な考えを抱いている人を感覚で把握できるのだろう


そう考えると、邪な殺意を持つ静希と策略を巡らせるテオドールが気に入られる理由は少しおかしい気がするが


「・・・そうだ、いいこと思いついたわ」


「・・・あんまりいいことじゃない気がするけど、一応聞いておく、何を思いついた?」


先程のテオドールとの会合以来彼女が何か言いだすたびに少し警戒を強めてしまう静希を見ながらセラは面白そうに笑っている


「私がこの国を支配すればいいのよ!そうすればイガラシもこの国を好きになるわ!」


あまりの発言に静希は絶句してしまった


口を開けて目を見開いて、言葉を失うほどに驚いたのは本当に久しぶりだったかもしれない


「だってそうでしょ?私が支配すれば嫌な人はどっか行ってもらえるし、イガラシに迷惑かけないようにできるわ、完璧じゃない?」


「・・・く・・・かっははははははははははははははは!」


子供らしい、そして子供ならではの王国論に静希は思わず笑い出してしまった


国を治める事柄において支配などという言葉を使ったのはすでに何百年も前の話だ


今や一人の王が国を治め、成り立たせるような状態はありえない、あり得てはならない


「なによ、なんかおかしいこと言った?」


「くくく・・・いや・・・お前大物だ・・・さすが王族っていうのかな・・・」


笑いすぎたせいで目からこぼれたわずかな涙を拭いながら静希は目の前の少女に目を向ける


そう、完全なる王政などあり得てはならないのだ、民を無視した国などは必ず瓦解する


だからこそ民の気持ちを理解するために、少しでも国を上手くまとめるために民主制は取り入れられ、現代の社会の根幹ともなっている


中には王政を取り入れているところもある、だがその国だって一人で国を動かしているわけではない


完全な王政など、完全な王の支配などあり得ない


なのに、なぜかこの少女の言葉が嫌に現実味を帯びているのが不思議だったのだ


彼女の持つ王族ならではの気品か、風格か、自らに一片の疑いも抱いていないその気質故か


「何よ、私は王族かもしれないけど、私は私よ、王族だからとか言われたくないわ」


「悪かった、でも・・・支配か・・・くくく・・・そうか・・・お前がこの国の支配者になるのか」


「そうよ?まだ子供だから無理だけど、大人になったらこの国の全部を手中に収めるの、そして好きなことして、好きな人と一緒に暮らすの」


子供らしい、なんて子供らしい王国論


不思議なものだ、先程までこの我儘な子供と一緒に居たくないと思っていたのに、今はもう少しこのお転婆なお姫様と一緒に居てもいいかなと思ってしまっている自分がいる


カリスマというやつだろうか、人を惹きつける才能とでもいえばいいのだろうか


「・・・私そんなに変なこと言った?」


ずっと笑い続けている静希を不審に思ったのか、セラは静希の顔を不思議そうにのぞき込む


「いや、悪い、ちょっとツボに入ってな・・・何でか笑いが止まらない・・・!」


「ふぅん・・・やっぱイガラシって変な人ね」


変な人呼ばわりされているのに、静希はおかしくてしょうがない


チェスの勝ち負けに一喜一憂し、大人を振り回しているようなこんな子供がこの国を支配すると言ってのけたのだ、何の疑いも、迷いもなく、ふとした思い付き程度で


そして何より面白かったのは、何故かその言葉に説得力があるのだ


この子ならその程度やってのけてしまうかもしれないという、理屈も何もあったものではないような、そんな理解不能な説得力


それほど長く生きてきたわけではない静希も、こんな不思議な人種は初めてだった


理屈とほんの少しの感情論で構成された静希のようでもなく、ほとんど感情論でできている陽太のようでもなく、ほとんどが理屈で構成された鏡花のようでもない


言っていることをそのまま受け取れば暴君のそれに等しい


面白い


静希がセラに抱く感情は、この一言に集約された


これ程将来が楽しみな人間も珍しい


「でも一国の支配は簡単じゃないぞ?人手も金もたんまりかかる」


「ふふん、その程度問題じゃないわ、お金なんて支配すればいくらでも作れるし、人手だってお金で雇えばいいんだもの」


この小さな少女は経済の何たるかを理解していない、金の価値がどのような意味を持つのか、金を大量に作ればどのようなことが起こるのか、それを理解していないのだ


自分も昔考えたようなことを自慢げに話す少女に静希は笑いが抑えられない


「じゃあもし反乱者が出たらどうする?人が集まれば必ず異を唱える奴は出てくるぞ?」


「私の国が嫌ならよその国に行けばいいじゃない、嫌がる人を拘束するほど人でなしじゃないわ、来るもの拒まず去る者追わずの精神よ」


そんなよその家がいいならよそんちの子になりなさいの精神で片付くほど人の営みは軽くない


恐らくはそのことも分かっていないのだろうが、子供ならではの超理論の前では静希が述べる程度の障害は問題にもならないらしい


子供とは末恐ろしい


だがそれ以上に、その言葉に、その未来に何の疑いも迷いも見せないこの少女が末恐ろしい


先程将来大物になると静希は言った


最初は冗談のつもりだったが、もしかしたら本当に大物になるかもしれない


それこそ、静希が予想もできないほどの大業を成すかもわからない


「そうだな・・・じゃあお前がこの国を完全に支配できたら、俺がお前の護衛についてやるよ」


「ほんとに!?絶対よ?約束よ?今さら取り消せないからね?」


言質とったと言わんばかりに笑うセラを見ながら静希は笑う


完全なる支配などあり得ない、それがわかったうえでの約束だ


卑怯な約束かもしれないが、万が一ということもある


もし国一つを完全に掌握する、そんなことが本当にできたのなら、このセラという姫は静希が守りたいと、仕えたいと思えるほどの王になるだろう


少なくともその未来が来るかもしれないのは、十年以上先になるだろうが




セラの案内で骨董品を扱っている店にたどり着くと、そこには昔ながらの絵画から壺などのインテリア、そして鎧や剣、ナイフなどの武具も置かれていた


ほかにもいったい何に使うのかもわからないような道具の数々が店内に鎮座している中、奥にいる店員が入ってきた静希達を僅かに視界の中に入れながらも新聞を読み続けていた


「こういう店入ったことないのよね・・・イガラシはあるの?」


「いいや、俺も初めてだ、歴史よりも胡散臭さを感じる場所だな」


置かれている謎の物体を眺めながらその値札を確認するが、この謎の器物にいったいどれだけの価値があるのかすらわかったものではない


木の棚の上に無造作に置かれているようなものもあれば、ガラスのショーケースの中に大切に保管されているようなものまである


どうやら価値はまちまちのようだが、その価値がいまいちよくわからない静希にとって置かれている位置はあまり関係なかった


店内はそれなりに広く、一階と二階丸ごとすべて店になっているようだ


置かれている品物と値札から考えて下の方が高価で上にあるほうが安物であるらしい


逆の方が良いのではと思えるが、静希はとりあえず安物の骨董品から見ることにした


どうせならティーセットでも買おうかとあたりを散策していると、静希の目にはあらゆるものが目に入った


皿やフォークなどもあったが、何語で書いてあるかもわからない本や明らかに模造品または贋作であると思われるようなものまで存在していた


先程胡散臭いなどと言ったが、まさにその言葉通りの店だなと静希は感心していた


だがその中で一つ気になったものがあった


もっとも、気になったのは静希ではなくトランプの中にいるオルビアだ


壁に無造作に立てかけられた一本の折れた剣とその近くに置いてあるナイフ


『マスター・・・あの剣の近くによっていただけませんか?』


『ん?なんか掘り出し物か?』


オルビアの言葉通りその剣の近くに行くと、その外観を正しく見て取れた


折れているように見えた剣、はその実折れていなかった


いや、正確に言うならば、折れた剣を無理に形成しなおしているのだろう、少し刀身が短くなっており、その折れた刃をナイフとして流用しているのだと理解できた


剣とナイフの柄の部分から紐が伸びており、この剣とナイフが二つで一つの物であることがわかる


少し刃こぼれもしているがまったく錆びていないその剣、朽ちた剣という印象を受けるそれをセラが手に取って確認し始めた


「変わった剣ね・・・ナイフとセットみたいだけど」


『・・・あぁ・・・そうか・・・ここまでたどり着いていたのですね・・・』


『・・・オルビア・・・?』


セラが剣を観察している中、トランプの中のオルビアが何かつぶやいている

一体どうしたのだろうかと不審がっている中、静希はセラからその剣を受け取って自分もよく見てみることにした


『マスター、その剣の柄の・・・紐がついている部分の近くに、傷はありますか?』


『え?・・・あぁ、あるな、変な傷が残ってる』


その事実を確認するとオルビアはまた何やら呟き始めてしまう


『なぁ、どうした?この剣、なんか知ってるのか?』


一体なぜオルビアが反応しているのか、静希はわからなかった


一度オルビアの身の上話は聞いていたが、静希はすっかりそのことを忘れてしまっていたのだ


『・・・私が生きていたころの・・・部下の使っていた武器です』


『・・・部下って・・・そうか、お前が死ぬ間際に意志を残すように能力を使ったっていう』


静希とオルビアが出会ったあの孤島、長い時間封じられてきたあの孤島での出来事を思い出した


自らの部下たちにオルビアがかけた、最後の思いを武具に保存する能力


この武器にも、あの時の物言わぬ亡骸のように意志が込められているのだろうか


かつてオルビアが最後にたどり着いたのはエディンバラ、ここから随分と北にある場所だ


だがまさかこんなところまでオルビアの部下が逃げて来ていたとは


もしかしたら、逃げた後で平穏な暮らしができたのかもしれない


どちらにしてもできる限り回収したいところである


値札を見てみると、二つセットで五十ポンドほど、日本円に直して一万もしないのであれば問題なく購入できる


『オルビア、一応買って日本に持って帰るぞ、こっちじゃお前を出してやれないからな』


『・・・申し訳ありません、お手数をおかけします』


気にするなとトランプの中のオルビアに告げながら静希は剣とナイフを手に取って下の店員の元に向かう


他に買うものもあるかと思ったのだが、案外めぼしいものはない


それらしい武具をオルビアに確認させたが、この剣とナイフ以外には部下の遺品はなさそうだった


「失礼、これを下さい」


「あいよ・・・お客さん日本人か?観光かい?」


「えぇ、ちょっとした土産物としてね」


店員はさして気に留めた様子もなく値段を見てそのままの金額を要求した


静希も問題なくその金額を差し出すと、満足したのか店員は剣とナイフを一緒の箱に入れて軽く包んでくれる


「剣とかじゃなくて甲冑とかもあっただろう?あっちはいいのかい?」


「あぁ、この斬新なデザインにほれ込んだんでね、他のはいいかな」


可能ならほかの商品も買わせようとしたのだろうが、生憎この剣を買ったのは土産物ではなくもっと別な理由があったからである


もっとも、そんなことを彼に言っても理解できないだろうが


誤字報告十個分出たので合計三回分投稿


誤字が・・・誤字がやばい・・・!


これからもお楽しみいただければ幸いです

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