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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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時間稼ぎ

「・・・チェックメイト」


「・・・はぁ・・・八戦七勝一敗か・・・」


静希がテオドールのキングを追い詰め、倒して見せたのは八戦目になってようやくだった


何度も対戦しているうちに静希の駒の動きはどんどん精練されていき、ついにはテオドールを打倒するに至った


もっとも、八回も戦ってようやく一回の勝利ではあるが


いつの間にか静希達の周りには数人のギャラリーができていたらしく、勝敗が決すると彼らから感嘆の声が漏れていた


「あ、イガラシ終わった?」


「・・・おい、お前が叩きのめせとか言ってたくせに何でのんきにケーキ食ってんだよ」


「え?だって長いんだもん」


セラは途中で静希とテオドールの対戦に飽きてしまったのか、盤上を見ることをやめてケーキと紅茶を嗜むことに夢中になっていた


これでは何のためにやっているのだかわからない


「八回やって一回勝てたぞ、これで気は済んだかお姫様」


「え!?勝ったの!?すごいじゃないイガラシ!」


それだけ驚くならなぜ見ていなかったのかと腹が立つが、このようなことは日常茶飯事なのかテオドールは呆れながらため息をついていた


「ちなみに、セラはお前に何回勝ったことがあるんだ?」


「ないに決まってるだろう、こいつとやって負ける方が難しい」


「な!?あんたそういう事言う!?ほぼ初心者に負けるようなら私だって勝てるわよ!」


激昂するセラをちらりと見てテオドールは失笑する、完全に馬鹿にした笑いだ


「イガラシとおまえではもともとの頭の出来が違う、少なくともお前なら百回やっても一度も負けない自信がある」


「んぐぐ・・・!イガラシ!もう行きましょ!負け犬に興味はないわ!」


「・・・何のためにこいつ呼んだんだよ」


叩きのめすために呼んだということはわかるのだが、実際勝ってみたらもう用はないなどと言うのはかなり無茶苦茶だ


恐らくセラは静希に負けて悔しがるテオドールを見たかったのだろうが、一回くらいの負けでは、いや恐らくチェスという遊戯ではテオドールを悔しがらせることはできないだろう


少なくともセラが実際に勝って見せなくては悔しがることはまずないだろう


何せ静希はすでにテオドールに実戦で勝っている、テオドールからすれば一度負けている相手にもう一度負けようと気にはならないということだろうか

支払いと荷物をテオドールに任せて出て行くとセラは若干不機嫌そうに静希の方を見てきた


「イガラシってすごいんでしょ?テオドールくらい圧勝してよ」


「初心者に無茶言うなよ、あいつ強かったぞ」


最後の一回、勝てたのはラッキーとまではいわないが、もう一度やって勝てるだけの自信はない


知略を巡らせることに関してはテオドールは静希と同等以上のものを持っているのだ、最善の状態でも勝てるかどうか怪しいものである


「・・・まぁ一回勝ったならいいわ、次こそ鼻を明かしてやる」


「なんか趣旨変わってないか?まぁお前がそれでいいっていうならいいけどさ」


もはや何のために自分がここにいるのかわからなくなってくる


結局のところ護衛でも何でもないただのご機嫌取りだ


本当になんでこんなイギリスまで来て姫とはいえ小学生の相手をしなくてはならないのか


同じ小学生なら東雲姉妹の相手をしていた方がずっと有意義である


あの二人との戦闘訓練は割と真面目に本気になる、というか本気にならないと静希が最悪死ぬ


最近は石動の指導によって手加減と能力の使い方を学んでいるようだが、静希に対してはなぜか全力で向かってくるのが怖いところだ


「で?お姫様、お昼も食べた、テオドールにも勝った、次は何をさせるつもりだ?」


「ん・・・買い物はもう結構したし・・・そうね・・・イガラシは何か見たいものとか行ってみたいところとかないの?」


てっきり行きたいところを羅列するものだとばかり思っていたために、そう質問されて静希は少しだけ困っていた


なにせ今回何の下調べもなしにこちらにきているため、そもそもこの辺りに何があるのかすら知らないのだ


「あー・・・じゃあそうだな・・・骨董品とかそういうの扱ってる店とかあるか?」


「骨董品・・・そんなもの欲しいの?変わってるわね・・・調べてみるけど期待しないでよ?」


携帯を操って近くに骨董品などを扱っている店がないかを検索しているセラを横目に静希は小さくため息をついた


正直に言えば骨董品などは文化的な興味はあれど、買おうとは思わない、ならなぜその店をチョイスしたのか


骨董品などの店があるならそれは大きな通りとは離れた場所にあることが多い、そういった場所であれば移動時間が稼げるし、何よりこうして調べている時間もかかる


要するに時間を潰すのに適しているのだ


古本などでもよかったのだが、そういった類のものだと普通にセラが買い物をしてしまいそうだからこそ、彼女の興味なさそうなものを選んだのだ


今静希の頭の中にあるのは、とっとと帰りたい、これに尽きるのである


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