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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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重なる思考

チェスを始めてどれくらい時間が経っただろうか、現状、静希は三回ほどテオドールに負けていた


駒の動きをすべて把握し切れていないというのもあるが、戦略的な意味でもテオドールに追いつけずにいたのだ


将棋の戦略とはまた違う、もっと特殊で単純な戦法


だが四戦目になってテオドールは静希を攻めきれずにいた


静希の戦い方が変わってきているのだ


静希が得意とする戦法は不意打ちだ


障害物の多い空間、あるいは限定された空間で限定された手札を用いての不意打ち、視界と意識の外から相手を切り崩す、それが静希の最も得意とする戦いだ


以前静希は自らの手の内を明かさず人外たちの手を借り、テオドールを混乱させ攻撃を誘発させることで勝利した


だがその戦法は今回は通用しない


なにせ勝負が起きているのはすべてを見渡せる盤上


限定されている空間での戦いという意味では変わらないが、相手の手札もこちらの手札も全く同じ、視界制限もなく、不意打ちができるような状況ではない


ではどのように切り崩すか


視界の外からが無理ならば相手の思考を読むしかない


相手の考えの裏を読み、その逆を突く


思考の分割化はあまり得意ではないのだが、自分の思惑、相手の思惑、相手が読んでいるであろう自分の思惑、それらを同時に思考することで徐々にではあるがテオドールと拮抗し始めているのだ


静希は今までチェスというものをあまりやったことはなかったし、基本戦術や展開の仕方など、ほとんど知らないに等しい


だからこそ最初は陣形とその動き、そしてそれにより相手がどのような展開を望んでいるかを読むところから始めた


右翼から左翼へ、そして中央、各場所に設置された駒を動かすことでどのように相手が攻めようとしているか、そして逆にそれをこちらがやった時に相手がどのように対応するか


一つ一つの動作を三回の対戦で把握し理解し、次の戦いに活かし続けていた


そして四回目の対戦で静希はテオドールの手を数秒止めさせるまでに至っている


悠長に考えを巡らせることのできるボードゲームでは実戦に及ぶべくもない、常に実戦で物事を考え戦略を練る静希にとって思考するゲームというのは相性が良いのだろう


公式戦では考えるのにも時間制限があるが、今は静希が初心者だということでそんなものもなく、深く思考してから駒を動かすことができる


だが相手のテオドールも静希と同じく思考型、最初は時折セラと話しながら悠長に構えていたが今はもう無駄口を叩くことなく盤上に集中していた


この戦いをけしかけたセラはというともはやどちらが勝っているのかもわからないのか、盤上を眺めながら呆けてしまっていた


そしてテオドールが駒を動かした瞬間静希の頭の中でこの先の展開が一気に駆け巡る


状況から言って静希が不利だ


正しく守りを繰り返していくならじわじわと詰将棋のように追い詰められ数十手先でキングを取られる


だが静希は最初から正攻法で行くつもりなどない


どれだけ駒をとられようと相手のキングをとればそれで勝ちなのだ


王道を通して負けるくらいなら邪道で、可能性の低い勝利をとる


テオドールが予想していたであろう手とは真逆の駒を動かすと、一瞬息をのんだのが聞こえた


相手の目など見る必要はない、テオドールの手が止まっているのだから


「・・・あの・・・今どっちが勝ってる・・・?」


「・・・今のところ俺が劣勢、テオドールが勝ってるな」


「よく言う・・・自分から不利な展開にしておいて・・・」


現状は静希が確かに不利になった、だがその分勝ちの確率は増えている


今負けていようと結果勝てればいい


常に優勢な状況など静希には必要ない、必要なところだけで勝てればいいのだ


テオドールが切り込むことで駒は少し減り、防衛線を破られたように見えるが、それでいいのだ


限られた手札しかない将棋やチェスのようなゲームでは攻めればその分守りが薄くなる


このままテオドールが手を変えずに攻め続けてくれるなら、十数手先で静希がキングをとれる


静希は自分の頭の中で駒を動かしながら先の展開を読み、自分の駒を動かしていく


数秒の後にテオドールが、先程とは違う手に変えてきた


先程までは攻勢に出ていたのに急に守りに徹し始めたのだ


さすがに静希の思い通りになるほど甘くはない


お互いに思考しながら駒を動かすからこそ、一手変われば数秒前に考えた予想がまったく別の物に変わるのだ


テオドールの手に静希はわずかに警戒しながらも攻勢に出る


守りに徹してもよいが、こういう場合罠だとわかっていても駒を進めなくてはならない時もある


あえて前に出る、もちろん何も考えずに打つというわけではない


ちゃんと他の駒でフォローできるように陣を整えてから駒を動かす


互いの駒が数秒おきに動いていく盤上を眺めながら、この戦いを仕向けたのは失敗だったなとセラは反省していた


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