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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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盤上の戦い

セラの案内でやってきたのは午前中に来たのとは別の喫茶店のような場所だった


中には強いコーヒーの香りとその中に混じるわずかな煙草の匂い


幾つものテーブル席がそこにはあり、コーヒーを飲みながらサンドイッチなどの軽食を食べている人もいれば、フィッシュ&チップスなどの伝統料理を口にしている人もいる


どうやら朝訪れた店同様に軽食もしっかりした食事もとれるような店のようだ


「待たせたかしら?急に呼び出して悪かったわね」


店員の案内よりも早く店内を進んだ先にいた人物に話しかけるセラを追いかけると、そこには静希が会いたくない人物がいた


スーツ姿にサングラス、そして近くにはたばこの吸い殻の残る灰皿、その男はため息をつきながら静希とセラを見比べる


「なぜわざわざ呼んだんだ?今日の護衛はイガラシだけで十分なはずだろう?」


「そういわないの、あ、注文していい?」


若干不機嫌そうな声を放つのはこの国に静希を呼んだ男、テオドールだった


先程セラが電話をかけていたのはテオドールだったのだろう、何の思惑があってここに静希とテオドールを引き合わせたのか


静希とテオドールの疑問も全く関係ないかというようにセラは店員にさっさと注文をしていく


「・・・ひょっとしてもう俺はお役御免か?だったらとっととこいつに代わってもらおうかな」


「ふざけるなよイガラシ、今日お姫様を守るのはお前の仕事だ、俺に押し付けようとするな」


「そもそも俺に押し付けたのはどこの誰だったっけか?耄碌するにはまだ早いんじゃないのかテオドール」


荷物を椅子において軽口をたたきながら静希もセラに倣って注文をしていく


昼食をしっかりとっておかねばこれからつらいだろう、まだ一日動く可能性だってあるのだから


とはいえ、何故ここにテオドールが呼ばれたのかもわからない、一体セラは何を考えているのやら


「それで?なぜ俺を呼んだ?荷物を回収するだけならありがたいが」


「ふふふ・・・もう少し待てばわかるわよ、まぁ荷物は預けるけど」


セラの笑みに嫌な予感を抱えながら向かい合う静希とテオドール


互いが互いを敵視しているような状態だ、こんな殺伐とした昼食は初めてかもしれないと静希は瞳に込める敵意を三割増しにしていた


そして店員が何かを運んでくる、注文の品でも届いたかと思ったが、テーブルに置かれたのは少なくとも食べられるものではなかった


それは白と黒のいくつもの駒とそれを乗せるためのボード、早い話がチェスだった


「・・・これは・・・」


「・・・どういうことか聞いてもいいか?」


二人の視線を受けながらセラは笑っている


一体何が楽しいのかと思えるほどに静希とテオドールの視線は冷え切っている


「二人が似てるって話してて気づいたのよ、イガラシはテオドールに勝ってるんだから私の代わりにチェスでも勝ってもらおうかなって!」


セラがどうだこの考えはと、胸を張っているが、この説明で静希が事態を把握できるはずもなく、向かいに座っているテオドールに視線を向けると、サングラスの向こうの瞳は強い呆れを含んでいるようだった


「・・・こいつとは何度かチェスで対戦してな、毎回叩きのめすんだが・・・その仕返しをしたいらしいな」


「・・・何で俺が、そもそも俺チェスなんてほとんどやったことないぞ、将棋は何度かあるけど」


「え!?そうなの!?」


静希の言葉にセラは愕然としていた


まさか静希がチェス未経験者だとは思わなかったのだろう


だが静希からすれば何故チェスをやったことがあると思われたのかが疑問だ


「な、なら今から私が教えるわ!今すぐ覚えてこいつを叩きのめして!」


「・・・なんつー無茶な要求だよ」


頭を抱えながら静希は目の前に並べられていく駒を眺める


以前静希達は何の気もなしに自分たちをチェスや将棋の駒に例えたことがあった


自分は確かナイトだったななどと思い返しながら、自分の分身であるナイトの駒を手で操りながら盤上にある駒を一つ一つ確認していた


各種役割を与えられた兵士たち、前衛、中衛、後衛、この形はまさに能力者の体系そのものだ


将棋のルールはよく知っているが、チェスのルールはせいぜいとった駒を使えないということくらいだ


そういう意味ではチェスの方がより現実に近い戦争を表しているということがわかる


「っていうことよ、大体分かった!?」


「・・・まぁ、大体は」


セラの説明を受けながら持ってこられた食事を口に含み静希は頭の中でルールを確認していた


と言っても基本は同じ、キングがとられれば負けである、違うのは駒の動かし方だけだ


「で?勝ったら何かあるのか?」


「初心者相手に賭けをするつもりはない、せいぜいこのお転婆の気が晴れるか否かだろうな」


テオドールの言葉に、静希の目に僅かに火がともる


見下されている、この男に


静希は別に見下されようと馬鹿にされようとあまりに気にすることはなかった、それは事実だし、何より自分自身が理解していることだからでもある


だがテオドールに見下されるというのは、はっきり言って不快だった


「それじゃせいぜいお姫様の気が晴らせるように頑張りますかね」


「・・・やってみろジョーカー」


チェスをやるには少々険しい空気の中、テオドールは駒を手に取って動かして見せた


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