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J/53  作者: 池金啓太
十六話「示した道と差し出された手」
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姫様との会話

「イガラシは十六なのよね?高校生?」


「あぁ、まだ高校一年、お前と四つか五つしか離れてないんだぞ?」


喫茶店から出てセラの買いたいものを物色しながら静希達は互いのことを話していた


と言っても、主にセラが質問して静希が答えているようなものだ


どうやらセラはかなり静希に興味を持っているようだった、一体どこにそこまで興味を持ったのか知らないが、やたらと質問攻めしてくる


特に反応が良かったのは日本での日常と校外実習の内容だった


静希の能力に関係しないレベルでその時の話をすると目を輝かせて聞き入っていた


何がそんなに楽しいのだろうと思うのだが、王族と言えど小学生、自分の知らない世界で物語の中のような冒険にも似た危険の詰まった数日間の話は面白いのだろう


「それで出てきたのが三メートルくらいあるデカさのザリガニでさ・・・もうびっくりして、数秒間まともに動けなかったよ・・・あ、これその写真な」


「うっわ・・・なにこれ・・・ロブスター・・・?すごい大きいわね・・・」


以前のザリガニの完全奇形の話をしながら買い物を進め、自分のデジカメの中に残っていた写真を見せるとセラは予想以上に驚き、そして感動しているようだった


今まで見たことのない大きさのそれにセラは目を白黒させていた


なにせ一緒に写っている静希達よりも大きく、写真ではその全貌を収めきれていないのだ


こんな生物が本当にいるのかという疑惑もあるが、すでに写真として残っている、これが合成ではないかとも疑ったが、わざわざ嘘をつく理由がないという結論に至ったのか、信じ切っているようだった


「やっぱり高校生ともなるとすごいのね、こんなの相手して平気でいられるんだもの」


「いや、これはかなりきつかったな、先輩の力がなきゃやられてたかもだし・・・それに何度か実習で痛い目に遭ってるからな・・・」


「謙遜はやめなさいよ、こんなの相手にできるだけ十分すごいわ、私だったら銃渡されても逃げるわよ」


静希からすればあの状態での戦闘は褒められたものではなかったのだが、セラからすれば怪物と戦っているようなもの、想像は難しくともそれが偉業であることは容易に理解できることだったようだ


周りは自分のことを高く評価する人間が多いが、静希自身は大したことはできないし、大した人間でもない


周りの評価だけが高くなっているのに、セラはそんな静希を不思議そうに見ていた


「なんかイガラシって変な人ね、すごいことやってるのにそれを自慢しないし、妙に謙遜するし、日本人ってみんなそうなの?」


「いや日本人全員ってわけじゃないと思うけど・・・なんて言うか、すごいことやってるって言われても俺自身の力だけでやったわけじゃないしな、それを自慢しろっていうのはなんか無理があるような気がして」


事実今まで静希に襲い掛かった困難の中で静希だけの力で解決できた問題は何一つとしてない


全て誰かと協力したからこそ解決できたものばかりだ


それなのに自分が自慢するというのは少し違う気がするのだ


「ん・・・じゃあイガラシが特殊なのかな、私の友達とかは親とか兄弟とかのこと自慢げに話すわよ?お仕事で会う大人たちもそうだし、普通そうじゃないの?」


セラの言葉を聞いて静希は少し考え込んでしまう


この子は普通の子供でありながら、普通ではないのだ


なにせ血統からして王族、スタートラインから別の種類の生き物と言ってもいい


だが抱える疑問は普通極まりない、今まで周りがそうだったのだから、それが普通なのではないかと思ってしまう


「俺だって誰かの自慢するくらいはあるぞ?俺の幼馴染とか、うちの班長とか、すごい奴は周りにたくさんいるけど・・・それって俺が得意げになることじゃないだろ、俺のことじゃないんだから」


「そういうものなのかしら・・・やっぱイガラシって変な人ね」


「・・・褒め言葉として受け取っておくよ」


今までいろんな言葉で表現されたことがある静希ではあるが、変な人呼ばわりされたのはさすがに初めてだった


問題児、落ちこぼれ、バカ、優しい人、人格者


いろんな人にいろんな言葉を向けられたが変な人と呼ばれたのは初めてのことでどう反応したらいいのか迷ってしまっていた


「ていうか、そんなに誰かのこと話して楽しいのか?自分のこと自慢したほうがずっと楽しいんじゃないのか?」


「どうなんだろ・・・よくわかんない」


セラは気になったものができたのか小走りで店の中を物色し始める


さすがに小学生にこういった話は難しかっただろうかとため息をつきながらそれに追従する


思い返せば確かに静希は自分のことをあまり自慢しない


というか自慢できるだけの何かがないから自慢できないと言ったほうが正確かもしれない


知略があっても誰よりも頭が良いというわけでもない、剣術を学んでも誰よりも強いというわけでもない、能力に至っては平凡以下、身体能力も並より少し上程度


射撃では明利に劣るし、変装などの技能もそこまですごいというわけではない


今さらながら静希は一体どこを自慢できるのだろうかと真剣に悩んでしまった


彼女が二人いる、これはむしろマイナスになる、はたから見たら二股だ


人外たちがたくさんいる、これもマイナスだ、面倒の種だと公言しているようなものである


何気ない会話から気づいてしまった事実に静希は少しだけ自分の情けなさにショックを受けていた





「ふぅ、結構買ったわね」


「本当にな・・・こんなに買ってどうするんだか」


静希の持っている荷物を眺めながらセラは満足げに笑みを浮かべる


主に左手で持っている荷物はすでにかなりの重量になっており、これを毎回持たされているテオドールの苦労がにじむように理解できた


「イガラシだって結構買ったでしょ?お茶とかお菓子とか」


「これは土産用だ、せっかくこっちに来たんだからなんか買っとかないと損だろ」


イギリスまで来て何の手土産もなしでは自分の幼馴染たちは今回の滞在を許してくれないだろう


特に明利と雪奈にはしっかりとフォローしてやらねばならないだろう


「ねぇイガラシ、イガラシってテオドールに勝ってるのよね?」


「ん?あぁ一応な」


「それなりに強い能力者?」


「・・・答えにくいな、一応否定しておく」


静希の返答にセラはふぅんと呟きながら静希の全身をくまなく観察しているようだった


頭の先から足の先までゆっくりと一つ一つ確認していくと小さくうなずいて見せる


「ねえイガラシ、学校卒業したら私の専属の護衛にならない?」


「断る」


「・・・もう少し考えてくれてもいいんじゃないの?」


間髪入れずに返された拒絶にセラはわずかに落ち込んでいるようだった


まさかここまで即行で拒否されるとは思っていなかったのだろう


「ちなみに参考までに聞かせてくれる?何で嫌なの?」


「人の命を狙うような国に仕える気はない、それに暮らすなら日本がいい」


至極真っ当な意見にセラはまぁそうねと肩を落として見せた


少し残念なのだろう、静希を見ながら眉間にしわを寄せていた


「大体、俺は護衛とか苦手なんだよ、それになんでそう俺を引き込もうとするんだ?そんなに価値ないぞ俺」


「ん・・・なんて言うか、イガラシって話しやすいのよね、私に気を使ってないっていうか、すごい自然体、私に気にいられようとしてないっていうか・・・」


その言葉を聞いて静希は理解した


彼女は幼いながらに立場がある、姫という立場はその幼さを無視して多くの人間が引き寄せられるものだ


人によっては幼いうちから彼女に取り入ろうとご機嫌伺いをする者もいるだろう


だが静希からすればテオドールから押し付けられた面倒事、仮に他国の姫だろうと面倒には変わりない、最低限の対応だけで済まそうという魂胆が見え見えで、気にいられようという気持ちが毛ほどもない


なにせ気にいられたらどんな面倒の種を持ちかけられるかわかったものではないのだから


そしてそれが逆にセラに気に入られる結果になってしまったようだ


年下だからというのもあるが、結構ぞんざいな対応をしてきたつもりだったがまさかそれが裏目に出るとは思わなかった、これならもっと親切にしておくべきだっただろうかと自分の行動を悔やむ


「お前に気に入られたい人間はたくさんいるんだから、そういうやつら利用すればいいじゃんか、いい人紹介してっていえばそいつに都合の良い第三者を紹介してくれるぞ?」


「いやよそんなの、その人に都合よくても私に都合よくない、人の顔色伺いする人って好きじゃないのよ」


今までそういう大人たちばかりだったからこそそう思えるのだろうか、何とも絶妙に捻くれた性格をしてしまっている


なるほどなぜテオドールがやたらと彼女の荷物持ちにさせられているかが理解できた


テオドールははっきり言ってこのお姫様が苦手なのだろう


だからこそそれなりに嫌な雰囲気を醸し出して最低限な対応をして、可能ならば嫌われようともしているのだろうが、それが逆にセラに気に入られてしまっているのだ


自分に気を使わない数少ない人間


セラからの認識としてはそれに近いだろう


今度教えてやるべきだろうかと静希は軽く思案してしまった


「顔色を伺って何が悪いんだよ、誰かに気に入られたいとか別に悪いことじゃないだろ?」


「私が個人的に好きで気に入られたいとかなら別にいいわ、けどあの人たち私を通して父様たちに近づこうとしてるんだもの、私を見てくれない人を近くに置きたくないわよ」


セラの言葉は、その外見から見るとひどく子供っぽい


だが小学生の言葉としては少し大人びているように思える


外見的に、いや立場的に確立したものがあれど、彼女はただの小学生だ、確固たる自分を見てほしいという気持ちがあるのだろう


姫と言えど思春期の女の子ということだろうか


「じゃあ諦めろ、少なくとも俺はお前の護衛にはならない、他を当たれ」


「給料良くしてあげるわよ?休みもちゃんとあげるし・・・そうだ!パーティーとかにもつれて行ってあげる!」


「いやだね、俺が守りたいと思えるような奴じゃなきゃ嫌だ」


少なくとも、今のセラはただの子供だ、そんなお姫様を守りたいと思うほど静希は特殊な性癖は持ち合わせていない


それに静希は今守りたいと思っている人がいる、幼馴染であり、恋人であり、友人である、日本にいる仲間たち


その仲間を放っておいてこんなところで子供のお守りをしている時点で何かおかしいのだ


さっさと日本に帰りたいものであると軽くため息をついて見せた


日曜日なので二回分投稿


最近、ゲスい話を書いてる時はスラスラ書けるということに気づきました


これからもお楽しみいただければ幸いです

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