「何のための特区民泊や!」 “中国人街”化する大阪・西成――インバウンド急増で崩れる住民の日常生活とは
住民の敷地で花火し、ごみをポイ捨て
通勤ラッシュが始まろうとしていた10月上旬の朝、民泊施設を出た中国人観光客が続々と天下茶屋駅(西成区)を目指す。南海電鉄で関西空港(大阪府泉佐野市など)へ向かう人がいれば、大阪メトロで次の観光地へ出かける人も。駅前の喧騒にサラリーマンの急ぎ足とキャリーケースを引きずる音が混じる。 【画像】「えぇぇぇぇ!」 これが大阪市の「民泊施設集中エリア」です!(12枚) 中国・上海から来た20代のカップルは朝8時台の上海便に搭乗するため、南海電鉄ホームで関西空港へ向かう特急「ラピート」を待っていた。 「大阪の街は中国人がなじみやすい。料理もおいしかったから、また来たい」 と笑顔を見せる。 カップルが宿泊したのは、天下茶屋駅の北にある松地区の民泊施設。市内には7月現在で約6700の特区民泊施設があるが、西成区はその3割近い約1700施設が集まる。松地区は天下茶屋駅に近いこともあり、約0.2平方キロメートルの範囲に50を超す施設が認定されている。 天下茶屋駅周辺を歩いた。タバコの吸い殻や空き缶が散乱した場所がある。マンションには「不法投棄厳禁」の張り紙があり、監視カメラが作動している。近くの住民(69歳)は 「中国人が夜中まで大騒ぎし、うちの敷地で花火をしてごみを捨てる。文句をいっても言葉が通じず、民泊事業者も出てこない」 と頭を抱えていた。
特区民泊の急増と住民分断
大阪市の特区民泊は2016年にスタートした。ホテル不足を解消し、より多くの来阪客を招き入れるのが目的だ。一般の民泊と違って 「通年営業」 できることから、利益が大きい。マンションの一室や空き家、空き店舗が民泊施設に変わり、今では全国の9割以上が集中している。 特に西成区は天下茶屋駅、新今宮駅が関西空港、ミナミの繁華街と直結するうえ、空き家や空き店舗が多く、格安で不動産を入手できる。このため、コロナ禍後に数が急増した。 市全域から市に寄せられた住民の苦情は2024年度で399件。前年度の倍以上となった点を考慮し、市は9月末、特区民泊の新規受付停止を決めた。早ければ11月にも開催される国の国家戦略特区会議に諮るが、問題はそこではない。街がすっかり変わり、 「住民と外国人観光客の分断」 が進むことにどう対応するかだ。