サクラ大戦の著作権 ~事実に基づいた検証と悪質なデマの拡散について思う事~
冒頭
始めに
2022年9月4日に
「サクラ大戦の闇を暴く~何かがおかしいサクラ大戦の著作権」という動画が投稿された。
投稿者のまぐ氏は動画で
「『新サクラ大戦』や『サクラ革命』で旧作のキャラクターの殆どが登場しなかった件や旧作のリマスターが発売されないのは、セガと同じく『サクラ大戦』の著作権を有するレッド・エンタテインメント(旧:レッドカンパニー)が2014年にサミーのライバルであるオーイズミの子会社となった事で、著作権に問題が生じたからである」というような主張をしている。
残念ながら、私はこの動画の内容に嫌悪感を覚えた。そこで『サクラ大戦』の著作権について検証してみる事にした。
著作権表示
まずは©のマークで知られる著作権表示について検証する。
『サクラ大戦』の著作権表示は1996年にプロジェクトが始まった当初から「©SEGA ©RED」とセガとレッドの名前が共同で記載されていた。単純に考えれば「セガとレッドの両方が『サクラ大戦』の著作権を有している」という事になる。この著作権表示は2016年まで続いた事が確認出来る。
だが、2017年から『サクラ大戦』の著作権表示は「©SEGA」となりレッドの名前は記載されなくなった。これも単純に考えれば「2017年から『サクラ大戦』の著作権を有するのはセガのみとなった」という事になる。
上記2つの事実をまとめると「『サクラ大戦』の著作権はかつてはセガとレッドの両方にあったが、2017年からはセガが全ての著作権を有するようになった」となる。
…正直に言ってしまうと、私個人の結論もこれが全てなのだ。著作権表示はサクラ大戦.comや各種ニュースサイトの『サクラ大戦』関係の記事に必ず記載されている。その客観的な事実を勘繰りせずに額面通りに受け取れば良い、ただそれだけの話だ。
だが、まぐ氏の主張はこれとは異なっている。そこで、レッドがオーイズミの子会社となった2014年以降の『サクラ大戦』の動向のいくつかと当事者の発言に着目し、まぐ氏の主張と照らし合わせてみる。
動向
2014年 歌謡ショウ、ソーシャルゲーム
2014年は2月に『巴里花組ショウ2014 ~ケセラセラ・パリ~』、8月に『紐育星組ショウ2014 ~お楽しみはこれからだ~』が開催された。この2つはゲームの担当声優がそのまま舞台を演じる舞台版、いわゆる『歌謡ショウ』だ(『歌謡ショウ』は正確には帝都花組の舞台版の名称だが、ここでは便宜的にそう呼ぶ事にする)。2022年現在から振り返ると、結果的にセガが主催を務めた『歌謡ショウ』はこの2014年で最後になった。
まぐ氏は「『歌謡ショウ』は集客が見込めるドル箱コンテンツだから主催者も開催したいはずなのに2015年からされなくなった。それは2014年にレッドがセガサミーのライバルであるオーイズミの子会社となったからだ」と主張している。
そもそもの話として、「本当にドル箱だったらコンテンツ終了の憂き目にあわないだろう」というツッコミがある。事実、『サクラ大戦』の音楽担当である田中公平は「2008年の『紐育レビュウショウ~歌う♪大紐育♪3~ラストショウ』の千秋楽で『サクラ』の全てのコンテンツは終了の予定だった」と自身のブログで明かしている(出典)。詳しくはブログを参照して欲しいのだが、この時は田中公平を含めた関係者の尽力により『サクラ大戦』の終了は何とか回避され、『歌謡ショウ』は2009年に歌を中心としたライブに形を変え、2013年には従来のショウ形式へと戻った。
キャストやスタッフ一同、そう聞いていました。
私自身は「『歌謡ショウ』は2008年の終了の危機を何とか回避こそしたものの、2014年にとうとう本当に限界が来た」と考えている。これは、2007年の『紐育レビュウショウ ~歌う♪大紐育♪2~』から劇場に足を運び始め、「(DVDで確認出来る帝都の『歌謡ショウ』と比べ)巴里や紐育は限られた予算でかなりギリギリのやりくりしている」と感じた当時の私の印象と、「利益が出ないと続かない」という商売の基本的なセオリーに基づいたものであって、当然ながら『歌謡ショウ』の収支を実際に確認した訳ではない。
仮にまぐ氏と討論になったら、「『歌謡ショウ』はドル箱コンテンツだったんだ」と水掛け論争になってしまいそうで何とも歯痒いのだが、「『歌謡ショウ』を開催出来ない原因が著作権にあったのなら、こんなコンテンツ展開は出来ない」という形で後から反論していきたいと思う。
8月からは、ソーシャルゲーム『サクラ大戦~百花繚乱夢物語~』のサービス開始された。同作は『サクラ大戦 for Mobage(仮)』として2013年11月に発表済であり、その時点で運営元はレッドとさくらソフトとされ、セガの名前は記載されていなかった(出典)。「セガが関わっていないのは2013年11月の時点でレッドがオーイズミの子会社になる事が決まっていたからに違いない」と考える人もいるかもしれないが、実は『サクラ大戦 ~オールスターコレクション~』というもう1本のソーシャルゲームが2012年9月にはサービスを開始している。同作の運営元はレッドとなっており、やはりセガの名前は記載されていない(出典)。『オールスターコレクション』は2013年10月までの1年1ヶ月間(残念ながら各種ニュースサイトでも記事が残っていない)、『百花繚乱夢物語』は2016年3月までの1年6ヶ月間運営された(出典)。これらの事実から、少なくともこの2作品に関してはセガが関与しないのが当初からの既定路線でレッドがオーイズミの子会社になっても大勢に影響は与えなかったと考えられる。余談だが、この2作品はあの『サクラ革命』よりも長く運営されている(『サクラ革命』は半年)。
セガではなくレッドが発売元を担当した。
『サクラ大戦』が始まった当初から、セガが直接関与しない企画は存在していた。
2015年 PXZ2
2015年は『歌謡ショウ』が開催されなくなった事と『PXZ2』を除けば、良くも悪くも目立った動きのない比較的平穏な1年だったと言える。2008年から開催されている『サクラ大戦』のキャラクターデザイン担当である松原秀典の版画展示会『サクラ大戦アートフェスティバル』も例年通り開催されている(出典)。描き下ろしでこそないものの、松原秀典のイラストは2015年3月に行われたイベントでセガが発売した新作グッズでも使用されている(出典)。
恐らくだが、今年も年末頃にアナウンスがあると思う。
では、『PXZ2』とは何なのかというと、2015年11月にバンダイナムコエンターテインメントが発売したゲーム『PROJECT X ZONE 2:BRAVE NEW WORLD』(プロジェクトクロスゾーン2:ブレイブニューワールド)の略称だ。同作はバンダイナムコエンターテインメントとカプコンとセガのゲームキャラクターが一堂に会するシミュレーションRPGであり、2012年10月に発売された『PROJECT X ZONE』の続編となる。前作『PXZ』の時点で『サクラ大戦』はセガ側のタイトルの1つとして参戦した。プレイヤーユニットは大神一郎、真宮寺さくら、エリカ・フォンティーヌ、ジェミニ・サンライズの4名であり、参戦作品の中で最多クラスと優遇されていた。
そして、『PXZ2』では一部で参戦作品の入れ替えが行われている。「著作権が原因で『歌謡ショウ』が開催出来なくなった」とするなら、『サクラ大戦』は真っ先に参戦作品から外されてもおかしくないはずだが、実際には『PXZ2』にも引き続き参戦した。プレイヤーユニットの面子も変わっておらず、エネミーユニットは前作で登場した殺女とシゾーに蘭丸と髑髏坊が加わり更に豪華になった。なお、エンドロールでは『サクラ大戦』の監修としてセガの寺田貴治と共にレッドの名前が記載されている。
2016年 20周年、セガフェス2016
2016年は『サクラ大戦』発売20周年という記念すべき年だが、やはり『歌謡ショウ』は開催されなかった。一方、20周年記念の新作グッズ発売(出典)や、『グランブルーファンタジー』や『チェインクロニクル』等へのコラボ参戦も行われた。前者にはさくら、エリカ、ジェミニ(NPCとして大神と大河新次郎)、後者には大神を含めた帝都花組9名全員が登場した。これらのコラボ参戦に関しては、著作権の検証という観点では『PXZ2』について書いた内容とほぼ同じになるため割愛する。
それ以外の動きでは、11月19日20日に開催されたセガフェス2016の総選挙で『サクラ大戦』が「作品部門」と「復活期待部門」の二冠を達成した事が大きい(出典)。2019年のインタビューでは、この総選挙の結果が『新サクラ大戦』の企画の最終的なきっかけになったとされている(出典)。
では、2017年の著作権表示変更もこの総選挙を受けてのものなのかというと、時間的にそれは現実的ではない。前述の通り、サクラ大戦.comのアーカイブとして著作権表示変更を確認出来る日付は2017年3月18日だが、『サクラ大戦』の『スーパーロボット大戦X-Ω』への参戦が発表された2017年2月22日には既に著作権表示変更を確認出来る。
特報!!!太正桜に浪漫の嵐! #スパロボ シリーズ初参戦!「サクラ大戦」が #スパクロ に期間限定参戦決定!待て続報!#サクラ大戦 https://t.co/MpXMLPfmIT pic.twitter.com/4MmSewlPOk
— スーパーロボット大戦X-Ω公式 (@srw_xomg) February 22, 2017
具体的に何時から変更が決まっていたと断言する事は勿論出来ないが、少なくとも『新サクラ大戦』の企画が正式にスタートするよりももっと前だったと考えるのが妥当だろう。
2017年① 著作権表示変更、パチスロ
2017年から『サクラ大戦』の著作権表示が「©SEGA 」となった。5月にはサミーが『パチスロサクラ大戦~熱き血潮に~』の稼働を開始した(出典)。まぐ氏は「このパチスロは2015年には稼働するはずだったが、『サクラ』の著作権を有するレッドを子会社化したオーイズミがこれをストップした。セガ(サミー)が『サクラ』の著作権を部分的に買い取った事で、2017年に稼働を開始出来るようになった」と主張している。
「2015年には稼働するはずだった」としているのは、2018年に開催されたイベント「サクラ大戦歌謡ショウより~『続・花咲く男たち』大帝国劇場支店花やしき支部劇場」に出演したさくら役の横山智佐がパチスロ用に描き下ろされた新曲「花の戦士」を歌った際に、「この曲は3年前にレコーディングした」と発言した事が根拠らしい。出典としては記載出来ないが、イベントに行った人のツイートで確認出来たので、実際にこの発言はあったと考える。
私はこの件に関しては特に反論しない。オーイズミとサミーがライバル関係にあり『サクラ大戦』の著作権が整理されるまでパチスロを稼働出来なかった、と言われればもっともらしく聞こえるし、「そんな事実はない」と証明する出典や証拠を残念ながら持ち合わせていないからだ。
ただし、前述の通りグッズ展開やコラボレーション等が滞りなく行われてきたという事実から、「『歌謡ショウ』が開催されなくなったのはレッドがオーイズミの子会社になったから」という主張に対しては、改めてここで異を唱えたい。
2017年② スーパーロボット大戦X-Ω
時系列が前後してしまうが、3月には『サクラ大戦』の『スーパーロボット大戦X-Ω』への期間限定参戦が実現した。後述するが『サクラ大戦』のスパロボ参戦に関しては過去にある噂があった。「セガが単独で『サクラ大戦』の著作権を有するようになったからスパロボ参戦が実現した」と思う人もいると思うが、私自身も正直これと同じ考えだ。
前述の通り、まぐ氏は「セガが『サクラ大戦』の著作権を部分的に買い取った」と主張している。著作権表示が「©SEGA ©RED」から「©SEGA」に変更されたにも関わらず「部分的に買い取った」としているのは、「『新サクラ大戦』と『サクラ革命』で旧作のキャラクターの殆どが登場しなかった」という事実から逆算した結果なのだろうと考える。
実は『スーパーロボット大戦X-Ω』には大神を含めた帝都花組9名全員が参戦している。それだけではなく、米田一基、藤枝かえで、帝劇三人娘といったサブキャラクターの面々もいる。2018年3月の復刻参戦の際には、巴里花組5名全員も追加された。全容を明かすと、『サクラ大戦4』に登場した総勢26名のキャラクター全員が参戦している。
2019年12月には『新サクラ大戦』が期間限定参戦したが、2020年12年には期間限定参戦の更新そのものがストップし、2021年3月に『X-Ω』のサービスが終了したため、紐育星組は結局同作には参戦しなかった。なお、2021年10月発売の『スーパーロボット大戦30』のDLCで、大神、さくら、エリカと共に新次郎とジェミニがスパロボ参戦を果たしている。
当事者の発言
原作者 広井王子
広井王子は言わずと知れた『サクラ大戦』の産みの親であり、かつてはレッドの代表も務めていた。広井は2017年3月末に『サクラ大戦』に関するロングインタビューを受けている。そのインタビューに付け加える形で、『サクラ大戦』における自身の立場を以下のように説明してる。
追伸)
言い忘れましたが・・・
サクラファンの誤解が多いので申し添えます。
企画原作という仕事はプロデューサーやメーカーさんの指示があって動くものです。
軍事行動で言えば、大本営があっての作戦参謀本部です。
ところが、サクラだけは、総合プロデューサーという役目を大本営から申しつかりました。
が、10年前に、その任は解かれています。
ですからぼくにサクラの何事も決めることはできません。
原作者の立場としては契約でセガのサクラに口出しは出来ないことになっています。
サクラ大戦の続編も歌謡ショウをやることも、いまのぼくの立場では何も出来ないです。
たまに「続編作って下さい」などのメールを頂きますが、申し訳ない思う気持ちと、ぼくに言われてもという気持ちで複雑です。
サクラ大戦の未来は ぼくの手にはありません。
そのことをご理解頂きたいと思います。
広井
つまり、『サクラ大戦』の全てのコンテンツの終了が検討された2008年の時点で既に広井は『サクラ大戦』に関する著作権を有しておらず、契約によって内容に口出しも許されていないという事だ。
なお、上記のインタビューは個人サイトに掲載されているが、これは広井が「サクラ大戦の元ネタを考えるブログ」というブログにコメントした事がきっかけであると説明されている(出典)。そのブログを一読すれば分かる事だが、『サクラ大戦』に関する膨大な量の情報が出典付きで掲載されている。私の手元にある設定資料集等の書籍と比較しても、その情報は本当に正確に書かれている。そのため、ここではこの個人サイトをサクラ大戦.comや各種ニュースサイトと同じく信頼性のある出典として取り扱う。
企画原案&世界設定 森田直樹
2022年現在もレッドの社員である森田直樹は『サクラ大戦』のスタッフとしては最古参に分類される。森田は『サクラ』の最初の企画原案に最初から参加しており、世界設定も担当した(出典)。
2017年にレッドは自社タイトルとして『俺達の世界わ終っている。』というゲームを発売した。森田はこの『オレオワ』に関して、以下のような発言をしている。
結局は会社のブランドだったり広井王子だったり、セガさんだったりに寄りかかっていた十数年だったかなという思いがあったんです。あれから時間もずいぶん経ちましたし、今いるスタッフ、今後のレッドのためにも、何かやりたいという気持ちはずっとありましたね。
更に、2019年に『オレオワ』のアップグレード版が発売された際には、次のように語っている。
それまでのレッドは、『サクラ大戦』だったりセガさんだったりに寄りかかってしまっていたと思うんですよね。だから、サクラが僕たちの手を離れたあの時がチャンスだった。なんせゼロからのスタートですからね。やはり、苦労しないと自分たちの財産にはならないでしょう。今のレッド・エンタテインメントの人たちと、そんな体験をしたかったんです。
この2つの発言により、『サクラ大戦』の著作権表示が「©SEGA ©RED」から「©SEGA」に変更された2017年の時点でレッドは『サクラ大戦』の著作権を失った事が分かる。2008年以降の広井の立場とほぼ同じと考えて差し支えないだろう。
結論
決定的な証拠
ここまで長々と書いてきたが、実は『サクラ大戦』の著作権に関する決定的な証拠がある。動画が投稿された2022年9月4日の時点で、私はレッドの公式から「レッドとオーイズミに関する悪質なデマを拡散している動画が投稿されている。対応した方が良い」と問い合わせを行っていた。以下は、その回答メールの全文である。
■■様
いつも弊社タイトルへのご支援と貴重な情報をいただきありがとうございます。さて今回ご指摘いただきました動画を拝見し、確かに事実とは異なる情報が紹介されていることを確認いたしました。
対応策につきまして弊社社内(親会社も含め)にて検討いたしましたが
今回は特別な対応を行わないこととなりました。
弊社として「サクラ大戦」の権利を持っていないことは、権利表記が消えたことで周知の事実であると考えておりますし、コメントする立場にないと考えております。
また内容も、あくまで個人の憶測であると断った上でのものであり再生数を伸びていないことから、現状直ちに弊社業務に支障をきたすものではありません。
とはいえ、こういった憶測動画が世論形成に大きく影響力を持つようであればまた違った判断もありえますので注視はしていきたいと思います。
■■様に置かれましても、気になる点がありましたらいつでもご共有いただければと考えております。
今後とも宜しくお願い申し上げます。
言葉通りの意味の「ファンメール」を送った。レッドはそのメールに律儀に回答した。
それ以降『オレオワ』や『サクラ大戦』に関して何度か問い合わせを行った。
メールの冒頭に「いつも」と書かれているのはこのため。
流石に、
「『サクラ大戦』の著作権はかつてはセガとレッドの両方にあったが、2017年からはセガが全ての著作権を有するようになった」
ともう断言してしまって良いだろう。
もし「このメールは捏造されたものだ」と考えているのであれば、実際にレッドの公式サイトから「レッドは『サクラ大戦』の著作権を今でも持っていますか?」と問い合わせてみるといいだろう。恐らく、このメールとほぼ同じような内容で回答があるはずだ。
もしその回答すら「レッドが自分達に都合の良い事を言っているだけだ」と解釈するのであれば、それは所謂「陰謀論者」の思考と相違ないと思うので、私にはもうどうする事も出来ない。
雑感
出典
「広井王子はスパロボを嫌っている」
こんな類の噂を聞いた覚えがある人もいるのではないだろうか。これは、レッドのホームページの掲示板で広井が『サクラ大戦』のスパロボ参戦について否定的な発言をした事が元となっている。私はたまたまこの発言を見ていたのだが、確かに広井は「自分の目の黒いうちは『サクラ大戦』がスパロボ参戦する事はない」という意味の発言をした。しかし、広井が言及したのはあくまで『サクラ大戦』についてだけであり、『サクラ大戦』と同じく原作を担当した『魔神英雄伝ワタル』や『魔動王グランゾート』には触れなかったと記憶している。
だが、この発言に尾ひれがつき始め、最終的には冒頭文のような認識が形成されてしまった。こうなったのは、広井の発言のオリジナルがネット上に残らなかった事に原因がある。私が「実際の発言とは違う」と言った所で、それを客観的に証明する方法ももはや存在しない。
2017年に『サクラ大戦』がスパロボに参戦して以降、私はスーパーロボット大戦Wikiで『サクラ大戦』関係の記事の編集に参加している。編集をする際、一部の書籍にしか掲載されていない設定やスタッフの発言については必ず出典を併記するように注意している。同Wikiの他作品の記事では、スタッフの発言についての記載で出典が存在しない場合が非常に多い。私は管理者ではないのでそれらを逐次訂正するような真似はしていない。が、『サクラ大戦』関係については話が別だ。
同じ轍は2度と踏ませない。
そんな考えの中で件の動画が目に飛び込んできた。
この記事を書いた理由
2017年、『サクラ大戦』の著作権表示が「©SEGA ©RED」から「©SEGA」に変更されたその年に、レッドはゲーム『俺達の世界わ終っている。』を発売した。浅草にある架空のゲーム会社「ジャッジメント7」を主役にしたアドベンチャーゲームだ。レッドの本社はかつて浅草に存在しており、自社をモチーフにしている事は明らかだった。ディレクターは『サクラ大戦』の最古参のスタッフである森田直樹だった。私は『サクラ大戦』の著作権表示変更を既に把握していたので、「とうとうこんな自虐的なネタみたいなゲームを出したのか」と思いながらも、この『オレオワ』を購入した。
ジャッジメント7は世間から評価されない変なゲームばかりを作っている集団だったが、そんな彼らにも「世間一般からも評価されるであろう自分達の最高傑作となりうるゲーム」を作る機会があった。「ジャッジメント7」=「レッド」とするなら、その「最高傑作となりうるゲーム」は『サクラ大戦』のメタファーだと思った。だが、その「最高傑作となりうるゲーム」はある事情から開発を続行する事が不可能になりお蔵入りしてしまう。
ゲーム終盤、ジャッジメント7はその「最高傑作となりうるゲーム」に関してある決断をする。直接的なネタバレは避けるが、前述の森田の発言を引用するなら、要するに「サクラが自分達の手を離れた」という事だ。
『サクラ大戦』が自分達の手を離れた事で一番悔しい想いをしたであろう当事者が、このテーマをこんなにも前向きにユーモアを交えて描いた事に衝撃を受け、誇張ではなく本当に鼻水を垂らしながら泣いた。
・「もうこれ筋通っててそうとしか思えないですね( ・`ω・´)」
・「なるほど、旧作が復刻しないのはこういった裏が有ったと思われるんですね。 サクラ大戦も被害者だったんですね。」
・「著作権はめんどくさいんだなぁ。今さらだけどセガもレッドから完全に買い取ってしまえば良かったのに」
これは、件の動画に寄せられたコメントの一部を抜粋したものだ。
正直、こうしてただ抜粋しただけでも腸が煮えくり返ってくる。
レッドは『サクラ大戦』に別れを告げ、彼らなりの決着をつけた。
広井のスパロボ発言の時と違い今回はスタッフの発言が残っており、何より著作権表示という誰の目にも明らかな客観的な事実がある。
にも関わらず、三流雑誌のゴシップ記事以下の動画を鵜吞みにする連中をこの目で見てしまった。
『新サクラ大戦』や『サクラ革命』において、旧作キャラの扱いは不満点としてかなりの割合を占める。旧作のリマスターが発売されない現状も、その不満を高める要因になっている。
だが、事実と異なる情報を拡散する今回の動画によって、実際には何の責任もないレッドやオーイズミに不満の矛先が向き、『サクラ大戦』の著作権を有し本来の責任者であるセガがその状況に甘んじるという可能性が生まれてしまった。
そんな理不尽がまかり通って良いのか?
これが、この記事を書いた理由だ。
最後に
断っておくが、私は間違っても「良識のあるオタク」などではない。
例えば、ゲームカタログで『新サクラ大戦』に「クソゲー/シリーズファンから不評」という評価を下した記事を作成し、その時に編集合戦に発展して結果的にゲームカタログは出禁になった。その腹いせとして、自身のブログで「ゲームカタログに載せられない『新サクラ大戦』レビュー 」という記事を公開している。また、『サクラ大戦 漫画版』の作者と当時『歌謡ショウ』の責任者だった元セガ社員からもツイッターでブロックされている。もう確実に「害悪オタク」だ。
だが、今回の動画はどうしても見過ごす事が出来なかった。まぐ氏は動画の中で憶測であると何度も断っている。恐らく悪意はないのだろう。しかし、だからといってそれが明らかに事実に反する悪質なデマを拡散させて良いという方便にはならない。
「オタクは作品の著作権を正確に把握しなければならない」という話ではない。あなたがもし何かを愛するオタクであるなら、賞賛するにしても批評するにしても、悪質なデマを拡散したりそれに便乗したりせず、客観的な事実に基づいて行動して欲しい。本当にただそれだけの話なのだ。
誰もこんな害悪オタクにとやかく言われる筋合いは無いと思うが。



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