そしてまだまだ続くゲヘナです。
「……ゲヘナですねー」
窓の外から聞こえた大爆発で目が覚め、窓から街を見下ろす。
当たり前の様に窓ガラスは防弾仕様であり、結構な厚みがある。
イオリさんが勧めるとおりに、スイートルームを選んでおいて正解だった。
スタンダードやエコノミーだったら、もしかしたら窓ガラスが割れていたかもしれない。
とりあえず爆発については見なかったことにして、スマホを見る。
昨日の夜、寝る前にヒフミさんに連絡をしておいたので、しっかりと返信が来ている。
明日の朝からなら大丈夫そうなので、今日一日はどこかを観光するとしよう。
第一目標はお土産用のクッキーが無事である事……かな?
お風呂に入る前に、スマホでゲヘナや近隣の事を調べる。
トリニティまでは電車で大体二時間位だけど、前日入りして遅刻しないようにしよう。
髪や翼の手入れで、かなり時間が掛かるし。
行く予定は無いけれど、ゲヘナの隣には百鬼夜行があり、そこには百鬼夜行連合学院がある。
百鬼夜行は和風テイストで観光に適しているらしいが、距離的に日帰りは難しい。
後はトリニティとも隣接しているが、明日折角案内してもらうのに、前乗りするのはな……。
そうなるとやはりゲヘナ内を見て回るのだが…………あの人に連絡をしてみるか。
ハルナさんにモモトークで今日空いているか聞いて見た所、直ぐに空いていると返信が来た。
あまりにも早かったため、少し固まってしまった。
正直な所ハルナさんに頼るのは怖いけど、毒を以て毒を制すという諺があるらしいので、ハルナさんが近くにいれば、ハルナさんが事件を起こさない限り多分問題ない。
どうやら迎えに来てくれるらしいので、ホテルの住所を送り、一時間程したら来てほしいと伝える。
女性の身だしなみを整えるのは、とても時間が必要なのだ。
特に私は。
1
ハルナさんから着いたと連絡が入り、丁度私の準備も整ったので外に出る。
不幸な事故でゼロカスタムがぶつかって壁に穴を開けてしまったけど、謝ったら許してくれた。
「おはようございます。エリスさん」
「はじめまして~。宜しくお願いします」
「ンー! ムグー!」
…………。
ハルナさんが居るのは分かる。
私が呼んだのだから当たり前だ。
次に隣に居る金髪の女性は、多分ハルナさんの友達か何かだろう。
頭には前に向く形で二本の角が生え、私と比べるのも烏滸がましい程豊満な胸を持っている。
そして…………なんでその二人の間に、縛られたフウカさんが居るのだろうか?
これは風紀委員に通報した方が良いのかな?
それとも見て見ぬふりが良いのだろうか?
フウカさんは涙目であり、多分私に助けを求めている。
うーん……。
「あの、そちらの女性は?」
「ンーー!?」
一旦フウカさんの事は保留にして、隣の女性について聞いてみる事にする。
フウカさん。私は裏切ってはいません。少しだけ。少しだけ考える猶予を下さい。
「美食研究会の鰐渕アカリです。ハルナさんから美味しい物か食べられると聞いたので、付いて来ました」
「車を借りに行く際にたまたま会いましたので、折角なので誘ってみましたわ」
「そうだったんですね。私は白凰エリスと申します。今日は宜しくお願いします」
ペコリと頭を下げて挨拶をする。
なるほど。既にハルナさんの中で、今日の予定は決まっているみたいだ。
アカリさんはハルナさんとはまた違った感じの清楚さを感じるけど、間違いなく危険人物だろう。
美食研究会だし、縛られたフウカさんのとなりで平然としているし。
そう言えば美食研究会は事件を起こしているけど、しっかりとゲヘナ学園に認可されている部活なんだよな……。
俺の常識では、犯罪を起こす部活を普通に残しているのはどうかとは思うが、それ位懐が深くないと、ゲヘナは駄目なのだろう。
私の感覚ではこれ位普通な気がしなくもないし。
「まずは車にお乗りください。しっかりとエリスさんの重量に耐えられる車を用意いたしましたので、安心して下さいませ」
まるで私の体重が重いみたいな言い草だけど、身体の体重だけで言えば、私が一番軽いはずだ。
一番背が低し、太ってもいないし。
まあ翼の分を足した瞬間に一番重くなってしまうけど、種族的な問題なので仕方ない。
……うん? そう言えば、私は色々な記憶が混ざっているけども、身体はどうなのだろうか?
生前は翼なんて無かったので、間違いなく何か起きているのは確かだ。
見た目的には天使になるだろうけど、実際はキメラとなるのだろうか?
――念のため、身体の中を調べられない様に気を付けておこう。
車はワゴン車であり、ゼロカスタムも翼から外して真っ直ぐに乗せれば、何とか載りそうだ。
流石に起動状態にすれば、フロントガラスを突き破る事になりそうだけど。
悲しそうな。或いは全てを諦めきったフウカさんをハルナさんとアカリさんは車に乗せ、私も一緒に乗る。
ついに呻き声すら上げなくなったフウカさんを嘲笑う様に、車は出発した。
「今日は何所に行くのでしょうか?」
「今日は特別な牛肉のせりが、ゲヘナの牧場であるらしいので、お邪魔しようと考えていますわ。フウカさんはその調理係となります」
牛肉か……特別という事は、やはり美味しいのだろう。
ついでにフウカさんが居る理由は分かったけど、どうして縛られているかは分からない。
そう言えば、今日ゲヘナ学園は休みだったな。
なのでフウカさんがこの場に居たとしても問題ないのかもしれないけど…………けどどう見ても無理矢理ですよねぇ……。
さて、もうそろそろ覚悟を決めるとしよう。
「そうなんですね。ところで、何故フウカさんは縛られているのですか?」
「ウーン! ンッ!」
何故かフウカさんに怒られた気がする。
「昨日落ち込んでいましたので、楽しんでいただこうと今日お誘いしたのですが、急に走り出したので、仕方なくですわ。もう大丈夫でしょうから、縄を解いても宜しくてよ」
「あっ、分かりました」
睨み付けてくるフウカさんを縛っている縄をほどき、猿轡も外す。
「……私、給食部の仕事があったんだけど……」
「まあまあ、折角の休日なのですし、フウカさんの腕を見込んでですのよ?」
諦め半分。恨み半分。
そんな感じにため息をつき、フウカさんは席に座り直す。
これが初めてというわけでもないのだろうけど…………大変そうだな。
「エリスちゃんも巻き込まれたの?」
「いえ、ハルナさんに観光案内をお願いしまして、それでここに居ます」
「……」
あっ、フウカさんの目が凄いことになっている。
「まあまあ、人が多い方が楽しいですし、ここまで来たんですから、フウカさんも楽しみませんか?」
アカリさんはニッコリと微笑み、お茶の入った紙コップを渡してきた。
一口飲んでみると、ほんのりと香ばしく、ほっと落ち着く味がする。
ゲヘナでは、ほうじ茶が流行っているのだろうか?
普通に美味しいし、茶葉かティーパックの奴でも買おうかな?
寝る前とかに飲むと、よく寝られそうだ。
フウカさんもほうじ茶を受け取り、グイッと飲み干す。
あれだけ縛られた状態で叫んでいたので、結構喉か乾いていたのかな?
ふと気になったので窓ガラスをよく見てみるとかなり分厚く、乗る時に見たタイヤも結構分厚いゴムタイヤだった。
…………車……それにフウカさん。そして借りに行った時に出会った……。
借りるという事は、美食研究会が所持している車ではないということだ。
車内は結構綺麗であり、よく見るとゲヘナの校章が描かれている。
流石に風紀委員会から盗んできたとは思いたくないけど、一体どこから盗んできたのだろう?
聞きたいような、聞きたくないような……。
あっ、運転席に無線が付いているから、多分風紀委員会の車両だ。
「フウカさん。美食研究会はいつもこんな感じなのですか?」
ハルナさん達に聞こえない様に、声を潜めてフウカさんに声をかける。
「ええ。そうよ。こっちの迷惑を無視して拉致していくのよ。この車も、風紀委員会の車庫から盗んで来たし」
「それはまあ……お疲れ様です」
「ありがとう……でも、エリスちゃんも同罪だからね?」
「どちらかと言えば私も……いえ、何でもありません」
言い訳をしようとしたところ、じっとりとした目をフウカさんに向けられてしまった。
確かに私も悪いかもしれないけど、私がハルナさんに声を掛けなかったとしても、フウカさんはハルナさんに拉致られて車に乗せられていただろう。
私は正義の味方でも、警察でもなければ、そこまで良識があるわけでもない。
何せ、私には記憶が無いから……。
価値観というものが、まだ薄いのだ。
いずれしっかりと私という個は完成するだろうけど、多分ヒナさんやイオリさんみたいに、犯罪を許さない正義にはなれないだろう。
だからと言ってハルナさんの犯罪を肯定する気はないけど、私にハルナさんを裁く権利はない。
それはつまり、フウカさんを助ける理由もないのだ。
ただ、私は場に合わせるという事が得意みたいだ。
とえいえずフウカさんにペコリと頭を下げて、同情しておく。
1
「着きましたわ」
一時間程ゲヘナにある山へ向けて移動した所で、車が停まる。
何とかフウカさんの機嫌を取る事に成功したものの、一度風紀委員会に襲われるというアクシデントがあったり、不良が風紀委員会と間違えて襲ってきたりしたが、車は何とか綺麗なままである。
「うーん。空気が美味しいですねー」
「……そうですね」
車の屋根から飛び降り、翼の毛繕いをする。
やはりゲヘナは怖い所だ。
「エリスさんもお疲れさまでした。まさか信号で鉢合わせするなんて思いませんでした」
「……そうですね」
流石に街中でゼロカスタムを撃つのは憚られ、かと言って迎撃しなければ車を奪い返されてしまう。
風紀委員会の車両なので、それ自体は問題ない……というよりは悪いのは私たちなのだけど、折角なら特別な牛肉を食べたい。
なので、ハンドガン片手に車の上に飛び乗り応戦した。
ハルナさんは運転しているのと、銃がスナイパーライフルなので何も出来ず、フウカさんはそもそも拉致られたため銃を持って来ていない。
アカリさんは窓から援護はしてくれたものの、胸が邪魔しているせいか、結構四苦八苦していた。
カーチェイスしながらハンドガン一丁で車を守りながら戦うのは、流石の私も大変だった。
何度か振り落とされたので、跳んで……飛んで戻ったりした。
何故か車には弾が積まれていたので助かったが、結構銃を酷使したので、後で整備をしておこう。
因みに不良はアカリさんのグレネードで殆ど倒れ、残りは私が頭を撃ち抜いた。
「さて、まずは受付を済ませてしまいましょう。せりに参加するには必要ですから」
牧場と言うだけあり、自然が広がっている。
私達が居るのはその隣にある、直営店? 販売店になる。
聞いた話では解体は少し離れた工場で行い、此方に戻しているらしい。
外しておいたウェポンハンガーとゼロカスタムを翼に取り付けると、良い感じの重さを感じる。
ゼロカスタムを装備している状態での戦闘は慣れて来たけど、逆に装備していない状態での戦闘もいつかは練習しよう。
私達以外にも結構な人数の人が牧場には居て、数人だが警備と思われるロボットも居る。
とりあえずハルナさんの言う通りに受付までいき、登録を済ます。
番号は二十五番だったので、やはり結構来ている人が居るようだ。
「まだ三十分程時間に余裕があるようですし、ソフトクリームを食べに行きませんこと?」
「良いですね。ここのソフトクリームは美味しいと評判ですから」
スッと番号札をしまったハルナさんは、牧場ののぼりを見て提案してくる。
それにアカリさんが笑顔で賛同して、釣られて私とフウカさんも一緒に食べに向かう。
ソフトクリーム……なんとなく牧場で売られているソフトクリームは美味しそうな気がする。
流石にハルナさんも爆破なんてしないだろう。
評価ありがとうございました。おかげさまで投稿した小説は、全部色付きになりました。
息抜きで他の小説を書きながらの投稿となるので、不定期ですがお付き合いしていただければ幸いです。