翼を得た少女は自由の意味を探す   作:ココア@レネ

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下江姉概念にわりと毒されている最近です。好きですね~。


第20話:バイバイゲヘナ

「これよりゲヘナ第一牧場による、キヴォトス杯にて優秀賞を取った牛のせりを始めます」

 

 四人で美味しくソフトクリームを食べた後、時間ということでせりの会場に来た。

 

 今回のせりは既に枝肉となっている物のせりであり、生々しい感じをとても感じる。

 

 アカリさんが涎を啜る音が聞こえた様な気もしたけど、きっと気のせいだろう。

 

 一頭分の牛肉なんてとても高そうだけど、そこはハルナさんが全面的に支払うらしい。

 

 買う事すら出来ない食材は盗むものの、普通に買える物は買うみたいだ。

 

「さて、狙うは最優秀賞の物ですが……熾烈な戦いになりそうですわね」

「お祝い事に良いお肉は欠かせないですからね。卒業や入学なんかもありますから」

 

 ハルナさんとアカリさんは静かながらも熱気に包まれた会場を見渡し、余裕の笑みを浮かべる。

 

 その間に私はフウカさんから、此処に来ている人達の説明を聞いていた。

 

 フウカさんも全部を知っている訳ではないらしいけど、殆どが有名な企業の人で、後は資産家なんかも参加しているらしい。

 

 私達の様な完全に個人で来ている人達も居るっぽいけど、それは少数だろう。

 

 因みに私達の周りには、あまり人が寄って来ていない。

 

 ハルナさんがその道の有名人だからなのもあるけど、八割位は私のせいだろう。

 

 ゼロカスタムを装備して、大きな翼を四枚も持っている少女は普通に目立つし、一度警備の人に止められたりした。

 

 そして止められた時に、警備のロボットの腕が捥げた。

 

 車ほどではないが、人だって急には止まることは出来ない。

 

 そして歩いてる時に肩に手を置かれた場合、私には五百キロの物体を前に運ぶための負荷が掛かっている。

 

 人のような柔軟性があるならばともかく…………あれは不幸な事故だった。

 

「他はないですね? 百八十万円にて、カイザーコンビニエンスが落札となります!」

 

 目当ての牛肉が出品されるまで眺めていると、聞いた事のある企業の名前が聞こえた。

 

 街中でもたまに見かけるコンビニだけど……何かのイベントとかに使うのだろうか?

 

 コンビニでA5? ランクのお肉なんて必要ないと思うけど、良く分からない。

 

「続きまして、今回の目玉である、優秀賞を取りましたゲヘナ牛の中でも、最も高品質の物になります。それでは、お手元のボタンを押してください。スタートは二百万円からです!」

 

 最初から一個前の落札よりも高額なのか……二百万程度ならばまだ払えるが、これがどんどん上がっていけば、流石に無理だな。

 

 電光掲示板に提示された金額は徐々に上がっていく中、ハルナさんはボタンを押して参加を続ける。

 

 二百万が三百万となり、四百万となってもまだ落札にはならない。

 

 三百万辺りまでは涼しい顔をしていたハルナさんだが、流石に四百万円を超えた辺りで真面目な顔になり始める。

 

 現在残っているのは私たちを含めて三組。

 

 電光掲示板に残っている番号の内一つはさっきと一緒なので、例のコンビニだ。

 

 もう一つは分からないが、辺りを見渡したところ……くっ、背が低くて見えない……。

 

「流石にこれまでとは思いませんでした……」

「流石にこんな高いのを買わなくても良くない? 私には身に余るわ……」

 

 ぐぬぬとなるハルナさん以上に、落札後に調理をすることになっているフウカさんの動揺が凄い。

 

 今の金額も、高校の入学から卒業までを賄える金額である。

 

「ふふふ、いざっとなったらこれですねー」

 

 アカリさんはニコニコと笑いながら、軽く銃を構える。

 

 …………やはり美食研究会か。

 

 まだ金額は上がっていき四百五十万まで上がったところで、カイザーコンビニエンスとの一騎打ちとなる。

 

 けれど……。

 

「悔しいですが、正攻法ではここまでの様ですわね……」

 

 そう言ってからハルナさんはボタンから指を離し、四百六十万円でカイザーコンビニエンスの落札となるが…………ハルナさん、やる気だな。

 

 正攻法とか言っているし。

 

「決まりました! 本日の目玉は四百六十万円にて、カイザーコンビニエンスが落札となります! 皆さま! 盛大な拍手をお願いします!」

 

 ハルナさんとアカリさんは笑顔で拍手を送る中、これから行われるであろう蛮行を知ってか、フウカさんは風前の灯火だ。

 

 一緒に行動をしているものの、流石に美食研究会がやろうとしている強盗に手を貸すのは、私の立場的にかなりまずい。

 

 何なら車の時点でも危ないのだが、これ以上はいらぬ噂も立ってしまうかもしれない。

 

 いや、もう立っているかもしれないけれども……。

 

 とりあえず、なんとかハルナさんとアカリさんを説得しよう。

 

「ハルナさん。残念なのは分かりますが、ここは違うお肉では駄目でしょうか? 折角ハルナさん達と一緒に食事が出来るので、あまり荒事は……」

「……そう」

 

 微笑んでいたハルナさんは考える様に顎に手を当て、それからアカリさんの方を見る。

 

 もう一押しでワンちゃんあるかな?

 

「それに、あまり時間が掛かりますと、一緒に話せる時間も減ってしまいますし、食事は食べるものもそうですが、誰と食べるかも大事だと思いませんか?」

 

 自分で話しておいてまったく共感出来ないけど、世間一般的にはそうらしい。

 

 山頂で食べるカップラーメン。海辺で食べるスイカ。

 

 これらも似たものらしい。

 

 因みにフウカさんは、私の後ろで頷いている。

 

 説得力としては十分だろう。

 

「――確かにエリスさんの言葉にも一理ありそうですわね。誰かと食べる……と言うのはあまり考えてみませんでしたわ」

「う〜ん。そう言われますと、私も一人で沢山食べるよりは、一緒の方が好きですね~」

 

 ハルナさんだけではなく、アカリさんもなんとか納得してくれたようだ……良かった。本当に良かった。

 

 入学してからならばともかく、今はあまり悪名を轟かせたくない。

 

「ありがとうございます。特別なお肉に付きましては、また今度一緒に食べましょう。その時は、私とフウカさんも力を貸しますので」

「……えっ?」

 

 フウカさんが驚きの声を上げるが、私が巻き込まれるのならフウカさんも道連れだ。

 

 沈む船というわけではないけど、逃がす気は無い。

 

「分かりましたわ。最優秀ゲヘナ牛はまたの機会にするとしましょう。残っているのは……後三頭ですわね。エリスさんはどれが良いと思いますか?」

 

 山場は乗り切れはしたものの、どれか良いと聞かれても私には目利きを出来る下地が無い。

 

 うーん。出品されているランクは全部一緒だけど、ぱっと見で違いは分からない。

 

 ここは当てずっぽうしかないか……。

 

「最後の奴が良いと思います。脂のサシがスッキリとしていて、程よく歯ごたえがありそうです」

「分かりましたわ。それでは最後のを落札しましょう」

 

 ニッコリとハルナさんは笑い、視線を前に戻す。

 

 目玉商品を落札できたからなのか、次も、その次もカイザーコンビニエンスは参加せず、

 

 百五十万と百九十万で落札される。

 

「続きまして、本日最後の品となります。評価こそ最優とはなりませんでしたが、それでも素晴らしい評価をいただいた牛になります。百十万からスタートです!」

 

 電光掲示板が点灯し、値段が上がっていく。

 

 カイザーコンビニエンスはやはり参加せず、二百二十万まで上がったところで私たち以外は全員降りた。

 

「最後の落札者は美食研究……美食研究会! …………失礼しました。美食研究会になります! 皆様、どうぞ拍手をお願いします」

 

 最後ということもあるのか、他の人達から拍手を送られ、ハルナさんは手を振って応える。

 

 司会の驚きようが凄かったけど、これで終わりだし大丈夫だろう。

 

「これにて本日のせりは終わりになります。落札された方は、後程係りの者にお申し付け下さい。それではまたお会いしましょう!」

 

 早口で司会は捲し立て、そそくさと下がって行く。

 

 過去に美食研究会と何かあったのだろうか?

 

「さて、それでは品を受け取り次第、バーベキューに致しましょう。フウカさん。お願いしますわね」

「……任されたからにはちゃんとやるわ。私も味が気になるし……」

 

 銃撃戦や爆発が起こること無く、なんとかせりを乗り越えた……。

 

 お腹も減ったし、私も沢山食べるとしよう。

 

 

  

 

1

 

 

 

 

 ハルナさんが支払いと受取りに向かっている間に、私達三人でバーベキューの準備を進める。

 

 場所は牧場の一角にあるバーベキュー場だ。

 

 肉はたくさんあるので、その他に野菜やちょっとした海鮮などもアカリさんが持ってきていた。

 

「晴れていて良かったですね~」

「はい。風もあまり無いので、バーベキューには丁度良いですね」

 

 バーベキュー場を借りるついでに、大型のバーベキューコンロを借りられたので、アカリさんと組み立てながら世間話をする。

 

 こんな大型でなくても、四人ならもっと小さいのでも良いと思うけど、自分が大食いだったのを思い出した。

 

 流石に牛を丸々一頭食べられるかは分からないけど、半分はいける自信がある。

 

「ハルナさんから聞きましたが、エリスさんはどこの学校に入ろうと考えているんですか?」

「まだまだ悩んでいるところですね。アビドスやミレニアムは勿論、ゲヘナも楽しそうですし、まだトリニティを見に行っていませんので」

 

 備長炭をコンロに入れて、着火材で火をつけ、翼で風を送る。

 

 後で炭の臭いを取るのが大変だろうけど、どうせ食べていれば避けられないので、どっちにしろである。

 

「お待たせしましたわ」

 

 大体の準備が終わり、先に野菜とかを焼こうとしていると、せり落とした牛肉をハルナさんがキャリーカーで運んできた。

 

 ついでに牛刀や解体用の包丁も、キャリーカーに積まれている。

 

 改めて近くで見ると、結構な迫力がある。

 

「凄く大きいですね。食べるのが楽しみです」

「そうですわね。それでは、フウカさんお願いしますわ」

「分かったわ……」

 

 ドーンと牛肉を台の上に置き、各種包丁もセットする。

 

 フウカさんはやる気はあるようだが、やるせない表情をしながら牛の解体を始めた。

 

 解体と言っても部位ごとに切り分けていくだけなのだが、そう言えば内臓系は無いんだな。

 

 なんとなく生前はレバーを結構食べていたような気がするので、レバーとか少し気になっていたのだが、またの機会にするとしよう。

 

 手早くフウカさんは解体し、その合間に焼いたり下拵えなどをしていく。

 

 焼くだけならば私でも出来るので、少しだけ私も任せて貰っている。

 

「これはこれで美味しいですわね」

「それは良かったです。バーベキューをするのは初めてなので、私もなんだか楽しいです」

「そうですね。美味しい空気に美味しい料理。そして、お友達と食べる料理は堪りませんね~」

 

 食べては焼いて焼いては食べて。

 

 フウカさんによる解体ショーを楽しんだり、ちょっとした料理やコツを教えて貰ったり。

 

 なるほど。これが青春というものか……。

 

「エリスさんの言う通り、こうやって話しながら食べるのも良いものですわね。少しだけ口惜しいですが、次の楽しみに取っておきましょう」

 

 ちまちまと野菜とお肉を食べながら、ハルナさんが微笑む。

 

 私としてもこれだけ沢山食べさせてもらえるならば、せりの会場で話していた通り、手伝うのもやぶさかではない。

 

 あの温泉開発部を見た限り、多少のやり過ぎは問題ないらしいし。

 

 連邦矯正局ならばともかく、自治区内の収容施設なら、反省の色をしっかりと見せれば一週間もしない内に出られるとか。

 

 もしくは普通に脱走して、逃げ切る事が出来れば普通に学校に通っても大丈夫らしい。

 

 ゲヘナが特別なのかもしれないけど、ゲヘナではそうらしい。

 

 そうでなければ、ここにハルナさんとアカリさんはいない。

 

「……まさか全部無くなるなんて思わなかったわ」

 

 まったりとバーベキューを楽しみ、全ての食材を平らげたところで、フウカさんがぼやく。

 

 四人では牛一頭を食べきるなんて無理だと思っていたが、終わってみれば牛どころか野菜も海鮮も全部無くなっていた。

 

「まさかエリスさんが、これ程食べられるなんて思わなかったですね」

「私もアカリさんがこれ程とは思いませんでした」

 

 食べた内訳は、私が四割、アカリさんが五割。残りの一割をフウカさんとハルナさんが食べた感じだ。

 

 私が言えたことではないけど、人は見かけによらないとは、この事だろう。

 

「さて、しっかりと味わった事ですし、今日は帰りますわよ」

 

 ハルナさんの号令により、後片付けを始める。

 

 食べた後もしっかりと片づけることが大事なのだとか。

 

 網や包丁をしっかりと洗い、炭もしっかりと地面に埋める。

 

 朝から色々とあったが、最後は楽しくバーベキューが出来て良かった。

 

 出来ればもう少しハルナさん達と遊んでいたいが、今日中にトリニティへと向かい、ホテルを取らなければならないので、少し早めに帰らなければならない。

 

 最後にコンロを牧場の人に返し、ハルナさんが盗んできた車で帰る。

 

「今日はありがとうございました。おかげさまでとても楽しかったです」

「私も新たな知見を得ることが出来て、とてもためになりましたわ」

「はい。また一緒に、食べに行きたいですね」

「出来れば、今度は普通にお願いするわ……」

 

 何やかんや言いながら、フウカさんも一緒にご飯を食べるのは嫌いではないらしい。

 

 これがSNSで流行っている、ツンデレというものだろうか?

  

 正直今日一日のフウカさんの扱いは不憫でしかなかったけど、先日ゲヘナの食堂で見せた悲壮感のある表情を一度もしていなかった。

 

 さて、あとはこのまま駅まで送り届けて貰えれば……。

 

『そこの車止まれー!』

 

 一台の装甲車がいきなり現れ、スピーカー越しに怒鳴って来た。

 

 なるほど。第二回戦という訳か。

 

 そして、この声は私の勘違いでなければ、イオリさんのものだな。

 

 出来れば敵対したくは無いが、軽く戦った後はそのまま逃げるとしよう。

 

 ハルナさん達には悪いが、こっそりと囮になってもらうとしよう。

 

「私は上で迎撃します。フウカさんはマガジンの用意をお願いします」

「フフ。援護は任せて下さいね」 

 

 自分の荷物とゼロカスタムを抱えてルーフの上に登り、ハンドガンで顔を出している風紀委員を撃つ。

 

 さて、少しだけ付き合って貰うとしよう。

 

「お前は!」

「大変申し訳ないですが、少しだけ付き合って貰います」

 

 イオリさんも私と同じくルーフの上に登り、私を見て驚きの声を上げる。

 

 昨日の味方が明日の敵になる。

 

 多分キヴォトスらしい一面だろう。

 

「――そいつらに味方するなら、容赦する必要はないな」

「個人的には戦いたくはないのですがね……」 

 

 イオリさんの放った弾を避け、三発連射して返す。

 

 これでマガジンが空になるので、イオリさんが避けている間にフウカさんから新しいマガジンを受け取り装填する。

 

 ついでに看板を見て位置を把握し、飛び降りるため場所の確認もしておく。

 

「っち、案外上手いんだな。背中のそれは使わないのか?」

「これを使っては、つかまるだけではすみませんからね」

 

 お互いに撃ち合い、ついでに援護しようとする他の風紀委員を潰す。

 

 ゼロカスタムを使えば簡単に終わるけど、それをすれば被害が本当の意味で無視できないものになる。

 

 電車内まで追いかけられるなんて事態になれば、私も困る。

 

「その甘い考えが続けば良いけど……ね!」

 

 イオリさんが私ではなく、運転中のハルナさんを狙うが、翼を広げて防御する。

 

 そして、丁度良い場所まで来たので、ここらで私はお暇するとしよう。

 

「イオリさんも甘いですね」

「何が……ってお前!」

 

 イオリさん側の車両に乗り移り、運転席の防弾ガラスを割って運転手に向けて残弾を全て撃ち尽くし、そのまま跳んで建物の上に着地し駅へと向かう。

 

 これですぐに風紀委員も動けないだろうし、私の行方も分からないはずだ。

 

 ハルナさん達がどうなるか分からないが、私には私の予定があるので、これでさよならだ。

 

 頑張ればこのまま電車に乗り移れなくもないが、しっかりとお金を払って乗るとしよう。

 

 さよならゲヘナ。

 

 ごめんなさいイオリさん。

 

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