サイエンス

「自分は社会的地位が高い」と認識している人は他人の感情を察知するのが苦手だという研究結果


人間は高度に社会的な動物であり、他の人間との交流を成功させることが個人的な成功と密接に関わっています。他人とうまく交流するためには他者がどのように感じ、何を考えているのかを理解することが重要ですが、新たな研究では「自分は社会的地位が高い」と認識している人は、他人の感情を察知するのが苦手であることが示されました。

Higher self-assessed subjective social status is associated with worse perception of others’ emotions | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-025-01493-2


Individuals perceiving their social status as higher tend to be worse at perceiving emotions of others
https://www.psypost.org/individuals-perceiving-their-social-status-as-higher-tend-to-be-worse-at-perceiving-emotions-of-others/

いくつかの研究では、他人の感情を正しく識別する能力は社会的地位によって左右されることが示唆されています。社会的地位とは集団や社会における相対的な立ち位置や階級のことで、他人からの扱いを形成し、社会的な交流における尊敬や信頼、そして影響力を左右します。


進化の過程において高い社会的地位は資源や配偶者、そして身体を保護する手段へのアクセスを容易にし、生存の可能性を高めました。今日では社会的地位が教育や医療、そして経済的機会へのアクセスに影響を与えているほか、精神的な幸福にも関係しています。これに対して社会的地位が低いと、生存の可能性が減少するほか、ストレスや不安、疎外感の増加にもつながります。

近年の研究では、社会的地位の低い人は他人との交流において、他人の感情を知覚する能力に強く依存していることが示されています。利用できる資源が少ない人が生き残る上では、こうした社会的認知能力が重要であるため、この結果は驚くべきことではありません。その一方で、社会的認知能力の向上は他人との交流を円滑にして、結果として個人の社会的地位の向上につながるという見方もあるとのこと。

そこで、デューク大学の心理学・神経科学部で講師を務めるヴィクトリア・リー氏らの研究チームは、「社会的地位が高い人の方がより優れた社会的認知能力を持つのか、それとも社会的認知能力の高さは社会的地位の低い人々に特有なのか?」という疑問に答えるため、オンラインでの実験を行いました。


実験にはオンライン実験プラットフォームのProlificを通じて募集した1197人のアメリカ人が参加しました。被験者はいずれも英語に堪能な成人で、平均年齢は38歳、50%が女性、74%が白人、50%が民主党支持を表明していました。

被験者はまず「個人の感情を知覚する能力を測るテスト」に回答し、続いて「集団の感情を知覚する能力を測るテスト」および「非社会的な課題に関する知覚能力を測るテスト」に答えました。これらのテストを完了した後、被験者は主観的および客観的な社会的地位を測る尺度に回答しました。

実験の結果、自分自身の主観的な社会的地位が優れていると自己申告した被験者は、個人が表現する感情を認識する能力が低い傾向がみられました。しかし、集団の感情を知覚する能力や被写界的な課題に関する知覚能力では、この関連性がみられませんでした。


被験者が報告した主観的な社会的地位は、収入や教育水準などに基づいて客観的に測定された社会的地位と、それほど大きな違いがありませんでした。つまり、被験者は自身の社会的地位について、一定の正確性を持って評価していたというわけです。

しかし研究チームは、「客観的な社会的地位が類似している他者と比較して、自身の社会的地位を相対的に高く評価した被験者」についても調べました。すると、主観的な社会的地位を相対的に高く評価した被験者は、そうでない被験者よりも感情を知覚する能力が低いことがわかりました。また、生涯にわたって社会的地位の自己評価が高くなっていくことが、感情認識の悪化と関連していることを示唆する証拠も見つかったとのことです。

研究チームは、「これらのパターンは『社会的地位が感情的な知覚能力を形成する』という見解を支持しますが、重要なのはこの関係が他者との比較における社会的地位と、自身の生涯的な地位変化の評価という、個人の主観的な地位感覚に依存している点です」と述べました。

なお、今回の実験で用いられた感情知覚課題は、「写真に写っている人物の感情を判断する」というものであり、「実際に交流した人間の感情を識別する」という課題ではありませんでした。そのため、今回の研究結果は実生活にそのまま反映できるとは限らないとのことです。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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