2006年8月2日(水)「しんぶん赤旗」

プール事故

民間委託が招いた惨事


 夏休みの子どもたちの歓声があがっていた流水プールが、惨事の現場に一転した埼玉県ふじみ野市立大井プール。吸水口のふた(格子)がはずれたままポンプの運転をつづけて、女児の死亡事故を招いたことはまぎれもない「人災」――なぜ公営プール事故は防ぐことができなかったのでしょうか。(宇野龍彦)


点検項目に吸水口フタなし

 三十一日午後、小学校二年生の女児(7っ)が吸い込まれたのはプール側面の水深五十センチのところにある吸水口。アルミ製の格子状のふたが二枚ついているはずでしたが、片方が外れていました。「O」字形の流水プールはポンプ三台で水を吸い込み、別の排水口から水を押し出して流れをつくっています。

 市教育委員会広報によると、大井プールは一九八七年の開設いらい運営は民間業者に委託されてきました。

 オープン前のことし七月五日と七日にプールの清掃と点検を、市教委が運営を委託しているビルメンテナンス会社の太陽管財(さいたま市)が実施。吸水口ふたの異常の報告はなかったといいます。また毎日の営業前の点検でも異常はなかったとしています。

 しかし、このときの点検項目に、吸水口のふたやボルトのゆるみなどはありませんでした。市教委は「あくまで総合的に判断することで、個別の項目のチェック対象にしていない」と説明します。

 市教委の「大井プール管理日誌」(七月三十一日)によると、流水プール点検は午前九時から一時間ごとに八回おこなわれることになっていますが、水温と塩素濃度確認項目だけで、吸水口のふたのチェック項目がありません。

市職員常駐せず無責任体制

 同プールは昨年十月一日のふじみ野市誕生までは旧大井町の公営プールでした。この夏が初めて市営プールとして営業。民間に委託されていることから、市の職員は常駐しておらず、職員の巡回も「二日に一度」。死亡事故が起きた七月三十一日は、市職員がだれもいないなかで発生したのです。

 しかも、運営の委託をうけた太陽管財は、プール管理をビル清掃・管理業者の京明プランニングに下請けにだしていました。同市によると、業務委託の下請化の結果、十三人の監視員は下請け会社社員・アルバイト。ポンプや電気を担当する技術者も常駐せず、看護師は所属不明という無責任な体制でした。同市が太陽管財と結んだ契約書には、「委託し、または請け負わせてはならない」と「業務丸投げ」を禁止しています。

 同市は「一日午後、太陽管財から初めて報告をうけた。明らかな契約違反」として、事故調査委員会を設置して、究明にあたるとしています。


強制力ある指導が必要

 プールの吸・排水口に吸い込まれる事故はこれまでも繰り返されてきました。今回の事故は、吸水口のふたがなぜ外れていたのか。外れていることに気づいたあと、直ちに吸水ポンプを停止しなかったなど、安全対策上のさまざまな問題が指摘されています。しかし、吸い込み防止柵がはずれても、吸水口に金網を張るなど、二重の対策をとっていれば防げた事故です。

 日本体育施設協会は昨年からプール事故撲滅キャンペーンをはり、事故防止を呼びかけていました。同協会のパンフをみると、「吸い込み事故」は、「飛び込み事故」「溺水(できすい)・水没事故」と並ぶプールでの三大事故にあげられ、排水口のふたについてはネジ・ボルトで確実に固定したうえで、さらに万が一ふたが外れた場合に備え、吸い込み防止金具を設置するように促しています。

 文科省管轄の学校プールを除くプールの衛生管理をしている厚労省は、一九六五年に水質基準を決めた「遊泳用プールの衛生基準」を作成。その後設備や管理基準を盛り込み、六回目の改正となった二〇〇一年の基準では、吸水口のふたは固定したうえで、さらに吸い込み防止金具を取り付けることを求めています。しかしこれに強制力はありません。

 また、文科省スポーツ・青少年局が事故防止を呼びかける通知を都道府県知事などにあてて毎年だしているものの、吸・排水口の安全対策の実態把握などは自治体まかせというのが実情です。

 日本体育施設協会が十年前に行った全国の「国公立小・中・高等学校の水泳プール実態調査」では、33・6%の学校がふたを固定していませんでした。〇三年から〇四年にかけて実施した同調査では、こうした実態は大きく改善されていますが、回答した約三万校のうち、なお2%にあたる五百八十九校で固定していないと回答しています。

 施設の不備からおこる今回のような事故を繰り返さないために、緊急に全国のプールの総点検が求められます。(阿曽 隆)

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