夜中、アビドス高校のある教室。そこで、あなたはズタズタになった柴関ラーメンの制服を補修していた。
先刻のゲヘナの風紀委員による砲撃により、店舗は破壊され従業員の彼と大将は怪我を負いあなたの着用していた制服はボロボロになり、ついでにあなたが瀕死になったのだ。
キヴォトスの服は狭間の地のそれと異なり、簡単に破れてしまう様だ。あちらの装備の耐久性を見習って欲しい。お陰で少額とはいえルーンを支払う羽目になった。一体何故かは分からないが、裁縫にはルーンが必要なのだ。ちょっと死にかけた位でいちいち壊れないで欲しい。
エルデの獣を倒した時に貰った70万ルーンと貯めに貯め込んだ黄金のルーンがあるとはいえ、今のところキヴォトスでルーンを手に入れる算段は付いていないのだから。
気づけば、高く登っていた月が傾き始めている。
高い技量により中々の手先の器用さを誇るあなたであったが、何分破れた服の補修など初めての事で、どうにも時間がかかってしまう。
………あるいは彼ならば、もっと早く上手に出来たのだろうか。あなたのお針子……いや、『ゴールデンお針子』である彼、ボックならば。
だが彼はもう居ない。キヴォトスにも。狭間の地にも。
この世から、彼は居なくなってしまった。
あなたのせいで。
………雫の幼生など、渡さなければ良かった。あの時の自身の浅はかさに、愚かさに、怒りが湧いてくる。
あなたが生まれ直しをしても平気なのは、大ルーンの恩恵のおかげだと知っていた筈なのに。
あなたは深くため息をつき、首を横に振って気持ちを切り替えた。集中しなければ。作業はまだ半分も終わっていない。このままでは徹夜する事になる。
一応不死の存在であるあなたは睡眠を取る必要は無いが、それでも寝れる時には眠りたいし何よりもそれは現状唯一のノーコストでFPを回復出来る手段なのだ。
未だ祝福を見つけられていない今、かつてあなたにとって(必需品とはいえ)それほど高くなかった聖杯瓶の価値は、まさかまさかのハイパーインフレーションを起こし、今や最後の切り札同然の価値と化しているのだ。
緋色が後6本、青色が後7本。霊薬は使用済み。
彼の地では実質無限に使うことが出来たそれらは、最早そのかさを増す事は無い。少なくとも今は。
暫くの間、無心で作業をしていたあなたは、ふと窓から外を見る。何やら明るい様な気がするが、まさか朝になった訳では無いだろう。あなたはまだ一睡もしていない。消費したFPはまだ減ったままなのだ。もうそろそろ切り上げて今日はもう寝よう。
……………。
見たまえ!青ざめた朝空だ!
あ……ありのまま今起こった事を話そう!あなたはもう夜も遅いし作業を中断して寝ようと思ったらいつのまにか朝になっていた!何を言ってるのかわからないと思うがあなたも何が起こったのかわからなかった…!うっかり狂い火でも受領したのだろうか?魔術だとか祈祷だとかそんなチャチなものでは断じてない、もっと恐ろしいものの片鱗を味わった……!
これではいけない。FPが回復できな……はっ!?
まさかあの行政官、こうなる事を見越してあなた達に対して砲撃を行ったのだろうか。だとすればいよいよもって本格的に彼女を警戒しなければならない。
何と言う策士だ、あの行政官は。
彼女への警戒をますます高めたあなたは、今はまだ低い位置にある太陽を窓から見上げ、その光を全身で浴びる。
太陽、万歳!
「着きました。ここにあの二人が……」
暫く時間が経って、ここはアビドスにある病院。大将とロボットの彼が現在入院中の場所だ。
彼らの意識が戻ったとの連絡を受け、あなたと先生、そしてセリカとアヤネの4人で見舞いに行くのだ。無事に生き残れたようで本当に良かった。生命力を信仰に突っ込んだ甲斐がある、というものである。
施設に入り、受付係のロボットに『柴関ラーメンの大将の見舞いに来た』と伝えると、「彼らは◯◯◯号室に居ますよ。今は他の方もいらしているようですが」と返される。はて、あなた達の他に彼らの見舞いにくる様な人間、あるいはロボットや人語を解する獣人などいただろうか。
階段を登り、あなた達は言われた番号の部屋の前にたどり着く。
ノックをして、ガラガラと扉を開き入室して、そしてベッドに座る柴関従業員の二人と
……………。
あ……ありのまま今起こった事を話そう!あなたは入院中の二人を見舞いに行こうと思ったらいつのまにか死地に赴いていた!何を言ってるのかわからないと思うがあなたも何が起こったのかわからなかった……!ツリーガードだとか死儀礼の鳥だとかそんなチャチなものでは断じてない、もっと恐ろしいものの片鱗どころかそのものを味わった!
既に部屋に入り、そして接敵した以上、きっと退路は金色の霧で封鎖されているだろう。ならば残された道は一つ、戦うしか無い……!
あなたは念の為腰に差していた愛用品の武器、名刀・月隠の柄に手をかけ、何時でも『束の間の月影』を放てるよう構える。
「…………ああ、あなた方もいらして………ってか、かっ、KATANA!?Is it a Japanese traditional weapon, KATANA!?」
「た、大変です!先生が
「"えっ"」
一体なぜこうなった。なぜこんな事になってしまった。
扉を開けたら突然に強敵二人と出くわすとは!神はあなたに何か恨みでもあるのだろうか?全く心当たりがな………。
心当たりが………
心当たり………
……………。
まずい。心当たりがあり過ぎる。一体どれだ。どれに神は怒っているのだ。黄金樹を燃やした事か……?死のルーンを開放した事か……?
などと考えていると、ロボットの彼から声をかけられる。
「やあ星見!それにセリカちゃんも!見舞いに来てくれたのか?ありがとう!」
「この状況で!?ちょっとマイペースが過ぎない!?」
「あ〜、ゴホン。それじゃ、仕切り直して……。二人とも、それにアヤネちゃんに先生。よく来てくれたな!」
「"どうも。その、お体は大丈夫ですか?"」
「あ、どうもはじめまして、先生。自分らは大丈夫です。少し目を回してただけですよ」
良かった。改めて本人の口から『大丈夫だ』と言われると、やはり安心できる。
ちなみに風紀委員会の二人は既に帰った。あなた達が入室する前に謝罪や諸々の話し合いを済ませ、いざ帰ろうという正にその瞬間、あなたが入室と共に居合の構えを取るというダイナミックエントリーをかました、という訳だ。
大将はあなたにも謝罪するよう二人に求めたが、その必要は無い、別に自分は攻撃によって痛い目に遭った事には何とも思ってはいない、と告げると、何やら複雑そうな表情を浮かべて引き下がった。
………それよりも、大将は良かったのだろうか。彼女らによって吹き飛ばされたあの店には、あなた達以上に思い入れのある大切な場所だった筈だが。
「ああ、ごめんな、3人共。バイトが出来なくなっちまって………。でも、俺は別に良いんだよ。キヴォトスで店を開いた以上、いつかこうなるとは思っていたし覚悟も決めていたさ。それに、もともと店を畳む予定だったし、それが少し早くなっただけさ」
「「「「「「えっ」」」」」」
従業員も、そうでない者も、同様に戸惑いの声を上げる。
店を、畳む?一体なぜ?あなたの認識では一定の売り上げは確保出来ていた筈だが……?
「ああ。ちょっと前から退去通知を受け取っていてね」
「な、何を言っているんですか……?アビドス自治区の建物の所有者は、アビドス高校の筈で……」
「………そうか。君たちは知らなかったんだな。……何年か前、アビドス高校の生徒会が借金を返せなくて、土地と建物の所有権が移ったんだ。確か……カイザー……すまん、詳しくは覚えていない」
「それは……でも、そういう事なら…!セリカちゃん、星見さん、先生。3人は先に学校へ戻っていて下さい。少し確認したい事があるので、ちょっとそちらに寄ってから行きます。……え?『私も同行する』?ええ、いいですよ」
「私も一緒に行くわ!」
「分かりました。では、先生は先に学校に戻っていて下さい!私達もすぐに戻りますので!」
「"分かった!気をつけてね!"」
もしも主人公がやって来たのが、原作開始前(アビドス編が始まる前)のゲヘナだったら?
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やっぱり激長!風紀委員会ルート
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全部書いて♡