飲まなきゃやってられんわ、こんな教室。   作:ケツマン

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割と今さらの話ですが、このお話はよう実のストーリーに沿いながら酒飲んだり酒飲んだり飯食ったり酒飲んだりする話です。
お酒二十歳から!!!!!!!!!!!! 

今回、ちょっとだけ麻雀の専門用語が出てくるので注意。


安い赤ワインは取り敢えず割箸を挿しておけば何とか飲める。

 

 ワイングラスのステムを中指と薬指の間に挟み込み、掌でゆっくりとグラスを転がす。

 真紅の液体はクルクルと踊るように波打ちながら、ふわりと芳香を立ち上らせる。

 

 

「ふっ……」

 

 

 窓の外を眺めればそこに広がるのは百万ドルの夜景。世界を彩る輝かしいネオンの海。

 最高級ホテルのスイートの一室にて、ゆったりとしたバスローブに身を包んだ俺は夢心地に酔いしれながら、静かにグラスにキスをした。

 溢れんばかりの富、輝かしき名声、そして側に侍る最高の女。

 正にこの世の全てを手に入れた俺こそが、人生の勝者と言っても過言では無いだろう。

 

 嗚呼、かくも人生とは素晴らしい。

「この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」

 この世の全てが思いのまま。そう詠った時の権力者、藤原道長も俺と同じような圧倒的な全能感と当然のような勝利の余韻に浸って生きて来たのだろう。

 

 真紅の美酒が舌先に触れ、シルクのような滑らかな舌触りが味蕾の上で蕩けていく。

 口内でワルツを躍らせるように軽やかに、それでいて上品に転がしたワインは深い味わいと、蘭奢の如く媚薬めいた薫りを立てる。

 

 嗚呼……素晴らしい。何て素晴らしい味なのだろうか……!!

 これぞ人生の味!

 これぞ幸福の味!!

 これぞ勝利の味!!!!

 

 

……。

 

 

……。

 

 

 

「うん。やっぱ普通にクソ不味いわ」

 

 

 駄目だった。

 何か、こう……いい感じの妄想で無理やり誤魔化そうとしたけど不味いわ。

 うん、本当に不味いもんは、幾ら頑張っても不味かった。

 

 俺は部屋着代わりに着ていたジャージの上から羽織っていたバスローブ(1500ポイント)を放り投げて深い溜息をついた。

 金を持っていると、ついつい要らない小物を買ってしまう俺は貯金の出来ない駄目なオッサンの典型だろう。

 

 

「急に寸劇始めたと思ったら何なのよ」

 

 

 クッションに埋まっている神室が白い目でそんな事を言った。

 彼女の着崩した白いカッターシャツの向こう側から透けている、派手なブラジャーを意識して視界に入れないようにして、俺は歪んだ顔のままにグラスの中の赤い液体をグッと飲み干した。

 

 

「いやー、何か思ってたよりガンガン稼げちゃったから、ついテンション上がっちゃってさ。この勢いで自分に酔いしれたら不味い酒も美味しく感じるかなー? って」

 

「馬鹿じゃないの?」

 

「うん。馬鹿な事したと思ってる」

 

 

 辛辣な神室の言葉に思わず苦笑い。男というのは馬鹿なモノで、ふとした拍子に男子小学生みたいな馬鹿馬鹿しい真似をしてしまうものだ。これは多分、俺だけじゃないと思う。

 ふと窓の外に視界を向ければ、そこに広がるのはポツポツと光る電灯の黄色いボンボリみたいな輝きと、花弁が散り始めて悲しい感じの桜の木が見える、何だか寂しい光景だ。

 この夜景(笑)に百万ドルどころか一ドル出す人間がいるかすら疑問である。

 言うまでもない当然の話ではあるが、俺と神室がぐだぐだと寛いでいるのはホテルの一室では無く、学生寮の中にある俺の自室だ。

 

 

「まあ、でも。最高の女が近くに居るって言うのはあってるのかもね」

 

「は? ……何よいきなり」

 

 

 改めて観察するとギャルスタイルの神室はやっぱりエロい。

 化粧自体は薄いナチュラルメイクなのに、露出度の高い服装も相まってか、ティーンエイジャーとは思えない濃密な色気と退廃的な雰囲気を醸し出している。

 ゴクリ。思わず、唾を飲み込んだ。

 

 

「うーん。神室くんは綺麗で可愛いなぁって話だよ」

 

「……馬鹿じゃないの」

 

 

 チロチロと表に出ようとする煩悩を封じ込めながら、下心が露出しない程度の褒め言葉を投げ掛けてみるも、この反応だ。

 やはり碌な恋愛経験の無いオッサンには女を口説くスキルが不足しているようである。

 ムスッとした不機嫌そうな顔で端末を弄り始めた神室の耳が赤くなっている事に気付けなかった俺は、テーブルを挟むように彼女の向かい側に腰を落ち着けた。

 

 

「ごめんよ、神室くん。想像以上に儲けちまったから落ち着かないのさ。俺が予想していたより遥かに相手方がお猿さんだったからなあ」

 

「ジロジロ見られて本当に気持ち悪かったんだから。本当、男って馬鹿よね」

 

「まあ、実際のカジノでも色仕掛って普通に使われる手だからね」

 

「そうなの?」

 

「うん。それこそ茶柱スタイル並みに胸元を露出したドレスを勝負服にしているギャンブラーとかもいるしね」

 

 

 そんな事を話しながら俺は端末の残高を確認する。

 その額、約350万ポイント。相手を油断させる仕込みの為に大体8万ポイントを放出していたので、元々の残高は約310万ポイント。

 つまり俺は今日一日で約40万ポイントも稼いだ事になる。

 ちなみに最初は神室と山分けする予定だったのだが、本人が「私は実質、座ってただけで何もやってない」と報酬の受取を拒否。

 それでも何とか言いくるめて報酬の三割に俺の頼みで買ってもらった派手な下着代込みで18万ポイントは押し付けた。

 

 

「今日一日で約60万ポイントの稼ぎ。まあ、仕込みで8万。神室くんの下着代で1万。そう考えれば純利益は50万ポイント。まさか、ここまで上手く行くとはなあ」

 

「あんたがアガリまくってたから強いのは判ったんだけど、麻雀ってこんな簡単に大金が儲けられるものなの?」

 

「いやー普通は無理だね。今回は作戦が上手くハマったのと、俺にツキが乗っていた。それに何より、相手側が勝手に自爆してくれたおかげだね」

 

 

 隣の席で仲良くなった友人。という体で神室を麻雀部に連れて行った効果は非常に分かり易かった。

 幽霊部員以外は全員男子である麻雀部の部室に見目麗しい女子高生が門戸を叩いたのは中々の衝撃だったのだろう。露骨なまでの歓迎ムードだった。

 しかも神室の格好は透けブラ+隙だらけのギャル風コーデである。俺なりのコンセプトは『ヤれそうでヤれない女』。

 これが女に耐性の無い男には馬鹿みたいに受けるのだ。

 ちなみにソースは前世で仲良くなった元ラウンジ嬢だったソープ嬢である。

 

 俺は神室との会話の節々に態とらしく「簡単に儲けられるから」だとか「どうせ来月も10万貰えるし」というワードを含み、それを神室にも同意させる事によって、思いっきり先輩方を油断させた。

Sシステムについて全く疑問を抱かない不良品ですよー。と露骨にアピールをしたわけである。

 

 そんでもって、更なるダメ押しとして、最初の半荘戦で俺と神室はボロボロに負けた。言うまでもなく、態とである。

 この瞬間、先輩方は神室を俺と同様に葱背負った鴨だと。

 否、その美しい見た目と簡単に抱かせてくれそうな風貌にすっかり騙されていたのだから、鴨が葱背負って鍋と出汁まで持って来た。とほくそ笑んだ事だろう。

 

 

「あそこでレートを上げなければ、幾ら結果的に大負けしたとは言え桁は違っただろうにねえ。変に色目を使うから損をするのさ。二重の意味でね」

 

「あいつら自分達が勝ったら私に何する気だったんだか……気持ち悪い」

 

「まあ、こっちは100万以上ポイント持ってる

なんて知らなかったんだろうからねぇ。借金にはしないと確約していたんだから……取り敢えず、『貸し』という体にして後日にデートの強要ってとこじゃない?」

 

「最悪」

 

 

 細かいルールは割愛するが、麻雀というのは最終的な持ち点で勝敗、及び動く金額が変わる。

 その地域のルールや雀荘によっても変わるのだが、最もポピュラーだと言われるのが1000点勝てば100円貰える『テンピン』と呼ばれるルールだ。

 円では無くポイントという違いはあれども、この麻雀部でも基本的にテンピンルールで卓を囲んでいた。

 

 だが、神室が鴨だと誤解した先輩方は下心を必死に隠すような下手糞な笑みで賭け金の値上げを提案したのだ。

「もしも君達の有金が無くなったとしても借金にしたりしない。簡単に負けを取り戻すチャンスだよ」と、やけに親切ぶった言葉で。

 

 

「いやー面白かったなぁ下心満載でニヤニヤした顔が、あっさり負けて真っ赤になって。ムキになって、また負けて青い顔。最終的には全てを悟ったような真っ白な顔になったんだから」

 

「あんた性格悪い……って言いたいけど、あんな下衆共には丁度いい薬かもね」

 

 

 結局、『テンピン』ルールから賭け金が10倍も大きくなる『デカピン』ルールへ変更。

 この瞬間から、待ってましたとばかりに俺は本気で打ちまくり、あっという間に先輩の一人を飛ばし(持ち点をマイナスにする。強制的にゲーム終了。ビリ決定。)ゲーム終了。

 格下だと思っていた後輩にあっさり負けた事にプライドが傷つけられたのか、憤怒を必死に隠そうとする不細工な顔でもう一戦を要求される。

 

 これはあくまで様々な賭け事に手を出して来たオッサンの持論でしかないのだが、ギャンブルにハマる切っ掛けは大きく分けて二つある。

 一つ目はビギナーズラックで初回で大儲けしてしまい「こんなに簡単に稼げるなんて」と勘違いしてしまうパターン。

 そして二つ目は「負けても次に勝てば取り戻せるから」とムキになって挑み続けるパターンだ。

 

 卓を囲んでいた先輩二人はあっという間に素寒貧。そこそこ持っていただろうポイント残高はあっという間に0ポイントへ。

 自分からレートを上げた癖に支払いを渋る真似を見せたが、神室が端末をチラ見せしながら「生徒会長に相談しなきゃ」と連絡先に堀北 学の名前が入っている事をアピールすると泣く泣く観念した。

 

 

「次回からは流石にこんなに一気に稼げないだろうけど……まあ、月に10万ポイント稼げればイイかなぁ。負ける時は負けるだろうから、程々に。だけどね」

 

「ほぼ全戦全勝してたのに、あんたでも負けるっていうの?」

 

「そりゃそうだよ。イカサマでもしないと賭博において常に全勝なんて有り得ないし。ましてや麻雀の場合はルールさえ知ってれば5歳児がプロに勝つ事だって有り得るゲームなんだから」

 

 

 いつも負けてばかりのクソ雑魚ナメクジがまさかの大番狂わせ。

 

 ざわ… ざわ… 

  ざわ… ざわ……

 

 そんな擬音が聞こえてきそうな程に麻雀部はざわめいた。

 結局、俺の勝ちっぷりが気持ちよかったのか、それとも仲間の敵討ちの為だろうか。周囲で様子を見ていた先輩方から次々に勝負を挑まれては休む間もなく対局。

 とは言え、流石に先輩方も俺の作戦や実力に気付きつつあったのだろう。ちゃっかりレートは『テンピン』に戻されてしまったので動く金額は大したものでは無いにしろ、普通に俺は全戦全勝した。

 

 と言うか、個人的な意見としてはノリにノッている相手に真正面から挑むのは麻雀に限っては悪手であると思う。

 どんな素人にも神がかってツイている時もあるし、どんなベテランにも神に見放されたと感じる程にツイてない時がある。麻雀では特にそれが顕著だ。

 俺は自分の実力に自信があるが、仮に相手が素人だとしても勝ちまくってる奴には絶対に喧嘩は売りたくない。安手で上がってさっさと流すか損切り覚悟でベタ降りが安牌である。

 

 

「まあ、俺が言ってもあんまり説得力無いけど賭け事は程々にね。流石に麻雀部の連中も次回からは俺達の事を警戒するだろうし、ね」

 

「あんたが行かないなら私は行かないわよ。あの部室、何か臭いし。キモいオタクかチンピラみたいな奴しかいなかったし」

 

「あー。女子目線だとそうなるよね」

 

 

 で、最終的に俺はポイントにして60万以上を得る大勝利を収めたというわけだ。

 ちなみに神室は俺の指示通り終始ベタ降り(自分が勝つのを捨てて、ひたすら逃げ回る)していたので何度か罰金を喰らって結果的にはマイナスだったが、二人のトータルとしては計算するのも馬鹿馬鹿しい程の収益だった。

 

 ちなみに高度育成高等学校麻雀部の基本ルールは……

 

・25000持ち30000返し

・テンピン

・順位ウマ ワンツー

・アリアリ

・赤ドラアリ

・ローカル役ナシ

・流し満貫アリ

・焼き鳥アリ

 

 

 余談だが、もしもローカル役がアリだったら俺は八連荘をアガっていた事を自慢したい。

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 さて、神室と二人で中々に濃厚な一日を振り返っていたその時、端末のアラームが鳴った。

 毎度の事ながら俺と神室がこうしてグダグダと雑談したり酒を飲んだりしている時は、夕飯の仕込みをしている隙間時間が多いのだ。

 で、今のアラームは煮込み時間が完了した合図。儲けたポイントで早速買ってきた圧力鍋(結構有名なブランド物。お値段21000ポイント)の中には大量の赤ワインソースとトロトロに蕩けた牛スジ肉がゴロゴロと入っている。

 

 

「お、煮えた。んじゃ、用意するからテーブルの上を片しておいて」

 

「ん」

 

 

 

 俺一人だったら鍋ごとテーブルにドンと置いてそのままバゲットを突っ込み、飢えた犬のようにグチャグチャと汚い行儀を気にする事も無く食べていただろう。

 だが流石に、そこに居るだけで一種の高貴さを漂わせる神室のような美少女に、そんな行儀の悪い食い方を教える訳にも行かない。

 百均製品とは思えないお洒落な白いシチュー皿に、キャラメルとボルドーを混ぜたような奥行きのある色合いをした赤ワイン煮込みを装う。

 付け合せは人参やブロッコリーと言った冷凍食品の洋野菜の詰め合わせをグラッセっぽく炒めたやつ。

 無料商品だったバゲットとクロワッサン。あとついでに無料だったメロンパンをカリカリに焼いたものをメインにして、今日の夕飯は完成である。

 

 

「うーん。我ながら美味しそうじゃあないの。やっぱ圧力鍋は買って正解だったねー。下処理込みで考えると目茶苦茶な時間がかかる牛すじ煮込みが、こんな手早く出来ちゃうんだから」

 

「ねぇ、食べて良い?」

 

「んぁ? あーどうぞどうぞ。さて、二人揃って頂きますっと」

 

「……頂きます」

 

 

 スプーンで掬った牛スジ肉は今にも崩れてしまいそうなくらいにホロホロとしている。

 自作の赤ワインをベースにコンソメとビーフシチューの固形ルーを加え、各種ハーブで味付けをしたソースにしっかりと煮込まれていた。コラーゲン質独特のプルプルとしたゼリー状の部位まで茶色く染まっている。

 前世に培った長年の自炊経験とハリソン少年が持つ天性の美的センスがマッチングした自作の料理を俺は口に運んだ。

 

 

「おお、こりゃ我ながら美味いね。勝利の晩餐にふさわしい豪勢な料理だ」

 

「……うん」

 

 

 言葉少なげに返す神室の反応に不安を覚えた俺が彼女の方を見やるも、どうやら杞憂であったようだ。

 喋る暇がもったいない。そう言わんばかりに黙々とスプーンで煮込みを掬ってはモキュモキュと口に運び、時おり思い出したかのようにバゲットに噛み付いている。

 まあ、何と言うか。そこまで美味しそうに食べてもらうと作った側も、純粋に嬉しくなる。

 

 柔らかな肉の食感。濃厚なソースの余韻を洗い流すかのように赤ワインを口に含む。

 粗雑な味わい、鼻に抜ける酵母の薫り。前世でよく飲んでいた二千円程度のワインとは比べ物にならない品質のそれだが、意外とイケる。

 これこそがマリアージュというやつだろうか。

 

 

「うーん……悪く無いねぇ」

 

 

 料理と合わせれば拙い密造酒だと言うのに、それでも『それなり』のお味に感じるのだから不思議なモノである。

 

 

「ねぇ。さっきはスルーしてたけどさ、赤ワインまで造ったの? あんた」

 

 

 晩餐会を始めて暫くたった頃。無言でありながら、それでも心地良い静寂の帳をソロソロと捲るような声色で神室が尋ねた。

 

 

「うん? まあ、葡萄ジュースに酵母ぶち込んだだけの、なんちゃって赤ワインだけどね。本当は生の葡萄を絞ったやつの方が美味しく出来るんだろうけど、手間暇と値段を考えると、ねぇ?」

 

 

 『ブランデーグラス』で有名な某俳優のように、掌でクルクルとグラスを弄びながら俺は答えた。

 ちなみにこうしてワイングラスを掌で転がしておいて何だが、本来ならこうして掌で温めるように飲む酒はワインでは無くブランデー。しかも、その際に使われているバルーン型のグラスはワイングラスでは無く、ブランデーグラスである。

  一時の間、蒸留酒であるブランデーを掌で温めながら匂い立つ薫りを楽しみ、舐めるように口に含む飲み方が流行った時期があったのだ。

 同じ葡萄が原料の酒とは言え、醸造酒と蒸留酒であるブランデーとは種類も味わい方も違うので御注意である。

 

 

「さっき不味いって言ってたのに、何で態々飲むのよ?」

 

「いやまあ、せっかく造ったからもったいない。って言うのもあるけど、赤ワイン煮込みには良く合うのよー赤ワインが」

 

 ついでに言うならば牛肉と赤ワインも相性は良かった筈だ。前世でもそこまでワインに詳しくなかった俺のうろ覚えの知識だが、赤ワインに含まれてるポリフェノールの一種であるタンニンが牛肉と相性が良いんだとか。

 密造酒を溜め込んでいる硝子製の大瓶から直接グラスに注ぎ入れながら、俺がそう答えると神室は何を思ったのか、自分の近くに置いてあったタンブラー型のグラスに入った檸檬水をグイと飲み干した。

 

 

「ん」

 

「へ? いや、ん。って……飲みたいの?」

 

 

 その後、ズイっと俺に向かい空のグラスを突き出したのだ。

 ……うーん。赤ワインって全く甘く無いし、渋みがあるしで。未成年の娘には敷居が高い気がするんだけどなぁ。

 俺はそんな事を考えながらも取り敢えず静々と彼女のグラスにワインを注ぎ入れた。

 神室は何故か一つ頷くと、煮込み料理を一口。モキュモキュと咀嚼したかと思うと、勢い良くワインを流し込んだ。

 

 その瞬間の彼女の表情といったら。

 料理の美味さに綻んでいた表情がピタッと固まり。

 梅干しでも食ったかのように口が窄まり。

 眉間にこれでもかと皺が寄り。

 そうしてプルプルと震えたかと思えば瞳に涙が溜まり。

 

 ゴクリと大きな音を立てて飲み込んだかと思えば咆哮の如く大きな声で。

 

 

「不味い!! 嘘つき!!」

 

 

 いやぁ、うん。まあ、そうなるよな。

 飲み慣れてないと、そりゃそうなるよ。ましてや製パン用の酵母を使った、出来損ないのワインだし。

 

 

「ハッハッハッ。お子様にはこの美味しさは分からないのさ」

 

「だから同い年でしょうが……!! うぇ……早く水頂戴!!」

 

「はいはい。少々お待ち下さいお姫様。っと」

 

 

 ケラケラ笑う俺を涙目で睨みながらハムスターのように肉とパンを口いっぱいに詰め込む神室の幼い姿に。

 俺は酒に酔うよりも暖かく、優しいホッコリとした気持ちになりながらワインを口にした。

 

 勝利の宴は甘美な味。

 それでもきっと、独りぼっちだったならここまで楽しくは無いんだろうなぁ。

 

 年甲斐にも無くそんな事を考えながら、俺は口直しと言わんばかりに料理に齧り付く神室の姿に微笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、この三十分後。

 ハリソン少年の不登校案件のトラウマを暴露された神室が、今にも泣きそうな顔のままにクソ不味いワインを自棄酒の如く飲み干す羽目になる事、当時の俺はまだ知らなかった。

 

 ちなみに翌日、神室は学校を休んだ。

 

 

 

 

 

 あと神室のおっぱいは柔らかかった。うん。

 

 




感想、高評価ありがとうございます。
お陰様で日間8位までいけました。

ありがとうございました。感想、高評価はモチベーションの秘訣です!!

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