飲まなきゃやってられんわ、こんな教室。   作:ケツマン

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日常回。という名の飲酒、密造回。ストーリーとは別枠でひたすら酒飲むだけの話とか、入れてきたいですね。


日本におけるミードの知名度の高さはSkyrimのおかげだよね。

 

 

 華金。

 昭和後期に生まれたものの令和の現代ではすっかり死語と化した、言葉の意味は華の金曜日。

 ようは土日と連休控えているから金曜日の夜は思いっきり夜遊びできるという意味だ。

 そして時刻は19時過ぎ。何だかんだで割と毎日居座っている神室とテーブルを挾みながら、俺はこの華金の為に二日ほど前から『仕込み』をしていた努力の結晶を披露していた。

 

 

「時に神室くん。世界で最も飲まれている酒の種類とは何か分かるかね?」

 

「は? 知らないけど。何? チューハイとか?」

 

「またちょっと微妙なところついてきたねぇ。広義の意味を込めてカクテルとして扱うならあながち間違いとは言い切れないんだが……ちなみに神室くんは缶チューハイとか飲んだことあるの?」

 

「中三の時に二回。どっちも苦くて不味かったから捨てたけど」

 

 

 苦虫を噛んだような神室の表情から見るに、よほど口に合わなかったのだろう。

 まあ彼女の場合は酒を飲むことはどうでも良くて、酒を盗む事が目的なのだろうから味なんかどうでも良いのだろうが。

 

 

「まあ缶チューハイってコスパ悪いし悪酔いしやすいからね。最近のやつはそれでもかなり美味しくなったとは思うけど。で、先に答えを言ってしまうとビールだ。エールやらラガーやらの細かい分類も一纏めにして、世界で最も飲まれているアルコール飲料はビールになる」

 

「……あんな不味いものの何が良いやら」

 

 

 日本人はもちろんビール大好きだし、テキーラで有名なメキシコ人もビールを良く飲む。紹興酒で有名な中国人やジンで有名なイギリス人も、やっぱりビールを飲む。

 やっぱり美味しいからね、ビール。

 

 

「ビールの歴史は非常に古く、何と紀元前から古代シュメール人達によって作られていたそうだ。と言うか大体、酒の歴史ってどんな種類でも恐ろしく古いモノなんだけどね。ワインなんかは言うまでもなく宗教が密接に絡んでるし、ラム酒なんかも当時の大国による侵略や戦争が切っ掛けで海を超えて広まった」

 

「……酒飲みの蘊蓄?」

 

「好きこそもののってね。ちょっと話が反れるけど自分の趣味を通じて歴史を勉強するとスラスラ頭に入って便利だぞ。ちょっとした雑学から大学入試に関わる歴史的な出来事にも関わっていたり、勉強法としては悪く無い」

 

 

 これは割とマジな話である。俺の場合は趣味が風俗巡りと飲酒、麻雀。と分かりやすくダメなオッサン丸出しの趣味ではあったが、どんなものにも歴史がある。

 風俗関係は文字通りその地域に根差した『風俗』なんかに大きく関わりがあるし、性病とは切っても切れない関係なので、医療関係のちょっとした知識なんかも頭に入る。

 酒に関しては言わずもがな。あまりにも歴史が古すぎて、それこそ世界史で習うようなあらゆる出来事に事情が絡んでいると言っても過言では無い。

 最も歴史がある、とある酒の発明を指して「自然から文化への移行である」と某学者が語る程だ。

 

 そう言えば、前世の知り合いでは時計好きがこうじてか、頭の中に時計に関する全ての出来事の年表がインストールされているんじゃないかって程、ちょっと変態染みて詳しい奴もいた。

 あの男が愛用していたパテック・フィリップの腕時計は丹念に手入れをされていたのだろう。何時、どんな時でもピカピカと光輝いていたのを思い出す。

 

 他にもバイクが好きな後輩や、カメラが趣味の同僚。変わった奴だと瓶の王冠を集めていた上司もいた。

 

 

「さて、話を戻すが神室くん。世界で最も多く飲まれている酒はビールだ。では視点を変えて、世界で最も古くから存在する酒は何だと思うかね?」

 

「知らないわよ。ワインじゃないの?」

 

「残念ながら神の血ではない。そもそもビールの例もあるが、神の子が産まれる遥か昔から酒というのは各地で造られていた。ちなみにだが最初に酒を造った生き物は人間では無い、というのもヒントになるかな? どんな生き物だと思う?」

 

「だから知らないし、そもそも興味とか無いんだけど。人間以外なら猿とか?」

 

「おっ、正解」

 

「えっ、嘘?」

 

 

 あからさまに興味の薄い話題に適当に返した言葉が当たって驚いたのだろう。気怠げな様子で端末を弄っていた神室が、思わずと言った様子でこちらを見やった。

 

 ちなみに今日の神室は制服姿ではあるものの、真っ赤なブレザーを脱いでいるのでシャツにスカートと、比較的シンプルな装いだ。

 いつもよりも薄着のせいか、モデル顔負けの美しいスタイル。具体的に言うと16歳とは思えない程に膨らんだ胸元が際立っており、オッサン的には非常に眼福である。

 

 

「猿酒という言葉がある。現代では密造酒全般を指す言葉だが、語源としては野生の猿が木の洞に樹の実を溜め込み、それが偶然にも自然の酵母と結びつきアルコール発酵されて酒となった事から猿酒と呼ばれるようになった。と言われている」

 

「いや、偶然って。そんな事ありえるの?」

 

「まあ、有り得ない話じゃないな。ぶっちゃけ酒なんか条件さえ揃えば自然環境の中でも割と簡単に生成されるし。条件が揃ってアルコール発酵してしまった樹の実を、そうと気付かずに啄んだ鳥が酔っ払ったまま飛行して木に激突して死んだ。なんて笑い話も聞いた事ある」

 

「世界一間抜けな死に方ね。あんたも気を付けた方がいいわよ」

 

 

 皮肉げな神室の言葉だが、確かに気を付けた方がいいのだろう。

 前世のオッサンボディーでは蟒蛇と呼ばれるレベルで酒豪ではあったものの、未成年であるハリソン少年の身体にどの程度のアルコール耐性があるのかは定かでは無い。

 先日、彼女に酌をして貰いながらビールを飲んだ時はそこまで酒に弱くなった感覚は無かったし、ハリソン少年の記憶を漁ってみても両親姉兄、共に酒には強かった筈だ。

 

 とは言え飲酒がバレたら退学。よくて停学だろう。この身体でどの程度まで飲めるか。記憶が飛んだりしないか、いつか確かめなければならない。

 

 

「で、だ。話を戻すが猿酒という言葉が産まれる程に、猿が酒を造ったという説は有名だ。主にフィクションとしてだがね」

 

「は? フィクションって作り話でしょ? じゃあ、ただの嘘じゃない」

 

「だが、有り得ない話じゃないと言ったろ? 歴史には常にロマンがつきものなのだよ。それに、だ。世界で一番初めに酒を造った生き物が仮に、仮に猿では無かったとしても、やはり人間で無いのは確かだ。ではここでもう一つ問題。蜂蜜が大好きな動物と言えば?」

 

「蜂蜜? 熊、とか?」

 

「熊か。有り得るね。熊の祖先か近縁種だったのかも知れない。紀元前10000年以上の遥か昔、ある野生動物が蜂蜜を目当てに蜂の巣をぶち壊し、地に落とした。そんな蜂の巣の残骸に雨水が溜まる事で奇跡的にもアルコール発酵の条件が揃い、長い年月をかけて、やがて酒となった。その酒の名前は……」

 

 

 酒呑みの話はついつい長くなってしまう。今日はまだアルコールが入ってないというのに。

 内心でそんな自省をしつつも、散々と話を引き伸ばし、勿体ぶっていた俺は冷蔵庫の中からやや小さめの硝子瓶をテーブルに置いた。

 ワインボトルに良く似た形の透明なそれは、わざわざ雑貨屋で購入した空瓶であった。だがしかし、今はこうしてその中に並々と黄金色の液体が波打っている。

 そう。この瓶の中には俺が自作……否、はっきり言ってしまえば密造した酒が入っているのだ。

 

 

「蜂蜜酒。通称ミード。世界で最も歴史があり、世界で最も簡単に造る事のできる酒さ」

 

「造った。って……は? 酒ってそんな簡単に作れるの?」

 

「当然だろー。蜂蜜に水を入れてパン用の酵母を混ぜるだけ。好きな甘さや度数になるまで適当に放置して完成さ。あっ、ちなみに酒の密造は酒税法に思いっきり違反してるから、これも他言無用で頼むよ神室くん」

 

「いや、多分言っても誰も信じないと思うんだけど……はぁ、呆れた。あんたどれだけ酒が好きなのよ」

 

 

 頭を抱えて机に突っ伏した神室の胸元がまるで付きたての餅のようにふんにゃりと形を変えた。

 もしも胸元のリボンが無かったら、胸の谷間が見えてしまいそうな危険な角度である。

 とは言え中身アラフォーのオッサンが女子高生に猥褻行為とか洒落にならない。

 若々しい青少年の持て余したリビドーを抑えつけながら、とりあえず用意したグラスに静かに自作の蜂蜜酒を注ぎ入れた。

 

 

「うん、まあ。百薬の長だからね、お酒は。やっぱりDクラスの生活はストレス溜まるし、オッサンとしては飲まなきゃやってられんのですよ。さ、飲も飲も」

 

「だからあんた同い年でしょうが……え? っていうか私も飲むの?」

 

「え? いや、無理にとは言わないけど……これ、仕込んでから三日も経ってない若い酒だからアルコールも殆ど入ってないし、多分甘くて神室くんの舌でも美味しく感じると思うよ?」

 

「ふぅん、甘いんだ。なら、一口くらい」

 

 

 本来ならば一週間ぐらい発酵させるのが安牌なので、今回のは完璧に味見だ。

 日の当たらない暗所で仕込んでいる大きな保存瓶の中にはまだ大量の蜂蜜酒が発酵の真っ最中。

 実は蜂蜜酒以外にも赤ワインを始めとした様々な酒を仕込んでいる最中なので、出来上がりが非常に楽しみである。

 腐敗さえしなければきっと来週辺りには美味しく頂けるだろう。

 特にワインは料理にも使える便利な酒なので完成が待ち遠しい。葡萄ジュースで造った、なんちゃってワインなので味はそこまで期待していないが。

 

 

「ぶっちゃけ試飲みたいなものだから、口に合わなかったら無理しないでね。んじゃ、Prosit!」

 

「は? ぷろ……? 何それ? イギリス式の乾杯?」

 

「いや、ドイツ式。もしくは帝国式」

 

「いや、なんでドイツなのよ?」

 

「様式美という奴だよ神室くぅん」

 

 

 ちなみにイギリス式の乾杯はCheers.

 あと全く以って余計な話だが一部フランスの乾杯の挨拶はTchin-tchin. つまりチンチンである。

 

 呆れ顔の神室がコクリと音を立てグラスにつけたのを追いかけるように、初の自作酒を口に含む。

 蜂蜜のもったりとした独特の甘み。小麦を思わせる酵母の香り。それと微かに。ほんの微かに舌先を突くようなアルコールの熱と微炭酸。

 

 うん。アレだ。

 

 

「蜂蜜を水に溶かしただけだな、こりゃ」

 

「本当にこれが酒なの? なんか変わった匂いする以外は、ただ単に普通に溶かした蜂蜜じゃない」

 

「その香りは酵母だな、製パン用のドライイースト使ったし。アルコール度数は……1%も無いかもな、こりゃ」

 

 

 特に狙った訳でも無いが、ギリギリ法律を守れたらしい。日本における酒の密造に関する法律ではアルコール度数1%未満のものなら罰則の対象外なのだ。

 ちなみに梅酒などの混成酒は分類的にまたちょっと別の部類なので、幾ら度数が高くても合法である。

 

 

「酒っぽさが無いから飲みやすいのは良いけど、これじゃ唯のあんまり美味しくないジュースじゃない」

 

「それな。とりあえずソーダで割ってレモンでも入れるか」

 

 

 アルコール発酵自体は始まっているようだが、やはりまだ若すぎた。夏場でも一週間は掛かると文献で読んでいたので、まあそりゃそうなるよな。という結果ではあるが。

 いそいそとグラスを移し替え、氷に炭酸水と絞ったレモン果汁を加えてから静かにステア。

 

 

「これならイケるわね」

 

 

 即席のレモネードっぽいソフトドリンクに作り変えると、どうやら神室は気に入ったらしく、割とゴクゴク飲んでいく。

 つられるように俺も飲んでみたが、蜂蜜の独特の風味と甘み、それからレモンの爽やかな酸味がイイ感じにマッチしている。元より希薄であったアルコール感はさっぱり消え失せてしまったのだが。

 

 

 

「美味いっちゃ、美味いけどなぁ。うーん、やっぱり来週になるまで酒はお預けかー」

 

「そんなに飲みたいの?」

 

「そりゃね、呑兵衛だもの。飲みたい酒は山ほどあるさ。ビールに焼酎、日本酒、ウィスキー、ワインに……偶には梅酒みたいな激甘なリキュールもいいよな。いや、でもやっぱオッサン的にはビールですよ、ビール」

 

「それ、私に遠回しに盗って来い。って頼んでる?」

 

 

 うんうんと頷きながら飲みたい酒の名を次々と上げていると、神室がボソリとそんな事を言った。

 いや、まあ。確かに自作するよりは既製品を盗んだ方が手は掛からないとは言え、未成年である女子高生に犯罪を強要する程に腐った人間では無いつもりである。

 

 

「へ? いやいやいやいや、違うから。盗んで来いってフリじゃないからね? そりゃ、俺だって飲酒やら密造やら色々とやらかしてる立場だから無理に神室くんの窃盗行為を止める資格もつもりも無いけど、犯罪なんてやらないに越した事は無いんだから」

 

「……あっそ」

 

「と言うか、あれから神室くんはまだ万引き続けてるのかい?」

 

「あれ以来やってない。っていうかあんたに振り回されて、あちこち歩き回っている暇なんて殆ど無かったし」

 

「いやーそれは、まあ。うん、ごめん」

 

「別に。予定とか無いし、夕飯も奢って貰ってるから構わないけど」

 

「雑な男飯で悪いけどな」

 

 

 入学してから五日。神室に色々と手伝って貰っている対価として夕飯を奢る約束をしているのだが、毎度外食では高くつく。

 大金を持っている身としては大した出費では無いとは言え、別に俺は贅沢をする為に苦労して金を稼いでいるわけでは無い。

 出来るだけ出費を抑える意味も含めて、基本的には自炊する事にしているのだ。

 とは言え、約束は約束なので夕食のみ神室の分も作り、彼女と一緒に食事を摂る形にしている。

 ちなみに今こうしてグダグダと酒もどきを飲みながら雑談しているのも、炊飯器にセットしたお米が炊けるまでに、ちょっと時間が空いたからである。

 

 

「は? またイヤミ? 少なくとも私より上手いくせして……ムカつく」

 

「いや、そんなつもりは無いんだけども。なんか、ごめん」

 

「ふん」

 

 

 ちなみに今日の献立は、筍の炊き込みご飯に糸コンニャク入りの肉野菜炒め、アボガドとトマトの和物、春キャベツの汁物である。

 

 何でこんなチグハグな献立なのかと言えば、単純に無料商品のチョイスがバラバラだったからだ。

 豚バラ肉、人参、下処理済みの大きな筍、糸コンニャク、アボガド、トマト、大玉のキャベツ。三つのスーパーを巡って手に入れた無料食材がこれだったのだから仕方無い。

 俺一人用の夕飯ならば大鍋で大量のカレーを作って一週間分に小分けして保存。とかでも良いのだが、流石に女の子に食べさせる事を考えると、いくらオッサンでも多少は献立に気を使わざるを得ない。栄誉バランスとか、彩りとか。

 

 

「あーそれより神室くん。『勉強』の方は、どうだい? 来週辺りには形になりそう?」

 

「とりあえずルールは覚えた。細かい計算とかは未だよく分からないけど」

 

「おお! いやいやそれだけで十分だって! そこら辺は俺がフォローすればどうとでもなるからさ」

 

 

 神室の言う『勉強』とはもちろん学校のお勉強とは別のものだ。

 簡単に言うと来週辺りから本格的に金稼ぎに邁進する為、彼女にも最低限の知識を詰め込んで貰っている訳である。

 

 

「それから、忘れないでよね。食事やらポイントやらとは別に貸し一つだから」

 

「アッハイ。ワカッテマス」

 

 

 ちなみにこの貸し云々に関しては、アレだ。前回彼女にビンタを喰らった理由でもある下着の件である。

 冷静に考えたらセクハラ一直線の俺の要望に最終的には了承してくれた対価が『神室の言うことを一つ何でも聞く事』なのだ。

 

 

「あの、俺もあの時は割と考え無しに変な提案しちゃったから。本当に嫌だったら無理しないでね? 今思えばセクハラで訴えられても仕方無い発言だったと思うし」

 

「……まあ、多分。って言うか私以外なら今頃通報されてたかもね」

 

「いや、本当に申し訳御座居ませんでした」

 

「もういいわよ。特別に赦してあげる。あんたなら特別に、ね」

 

 

 コメツキバッタのようにペコペコ頭を下げる俺に何を思ったのか、しばらくこちらを眺めていた神室はおもむろに俺の顔に手を伸ばす。

 

 

「……あんた、何時までこんな変な髪型、続けるの?」

 

 

 何処かぼんやりした様子の神室はそう言いながら、俺の前髪を存外に優しい手つきでフワリと掻き揚げる。

 彼女の菫色の大きな瞳と俺の視線がしっかりと結びついた。テーブルを挟んでいるとは言え、互いの顔の距離は十分に近い。

 

 

「え、いやー。特に何時まで。って決めては無いけど、これはこれで陰キャっぽくて演技には便利だしなぁ」

 

 

 神室は俺の部屋を訪ねる度に時おり、こうして俺の前髪を持ち上げてはハリソン少年の顔面をマジマジと眺める事がある。

 恐らくだが、この無駄に美少女じみた男の娘フェイスが気に入ったのだろう。

 個人的には神室自身が十分に美少女なのだから、こんな顔だけ美少女の変な生き物を眺めるよりも、鏡を見た方が目の保養になるとは思うのだが。

 

 

「じゃあ、この学校であんたの顔をちゃんと見たことあるのは、私だけ?」

 

「え? まあ、多分そうなんじゃない? 来週から行われるっぽい水泳も休むつもりだし……そもそもDクラスに友達なんて殆ど居ないからなぁ」

 

 

 殆ど居ない。と言ったものの、数少ない、と言うか唯一の友人が『櫛田 桔梗』なので微妙なところなのだが。

 承認欲求モンスター兼コミュ力モンスターである彼女からすればクラス全員友達みたいなものなので、ある意味ではノーカンだろう。

 一応は連絡先を交換しているものの、メッセージを送った事は無い。

 

 原作ではDクラスの男子で作ったチャットグループなんかも登場していたが、もちろんハリソン少年は誘われていない。

 そりゃ前髪と伊達眼鏡で顔面を隠して、ひっどい猫背で常に縮こまって、端末弄ってるか読書してるか。なんて典型的なThe根暗! な陰キャに好き好んで近づく人間なんているわけが無いので納得はしている。

 

 まあ、いつ退学するか分からない学校なので無駄に交友関係を広げるつもりも無いから別に良いのだ。

 むしろ他クラスで犯罪行為の常習犯仲間とは言え、神室とこうして仲良くやっている現状が例外みたいなものなのだから。

 

 

「ふぅん。そう、なんだ。なら、やっぱり私だけが知っているのね」

 

「まあ、好き好んでこんな根暗に話しかけないだろ」

 

「中身はアレ。なのに、ね」

 

「アレ言うな」

 

「……」

 

 

 俺の言葉など右から左へ抜けているのか。

 神室の顔はどこか熱に浮かされたようにトロリとした蕩け、アメジストの瞳も潤みを増していた。心なしか頬も、うっすらと桜の花弁のような朱色が差している。

 ……何て言うか。ぶっちゃけ凄くエロい顔してる。

 

 

「……えーと。ところで、神室くんは何時まで人の顔を眺めているの? 面白くないでしょ、こんな女みたいな顔を眺めていても」

 

「……ん」

 

「あの、聞こえてる? 神室くん?」

 

「……」

 

 

 いや、まあ。彼女みたいな美少女に嫌われるよりは好かれた方が嬉しいのは確かなんだが……何だかちょっと、最近の神室って様子がおかしいような気もするんだよね。

 具体的にどこが。って、はっきりとは言い切れないんだけど。そもそもオッサンには若い女の娘が考えてる事なんて分かるわけ無いし。

 

 

「もしもーし、神室くーん?」

 

「……」

 

 

 結局、炊飯器から米が炊けた合図の軽快なメロディが鳴り響くまで、テーブル越しで神室から顔を覗き込まれるだけ。という謎の時間は暫くの間、続くのだった。

 

 

 




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