他者視点は後々まとめてやります。
かのチャールズ・チャップリンはこう言った。
『人生に必要なものは、勇気と想像力。そしてほんの少しのお金である』と。
偉人の名言や格言は引用するだけで自分が賢くなった気がするのだから不思議なものだ。
もちろん俺という何処にでもいる一般アラフォーオッサンは、かの喜劇王と比べるまでもない、矮小で卑小で何ら世界に影響力を持たないちっぽけな存在である。
だがあえて、かの名言にケチをつけさせて貰うならば、勇気も想像力も大事だが、それ以上にお金は大切だと思う。というか、持てるお金は大きい方が良い。
夢見る若者は「金より大切なモノなど幾らでもある」と熱弁するかも知れないが、金というのはその『金よりも大切なモノ』を手に入れる為に必要なモノなのだ。
人生に必要なものは人それぞれとは言え、金が無ければそれらを取りこぼしてしまうかも知れない。
それが娯楽か、食事か、伴侶か、医療か、福祉か。それとも夢か、欲か、恋か、愛か。誰かの生か。
それはきっと、その時にならなければ分からないのだろうが。
まあ、偉そうに散々と語ったが、言いたいことはただ一つ。
お金は大事だよ。って事である。
「くふふ……笑いが止まりませんなぁ」
生徒会長にあっさり擬態を見破られた挙げ句にぶん殴られかけたり。
実はそれが寸止めで「おもしれー男」扱いされて口止め料兼、見込みのある後輩達への先行投資として40万ポイントという中々の大金を頂いた(なお最初は30万ポイントだったところを、俺がゴネにゴネて増額させた)り。
その足で神室と二人して職員室まで行って真嶋先生を「英語の授業について相談したいことがある」という名目で油断させて生徒指導室まで案内させたところで、Sシステムについての情報に気付いている事を全力でアピールし、この功績を高値で買って貰った(途中で茶柱先生まで乱入してすったもんだの面倒臭い交渉劇になった)り、と。
「いつまで笑ってんのよ。いくらその顔でも流石にちょっと引くんだけど」
「おっと、失礼。思わぬ収穫についついテンションが上がっちまってね」
まあ、入学三日目とは言えないような濃厚な一日を過ごしたわけたが、その収穫の大きさに俺は自室でニマニマと怪しい笑みを浮かべて達成感に酔っていた。
「とは言え神室くん、俺の反応も無理はないとは思わないかい? たった三日で約320万という大金。これは快挙と言えるのでは無いかね?」
残高、約320万ポイント。
会長から頂いた40万ポイント。真嶋先生達から交渉の末に勝ち取った600万ポイント。これらを山分けした数値に、入学直後に振り込まれた10万ポイントを足せばこの金額だ。
ちなみに330万ポイントではない理由としては、ボイスレコーダーを始めとしたこの学校での生活必需品に幾らか使ってしまったからである。
「会長とのやり取りは想定外にしても、教職員方と気合を入れて交渉した甲斐があったというものだよ。君もそうは思わないかねー? 神室くぅん」
自室のベッドでゴロゴロと転がりながら端末に表示されている残高を眺めている間、どうにもイヤらしい笑みが止まらない事を自覚する。
そんな俺の事をどう思っているのか、声をかけられた神室は1メートル程の大きさのクッションに埋もれるように凭れ掛かり、こちらに白い目を向けていた。
「いや、アレは交渉じゃなくてどう見ても脅迫でしょ。私は何も考えずにただ、あんたの言う通り喋ってたけど正直途中から真嶋先生達が可哀想になってきたし」
神室は呆れたようにそうは言うものの、ズブズブとクッションに埋もながらも彼女の視線は端末の方にチラチラと吸い寄せられている。きっと画面には俺と同じように莫大なポイント残高が表示されている事だろう。
普通に生きていれば高校1年生の財布に入っている金額にしては有り得ない大金だ。きっと彼女も、なかなか現実を受け入れられずに何度も確認しているに違いない。
ちなみに神室が現在進行系で沈んでいる黒いクッションは、寮へ帰る途中に家具屋で購入した、某人を駄目にするタイプのビーズクッションなのでなかなかの高級品である。
今の所持金からすればその代金は端金であるとは言え、小市民のオッサンからしたら中々の買い物と言えよう。
「人聞きの悪い事を言わないでくれよ神室くーん。俺は退学をチラつかせるという、教師らしからぬ不当な言動を行った教師陣に断固として立ち向かっただけじゃないか」
情報を買って欲しい。若しくは僅か三日でSシステムを見抜いた実力を評価してポイントを下さい。
周囲の目が無くなった生徒指導室の密室で、神室の口を通して一通りSシステムとクラス分けの真意、クラスポイントの存在と特別試験に気付いている事を仄めかした後の台詞だ。
まあ語った内容は神室と生徒会長のやり取りの焼き直しと言った事だろう。もちろん前回の反省も踏まえて細かいところをツッコまれてもしっかりと反論出来るように、俺と神室の間でかなり綿密な情報交換をした上での事だが。
「それにしたって性格悪すぎでしょ。最後の方とか真嶋先生が今にも怒鳴り散らしたりしないか、ちょっと心配だったんだから」
クッションに埋もれながら神室は気怠げにそう言いながらグラスに入った手製のドリンクで喉を鳴らす。
コクリコクリと音を立てながら女性独特のふんわりと丸い喉仏が鼓動のように動く様が印象的だった。
水を弾く青々しい未成熟な少女の肌は抜けるように白く、ただこうして眺めているだけでも目の保養となる。
「ハッ。あそこでムキになって声を荒げて話を無駄に大事にしてみろ。不利になるのは教師側なんだ。そこに気付かない程、馬鹿じゃなかろうよ」
「いや、あんたが無駄に煽らなければ私だってあんなに気を揉まないで済んだわよ」
「おいおいおいおい神室くん。煽るだなんて人聞きの悪いこと言わないでくれよ。俺は融通の利かない先生方にちょっとばかし御丁寧に説得を試みただけじゃないか」
完全に脱力してクッションに埋もれる神室の姿はまるで、くたくたに煮崩した白菜のようにくったりしていた。
彼女はすっかり寛ぎモードに入っているのだろう、学校指定のモノとは思えない程に丈が短い白いスカートから、まろび出る艷やかな腿。
黒いソックスとのコントラストが眩しいスラリと伸びる白い脚は、時おりプラプラと宙に揺れるものだから、俺はまるで玩具に惹かれる猫になったような気分で、ついついその長い脚先に視線が吸い込まれてしまう。
半ば無意識の内にぼんやりと。彼女の肌に吸い付きたくなる欲求を閉じ込めつつも、閑話休題。
話は真嶋先生との交渉に戻る。
さて、教師側も新入生がSシステムに関する疑問を解消する為に職員室へ質問に来る事ぐらいは、もちろん予想していたのだろう。
だが、幾らAクラス担任で学年主任も兼ねているであろうエリート教師の真嶋先生も、まさか三日で。僅か三日という極めて短い期間で、未だ秘密にしている筈のSシステムの細部に質問という形すらすっ飛ばして、確信を持った上で「情報を買え。つーか金よこせ」という要求が来るとは思っていなかったのだろう。
しかもクラス分けの真意や、赤点一発退学の情報。これから行われるであろう特別試験についてまで察しているという厄ネタつきだ。
原作知識からの引用にはなるが、真嶋先生はかつて茶柱、星ノ宮と同級生であり、この高度育成高等学校の卒業生でもある。
つまり、理不尽と陰謀と馬鹿馬鹿しい特別試験の数々に揉みに揉まれた歴戦の一人だ。
にも関わらず、そんな偉大なる先人とは思えない程に先生は露骨に動揺していた。よほど珍しい光景だったのか、神室なんかは青くなったり白くなったりする担任教師の百面相に目を丸くしていた程である。
「あんたのせいで完全に私、真嶋先生に目をつけられたに違い無いわ」
「別に俺達は悪い事は一切してないんだから何も気にする事ないさ。しつこく絡んで来たら、むしろ逆にセクハラを理由に訴えて慰謝料むしり取ってやれ」
「あんた真嶋先生に恨みでもあるわけ?」
「まさか。ただごく個人的な理由で、数ある職業の中から教職という仕事を志した人間が吐き気を催すぐらいに嫌いなだけさ」
いや、まあ中のオッサン的には思春期や反抗期真っ只中の未成年達という面倒臭い相手に奮闘しなければいけないであろう、教職という仕事をしている人間は尊敬に値すると考えてはいる。考えてはいるのだが。
「いや、よっぽど質悪いわよ。それ」
ハリソン少年のトラウマ的に……ね?
「まあ、俺にも色々あるんだよ。具体的に不登校関連で教師に、ね」
「……ふぅん」
さて。何故か微妙な空気になってしまったが話を戻す。真嶋先生に金を要求したところだ。
ある意味予想通りとでも言うべきか、真嶋先生は俺達にすんなりと金を払ってくれたわけじゃない。
「その情報を裏付ける証拠が無い」だとか「全て君たちの妄想に過ぎない」だとか、まあ教師側の立場ならそう言うしか無いであろう理由で、のらりくらりと情報の買取りを拒否していたのだ。
まあ冷汗だくだくだったので、動揺は全く隠せていなかったが。
もちろん俺達も最初からあっさりと金を支払ってくれるとは思っていない。
なので一通り真嶋の反論を聞き流した後、神室の口を通じて『あるモノ』の購入を申し出たのだ。
「ぶっちゃけポイント貰えるかは半ば賭けだったがね。むしろ貰えない確率の方が高かったまである」
それが『放送室の使用権。及び校内放送を5分間使う権利』だ。
もちろん、先程までの神室と真嶋先生のやり取りを録音している事を示唆する為に、チラチラとボイスレコーダーをアピールしながらである。
これには真嶋先生も顔色を変えた。元々悪かった顔色がすっかり土気色になり、ちょっとタイムとばかりに増援として茶柱先生を呼びに行った。
「は? 何でよ。あんたが自信満々に計画立てたから私だって強気で交渉したのに」
「交渉事にはハッタリかます度胸と演技力も必要だからね、結果オーライだよ神室くん。さて、話を戻すけども、まともな奴なら何もしてない内にいきなり10万ポイント貰ったら警戒するだろう、普通。現に神室くんだってそう言っていたじゃないか」
「ああ。まあ、ね」
「つまり放っておいてもそれなりに頭の回る人間なら一週間もしない内にSシステムの本質には気付く筈だ。本来ならいくら早くシステムの裏側に気付けたところで褒められる事こそあるかも知れないが、わざわざ金まで払って口止めなんかしないだろうよ。意味が無いからね」
「私達が喋らなくても、時間が経てばSシステムの内情なんて誰でも気付く可能性があるから?」
「その通りだよ神室くん。現にお利口さんが勢揃いしているAクラスなら何人かは教師に質問とかしてるんじゃないの?」
「ああ、そう言えば入学初日に変な質問していた人はいたわね」
きっとその質問した人。というのは『坂柳』や『葛城』辺りなのだろうな。俺はレモンピール入りの自作ジンジャーエールを飲みながらそんな事を考えていた。
機会があったら神室からAクラスの派閥の様子なんかを聞いてみよう。
「Sシステムの裏側を暴くのはそう難しい話でも無いからな。まあ、流石に赤点一発退学や特別試験についてまで考えが至るかは分からないが……とにかく、教師を質問責めにすれば毎月貰えるポイントが変動するのは直ぐに分かる。クラスごとの民度の違いも生活に慣れて周囲を観察する余裕が出れば気付ける」
「ふぅん。クラスの荒れ具合からクラス分けの真意も推測出来るってわけ?」
「Yes. ついでに言うなら授業を真面目に聞かなくても一切注意しない教師の態度や、馬鹿みたいに設置されてる監視カメラの存在。学校側からは常に試すかのように、自分達の一挙一動を観察している事にも容易に結びつく」
「あぁ……そこからポイントが生活態度によって減額される事に繋がれば、Sシステムは殆ど看破したも同然って事?」
「全く以ってその通り」
俺はベッドに寝転がりながら、神室に賢しらの語り口で説明しながらも回想する。
その後の教師達とのやり取りは結構ぐだぐだで、話が長くなってしまうのである程度割愛する。
結論から言ってしまえば、先生方は生徒指導室での会話の他言を固く禁じた上で、俺達の実力を評価する意味合いも含めて10万ポイントで俺達のSシステムの情報を買い取ると宣言した。
そう。ポイントを支払うという決定をしてしまった。
シめた! その瞬間にニンマリと笑った俺の顔を第三者が見ていたならば、きっとドン引きするレベルの黒い笑みだっただろう。
「ぶっちゃけ真嶋先生の意見は普通に正論だったからな。裏付ける証拠の無い情報なんて妄想と何ら変わらない。にも関わらず金を払うという結論を出したのは、やっぱり全校放送でSシステムを暴露するってダメ押しが効いたっぽいな」
「アレはダメ押しじゃなくて、どう見ても脅しでしょ」
「物は言いようなのだよ神室くん……さて、話を戻すが恐らく学校側は生徒達に美味すぎる話に疑いを持たせる事。そして教師や先輩方への質問という行動を自発的に起こす事を期待している。むしろ、そこを最も重要視しているのだろう。そうじゃなければ高い金払ってまで俺達小市民二人にわざわざ口止めさせない筈だ」
「は? 言ってる意味が分かんないんだけど」
怪訝な顔で神室が聞き直す。強気を通り越して、いっそ傲慢さすら感じる彼女のツンツンっぷりにもすっかり慣れて来た。
むしろ彼女のような美少女に睨みつけられたり罵られたり、踏み付けられたりする事こそ、御褒美だと考える人種もいるかも知れない。まあ、当然ながら俺にはそんな性癖は無い……ハリソン少年は分からないが。
「うーん何て言うかなぁ。『Sシステムに気付くか否か』よりも『気付いた後に、どんな行動を起こしたか』の方を学校側は重視している。っていう話だ。腐っても教育機関だしな、此処は。自発性や積極性、行動力なんかを伸ばしたいと考えてるんじゃないか」
「気付いた後の行動?」
「まあ、正しくは気付く前後の行動か? Sシステムが怪しい。だから先生や先輩に質問しよう、学校を観察しよう。Sシステムの本質に気付いた。だからクラスメイトにポイントの減額について共有して、クラス内で秘匿しよう。来月から一気にAクラス目指すぜ!……みたいな?」
「ああ、成る程ね。ネタバレした情報を新入生全員に放送しちゃうと、肝心要の生徒達の行動が観察出来なくなるって事?」
「感覚的には近いかな。正しくは観察よりも教育という観点からの考えなんだろうが……まあ、これ以上は不毛だな。それこそ妄想の域に入るし。重要な事は『学校側が金を払ってでも口止めしたい』という弱味を晒した事なのさ」
10万ポイントは10万円と同価値。つまり中々の大金である。
前世のアラフォーオッサンボディでも気軽にポンと使える金額では無いだろう。本来ならば。
だが残念な事に、俺には原作知識がある。
つまり、目の前の大金に見える10万ポイントが実は端金でしかないというのを知っているのだ。
実際、この学校では10万ポイント支払ってもテストの点数1点分しか買えやしない。
おまけに、生徒会長とのドタバタでこちとら既に40万ポイントの大金を頂いている立場だ。
もしも学校側に、俺達が生徒会長から受け取った金額の大きさの情報があったならば、こんな安値で買い叩くような真似はしなかっただろう。
だがこれは好機でもあった。そう。
値段交渉のお時間だ。
「10万ポイントだろうが10ポイントだろうが、金を払って口止めさせなければいけない。契約させないと学校側が損をする。そんな弱点を晒したんだ。あそこで金を払う姿勢を見せた学校側は墓穴を掘ったも同然だったね」
俺はゴネた。当初の交渉役であった神室を強引に押し退けてまでして、ゴネにゴネた。10万ポイントじゃ足りない。もっと寄越せ。と。
ゴネまくって長引く交渉に教師側も焦れていき、苛立ちを隠しきれず、やがてはムキになったのだろう。
主に茶柱が矢面に立ち、『この金額で妥協する事。かつ情報を職員側に売り付けたのだからSシステムに関する情報をクラス問わず誰にも言わない旨』を書き記した契約書にサインしろ。さもなければ退学処置も辞さない。と半ば脅しめいた事まで言って来たのだ。
故に俺の判断も行動も当然の事だろう。
宜しい。ならば戦争だ。
「……って言うか、あんた。何で入学三日目で退学届なんか用意してんのよ。あれ本物なわけ?」
俺はあらかじめ用意していた退学届を教師陣にぶん投げて、やるならやってみろ。と盛大に啖呵を切ったのだ。
これには先生方もニッコリ。では無く思わずテーブルから身を乗り出すように驚愕した。
「本物に決まっているだろー。あれが受理されていたら俺は今頃呼び出された両親と一緒に退学措置に関する書類にサインをしていたかもね」
「……あんた本気? 受理されなかったから良いものの、下手したら本気で退学になってたのかも知れないのよ?」
「別に構わないさ。高校中退した程度で死ぬわけじゃないし」
何時の間にかクッションから起き上がっていた神室が未確認生物を見るような、何とも言えない顔で俺のことを凝視しているが、これについては紛れもない本音である。
この『よう実』世界では強制的に外界と隔離されているので、退学措置=死と同義。と言わんばかりの擬似的なデスゲームのような扱いをされている節がある。
だが社会人経験のある俺からしたら高校中退=人生終了。という妙ちくりんな方程式はどう考えても同義にはならない。
と言うか、いい歳してそんな事を声高に語っている奴がいたら、多分そいつは頭が可哀想な人の部類である。
「例えば暴力沙汰を起こして退学になっただとか、それこそ飲酒がバレて退学になったら両親も怒るし悲しむだろうがねぇ。学校の内緒にしていたシステムを自分の頭脳が優秀過ぎて暴いてしまい、学校側から口止めされたがそれを断ったら退学処分を下されました。……なーんて理由で退学になったら、きっと両親も理解してくれるだろうよ。って言うか場合によってはブチ切れて、学校側に訴訟を起こすかも知れんね」
「そりゃ、言ってる事は分かるけど。でも、だからって、金の為に自分の首まで賭ける? 普通」
「また首だなんて大袈裟な事を言うなー神室くんは。実際に命を賭けるなんて事、臆病な俺は絶対やらないよ。あくまで退学っていう、そこまで恐れる代物じゃないからこそ賭ける事が出来ただけさ」
「いや、普通はメチャクチャ恐れるものだと思うんだけど」
退学を仄めかすと言うのなら10万じゃ割に合わない。そもそも、そんな端金で買い叩こうとするそちらの見下した態度が気に食わない。
だったら今ここで退学届けを提出し、上層部に受理される僅かな間で放送室の使用権を買い取ってから、生徒指導室内でのやり取りを録音したモノを全て流してやる。
下手したらSシステムが台無しになるような俺の言葉と、自主退学をも辞さない態度に覚悟と本気を垣間見たからなのだろう。最終的に学校側は折れた。
「まあ、終わりよければ何とやらだよ。俺が退学を賭けたからこそ学校側は折れてくれた。結果、こうして1人300万ポイントなんて夢のような大金も手に入れた。どっとはらい」
「……あんた。やっぱり頭おかしいわよ」
「失礼な」
ついには恐ろしい何かを見るような目を向けて来た神室に鼻を鳴らした俺は、端末を放り投げて、大きくノビをした。
先ず俺は最初に大きく吹っ掛けて一人500万ポイントを要求した。値切られるのを想定した交渉術と言うわけだ。名前は……何だったっけ?
「なあ神室くーん。最初に大きくふっかけてから小出しで本命の要求を飲ませる交渉術の名前って何て言うんだっけ? 『ノックしてもしもおーし』みたいなニュアンスのアレ」
「は? 知るわけ無いでしょ、そんなもの」
「うーん何だったっけなぁ。確かドア……ドア何とかだった気が」
まあ、要はそのドア・ナンタラカンタラで教師二人に思いっきり吹っ掛けた。最低ラインで150万ポイントぐらいは貰えれば御の字で仕掛けた交渉の結果、引き出した金額は倍額の300万ポイントだ。
その場の雰囲気から言って欲を出せばあと50万ぐらいは追加でぶん取れる気もしたが、まあ妥協点としては十分だろう。
「はぁ……。それにしても300万って。10万ポイントの30倍。物凄い値段をぼったくったわね。学校側が大損じゃない」
再び端末をチラチラ眺め出した神室が溜息と共に絞り出すような声色でそんな事を言った。だが学校側が大損とはこれ如何に?
どうやら彼女は何か勘違いしているらしいが……まあ、ここら辺の事情は来月のクラスポイントが発表された時にでも説明してあげよう。
こうして部屋でぐだぐだと美少女と語り合っているのはオッサン的にはもちろん御褒美なのだが、いつまでもこうして微睡んでいるわけには行かない。
「さて、神室くん。本命だよ本命。明日から本格的に金稼ぎに奮闘しようじゃないか」
「は? ついさっき馬鹿みたいに稼いだじゃない。まだ何かやるつもり?」
どうやら神室は何か勘違いしてたようで、クッションから飛び上がるように立ち上がり俺との距離を詰めた。
フィクション世界だからこそ許される、二次元の造形美を持つ彼女の顔がドアップになって、俺は思わず後退る。
「落ち着きたまえよ。まだも、何も、さっきも説明したじゃないか? 今回の教師との交渉でポイントを貰えるかは半々だったって。成功したら儲けがデカいからこそ、こうしてわざわざ行動したとは言え、もう少し高い確率でお小遣いを稼げる作戦は別にあるんだよ」
ぶっちゃけ今回の作戦はガバガバの博打だらけである。
放送の許可を求めた際に、真嶋先生が開き直って「放送したいなら勝手にやれば良い」と許可を出されたら学校側から金を引き出せずに負け。
俺の退学届けが茶柱先生に受理されたら、やっぱり儲けにならないので実質負け。まあ、この場合、頭のおかしい高度育成高等学校から離れられる理由が出来るので個人的には得ではあるのだが、付き合わされた神室が非常に不憫である。
「……今度は何する気よ? また誰かと交渉しろとかだったら、いくらご飯奢って貰ってもやらないからね?」
「安心したまえよ神室くぅん。先程までの先生方とのやり取りと比べたら非常に簡単な事だからねー」
訝しげにこちらを見やる神室に語った言葉は嘘では無い。
ちょっとばかし専門的な知識を勉強して貰う必要はあるが、彼女は殆ど座っているだけ。俺の予想さえ正しければそれだけで、一月の間に数十万ポイントは稼げる事だろう。
「なんか胡散臭いんだけど。まあ別に、暇だから少しくらいならイイけど」
「いやーありがとう! 多分、俺だけでもイケるとは思うけど君みたいな美少女が側に居てくれるなら勝率は爆上がり! 勝ったも同然だ!」
「……だからイヤミかっての」
俺が喜びのあまり思わず神室の肩を叩いたせいだろうか、プイッと横を向いてしまった彼女の言葉は良く聞こえなかった。
とは言え、彼女の協力が得られたのは大きい。
髪の毛のカーテンで表情は見えないだろうが、きっと今の俺は満面の笑みを浮かべている筈だ。
だからこそ俺は高揚する気分のままに。これから何をするつもりだとか、その時の作戦の説明だとか。
細かいところを全てすっ飛ばして彼女にこんな提案をしでかした。
「と言うわけで神室くん。明日の放課後にでもブラジャーを買いに行こうじゃないか! シャツから透けて見えるようなセクシーでド派手なやつをね!!」
調子に乗った時にロクな目に遭わないのは誰だってそうだと思う。
この後俺は顔を真っ赤にした神室にビンタを喰らい、慌てて土下座。
その後に詫びとして最高級の特上鰻重(9800ポイント)を奢らされる事になるのだが、その話は割愛する。
誤字報告、感想、高評価ありがとうございます。とっても嬉しい! もっと欲しい!!
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