飲まなきゃやってられんわ、こんな教室。   作:ケツマン

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初投稿じゃないけど初投稿するという矛盾に苛まれながら初投稿です。

割と今更ですが今作と旧作ではだいぶ設定が変わっています。

【旧作】オッサンが四苦八苦しながらどうにか平和な学園生活を目指す話。退学は出来ない。なおハリソン少年は過去に初恋の女教師に監禁逆レ食らってる。


【本作】オッサンが原作ストーリーを眺めながらちょくちょくポイント稼ぎつつ酒のんで飯を食う話。退学しても気にしない。なおハリソン少年は過去に誘拐されるはガチムチ男に犯されかけるは初恋の女教師に監禁逆レ食らってる。


ごめんよ。ハリソン少年。


欧米圏でFワードは割と洒落にならない。

 

 

 大学時代の話だ。入学直後、高校時代からの付き合いである友人の誘いでサークル紹介の催し物に足を運んだ。

 そこで俺が心を惹かれたのが、演劇サークルだ。そこそこ有名な役者なんかも排出した実績を誇っていたらしい演劇サークルは大学内においてもちょっとした名物らしく、毎年この催し事には大トリを飾ってて、二十分程の演劇を公演した。

 

 タイトルは『オケラ座の変人』。

 もう出落ち感が凄いタイトルで、内容もかなりコメディ寄りだった。

 ストーリーは元ネタであろう『オペラ座の怪人』に基づいているが、所々をギャグタッチに変更されていた。

 怪人役がひょっとこのお面を被っていたり、ヒロイン役の女優が力士もかくやという巨体だったせいでヒロインを頑張って怪人が攫おうにも抱き抱えられずに、結局両手で強引に引きずり回したり。おまけに劇中の音楽が全てドリフのBGMから引用していたりと、ツッコミどころだらけであった。

 

 だが、俺はその舞台を見て大笑いしたし、この下らなくも演者一人一人がキラキラと輝くようなこの演劇サークルにすっかり魅せられてしまった。

 その後、俺が迷うこと無く入会したのは言うまでも無い事だろう。

 そこで俺は意外な自分の才能を知り、役者を目指すか割と真剣に悩んだりしたのだが、それはまた別の話。

 

 つまり何が言いたいかと言うと。俺はただの無能なオッサンでは無く、演技派なオッサンなのだと言うことである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は? 誰よあんた達」

 

 

 突然の生徒会コンビの出現。にも関わらず、神室真澄は強かった。

 明らかに上級生であろう二人を目の前にしても全く動じないどころか、片眉上げて腕を組み、まさかのタメ口である。

 オッサン視点で視るならばウチのクラスのギャル代表である『軽井沢』よりも近寄り難い強さと怖さを感じる程。

 

 俺はそんな神室の胆力に感心しながら、神室の背後に隠れ、いかにも見知らぬ上級生にビビってます。という態度を装って体を縮こまらせる。

 ほんの一瞬、神室が何か言いたげな視線を送って来たがスルーだ。今の俺は気の強い女子に奴隷扱いされている、可哀想な気弱な根暗男子な苛められっ子という設定なのだから。

 

 

「こら! 先輩には敬語を使わないとダメですよ! 全くもう。私は三年Aクラスの『橘 茜』です。生徒会に所属し、書記を務めています。それからこちらが……」

 

「同じく3年Aクラス『堀北 学』だ。生徒会長を務めている。先日、部活動紹介の場でも名乗ったつもりだが、その様子なら参加はしなかったようだな」

 

 

『堀北 学』。

 主人公である『綾小路 清隆』の実力を初期の頃から察知し、何かと彼を試すような行動が見られる文武両道の生徒会長だ。

 学園ラノベ世界にありがちな設定ではあるが、やはりこの『よう実』世界でも生徒会は常識では考えられない程の権力を持っている。

 時として生徒の退学すらかかっている重要な特別試験のルールに手を加えたり。クラス間の揉め事では裁判官の役目をしたり。

 そして生徒会長の特権として高度育成高等学校に在籍している全ての生徒のあらゆる情報を閲覧する事が出来るのだ。

 彼が綾小路に目をつけたのも、この特権によって綾小路が入試で全ての点数を50点に揃えたという常人では真似できない一種の天才性を見抜いた事がきっかけだ。

 

 

「ふーん。生徒会、ね」

 

 

 そう言えば原作では神室は美術部に入部していた気がするのだが、この世界線では違うのだろうか。

 

 

「もう、こちらが名乗ったのですから貴女達も名乗りなさい。あまり失礼な態度だと怒っちゃいますからね!」

 

 

 そんな事を考えていると、彼女の不遜な態度にムッとした様子の橘先輩がそう言った。

言ってる事は最もなのだが、マスコットか愛玩動物の類にしか見えない彼女が怒ったところで迫力は皆無であろうが。

 

 

「一年Aクラス。神室 真澄。んでこっちのヘタレのチビが」

 

「いっ、一年Dクラス……佐城。佐城 ハリソンです……」

 

 

 刺々しい言葉と共に自身の背後に隠れる俺にギロリと視線を向ける神室。そんな彼女の迫力に震え上がって掠れた小声で恐る恐る自己紹介をする俺。

 これだけで目の前の二人は俺達の関係性を誤解してくれたことだろう。

 

 

「ほぅ。変わった組み合わせだな」

 

 

 興味深そうに呟きながら眼鏡のブリッジを上げた生徒会長の言葉は意味深ではあるが、原作知識を知っていれば、その意味は明白だ。

 ようするに優等生クラスと劣等生クラスの組み合わせが珍しいという意味だろう。

 

 

「それで? 神室と佐城だな。二人はここで何をしていた。どうやら我々三年生の教室を覗き回っていたようだが。まさか物取り目的と言うわけでもあるまい」

 

「何でそんな事を初対面のあんた達に丁寧に説明してやらなきゃいけないわけ?」

 

「先程も説明しただろう。防犯上の都合だ、とな」

 

「って言うか貴女! イイ加減に敬語を使いなさい敬語を! それに、やましい理由が無いなら早く会長の質問に答えなさい!!」

 

 

 プリプリ怒っている小動物はともかく、重厚な存在感を放っている堀北先輩に対しても神室はむしろ噛みつくような強気な姿勢で前に出た。物凄い度胸である。

 とは言え、この異様なまでに強気に前に出る彼女の態度には、実は理由があるのだが。

 

 

 先日、Sシステムのネタバラシをした時に、その裏付けをする為に上級生の教室を見て回る事は決め、神室への同行も取り付けた俺なのだが、ここで更に一つ面倒な注文を神室につけた。

 内容としては、もしも運悪く上級生に難癖をつけられたり、絡まれたりした場合。神室が前に出て理由を説明をして欲しいと頼んだのだ。

 

 理由としては底辺扱いの不良品たるDクラスの人間がアレコレ説明するよりも優等生揃いのAクラスの人間が主体で動いて見せた方が説得力がある。と言うものだ。

 まあ、ぶっちゃけ俺が下手に目立ちたくないからと言う理由が八割方本音ではあったのだが、言ってる事は嘘では無いわけで。

 まさかの生徒会コンビにこのタイミングで出会うとは思わなかったが……まあ、南雲みたいな面倒な奴に出会わなかっただけ御の字としておこう。

 

 

「別に。席の数を調べてただけよ。さっきまでは二年生の方も確認した。唯それだけなんだけど」

 

 

 もちろんそんな事を頼まれた神室は物凄く嫌そうな顔をしたし、実際に何度も「嫌」、「怠い」、「なんで私が」、「メンドイ」。と拒否をして来た。

 結局俺が土下座せんとばかりに誠心誠意、頼み込んだ上に何回か夕食を奢る事を餌にした結果。渋々ながらもどうにか了承。

 こうして、さも神室自らの意思で主体的にSシステムについて調べてますよ。後ろのチビはオマケですよ。というポーズを取ってくれているわけだ。

 ちなみにオッサンは何をする役目かと言うと、基本的に神室の背後に隠れて彼女のフォローをするだけで済むので、非常に楽チンである。

 

 

「……え? まさか、もう?」

 

「発言には気をつけろ、橘」

 

 

 現にすっかり騙されてくれたのだろう。橘先輩は戦慄したかのように両手で口を抑えながら迂闊な一言を漏らし、それを堀北先輩が窘めている。そんな彼の表情にもどこか警戒心が宿っていた。

 恐らくは神室と俺の演技の甲斐あって、彼女がこの時点でSシステムやクラス分けの真意に気付きかけているキレモノに映っていることだろう。

 

 

「……席の数を数えていた。と言ったな。答えろ。それに何の意味がある?」

 

「……あのさあ、分かりきった事を説明しなきゃいけないわけ? そっちのタチバナセンパイの反応見れば丸分かり、って言うか逆に確信持てたくらいなんだけど。私はAで、後ろのこいつがD。こんなヘタレでも動かせる手足の数は多い方がイイだろうから念の為、不良品のこいつに現実見せつけてたってワケ。分かる?」

 

「か、神室さん……さ、流石に先輩にその言い方は……」

 

「うっさいヘタレ。あんたは黙ってろ」

 

 

 気の強い女の子にビビりつつも勇気を持って窘めるビビりの少年。という設定を演じる俺に触発されたのか、ドスの効いた声で俺を黙らせる神室の演技力は大したものだ。

 見間違いでなければ額に青筋すら浮かんで見える。彼女はもしかしたら将来、名のある女優に化けるかも知れない。

 ……あの、と言うか。段々と心配になって来たんだけど。その怒りは演技だよね?口パクで「あとでなぐる」って言ってるのは流石に冗談だよね?

 

 

「ふむ。神室、お前はクラス分けについて随分と気にしているようだが、一体どんな意味があると考えているんだ?」

 

 

 内心で俺が神室の怒りのオーラに冷汗かいている時、堀北先輩が居住まいを正して問い掛けた。

 彼の表情は何時の間にか警戒心よりも好奇心が透けて見える。きっと今頃、神室のことを「おもしれー女」とでも思っているのだろう。

 妹をコンクリに投げ飛ばす鬼畜眼鏡にピッタリのセリフである。

 

 

「は? 上がA。で、Dが底辺ってだけでしょ。机の数が減ってるのは退学させられたから。馬鹿なクラス程に席の数が少ないのはテストで赤点でも取ったら一発退学とかそんなオチじゃないの?」

 

「なっ⁉ もうそこまで⁉」

 

「落ち着け、橘。……ふう。どうやら我々が何を言っても今更の話だな。お前はもう既に確信を得ているらしい」

 

「ふーん。やっぱり赤点取ったら退学なんだ?」

 

 

 余裕そうに頷いている神室だが、その実、彼女の額に一筋の冷汗が流れている。先輩二人の反応に定期テストで一回でも赤点を取ってしまったら一発退学が本当の事だと悟り、流石に危機感を覚えたのだろう。

 まあAクラスの彼女なら流石に定期テストで赤点の心配は無いだろうし、テストの点をポイントで買えたり退学者への救済措置もあったりするのだが。そう言えば2000万プライベートポイントと300クラスポイントで退学を取り消し出来る話はまだ彼女にしていなかったか。

 

 

「ねえ、ついでに一つ聞きたいんだけど。テストで赤点取ったら退学っていうのは解ったんだけど、それ以外にも退学がかかった特別な試験とかある?」

 

 

 おっとコレはアドリブだ。予定に無いところまで神室は切り込んだ。

 恐らくは先輩達と遭遇する前に俺が匂わせた特別試験について知っておきたかったのだろう。神室の質問に橘先輩は零れんばかりに目を開いて愕然とし、堀北先輩ですら怪訝な様子で片眉を上げた。

 

 

「特別な試験……。具体的にはどういうものを想像している?」

 

「それは……例えば、純粋な学力以外での知性とか。それから運動能力。あとはコミュ力とか?」

 

「ほう。面白い着眼点だ。だが、何故そう思った?」

 

「それは……えっとー……」

 

 

 勇み足で深く切り込み過ぎたのか、堀北先輩の追求に神室がしどろもどろになって来た。やはりアドリブを彼女に演じてもらうのは難しかったようだ。

 

 

「ね、ねえ。神室さん……時間。大丈夫? 今日はAクラスの人と、約束があるんじゃ……」

 

 

 流石にこれ以上は彼女には荷が重いので、ここでオッサンのエントリーである。怯えるように声を震わせながらも、恐る恐る彼女の袖を引きながらのこのセリフ。

 これは事前に決めてあった撤退の合図だ。都合の良いことに時刻はちょうど17時の5分前。

 会話の流れをぶった切る事に多少の不信感は持たれるだろうが、この場から去るには自然なタイミングの筈だ。

 

 

「え? あ、ああ。そうね。……悪いんだけど生徒会長さんだっけ? 話はまた会った時でいいかしら?」

 

「……そうだな。用事があるのなら無理に引き留めるのも悪いか。またいつか話を聞かせて貰いたいものだ」

 

 

 一瞬、キョトンとした神室は俺の言葉にすぐ乗って来た。堀北先輩もそこまで強く追求する気は無いらしい。

 ならばもうやる事は無い。この場からとっととトンズラだ。

 

 

「じゃ、失礼するわ」

 

「せ、先輩方。し……失礼致します」

 

 

 取り敢えずはミッションコンプリート。これで神室も俺の話を完璧に信じてくれる事だろう。

 俺は最後まで演技を止める事無く、おっかなびっくりと言った様子のまま先輩方に小さく会釈をすると、おどおどと視線を床の方に固定しつつ、早歩きでこの場を去る神室の背を追った。

 

 

 

 さて。今更だが俺には原作知識がある。故に言うまでも無く初対面である堀北先輩の事もそれなりに知っていた。

 

 こうして実物と相対した今、『堀北 学』と言う男は想像以上の威圧感と存在感。

 そして思わず従ってしまいそうな溢れんばかりのカリスマ性を感じさせる、まさに理想のリーダーに見えた。

 

 だが繰り返す。俺は原作知識を知っているのだ。

 

 強キャラぶってはいるけどその中身はシスコンを拗らせて不器用を煮詰めた結構面倒臭い男だと知っているのだ。

 妹をあえて遠ざける為とは言え実の肉親をコンクリの上に投げ捨てようとする鬼畜眼鏡であり。

 更にはその現場を止めに入った善意の第三者である綾小路を武道の有段者であるにも関わらず、問答無用でぶん殴ろうとする、知的な見た目に反する問題児である事を知っているのだ。

 

 だからこそ。

 それこそ、偶然。奇跡的に。

 

 

 『反応できた』。

 

 

 彼を横切るその瞬間。振り向きざまの不意打ち。俺の顔面に迫った裏拳が風切り音を立てる。

 

 

「っぶね⁉」

 

 

 俺は殆ど直感的に、咄嗟に床に身を投げ出してそのまま身を翻す。かろうじて咄嗟の暴力から避ける事に成功した。

 

 

「堀北君⁉」

 

「ちょっとあんた⁉」

 

 

 橘先輩の驚愕の声や神室の悲鳴じみた叫声が放課後の廊下に轟いた。

 何考えてんだあの鬼畜眼鏡!! 内心で強く苛立ちながらも、遠からず襲って来るであろう追撃に対抗する為、滑るように床を転がりながらのハンドスプリング。

 バレエに関しては鬼と化す少年の母親から受けた地獄のようなシゴキに十年以上も鍛え上げられて来たハリソン少年の肉体は、その華奢な見た目からは想像できないほどに柔靭でフレキシブルである。

 

 

「何しでかしてくれたんだこのFucking son of a bitchの陰険糞眼鏡が!!」

 

 

 若々しくその上、しっかりと鍛え上げられたティーンエイジャーの身体能力をフルに発揮し、宙を舞うように跳ね起きる。気づけば俺はほぼ無意識の内に神室を庇う位置取りで構えつつ、目の前の鬼畜眼鏡にドスの効いた声で悪態を吐き捨てていた。

 

 

「……え?」

 

 

 だがしかし。そこで俺が見た光景は右手の拳をバックブローの体勢のままに丁度、自身の蟀谷の付近でピタリと『静止させた』生徒会長の姿があった。

 

 アレ……?

 

 

「ふっ。化けの皮が剥がれているぞ佐城。やはり今回の行動の主体は神室では無く、お前だったか」

 

 

 ……。

 

 

 ……。

 

 

 ……あっ、ヤベ。咄嗟のことだから演技してる余裕が無かった。

 

 

「……ねぇ。あんたのせいで私の努力が水の泡なんだけど」

 

 

 

 神室の疲れながらも怒りが籠もっているという器用な声色が、俺の耳にポソリと響いた。

 

 

 いや、マジでゴメンって。

 

 

 

 




感想、高評価ありがとうございます。
さっさとオッサンと神室のぐだぐだ飲み会シーンに行きたいものです。
日間ランキング5位まで行きました。本当にありがとうございます!

創作者さんへ。書く時は……

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