飲まなきゃやってられんわ、こんな教室。   作:ケツマン

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初投稿じゃないけど初投稿です。


佐城という子。

 

 廊下をおっかなびっくり歩きながらチラリと天井を見上げると、そこには予想通り大量の監視カメラが俺を見下ろしている。

 照明器具の数よりも監視カメラの方が圧倒的に数が多いこの光景は、何と言うかリアルで見ると非常に気色が悪かった。

 

 ガラリと音を立てながら教室の戸を開けると、予想通りと言うか、当然と言うか。

 『綾小路 清隆』を始め『堀北 鈴音』や『高円寺 六助』、『平田 洋介』や『櫛田 桔梗』に『軽井沢 惠』。

 『佐倉 愛里』に『長谷部 波瑠加』といった原作キャラが既に勢揃いだ。

 あの背の低い童顔の青年は『池 寛治』で、一緒になって雑談しているのは『山内 春樹』だろうか。

 

 あまりの退学意欲のせいもあって、門前でかなり時間を使ってしまったせいだろう。

 殆どの生徒は既に教室に揃っていた。

 

 教卓上の座席表を確認すると窓際の最前列。窓際であることを喜べばいいのか、最前列であることを嘆けば良いのか。席についてボンヤリとそんな事を考えていると間もなくチャイムが鳴り、スーツを着た妙齢の美女が入室した。

 

 

「えー新入生諸君。私はDクラスを担当することになった『茶柱 佐枝』だ。普段は日本史を担当している。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない」

 

 

 茶柱 佐枝。

 歳は三十に届くか届かないかの脂の乗った女盛り。

 ダークブラウンの長髪を後頭部でポニーテールに縛ったスーツの似合ういい女だ。

 女性にしてはハスキーな声色とクールな見た目。それに反するように大胆に第三ボタンまで開けられたカッターシャツから覗く巨乳の谷間がいかにも挑発的だ。

 怜悧かつ妖艶。男子生徒憧れの美しい女教師はまさに理想の先生。に見えるだろう、一見は。

 

 原作知識を知っている俺からすると彼女がイカれているのはその名字よりもAクラスへの異常なまでの執着心なのだが……まあ、俺には関係無いことだ。

 

 

 欠伸を噛み殺しながら茶柱の説明を聞き流す。学内の施設について。寮生活における注意事項。外部との接触不可に対する注意に学生証カードの説明と続き、ようやくこの学校の目玉。

 『ようこそ実力至上主義の教室へ』という作品の根幹とも言えるSシステムについての説明が始まった。

 

 

「施設では機械に学生証カードを通すか、提示する事で使用可能だ。それからポイントは毎月一日に自動的に振り込まれることになっている。お前たち全員、平等に既に10万ポイントが支給されているはずだ。なお、1ポイントにつき1円の価値がある。それ以上の説明は不要だろう」

 

 

 実質10万円の大金を入学初日にタダで渡された衝撃にクラスメート達が沸き立つが、まあ、何と言うか。哀れみというか同情というか、そんなものを感じてしまう。

 原作通りに行けば来月は0ポイントの極貧生活が待っているのだ。正に天国から地獄だろう。

 

 茶柱のイヤらしいところ、というか学校側のイヤらしいところは『あえて』毎月10万ポイント支給されると勘違いさせる説明をしているところだ。破格の待遇に生徒側から疑問を持たせ、学校を疑い、質問を促す事が目的らしいが……。

 まあ、別に俺には関係ない。どうでもいい事だ。

 

 

「この学校は実力で生徒を測る。入学を果たしたお前たちには、それだけの価値と可能性がある。そのことに対する評価みたいなものだ。遠慮なく使え……」

 

 

 あえて浪費を促すような茶柱の説明を聞き流しながら、俺は自分の現状について考えていた。

 いや、正しくは俺では無く、ボク。すなわちオッサンの憑依先である『佐城 ハリソン』という存在について考えていた。

 

 

 佐城 ハリソン。

 

 家族からは某魔法使い物語の主人公と同じイントネーションでハリーと呼ばれていた、イギリス人の母と日本人の父を持つハーフの青年。

 兄と姉が一人ずつの五人家族。家族仲は非常に良好。何だったら母も姉も過保護気味。

 

 身体つきは華奢で、身長も低い。

 幼少の頃から母の意向でバレエを習っていた為、存外に筋肉はついているものの、それでも薄い。細い、というよりも薄い身体だ。

 地毛は母譲りの白みがかった金髪で、肌の色も白人同様に抜けるように白い。というかぶっちゃけ母親に似すぎて日本人である父からの遺伝性が皆無である。自分から日本人の血が混じっていると申告しなければ、単なる外国人と間違えられることだろう。

 

 成績は優秀。最後に受けた全国模試では偏差値は60代後半をキープしており、得意科目は言わずもがな英語。

 運動神経も見た目とは考えられない程に優秀で、走るのも泳ぐのも速い。とは言え体格が体格なので荒事とは無縁の生活を送っていた。

 

 で、だ。そこまでならばちょっと小柄なハーフの優等生。で終わるのだが、ハリソン少年には他には無い最大の特徴がある。

 それが『顔』だ。ハリソン少年は非常に美しい顔立ちをしている。

 

 曼珠沙華の花弁を重ねたような重厚で長い睫毛。

 非現実的なまでに妖しく煌めく、紫水晶よりも美しいヴァイオレットの瞳。

 恋を予感させる蕩けるような薔薇色の頰。

 思わず啄みたくなるような野苺の如き艶やかな唇。

 耳鼻の形も象牙の彫り物のように艷やかで整っていて。

 おまけに肌の色は真珠を溶かした白無垢である。

 ……と、まあ。ナルシストを拗らせたような思考になってしまうが、とにかくハリソン少年は美形なのだ。

 

 で。本来なら呑気に「イケメンに転生なんてツイてるぜヒャッホー!」と喜びたいところなのだが、そうでは無い。

 ハリソン少年はまかり間違ってもイケメンでは無いのだから。

 美形なのにイケメンでは無いとはどういうことか?

 結論から言ってしまえば、ハリソン少年の美貌は男性的な物では無いからだ。

 彼の顔立ちは中性的なもの。ですらなく、それを通り越して、女性的なもの。

 

 つまりハリソン少年は俗に言う『男の娘』なのだ。

 

 

(どうせ美少年? 美青年? に憑依するんならもっと正統派なイケメンが良かったんだけど。こう、背高くて、筋肉あって、堀りが深い感じの正統派に。それがまさかの男の娘だもんなぁ……)

 

 

 

 身長190センチの筋肉モリモリマッチョマンの変態。とまでは高望みしないが、ハリソン少年に憑依した俺は普通のオッサンだ。

 女装癖なんて無いし、周囲の人間に「可愛い〜」等と持て囃されたくも無いし、同性から性的な目を向けられるのも勘弁である。故にオッサン的にはこんな男の娘キャラに憑依するというのは、何と言うか。普通に不本意である。

 おまけにこのハリソン少年。かなり波乱万丈な人生を送っている。

 

 

 

 幼稚園時代、ベテラン先生(バツイチ子持ち四十代女性)から誘拐される。

 

 小学校低学年時代、下校途中に不審者(五十代男性無職)から路上で猥褻な悪戯を受ける。

 

 小学校高学年時代、当時の担任の先生(三十代独身ガチムチ体育会系)から性的な暴行を受ける。

 

 中学校二年生時代、初恋の担任の先生(二十代巨乳おっとり系)から自宅に招かれ、その後一週間に渡り監禁。性的な暴行を受ける。

 

 

 

 ……うん。もう、お腹いっぱいである。

 

 何と言うか、よくもまあ今まで無事に生きて来たわ、このハリソン少年は。と感心してしまう。いや、貞操的にはあんまり無事じゃないんだろうが……不幸中の幸い? というか辛うじて『処女』を失うことはギリギリで避けられたし、童貞を失った相手は一応初恋の相手で結構な美人がお相手だったから第三者から見たら御褒美だったかもしれないし。

 結果的にハリソン少年はガチムチの男性恐怖症気味になるわ、人間不信になるわ、教師という立場の人間に対し問答無用で敵視するようになったり。

 まあ、ハリソン少年の人生はこの男の娘フェイスのせいで波乱万丈となってしまったのだ。

 

 故に少年は伊達眼鏡と黒く染めた髪を不自然なまでに伸ばしては常に顔を隠し、老人のような酷い猫背で頭を下げておっかなびっくり日々を過ごす。そんな根暗の典型みたいな鬱屈した人間となってしまった。

 現に最後の監禁逆レイプ事件の後はすっかり錯乱し、不登校へ。

 結果的に学校側の推薦(という名の厄介払いと責任転嫁の為)でこの高度育成高等学校に入学したものの、所属は最低ランクのDクラス。恐らく1年以上の長期に渡る不登校が不良品と判断された要因なのだろうが……そもそもの原因は淫行教師を雇っていた中学校側の責任問題なのだが……止めよう。こうして入学してしまった以上、過去を穿り返しても意味が無い事だ。

 

 

「皆、少し話を聞いて貰ってもいいかな?」

 

 

 憑依先の悲惨な歴史にげんなりしていると、爽やかな好青年の声が聞こえた。どうやら思考に耽っている間に茶柱先生は退室していたらしい。これから始まるのは原作にもあった、自己紹介タイムだろうか。

 と言うことは今手を上げて声をかけている彼が『平田 洋介』か。

 

 

「僕らは今日から同じクラスで過ごすことになる。だから今から自発的に自己紹介を行って、一日も早く皆が友達になれたらと思うんだ。入学式まで時間もあるし、どうかな?」

 

「賛成ー! 私たち、まだみんなの名前とか、全然分からないし」

 

「まあ、いいんじゃね?」

 

「やろーやろー」

 

「じゃあ、先ずは言い出しっぺの僕から。僕の名前は平田 洋介。中学では普通に洋介って呼ばれることが多かったから……」

 

 

 

 高い身長とやや茶色がかった髪に、爽やかな声色。何より女子を虜にする甘い顔つきの平田の提案から始まった自己紹介タイムは、まさに記憶にある『よう実』の原作通りの流れだった。

 流石に一言一句原作を記憶しているわけでも無いので、細かい違いはあるのかも知れないが。それでもこうして眺めていると、本当に自分が創作物の世界に転生してしまったのかと不思議な気持ちになる。

 

 トラックに轢かれた覚えもなければ神様に出会った覚えも無い。デブでハゲなオッサンだったとは言え、これと言った持病は持ちあわせていなかったので、突然死も考えにくい。

 だがこうして16歳の青年の身体の中に記憶が芽生えているのは事実な訳で。何ともまあ、呆気ない前世であったなあ。

 

 そんな風に黄昏れていた時、威嚇するような大声が聞こえてきた。

 

 

「俺らはガキかよ。自己紹介なんて必要ねえよ、やりたい奴だけでやれ」

 

 

 声の主は真っ赤な髪をした典型的な不良生徒『須藤 健』だ。

 個人的な意見としては高校一年生ならば十分にガキだとは思うのだが、こういった不良生徒にそこら辺を説いても無駄だろう。むしろこの時期の須藤なら喧嘩を売られたと判断して殴りかかってくる可能性すらある。

 その後、気を使って須藤に謝罪した平田や彼を擁護する女子生徒達の多数の批判に気分を害した須藤は席を立った。

 

 

「うっせぇ。こっちは別に、仲良しごっこをするためにココに入ったんじゃねえんだよ」

 

 

 そんな須藤の捨て台詞に触発されたかのように数人の生徒が教室を立ち去ろうとしている。

 俺はほんの一瞬だけ考えた後、彼等に追従するように席を立った。

 

 

 

 結局あの後俺はトイレの個室でぐだぐだと時間を潰し、その後は茶柱先生の指示に従い入学式へと赴いた。

 入学式の内容については、まあ、特に語る事は無い。知らないお偉いさんが長ったらしい挨拶をしていたぐらいだ。

 強いて言うなら坂柳理事長の顔をしっかりと把握出来た事が収穫と言えるだろうか。想像していたより若々しい中年で、前世の俺よりも若作りに見えた。

 

 そうそう。せっかくだからと整列する他クラスを何度か観察してみたが、『葛城』『坂柳』。

 『一之瀬』や『龍園』といった他クラスの主要人物も揃っていた。

 個人的に坂柳や龍園辺りは消えていて欲しかったりするのだが、そうは都合良くは行かないか。まあ、個人的にはクラス間闘争などには関わるつもりが無いので放置が安定だろう。

 

 入学式に参加していない二年、三年などの上級生の事情は流石に分からなかったが、一年の面子に変化が無いことを鑑みるに、おおよそ原作通りのスタートだと考えられる。

 まあ、もしかしたら俺以外の転生者や憑依者がいて、ソイツ等が何かしらの原作ブレイクを起こしているかも。なんて事は考えたが……。現時点では考えても仕方無い。取り敢えず俺は目立たないように過ごそう。

 綾小路のような、なんちゃって。では無い本当の事勿れ主義こそが俺が目指すものなのだから。

 

 

 さて、時間は飛んで夕方の六時頃。

 俺は入学式の回想に浸りながら、こうしてコンビニをぶらついている。

 寮に荷物を置き、簡単に室内のチェックを終えた俺は、早速私服に着替えてスーパーやコンビニをあっちこっち巡っている理由は、所々に設置されている無料商品を手に入れる為だ。

 

 ポイント不足者への救済措置として設置されている無料商品だが、どうやら数には限りがあるようだ。それを知った俺は取り敢えず今の内に買える物は買っちまおうとばかりに様々な店舗で無料商品を掻っ攫っているわけだ。

 

 今頃、クラスメートの多くは親睦を深める為に遊び回っていることだろう。

 まあ、好きに楽しめばいいさ。来月0ポイント支給なのは確定された未来なので、どうなっても知らないが。『よう実』二次創作のアルアルである、Sシステムを早々に暴いて実力を見せつけ、クラスポイントを確保する。

 

 そんなクソ面倒臭いことなど、俺は一切するつもりは無いのだから。

 そんな内心で嘲笑うような心持ちのまま、ついに四件目のコンビニに入店したその時、見知った顔を見つけた。

 

 

「ん?」

 

 

 飲料コーナーの隅。何故か酒コーナーの前に陣取っているのは紫色のサイドテールのあの娘の姿。

 そう、バスでお世話になったあの紫ちゃんだった。

 

 そう言えば彼女にハンカチを弁償すると言った事を思い出した。

 ついでに言うなら彼女は俺の伊達眼鏡も持ち逃げしている筈だ。

 出来れば返して欲しいし、ハンカチの弁償に関しても互いの連絡先ぐらいは把握していないと色々と不便だろう。

 

 ナンパと間違えられませんように。

 そんな事を祈りながら紫ちゃんに近付いて、今まさに彼女に声をかけようとした。 

 

 その時だった。

 

 飲料コーナーの扉をサッと開けた彼女は目にも留まらぬスピードで缶ビールを掴み取ると、そのまま流れるような見事な手付きで鞄に缶を仕舞い込んだ。

 

 入学初日。まさかの即、万引きである。

 おそろしく速い手際。俺でなきゃ見逃しちゃうね。

 

 と言うか、今思い出したわ。

 あの娘って坂柳の側近になるAクラスの女子生徒。

 

 『神室 真澄』じゃねえか。

 

 

 

 

 

 

 

 




後々編集すると思います。

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