途方もない茨の道を
「・・・でもエド・・・あの子たち・・・いったいいつまで保護するつもりなんだ?」
子供の保護というのは簡単に言えるかもしれないが容易なことではない
生活費だけではなく教育費など、金に換算しただけでもかなりの額が無くなっていく
しかも子供というのは金がかかるだけではない
生き物である以上、人間である以上心があるし、問題も起こす、面倒もある、そんな中あの二人を一体どうするつもりなのか、そう聞いたつもりだった
だがエドは何の疑問も不安も持っていないようだった
「ん?一生に決まってるじゃないか」
その言葉に静希は紅茶の入ったカップを落としかけ、それを聞いていた小岩も飲みかけていた紅茶を吹きだしてしまっていた
一体この男は何を言っているのかと思えるほどの問題発言、あのアイナとレイシャという子供は大きく見積もっても七歳くらいだ、こんな年齢から一生を共にするという発言に静希は戸惑いを隠せない
「い・・・いやまぁ・・・その、個人の趣味にとやかく言うつもりはないけど・・・さすがに・・・その・・・年齢差がありすぎないか?」
「ん?・・・あぁ!?いやいや違うよ!?そういう意味じゃなくて!彼女たちをしっかり教育して、僕の会社で働いてもらおうと思ってるんだよ!」
静希の言葉に含まれた意味を理解したのか、エドは慌てて弁解しようとしているが、すでに小岩からエドに注がれる視線は軽く軽蔑が含まれてしまっている
嫌な想像が入ってしまっている時点でしっかり教育という、一見まともそうなセリフも意味深なものに思えて仕方がない
「シズキ、君は能力者の孤児がいまどれくらいいるか知っているかい?」
「・・・そういう事は詳しくないけど・・・確か能力者人口の五パーセントくらいだったか?」
一度咳払いし、少し強引に話を変えたエドの声は真剣だ、茶化すこともないと思い静希もその話に乗ることにする
この世界の全人口の一割にも満たない能力者たち、そしてその中で生まれる能力者のほんの数%は親に捨てられて孤児として生きている
日本はそれほどひどくはないが、海外、特に中東や南米などでは能力者に対する強い偏見がある
能力者の犯罪者が多いからというのもあるが、紛争などで能力者が活躍するせいでその力を間近で見る親が子を恐れてしまうのだ
「シズキには前言ったかもしれないけど、僕は父の仕事を手伝いながらいろんな国に行ってきてね、いろんなものを見てきた・・・それはもう酷いものだったよ」
エドが見たのは、能力者の孤児の悲惨な未来
教育などされないため、ほぼ動物と同じような状態で、能力を使って店から食べ物を盗んだりして捕えられたり、その場で殺されたり、あるいは見世物のように扱われたり奴隷同然に使われている者もいた
子供と言えど能力者、その恐ろしい能力が自分に襲い掛かるのではないか
そう考えた親は、子を捨てる
親が能力者であるならそんなことは起こらないが、無能力者から能力者の子が生まれた場合、捨ててしまう場合が多いと聞く
無能力者の親の間に生まれた子には、少なからず諍いが起こる
静希の家はそのようなことはなかったが、明利の家は過去、家族がバラバラになりかけた
陽太の家は今もなお親との確執が生まれている
日本は能力者の力を間近で見る機会が少ないというのと、国の方から能力者に対する補助や援助が充実しているからこそ親と子がかろうじてでも繋がっていることが多い
だが海外は違う
親が子を恐れれば、近くに置いておきたくないという理由で、子を平然と捨てる
そして何の知識もない子は何とかして生きようと必死になる、そうして犯罪に手を染める
「その中には、彼女たちのように奴隷同然に扱われている子もいた・・・彼女たちは主人に捨てられて、そこを僕が助けた形になるんだ」
「・・・それで・・・まさか孤児全員を救いたいとかいうんじゃないだろうな?」
静希の言葉にエドは笑って見せる
そんなことができるはずがないという笑みか、それともそのつもりだという肯定の笑みか、静希には判断できなかったが、エドの顔はすでに悩みなどはないものだった
「今はまだ無理さ・・・でもいつか救って見せる・・・子供たちが苦しんでいるのは彼らのせいじゃない、彼らの親がいけないんだ、そしてそれを救えない大人たち・・・僕たちの責任でもあるんだ」
確かに捨てられた子には何の罪もない
ただ能力を持って生まれたというだけの話だ、ただそれだけで排斥されたなにも悪いことなどしていない無垢な子供たちだ
そんな子たちを、エドは救いたいと言った、それがどれほど無謀な事か、恐らくわかったうえでの言葉だろう
「僕はね、会社を作りたいんだ、能力者の基本教育から職業訓練まで手掛けて、なおかつ仕事も斡旋できるような、それこそ学校から墓場までずっといられるような、そんな会社を」
「・・・途方もない話だな・・・かかる金も、人材もいくらあっても足りなさそうだ」
エドの言っているのは、全てを教え、全てを抱える学校を作り上げると言っているのと同義だ
衣食住、そして教育と職場をすべて担う特殊な会社
どこで利益を上げているのかもわからないようなそんな会社を、エドは作ろうとしている
「あの子たちはその始まり・・・まず第一歩さ・・・必ず救って見せる・・・君が僕にそうしたようにね」
「・・・前にも言ったかもだけど、俺はお前を助けたくてあぁしたわけじゃないぞ?事件を解決する過程でお前を助けただけで」
「なら、僕も会社の利益のために彼女たちを救うよ、彼女たちが力になってくれれば、きっと最高の結果が得られる」
その言葉に、静希は気恥ずかしくなりながら紅茶を傾ける
エドは大人だ、静希が考えているような困難などはすぐに思いつくだろう
だがそれでもやると決めたのだ、時間はかかるだろう、金も苦労もかかるだろう
きっと、いつか実現するだろう、そう思える強い言葉と瞳を、エドは持っていた
「実を言うとね、もう会社の名前も考えてあるんだ」
「気が早くないか?まだ社員はお前を含めて三人だけだろ?」
「そこはシズキも協力してくれるとうれしいけど、まぁ気が向いたら手伝ってくれ・・・っとまぁそんなことはいいんだ」
そういってエドはメモ帳を取り出して英単語ともつかない文字を書いていく
そこには『IGARTH』と書かれていた
「イガ・・・いやアイガー・・・ス?」
「そう、アイガース、それがこの会社の名前・・・勝手ながら君のファミリーネームと僕のファミリーネームをくっつけてみたんだ・・・この会社を作るうえで、始まりともなった僕らの名前を」
五十嵐とパークス
静希がエドを助けていなければ生まれなかった名前、生まれなかった会社
「将来的には、普段は僕の父の会社の手伝い、そして実力がついてきたら能力者としていくつかの国に登録させてもらっていつでも能力者を派遣できるようにしたいんだ、いつか世界規模の企業にしたいと思ってる!」
目を輝かせてそう語るエドを見ながら、静希はわずかに笑ってしまう
穴の多い計画だとも思える、だがあながち不可能というわけでもない
世界中に、能力者の孤児は山ほどいる
その孤児に住む場所を与え、教育を施し、社会に出ることができるようにする
かかった費用は社会に出てから返済させることもできるし、職場もすべてこちらから提供するのならその給料から差し引くことだってできる
何より、同じ境遇の子たちが集まれば自然と指導するための要員も増えていくことになる
一種の孤児院のようなものだ、そこに教育機関と職場がくっついているようなそんな場所、エドはそんな場所を作ろうとしているのだ
無論すべてがうまくいくとは静希も思っていない、途方もなく時間がかかるだろう、たくさん苦労もするだろう
だが、いつかそんな場所ができれば、能力を持っているが故に不幸になった子供たちは、不幸のままでいなくてもよくなるかもしれない
必ず救って見せる、君が僕にそうした様に
エドの言葉が静希の中で反芻された
助けようと思ったわけではなかった、エドの協力があれば話が早く進むからそうした
だが、エドにとっては静希から差しのべられた手は途方もなく救いになるものだったのだろう
後光が差す、というには、あの場所は暗すぎたが、それでも何よりもありがたいものだったのだろう
それを理解していたからこそ、似た境遇になっている、自分以上にどうしようもなくなってしまっている子供たちを救いたい
エドの気持ちは十分理解できる、そしてエドの決意が強いということも分かる
これから彼は茨の道を行くことを決意したのだ
途方もない、何があるかもわからない道のりを彼は歩こうとしている
「・・・まぁあれだ・・・手伝えることがあれば言え、手伝いくらいはできると思うから」
「本当かい!?そりゃありがたい!」
エドは笑いながらアイガースと書かれた紙をきれいに折りたたんでいる
その会社名はどうなんだろうと思う中、静希は軽く笑って見せた
止める理由はない
もし彼の会社が軌道に乗れば、それだけ不幸な子供が減るのだ
難しいだろうが、やってみるだけの価値はある、そう思える
「ところで、あの子、お前のことをボスって呼んでたけど、あれってお前の入れ知恵か?」
「あ・・・いや、僕は普通に名前で呼ばそうと思っていたんだけど、いつの間にかボスって呼ばれてたんだ・・・いったいどこからあんな知識を得たのやら・・・」
エド曰く、すでに彼女たちは一般常識や数学、文法などは小学校で習う教養はすべて修めているらしい
しかもそれに並行して職業訓練にも等しいパソコンでの情報収集や、車などの運転法も学んでいるという
元研究者であったエドの指導法が素晴らしいのか、それとも彼女たちのスペックが高いのか、そこは判断が難しいが、あの二人を見る限り末恐ろしい成長速度だと言わざるを得ない
さすがに専門科目を教えるのはもっと後になるだろうと言っていたが、歴史などを学ぶのは個人の意思を尊重すると言っていた
学びたければ教える、必要ないと思うのであれば教えない
教育としてそれはどうかと思うが、能力者として生きる上での最低限の知識と常識、そして技術を持っていれば十分に社会に出ても通用する
あの子たちが始まり、エドはそういっていた
なるほど、彼女たちはエドの夢の第一歩だ、慎重に、そしてしっかりと育てていきたいのだろう
「・・・そういえばシズキ、君はどうしてイギリスに?しかもあんないい部屋に」
自分の話をするばかりで静希がなぜここにいるのかを聞いていなかったエドは軽く首を傾げた
そういえば話していなかったなと思いながら静希はとりあえず事のあらましを話すことにする
「えっと・・・面倒の始まりは俺が暗殺されかけたあたりからだな・・・」
そう口火を切って、静希は今まであったことを簡単に要約しながらエドに話していく
思い出すように、一つ一つ確認しながら話していくと、エドの表情もどんどんと変わっていって面白かったのが印象的だった
600回目なのでお祝い?二回分投稿
回数多くてもよいという意味ではないですが、まぁ一応キリ番ということで
これからもお楽しみいただければ幸いです