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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」
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水面の向こうの

「じゃあ誰が最初に行くか・・・最初はグー!」


静希を除いた三人が同時に拳を振り上げてじゃんけんを始める


あらかじめ打ち合わせでもしていたのではないかと思えるほどのタイミングに先輩一同は苦笑するしかなかった


「じゃ、じゃあ最初は・・・私が行くよ」


じゃんけんに負けた明利は渋々ながら水面を見る


そこには相変わらず静希の顔があり、少し照れながら背を伸ばして水面を正面から覗き込んだ


瞬間、明利の視界に収まっていた光景が変化する


そこは暗闇だった


熊田たちの言うように何もない、真っ暗な何も見えない空間


辺りを見回しても雪奈の姿は見えない、別の空間を作って隔離しているのか、それとも広すぎる空間のせいで見えていないだけか


とにかくまずは雪奈を探すことにする


「雪奈さん!どこですか!?」


できる限り大きな声をあげるものの、反響すらしない空間に明利は途方に暮れていた


この場にいても何ができるわけでもなし、明利はとにかく歩くことにした


どちらの方角が正しいなどと言うことはわからないが歩くしかない、もし熊田たちのいう事が正しければ少ししたら自分はこの場から出されてしまうのだ、ならばできる限りの情報を持ち帰らなくてはならない


「雪奈さん!どこですか!?聞こえてたら返事してください!」


何もない空間にめがけて声を投げかけるも、返事はなく静寂のみが返ってくる


何もない空間でただ歩くというのもなかなか精神的に苦痛を受けるが、ここに閉じ込められている雪奈のためにも泣き言は言っていられなかった


明利が歩いていると、どこからか笑い声が聞こえる


どこかで聞いたことのある声、だがどこか違和感のある声


どこからか聞こえる笑い声に明利が周囲を見渡すと、それは明利の目の前に姿を現した


明利の前にいたのは、現身のようにそこに立っている明利自身だった


熊田たちの言っていた、目の前にいた幼いころの自分


何時頃の自分かはわからないと言っていたが、目の前の明利は今の明利と髪の長さ以外寸分違わず同じに見えた


それだけ自分が成長していないのだという事実を突き付けられ若干のショックを受けながら明利は自分の体の感覚を再度確認する


同調を受けた感覚はなかった、だが今こうして目の前に過去の明利がいる


いつの間にか同調を許し、もしかしたら今も記憶を読まれているのかもしれない


そう思って自分の体を徹底的に調査しているのだ


『何をしているのワタシ、そんなことしたって意味ないのに』


目の前にいる自分が唐突に声を出す


いや、声を出すというのは正しくない、頭の中に直接響くような一種の不快感を催す耳鳴りにも似た現象だった


相手がこちらに言葉を向けてきたのであれば話すことができるということでもある、ここは明利も言葉を返すことにした


「意味がないかどうかは私が決めるよ・・・私は私にできることを」


『できること?ワタシに何ができるっていうの?なによりもワタシ自身を信じてないワタシが』


自分のことをワタシと言う目の前の過去の明利に、僅かに違和感を覚えながら明利は眼前の存在を注視する


身長は同じ、体格もほとんど、というか全く同じ、顔つきも、スタイルも、手も足も全く同じ


唯一の違いは高校に入ってから伸ばし始めた髪のみだ


目の前の存在は一体なんだろうか、熊田たちもその存在を把握できていない以上、自分にそれがわかるとも思えない


「あなたは・・・だれ?」


『その質問に意味はないよ?私はワタシだもん、そうでしょ?』


目の前の自分と話していると私という単語がゲシュタルト崩壊しそうになってくる


どっちの私が自分のことを指しているのかわからなくて意味が分からなくなってくる


「雪奈さんはどこ?あなたは知ってるの?」


『ワタシが知らないことを私が知ってるわけないでしょ?私はワタシなんだから』


目の前の明利では情報源になりそうにないことを悟ると、明利は視線をずらして目の前の明利のわきを見る


黒い空間にわずかなひずみがあるように見える、目の前にいる存在はどうやら何かの向こう側にいるようにも見えた


鏡か、水面か、どちらにしろ眼前に見えているだけで存在しているというわけではないかもしれない


「なら探さなきゃ、雪奈さんが待ってるかもしれないし」


『必要ないよ、ワタシは誰からも必要とされないもの』


その言葉に、明利は歩みを止める


自分の声で放たれるその言葉に、意識せずに足を止めてしまっていた


『可哀想なワタシ、小さくて可愛いワタシ、何にもできない、肝心な時に役立たずなワタシ・・・静希君を助けてあげられなかったワタシ・・・そんなワタシを、一体誰が必要とするの?』


「・・・何を言ってるの・・・?」


明利はわずかに首を動かして自分を見た


そこにいるのは、本当に自分の姿を生き写しにしたかのような明利自身


だがその顔が浮かべる笑みは、普段明利が浮かべるものとは全く別の、歪んだものだった


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