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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」
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水面と杯

「・・・は・・・?消えた?」


熊田の言葉がいったいどういう意味を含んでいるものかが理解できずに静希は眉をひそめる


「えっと・・・勝手にいなくなったってことですか?サボってどっかに行ってるとか?」


『いや・・・目の前で消えたんだ・・・いったい何が起こったのかこちらでも正確に把握できていないんだが・・・』


てっきり雪奈が掃除が面倒でどこかで勝手に休んでいるから叱ってほしいとかそういう電話だと思ったのだが、まったく違うようだった


目の前で人が消える


転移系統などの能力であるならそれほど不思議はないが、雪奈の能力は付与だ、どんなに身体能力を強化してもその場から瞬間移動ができるようにはならないだろう


となると、雪奈は外的要因からその場から姿を消したと考えるべきだろう


「あの・・・それでなんで俺に電話を?」


『あぁ・・・実は深山がいなくなった場所に、奇妙なものがあってな・・・触ることができない水の入った盃なんだが・・・』


触ることができない


その言葉を聞いて静希は状況をほぼ正確に把握した


「・・・霊装・・・ってことですか」


『・・・その可能性が高い・・・先生に報告したら学校の方から人員を派遣すると・・・一応お前にも伝えておこうと思ったのだが・・・』


おそらく熊田自身も分かっている


派遣される人員は十中八九静希だ


この学校で霊装を所持しているのは今のところ静希のみ、そんな状況で霊装が原因で発生した事件となれば呼ばれるのは必然だ


『それと、一つ気になることがあってな・・・』


「気になること?」


『あぁ、お前に連絡した理由の一つでもあるんだが・・・水面にお前の顔が映っているんだ』


熊田の言葉に静希に不信感が募っていく


水面に静希の顔が映る


一体なぜそんな現象が起こっているのか、おそらく熊田自身も理解できていないだろう


だが、静希が向かわなくてはいけない理由がまた一つ増えてしまったことになる


「・・・わかりました・・・今から学校に行って・・・たぶん先生と一緒にそっちに行くことになると思います・・・うちの姉がご迷惑かけてすいません」


『いや、こちらの不手際だ、お前が気にするようなことはない・・・とにかくそういう事だ、できる限り早く頼む』


了解ですと言って電話を切ると、静希はすぐさま銃を片付け始める


「先生と熊田先輩なんだって?」


「雪姉が面倒事に巻き込まれた、俺が行かなきゃいけないっぽいな、お前もすぐ準備してくれ、たぶん班で動くことになると思うから」


「わ、わかった」


状況が理解できていない明利もすぐさま準備を進め、町崎に別れを告げた後でそれぞれ家に戻り制服に着替えて学校へと向かう


職員室にたどり着くとそこにはすでに鏡花と陽太の姿があった


今日もいつものように能力の訓練を行っていたようで、すでに状況は把握しているようだった


「二人とも遅いわよ、一大事だってのに」


「悪い、射撃訓練してたから・・・で、先生、俺らはどうすれば・・・?」


駆け足でここまで来たために若干息が荒くなっている物の、目の前にいる城島に目を向けると、彼女はメールを打ちながらこちらに向き直る


「これから深山達の向かった屋敷にお前たち一班を私が連れていく、村端に意見を聞いたんだが、今のところ有力な情報はなし、恐らく未発見の霊装だろう・・・ひいては、五十嵐、お前が対処するのが最適であると判断した、委員会から正式に通告が来たらすぐにでも」


セリフの途中で備え付けの電話がコール音を鳴らす、それとほぼ同時に城島は受話器を取ると何度か返事をした後で書類に幾つかの項目を書き記していく


どうやら委員会からの連絡がきたようだった


事件が発覚したのがいつ頃なのかはわからないが随分と早い対応だ


「確認が取れた、今すぐに行くぞ」


城島の牽引に静希達は駆け足でその後についていく


一体雪奈に何があったのかもほとんどわからない


どんな霊装なのかもわからない状況、できるのならそういった訳の分からない状況には関わりたくないのだが、その中心にいるのが自分の姉貴分とあっては避けては通れないだろう


「目の前から・・・ねぇ・・・静希みたいな収納系の力の入った霊装?それとも転移かな?」


「わかんないな・・・ただ、熊田先輩の情報だと水面に俺の顔が映ったらしい・・・雪姉が俺を呼んでるのかそれともその霊装が俺に用があるのか・・・」


電車で移動している最中、静希の心中は穏やかではなかった


なにせ自分の一番長い付き合いである姉が危機に瀕しているのだ


もしこの面倒事に誰かが関与していた場合、静希の怒りは一時的に最高潮なものになるだろう


自分の身内に手を出したことを、骨の髄まで後悔させるべく、残虐の限りを尽くすだろう


相手が物である以上、この怒りをぶつける対象がいないのがもどかしい限りである


「先生、村端さんは本当に何の情報も持ってなかったんですか?」


静希のであった霊装専門の売買人、城島の友人でもある村端なら何らかの情報を持っていてもおかしくないと思ったのだ


「・・・先も言ったが情報は無しだ・・・場所と姿は見えたらしいが、その形からどの霊装であるか判別できないらしい、少なくとも、今まで国や個人に管理された霊装ではないことは確かだ」


霊装などの特別な道具は発見と同時に国に管理される


発見された国によって登録管理され、売買などによってその所有権が個人に移ることはあれどその詳細や外見などは必ず記録に残る


村端は霊装を専門に扱っている人間だ


情報の記されている霊装のことに関しては誰よりも詳しいはず、その彼女が知らないということは本当に未発見の霊装だったのだろう


そうなってくるといったいどのような効果が込められているのか全くの未知数だ


その場から消えたという証言から考えられる能力の候補は収納、転移、同調、発現のどれかであることがわかる


収納であるならどこかの異空間に、転移であるならこの世界のどこかに、同調か発現であるなら消えたように見えているだけでそこにいるのかもしれない


「ていうかさ、霊装って使用者しか触れないんでしょ?なのに何で能力が発動したのかしら」


「もしかしたら雪姉が使用者って可能性もあるかもしれないけど・・・ついてみないことには何とも言えないな、大体雪姉が使い手になるんだったら時間をかけてでも自分の意志で戻れるはずだろ」


霊装は限られた人間にしか触れないし使えない


静希のようにその限定を解除できるような人間もいるが、今回の対象は純粋な霊装だ、雪奈に何らかの能力が発動したということは少なくとも雪奈が無意識のうちに能力を発動させたか、または第三者の介入があったかのどちらかである


もし雪奈が誤って発動させたのなら、自分たちに心配をかけたということを前面に押し出して説教、もし第三者が雪奈に能力を発動したのであれば地獄を見せる


静希の頭の中ではいくつかのパターンがすでに生まれている


頭の中でどのような行動をとっているのか、近くにいる鏡花たちには理解できなかったがろくなことではないだろうということはわかっていた


乗り継ぎなどを駆使して電車で合計一時間ほど移動し、バスを使って近くまで移動してから歩くこと数十分、目的地である屋敷にたどり着く


大きな鉄の門に広い庭、そして庭にはいくつかの家具が放置されている

恐らくは雪奈たちが外に運び出した分だろう


門をくぐって中に入ると屋敷の方から教師と一人の男子生徒が走ってやってくる、雪奈の班の熊田だった


「来てくれたか、助かった・・・というべきか・・・」


熊田は静希達の元へ、教師は城島のもとにそれぞれ大まかな事情を説明するためにやってくる


「うちのバカ姉がご迷惑おかけしまして、それで件の杯はどこに?」


「こっちだ、今うちの班員が見張っている」


熊田に引き連れられて屋敷の中に入ると、それはもう酷い有り様だった


装飾やカーペット、壁や扉、何もかもが劣化していて少し衝撃を与えようものなら壊れそうだった


エントランスから伸びる二つの階段、一つは老朽化のせいか完全に壊れている、もう一つも手すり部分が破損していたりと良い状態とは言えない


一体どこの誰がここを使っていたのか、そしてなぜ今になってこんな場所の清掃を依頼したのか、不思議でならない


「お、来たか」


「待ってたよ、って言っても困るかもだけど・・・」


恐らくは雪奈の消えた現場だろう一室に通された静希達を待っていたのは雪奈の班員藤岡と井谷だった


全員でお疲れ様ですと挨拶をした後で二人の近くにある金色の盃に目を向ける


「・・・これですか・・・」


静希が少し遠くから杯を確認する


金色に輝く装飾豊かな盃、その中には水らしき液体が注がれている


そして熊田の言っていたようにその水面には静希の顔が浮かんでいる


はたから見ればホラーにも近い光景だ


「それと五十嵐、追加情報があるんだ・・・我々で何度かこれに接触を試みたんだ」


「接触って・・・よくそんな危ない真似しましたね・・・」


「・・・まぁこちらにも非があるからな、少しでも情報収集しておこうと思ってな」


未確認の物体に対して接触を試みるとはなかなかに度胸がある


もしこれで誰もいなくなったなんてことになったらそれこそ目も当てられなかっただろうに


だが雪奈を除く全員がこの場にいるということは少なくともそのような状況にはならなかったということだろう


「結果から言うと、俺ら一度全員、順番にこれの中に入ったんだよ」


「・・・え?反応したんですか?」


「そうなの、この水面をのぞき込むと能力が発動するらしくて、どこかに飛ばされるんだけど・・・私たちは少ししたら勝手に出されちゃったの」


藤岡と井谷の言葉に静希達は目を合わせる


どういうことなのだろうかと、状況を正しく把握できないのだ


誤字報告が五件溜まったので二回分投稿


自分のせいでもあるんだけど誤字のせいでやたらと物語が加速している


いかんねこれは


これからもお楽しみいただければ幸いです

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