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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」
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客引き

邪薙が店の前で待っている中、かなりの人間がその写真を撮っていた


何故なら邪薙は今店の看板とあかねをもって立っている状態なのだ


何もしないで待っているなら客寄せ神様になってよという雪奈の提案である


そのおかげか、そのせいか、雪奈が担当している店には多くの人が集まっていた


「ん・・・?・・・あれって・・・」


そんな人通りに気づいたのか、そこにやってくる人影が二つ


仮面をつけた二人は仮装をしている人間と同じくらい目立っている、そうエルフの少女、東雲姉妹だった


邪薙を見上げながらおぉと感嘆の声を漏らす中、邪薙もその二人に気づき片膝をついて二人に視線を合わせる


「誰かと思えばフウカとユウカではないか、息災で何よりだ」


二人の頭をなでながら笑っているのだが、その反応に二人は怪訝に首をかしげる


「あの・・・何で私たちの名前知ってるんですか?」


「あの・・・あなたはどちら様ですか?」


いつもと同じように違うことを同時に話すことで邪薙は一瞬硬直してしまうが、すぐに自分のセリフが言ってはいけない物だったということに気づく


なにせ邪薙はエルフの村にいたとはいえ、一時的に優花の中にいたとはいえ、この二人としっかりと面を合わせたことはないのだ


このままでは不審がられると軽く笑って何とか誤魔化すべく思考を始める


「い、いやなに、私はシズキの知り合いでな、仮面をつけた小さくかわいらしい女の子がいればそれがフウカとユウカだと聞いていたのだ」


「「い、五十嵐さんが!?本当ですか!?」」


邪薙のセリフに今度は完全にシンクロして二人して恥ずかしがりながらも嬉しそうに照れている


内心静希に詫びながらこの場をどのようにおさめようか真剣に悩んでしまう

近くにいるあかねは仮面をつけた双子を興味深そうに見つめている


何故この二人は仮面をつけているのだろうと言った根本的な疑問だろう、邪薙自身、何故エルフが仮面をつけているかと言われると掟だからとしか説明のしようがないのだ


「あの・・・あなたのお名前はなんていうんですか?」


「五十嵐さんとどんなお知り合いなんですか?」


またしても同時に質問してくる双子に頭が痛くなりながらどう答えたものかと困ってしまう


そういえばあかねにも本名は言っていなかったなと思いながら、どう答えたものかと本気で悩んでしまう


なにせ邪薙の本名は邪薙原山尊、はっきり言って人間のそれではない


「私は・・・邪薙、邪薙尊という、シズキの父君の知人でな時折こうして様子を見に来るのだ」


「柳みことさんですか」


「女の子みたいな名前ですね」


これでも結構気に入っている名前なのだと告げると、静希の父の知り合いという新しい嘘をついてしまったことでもはや収拾がつかなくなるのではないかとさえ思えてしまう


微妙に風香の言った名前の漢字変換が間違っているような気がするが、『やなぎ』と聞いたらまず『邪薙』ではなく『柳』を思い浮かべるということを考えればなにもおかしいことではないのかもしれない


「あれ?風香ちゃんに優花ちゃんじゃない」


静希に詫びる内容が増えそうだと頭痛の種を増やしながら邪薙が双子の相手をしていると様子を見に来たのか雪奈が店内から顔を出した


雪奈が現れたことで双子はまたも同時に頭を下げて挨拶をする


「ひょっとして静を探してるの?」


「はい、どこかに遊びに行ってるのであれば一緒に回りたいなと思いまして」


「お店に行ったんですが、幹原さんたちはいたんですけど、五十嵐さんはいなくて」


雪奈も同時に違うことを話す双子に多少困惑しながらどうしたものかと困ってしまう


なにせ今静希はメフィを追いかけてどこにいるかわからない状況だ、恐らくは全力疾走しているのだろう、双子には悪いが一緒に居るような時間的および精神的余裕があるとは思えない


「うぅぅん・・・静はねぇ・・・ちょっと今忙しくてね・・・あ、でも用が終わったらここに来ると思うよ、それまで待ってる?」


「いいんですか?お願いします!」


「本当ですか?お願いします!」


邪薙がここにいるということを静希にはすでに伝えてある、そうなると必ず静希はここに戻ってくるはずだ


全力疾走の後に子供の世話を入れてしまうのは心苦しいが、この双子の好意を無碍にさせる訳にはいかない


「さてじゃあどうしようか・・・待ってるにしてもお店の中で座ってるとお客さんの邪魔になっちゃうし、厨房もなぁ・・・」


待ってるとは言ったものの、具体的にどこで待つべきだろうかと雪奈はいまさらながらに悩んでしまう


なにせここは食事処、人の往来がそれなりにあるところであるゆえに座っているにしろ立っているにしろそこにいれば誰かしらの邪魔になってしまうのだ


そんな時、雪奈の頭に妙案が浮かぶ


「二人ともうちでウェイトレスやらない?」


「「ウェイトレス?」」


雪奈の提案に双子は同時に首をかしげる


小学生は基本、今回のイベントに関して手伝うということはあまりない


本当に優秀な子、しかも上級生の六年が数人手伝っている程度だ、二人はまだ手伝えるような歳ではない


「やっちゃえば何とかなるよ、ほらおいで」


「あ、ま、待ってください!」


「ひ、引っ張らないでぇ!」


雪奈には抱き着かれたトラウマがあるのか、多少怖気づきながら二人は雪奈に引っ張られて店内へと引きずられていく


人さらいのようだなと思いながら邪薙はきょとんとしているあかねと一緒に再び呼び込みを続けていた





僅かな非番の時間に、城島は恋人、そして婚約者となった前原と共に校内を歩いていた


職場を見に来るというのは何度かあったのだが、こうして婚約者として一緒に居られるというだけで何もかもが違って見える


自分もそれなりの歳なのになぜこうも浮ついているのだろうかとたしなめながら、それでも城島は楽しんでいた


何気ない会話も、食べ歩きしながら生徒とあいさつするのも、それを前原に見られてからかわれるのも、何もかもがわるくない、そう思えてしまう


「それにしても相変わらずこの学校は大きいですね、迷っちゃいそうですよ」


「慣れればそうでもありませんよ、実際に移動するのは職員室と教室と演習室くらいですからね」


城島は高等部の教師だ、高等部の校舎にしか基本行くことはない


無論この場を職場にする以上最低限の構造把握くらいはしている、教師としての最低限の分はわきまえているつもりだ


今は食べ歩き、そして前原との会話を楽しみながら自分の担当している生徒がやっている店を回っている最中だった


静希達の勤めていた店にはまだ行っておらず、最後に回ってゆっくりしようと思っていた


「わぁ・・・凄い仮装ですね、本物みたいです」


「あぁ・・・恐らく能力を使っての物でしょうね、やってみますか?」


「あはは、いやいや、さすがにあれはちょっと」


人のいるところを歩けば必ずと言っていいほどに何人か仮装をしている人間を見つけられた


多種多様な仮装と店、そして人に前原は楽しそうに周囲を見渡している


「あ、あそこでお店の看板持っている人もすごいですね、背高いし、犬の顔してますよ」


「へぇ・・・いったいどこの・・・」


前原の視線の先を城島が追うと、そこには見たことのある犬顔が自分の腕に幼女を乗せて店の看板をもって客引きをやっていた


一瞬思考が停止した


この状況を正しく呑み込めない、何よりも視線の先にいるあの犬顔の大男が自分の知っているそれと同一人物なのかを測り兼ねていた


「美紀さん?どうかしましたか?」


「え?あ、あぁいえ、びっくりしてしまいました、近くに行ってみましょうか、もしかしたら触らせてくれるかもしれませんよ」


いいですねと前原の了承をとると同時に城島はその手を引いて問題の犬顔の前にやってくる


「軽い食事から腹八分目まで、お食事はいかがですか?今なら席も空いています、どうぞご来店ください」


「くださーい!」


恐らくは雪奈から教わった客引き文句なのだろうが、渋い声に続くように幼女あかねが叫ぶのが何とも異様な光景だ


そうこうしていると邪薙は眼下にいる城島に気づいたのか「あ・・・」と声を出して口を開けた状態で停止する


この反応がすべてだった


「・・・何故・・・何故ここにいる?」


先程の幸せな気分はどこへやら、強い殺気と鋭い眼光を向けると邪薙は心の中で静希に土下座しながらどうしたものかと頭を悩ませた


どう答えれば静希を守れるか、どう答えればこの女教師を説得できるか


今邪薙の思考はそれだけに費やされていた


「ゆ、ユキナから人手が足りないと頼まれて致し方なくだ、仮装をしている者もいたのでな、私が出ても問題ないだろう、中でフウカとユウカも手伝っている、なかなかの繁盛っぷりだぞ」


「・・・ほう・・・」


城島は邪薙を一瞥した後携帯を取り出してどこかへとかけ始める


だがつながらなかったのか、次は別のところへとかけ始める


「響か?今どこにいる?」


恐らく最初は静希に、そして次に陽太に掛けたのだろう、邪薙の耳にも電話の向こうの陽太の慌てる声が聞こえていた


『い、今店の手伝いをしてるっすよ?それがどうか』


「五十嵐はどこにいる?そこにいるなら出せ、電話がつながらなかった」


『あ、あーあー!今静希はその、俺の隣にいます、いますけど、その・・・手が離せないんすよ、油もんやってて、そう、スナック、スナック揚げてるんす、用があるなら俺が伝えますよ?』


「声だけでいい、携帯を近くに持っていくことくらいできるだろう?」


陽太のあまりにもひどい言い訳をものともせず城島は追及を続ける


鏡花ではなく陽太に電話をかけるあたり城島はあの班の実情をよく理解している


鏡花に聞けばまず間違いなくほぼ完璧な言い訳をされただろうが、そこはバカで通っている陽太である、まったく理に適っていないごまかしに城島はわずかに頭痛を感じていた


『いやぁ・・・その・・・えっと・・・あ、すいません先生!ちょっとオーダー入ったんで失礼します、それじゃ!』


城島の反応を待つ前に陽太は通話を切る、城島は数秒間無機質な電子音を聞きながらその腕をわずかに震わせていた


明らかに怒っている、城島との付き合いがそれほど長くない邪薙でもそれくらいわかる


静希、すまん


心の中でそうつぶやいて邪薙はあまりの怒りに携帯を握りつぶそうとしてしている城島の肩に手を置いて事情を説明することにした


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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