公開の様相
静希と明利と別行動し、とりあえず中庭までやってくると、そこには授業を終えた小学生や一般公開にやってきた一般人などが何人もやってきていた
定番である焼きそばやたこ焼き、綿あめなどの縁日に並ぶようなラインナップからクレープや焼き鳥などの少し首をかしげるようなものまである
空気中に漂う香ばしい香りが二人の食指を刺激する
こういった香りはお祭り騒ぎならではだ
「こうやって見ると、物語とかで見る学校の文化祭みたいなんだけどなぁ・・・」
「ところがどっこい、ここは能力者学校なわけだが」
陽太の言葉の通り、普通に見える屋台の近くには能力の体験コーナーなるものが存在し、一般人に対して比較的無害な能力を使ってどういったものかを体験できるようにさせていた
自分たちからすれば手足のそれに等しい能力も、無能力者たちにとっては目新しいものが多いようだった
見た目が普通に近くともやはりどこか普通とは違うのがこの場所なのである
「とりあえずたこ焼きでも買う?」
「お、意外といける口か、んじゃ俺はマヨネーズと鰹節かけまくりで、あと綿あめも買っとくか」
仮に普通のそれとは違っても結局やることは変わらない
陽太からすればどんな内容の物だろうと普段あまり食べない物を食べられる場というのは比較的ありがたく、見世物よりも食べ物の方がうれしいのだ、花より団子とはよく言ったものだ
「ていうか、あいつらは何やってるんだろうな」
たこ焼きと綿あめを購入しながら、陽太は一度別れた静希と明利がいるであろう方向に視線を向ける
落ち込んだ状態の明利を元気づけるのだろうが、一体何をするのか
「そういうのは聞くだけ野暮ってもんよ、大体聞いたところで碌な答えは返ってこないんだから」
人の恋路に口を出すものではない、仮にそれが善意だったとしても、胃がもたれたり砂糖を吐くようなことになるに決まっているのだ
それが幼馴染のような関係だろうと、他人の恋愛関係を聞いて面白いことなどそうそうないだろう
「もしかしたら本当に獣のように・・・ナニをしてるのかもな・・・」
「あんたねぇ、静希だってバカじゃないんだからそんなことするわけないでしょ?せいぜい抱きしめてあげたりキスしてあげたりくらいじゃないの?」
そんなこと聞きだしたってはいはいごちそうさまってレベルよと言いながら鏡花は軽くため息をつく
恋人の惚気など聞いても面白いことなど何もない
しかもその相手は静希と明利だ
静希は淡々と答えそうだし、明利は赤くなって答えられそうもないだろうし
こういうのは黙ってみて見ぬふりをするのがベストなのだと鏡花は確信していた
「悪い悪い、待たせたな」
「あ、静希・・・遅いわよ、一体何やって・・・」
自分たちを先に行かせておいていったい何をやっていたのか、明利の手を引いて静希が早足でやってくる
だが手を握られて連れられている明利が問題である
顔を耳まで真っ赤にし、髪がやや乱れ、息が上気している
「お、たこ焼きじゃんか、一個貰うぞ」
「おうよ、綿あめも行けるぞ」
「そりゃいい「ちょっと待ちなさいバカども」」
せっかく話を進めようとしているというのに鏡花が静希の肩を掴んで力を込めていく
その視線の先は真っ赤になったままの明利がいる
「あんた一体何やってたわけ!?この少しの時間に!?こんな明利見たことないわよ!」
今まで恥ずかしがることはあっても、誰とも目を合わそうとしないレベルで顔を赤くした状態を維持してしまっている姿を見るのは初めてだ
「おいおい鏡花、そういうの聞くのって野暮じゃないのかよ」
「時と場合によるわよ!大抵は見て見ぬふりしてあげるつもりだったけどこれはアウトよ!いったい何してきたわけ!?」
せっかく長年の思いかなって恋人関係になれたのだから温かい目で見守っていこうと思っていたのだが、学校のこんな昼間にいったい何をやらかしているのかと鏡花は憤慨してしまう
明利は鏡花の言葉にさらに顔を赤くしてしまっていた
「まぁまぁ落ち着け鏡花姐さん、ナニをしてたって別にいいじゃねえか」
「よくないわよバカ陽太!ここ学校よ!?しかも相手は明利よ!?一歩間違えれば通報よ!」
「なんかお前ら勝手に話進められてるけどさ、すっごい失礼なこと言ってるよな」
まだ確定要素ゼロなのに勝手に不名誉なことを話されて静希は呆れ半分眉間にしわを寄せながら大きくため息をついた
「平日の学校で変なことなんてできるかよ、たっぷり甘やかしただけだ」
「・・・甘やかしただけでこうなる?」
静希の甘やかすというのはあまりイメージできない、日々の言葉や行動に毒々しいものがあるだけに、より想像できないのだ
「俺の甘やかすをなめるなよ?日々甘やかされた結果が今の雪姉だと思えばまだ理解できるか?」
「・・・あー・・・なるほどね」
静希の姉貴分であるダメダメな姉雪奈、彼女が日々日常的に静希により甘やかされてきてあのように育ったのであれば、なるほど、静希が誰かを甘やかすというのも分かるような気がする
明利のそれと雪奈のそれではまたベクトルが違うような気がしなくもないが、要するに相手をダメにさせるレベルの甘やかしなのだ
現にいま明利はまともに受け答えもできないようなダメダメな状態になってしまっている
「・・・ちなみに聞いておくけどさ、この髪の乱れとかはどう説明するわけ?」
「あぁ、後ろから抱きしめて俺の膝の上に乗せて撫でまくっただけだ」
その様子を想像すると仲の良い兄妹にしか見えないだろう
だがその二人が恋人関係と知っていると少しだけ状況は変わって見える
いかがわしいことをしていないならそれでもいいかと鏡花は半分安心していた
「なんだ、ナニしてたわけじゃないのか・・・」
「んなことするかバカ、ここ学校だぞ」
その言い草に、学校じゃなければ普通にそういったことをするのだろうかとため息をつく
不純異性交遊を推奨するつもりはないが、明利と静希の関係が少しでも進めばいいと思っているのもまた事実
だが同時に明利が臆病でその先に進めずにいるということも知っている
こういう時は起爆剤のような何かがないと、硬直状態が長く続くかもしれないのだ
そう考えて鏡花は明利の耳元に口を寄せる
「明利、静希に甘やかされて幸せだった?」
鏡花の言葉に明利はびくりと反応するが、今以上に顔を赤くしてうつむいてしまう
ここで追撃をやめるつもりはない、ここからが重要なのだ
「今回は明利が幸せだったけどね、たまには明利から積極的に行動して静希を幸せにしてあげなさい、明利に甘やかされれば静希だって幸せなはずよ」
その言葉に明利は一瞬顔を上げ、鏡花の顔を見た後、その視線を静希に移す
こういう場面なら自分が幸せになることよりも、相手を幸せにしてあげるという思考に向けたほうがいい
特に明利は優しい性格だ、自分だけではなく、静希にも同じ思いをしてほしいと思うだろう
鏡花の考えは見事当たり、明利は少し意を決した様で、静希の元へと少しずつ近づいていった
「おうおう、鏡花姐さんいたいけな少女に何吹き込んだんだい?」
「ただのアドバイスよ、あのままじゃあの子ずっとあんな感じだっただろうしね」
はたから見ていると、十分に甘く見えるのだが、実情を知ってしまっているだけにもどかしくて仕方がないのだ
なにせ明利は筋金入りの臆病者兼恥ずかしがり屋である
たぶんだが、このまま何もしなければ今の距離を何年も続けることになるだろう
「ちょっと意地が悪いかもしれないけどね、これで少しでも変わればいいんだけど」
「まぁ何とかなるだろ、鏡花のアドバイスはなんだかんだ上手くいくしな」
自分の能力も彼女の助言によって大きく改善されたことから、陽太は鏡花に対してかなりの信頼を寄せているようだった
人格うんぬんはさておいて、その解決能力に関しては静希に勝るとも劣らないほどに
あの二人の関係もきっとうまくいく、幼馴染としても、鏡花の助言を受けた者としても確信をもってそう思えるようだった
「そこまで信頼されても困るんだけどね・・・私だって手探り状態よ、あの二人に関しては」
「なんだよ、お前って誰かと付き合ったこととかないのかよ、顔はいい癖に」
「・・・それってひょっとして褒めてるわけ?」
もちろん褒めてるぞと陽太は当たり前のように言ってのけるが、鏡花の耳にはそうは聞こえない
顔はいい
要するに他がダメだと言われているように思えてしまうのだ
もっとも、陽太がそんな皮肉めいたことを言うような人間ではないことは知っている
だからこそ、少し気恥ずかしくもある
なにせ誰かに褒められることなど、勉強や能力以外ではあまりなかったのだ
「私なんて相手にするようなもの好きはそうそういないわよ、これでも性格の悪さは自覚してるんだから」
「そうか?お前なら相手なんてすぐ見つかるだろうに」
これも悪意なく、率直な感想として言っているのだろう
陽太は物を考えない分、その言葉一つ一つが相手に響くのが恐ろしい
なにせ思ったことをそのまま伝えているのだから、変に勘ぐるということをしなくていいだけに楽なのだがその分思うところがあるのだ
「俺はお前の相手ってそんなに嫌じゃないけどな、なんつーか楽だし」
「・・・それって単純に考えるのを私に任せてるからってだけでしょ?」
あ、ばれた?と陽太はカラカラと笑って見せる
鏡花からすれば少しだけドキッとした言葉だったのだが、この陽太に対してそんなものを求めるだけ無駄なのだ
なにせほとんど何も考えずにものを言っているのだから
「お、なんだよ焼きそばもあんのか、おい静希!焼きそば買うけどいるか?」
「あぁ、買っといてくれ、俺はリンゴ飴買っとく」
二手に分かれて買い物をするその様はさすが幼馴染というだけあって手馴れている
その横に甲斐甲斐しくも明利がついて行っているのが印象的だ
慌ただしく、それでいてどこかつながっているような三人を見て鏡花は目を細めた
「おら鏡花、お前もなんか買えよ!こういう機会あんまりないんだからよ!」
「わ、わかったから引きずるのやめなさいよ!」
感傷に浸る間もなく陽太にせかされるように屋台に連れられ、鏡花もその中に入っていったのは半ば必然だったのかもしれない
いつの間にか静希達と同じように大量に出店を回り、いつものようにバカをやらかす陽太を諌め、後始末に追われ、ため息をつきながらも鏡花はその時間を楽しんでいた
結局静希達はその日の夕飯分まで出店で食事を楽しみ、祭り気分を満喫したのだった
「むぅ・・・これはなんというか・・・不思議だ、甘く、それでいてもさもさしている・・・だがカステラなどとは全く別物・・・興味深い・・・!」
家に帰って今日の収穫を人外たちにも味わわせているなか、邪薙は持ち帰った綿あめに夢中になっていた
昔にはあんなものはなかっただろう、なにせ機械そのものがなかった時代なのだから
メフィは水あめ、オルビアは焼きトウモロコシが気に入ったようだった
「なんていうかさ・・・少し目を離しただけだけど、一番変わってるのって主に食文化な気がするわ」
「うむ、大いに同意する、長くこの国にいるがこのような食べ物が生まれているとは」
長いことこの世界に存在している人外二人からすればここ百年程で生まれた食べ物は目新しいものに部類するらしい
普段駄菓子屋など行かないためにあまり見ることのない食べ物、いや恐らく現代にある食物の中で彼らが知っているものはほんの一部でしかないのだろう
無論それは静希も同じ、同じ国に住み続けているということはそれだけ見解が狭まっているということでもある
日本に住んでいれば日本にある食物に触れる機会しかないだろう
だがそんなごく一部の食べ物でも人外たちにとっては新鮮なのだ
メフィが先ほどからくるくると練っている水あめ、一体どこの店が仕入れていたのかすら不明なものだ
どこからともなく陽太が買ってきたもので、静希もつい懐かしくて陽太に頼んでもう一つ買ってきてもらったものである
「お祭りごとなんて大したことないと思ってたけど、案外面白そうね、明日から本番なんでしょ?」
「あぁ、だから明日からはそれほど見て回ることはできないだろうな、まぁその分イベントもたくさんやるだろうけど」
事前に渡された資料にはイベントの開催場所と時間、そして担当する生徒の学年と班番号が事細かに記されている
年に一度のイベントとはいえ、今までは参加すると言っても客側に回ることが多かったために裏方に配置されると今までわからなかった部分がよくわかる
面白いところがあるかと言われると首をかしげるが、今まで考えたことのなかった物事を考えるようになれる
こういうのを思考の視野が広くなるとでもいうのか
頭の中の事柄なのに視野という表現はあまり正しくないかもしれないが、一番しっくりくる言葉がこれだった
今まで見てきた場所からは決まったものしか見えないからこそ、考えることも同じだった
だが違う場所に立つことでまったく違う事柄を考えるようになったのだ
同じものを見ているはずなのに、今まで見てきたものと同じなはずなのに違ったものの見方ができる
複数の角度から同じものを見ることができると言えばいいのか
もちろん物理的ではなく、概念的なものであるため、すぐにそれが起こるというわけではない
だがその考えの変化は、すでに静希の中で始まっていた
恐らく、今日静希と同じ行動をとった班員の中にも同じ変化を起こした者がいるだろう
「面白そうなのはこれよね、演習場でやるちびっこ大集合?ってやつ」
一般公開のパンフレットを手に取ってそのイベントを眺めているメフィ、ずいぶんと幼稚なものをセレクトしたものだと呆れてしまう
「あぁ・・・子供向けに能力者が空中に浮遊させたりするやつだろ?お前普段普通に空飛べるくせにそんなのがいいのか?」
「わかってないわね、自分で飛ぶのと誰かに飛ばしてもらうのとじゃ感覚が全然違うのよ、それに小さい子向けってことはそれなりに能力が上手な子がやるんでしょ?」
万が一事故が起きないためにも、イベントなどを担当するのは能力操作をかなり高いレベルで習得している上級生が選抜されることが多い
特に相手が子供というだけあって、かなり精密な操作が必要になることはメフィにも理解できるようだった
「一応言っておくけど、お前は学校の中じゃ出せないからな?」
「わかってるわよ、私の外見じゃ目立ちすぎるしね・・・この中で出せるのってギリギリオルビアくらいじゃない?」
人外の中で唯一まともな人間の外見をしているのはオルビアだけだ
悪魔であるメフィは褐色の肌に銀髪、そして頭から生えた角に色彩のおかしな瞳
神格である邪薙は体こそ普通の男性のそれに近いが、首から上は犬のそれであり、普通の人間ではありえない外見をしている
対してオルビアは金髪碧眼という外国人らしい特徴と、その美貌をもって普通以上であると言えるが、れっきとした人間の外見をしている
雪奈からもらった服や、静希に買ってもらったものを着れば普通の人間と遜色ないと言えるだろう
「そうだな・・・もし忙しかったらオルビアに手を借りるってのもありかもな」
扱いの難しいメフィや邪薙と違い、オルビアは基本静希に従順だ
万が一の際は手伝ってもらうという選択肢は大いにありである
「ご命令とあれば、ですがよいのでしょうか、私のような部外者が学校のイベントを手伝っても」
「いいんじゃないか?どうせこんだけ人がいれば留学生とか、手伝いに来てくれた人だとか言えば誤魔化せるだろ、ずっとじゃなくて少しの間だけであれば問題ない」
静希のいう通り、一日中というのは問題があるかもしれないが、一番忙しくなる時間帯、昼から夕方にかけての時間のみ手伝ってもらえるのであれば何の問題もない
「となるとあれだな、お前の着換えをいくつか持って行ったほうがいいかもな、万が一の時のために」
「かしこまりました、周囲に溶け込めるようなものを選別しておきます」
溶け込めるような服装と言っても、その金髪と顔から思いっきり目立つことになることにはなるだろうが、ないよりはましである
幸か不幸かオルビアは日本語が達者だ
完璧に覚えたというのもあるが、彼女の霊装としての特性からしゃべることには苦労しない
そういう意味では留学生か、または日本に住んで長い学生と取れなくもない
「なんか不公平よね・・・オルビアだけ外に出れるんだから」
「不公平も何も、お前らが人間に化けることができるっていうならそれでもいいかもだけどさ、それで面倒を押し付けられるのは俺だってこと理解しておけよ?」
わかってるわよと言いながらもメフィは微妙に納得していないようだった
普段の実習の時もメフィたちの出番はあまりない
主にオルビアを使用する静希はメフィと邪薙の力を借りることはあっても外に出すということはない外に出すだけでどれだけの危険が襲い掛かるかなどを理解しているというのもあるが、極力この二人を外に出してはいけないという強迫観念に近いものを持っているのだ
そんな中メフィはパンフレットの中のある部分に注目した
夕食を作る必要もなく、買ったものを食べている静希を横目に、そのパンフレットに書かれている場所をしっかりと記憶し、僅かに笑みを作った
静希はその笑みに気づくことなく、一般公開の一日目を終えることとなる
全国に四つ存在する能力専門学校
喜吉、士怒、鳴哀、楽導
東西南北に存在するその専門学校で行われる年一回の一般公開において、生徒と教師が行うことは多岐にわたる
出展物の手伝い、イベントの準備、参加者の誘導、問題の解決、各種警備
言葉にすればそれだけなのだが、実際にやることはと言えばかなりの重労働になる
小中高の三つ連なる学校でそれなりの数の学生が手伝いに駆り出されると言っても限度がある
静希は今それを身をもって味わっていた
「えー・・・こちら五十嵐、迷子の案内をお願いします、身長百二十くらい、名前は近藤さよちゃん、お母さんと一緒に来ていたそうです、今から本部の方に連れていきます」
午前中、静希達は初日と同じように初等部の警備にあたっていた
初等部にはあまり出展物はないが、数人の家族連れなどが訪れており廊下にはそれなりの人の往来がある
そして人がたくさんいれば親とはぐれる子供たちがいるのもまた必然、明利よりも小さな女の子の手を引きながら静希は無線の向こう側にいる本部の人間に連絡を入れると、数秒してから校内放送で親の呼び出しがかかる
「それじゃあお母さんが待ってるところに行こうな、すぐ会えるからもう泣くんじゃないぞ?」
「・・・うん・・・」
歩調を合わせながらとりあえず朝に買っておいた軽食代わりのリンゴ飴を与えて泣き出さないように気を付けながら静希は警備本部の元へと向かう
「こちら静希、迷子の女の子を移送中、しばらく警備から抜ける、後よろしく」
『了解、臨時で索敵を開始します』
先日のうちに要所要所に明利の種を仕込んでおいて正解だった
面倒が起こるのがわかりきっているためにこういった事前準備がものを言う、特に人が多い中では発生する問題もそれなりに面倒なものが多いのだ
「あ!さよ!もうはぐれちゃだめじゃないの!」
本部に行くとどうやら放送を聞きつけた母親らしき人物が、静希が連れていた少女に駆け寄る
何度も静希にお礼を言っていたが仕事ですからとだけ言ってその場から去っていく
女の子が小さく手を振っていたのが印象的だった
『にしても・・・すっごい人ね・・・』
珍しくうんざりした声を出しながらメフィがため息をついている
その反応も無理はない、初等部の方はそれほどでもないが、警備本部となると人の往来は二倍三倍ではきかないほどの量になっている
土日、そして年に一度のイベントという二つの言葉が相乗効果になっているのだろうか、ここが学校ではなくテーマパークではないかと勘違いしてしまうほどの人の量だ
『さすがにこの量は・・・なるほど、学校側が本気になるわけですね』
『テレビの取材とかもすごい来てたわよね、一体何が楽しくて来てるんだか』
『案外、楽しくなくとも、怖いもの見たさというのもあるのではないか?家族連れだけではなく、大人や青年などの姿も見える』
人外たちがあきれ果てるのも無理はない、本当に何が楽しくてここにきているのか全く分からないほどの量の人が来ているのだ
その種類は千差万別
中にはこの学校に通う学生の保護者などもいるだろう、そしてメフィの言うように報道関係者も何人か敷地内に入って撮影をしている、邪薙の言うように、恐らく大学生とみられるような年代の人物までやってきている
珍しいから見てみたい
簡単に言ってしまえばそういう事だ
年に一度しかここには入ることができないとはいえ、さすがにうんざりする
客としてみる分にはそうでもないが、こちらが主催者側となると嫌気がさしてくるものである
『こちら鏡花、迷子発見、これから本部に連れていくわ、フォローよろしく』
『了解、そちらも臨時で索敵開始します』
そうこうしている間に今度は鏡花が迷子を発見したようだ
なぜこんなに人がいるところで子供から目を離すのか理解できない
これだけ人がいれば少し離れれば見失ってしまうことがわからないのだろうかと叱ってやりたくなる
これで今日公開が始まってまだ一時間ちょっと、見つかった迷子は五人目だ、さすがにそろそろいい加減にしろよと声高に主張したくなってくる
初等部校舎だけでこのありさまだ、きっとほかの場所ではもっと多くの迷子が見つかっているのだろう
その証拠に数分おきに一般向けの放送に混じって迷子の報告が静希たちの無線の方にも入ってきている
こんなことをあとどれくらい続ければいいのか
静希達は今日は午前中が警備、正午から数時間は店の手伝いになっている
このままいけばあと一、二時間でこの苦行からは解放されるだろうが、その次は店の手伝いでてんてこ舞いになるだろう
「こちら静希、迷子の搬送完了、持ち場に戻る」
『了解、持ち場に到着したのを確認次第索敵を切ります』
明利への報告を終え、元の配置に戻る際に静希は何人か仮装している人物にすれ違った
おそらく能力体験コーナーで仮装を行っているのだろう
変換能力を使っての衣服の変換だろうか、いや肌の色や爪、角や獣のような体表面などを再現していることからどちらかと言えば発現に近い擬態能力だろう
互いに楽しそうに話し合いながら周りからの注目を浴びており、時折写真をせがまれると同時に仮装を行える場所を聞かれたりしている
こういった楽しみを味わうことができるのもこの一般公開ならではである
『シズキの変装もあれくらいできればいいんだけどね』
『バカ言うな、あんなもん変装じゃなくて変身の域だろうが』
何人かすれ違った仮装している若者たちを見てメフィは楽しそうに笑っていた
自分自身人外の成りをしているのにいったい何が楽しいのか
「あ、静希、お疲れ様」
元の場所に戻る際、無線で言っていた迷子を連れた鏡花と遭遇する
先程の静希と同じように手をつないでゆっくりとした歩調で大丈夫だよと慰めながら引き連れていた
「お疲れ、迷子多すぎないか?ちょっと異常な量だぞ?」
「はぐれちゃうもんはしょうがないわよ、文句言わずにお仕事しなさい」
小さい子の相手はそんなに嫌いではないのか、鏡花は飄々としている
へいへいと軽く返事をしながら持ち場に戻り、また警備の仕事に明け暮れる
仕事があると時間が経つのは早いもので、昼を迎える前に引き継ぎの人員と交代して今度は昼以降から働くことになる店へと向かうことになる
移動の合間に軽く出店で腹を満たしてから店に向かうと、ほかの食事メインの店には劣るものの、かなりの数の客が入っているのが覗えた
そして静希達引継ぎ要員が来たことを確認すると、今働いている生徒が救いが来たと言わんばかりの表情を浮かべた
「・・・どうしよう・・・ものすごく帰りたいわ」
「しょうがないだろ、文句言わずに仕事するぞ」
先程の仕返しだろうか、静希の言葉に致し方なしに裏方に行ってから着替えを開始して早速表で接客にいそしむことにする
裏方である静希達もそれなりに忙しいが、表の生徒はその比ではない
特に新しく入った明利と鏡花はあまりの忙しさに目を回していた
二人とも特徴的であるものの外見は整っており、可愛いと称するのにためらいないような容姿をしているため、注文する際に半分名指しのような感覚で呼び止める客が多いのだ
鏡花はスタイルもよく、きれいな長い黒髪が印象的
明利は身長が低いことも相まってか、興味を引いた若い女性などからよく呼び止められる
そんな事とはつゆ知らず、静希と陽太は次々入る注文をこなして配膳をする表の女子たちに渡していく
客の注文にもある程度波があるらしく、忙しい時は本当に手があと数本欲しいほどに忙しいのだが、暇なときは腕なんていらないんじゃないかと思えるほどにやることが無い
何人かまとまって客が来ることなどがあるとその忙しさは加速する
だがこの店自体がそこまで食事を重点に置いた店ではないのか、どちらかと言えば歩き疲れた参加者が休憩の意味も込めて入店する方が多い
こうなってくると昼食など食事に重きを置いている店の担当者は不憫だ
それこそ火をつけられたかのように慌てふためいているだろう
「お待たせしました、ごゆっくりどうぞ」
「ねえ君いくつ?ずいぶんちっちゃいね」
中にはこうやって話しかけてくる客もおり、明利もそれに軽く十六ですよと答えてお辞儀をしてからその場から離れようとする
「もうちょっとはなそうよ、可愛いから追加注文しちゃおうかな」
「え・・・あ、あの・・・」
「ハーイお客様、この店おさわり禁止でーす」
明利が困っているのを見かけたのか、鏡花が即座に割って入って客の手を掴んで軽くつねる
客は不満そうな顔をして抗議しようとしているが、一瞬鏡花が殺気と最高に不機嫌そうな表情を向けるとそのまま何も言えずに黙ってしまった
彼ら無能力者は、今この場で接客している全員が能力者であることを知っているのだ
強く出れば自分たちの身が危ない、そこまでして関わり合いたいような欲も無いようだった
誤字報告10回、お気に入り登録1600人突破、総合累計pv6,000,000突破
合計五回分のまとめて投稿です
さすがに五回分は初めてでびっくりしています
これからもお楽しみいただければ幸いです