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J/53  作者: 池金啓太
十五話「未来へ続く現在に圧し掛かる過去の想い」
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初めての接客

「で?どうよ私たちの制服姿は」


鏡花と明利が並んで静希と陽太の前に立って感想を求める


鏡花は堂々と胸を張っているが、明利は少し恥ずかしいのか鏡花の後ろに隠れようとしては前に引きずられるように出されていた


淡いピンクと白を基調としたウェイトレスの恰好で、フリルと少し短いスカートが印象的である


鏡花は胸部が特に強調され、明利はその持前の身長の低さから本気で小学生と間違えられそうな容姿である


「・・・あれだな、学校の制服だと普通に思えるけど、そういうの着てると・・・」


「あぁ、なんか犯罪チックだな、いろんな意味で」


「・・・それって絶対褒めてないわよね」


目の前の女子二人を見比べると、その意味合いは大きく変わってくる


鏡花はそのプロポーションから、いかがわしい意味でとらえられそうだ


見る人が見たらどこかの風俗店勤務の人だと勘違いしてもおかしくない


逆に明利はその小ささから働かせてはいけない年齢の人間を無理やり働かせているように思えてしまう


似合っていることは似合っているのだが、似合いすぎて危険なにおいがしてしまうのだ


「まったく、うちの男子は褒めることを知らないのかしら」


「いやいや、似合ってるって、二人とも可愛いぞ」


静希の言葉に明利は顔を赤くし、鏡花は少しだけ意外そうな表情をしていた


まさか静希の口から可愛いなどと言う言葉が出てくるとは思わなかったようだ


「・・・なんかあんたの口から普通の褒め言葉が出ると・・・裏がないか疑っちゃうわね」


「おいおい、素直に褒めたら疑われるってどういうこったよ」


静希からすれば思ったことをそのまま言ったつもりなのだ


皮肉を込めて褒めれば呆れられ、素直に褒めれば疑われる


これでは褒めるときにどうすればいいのかわかったものではない


「でもよ、明利はまぁいいけど、鏡花のそれサイズあってねえんじゃねえの?特に胸」


「・・・あんたにデリカシーってものを期待する方が間違いだってことはわかってるけどさ・・・もうちょっと言葉を選べないわけ?」


陽太の言葉にもはや鏡花は怒りを通り越して呆れることしかできない


だが陽太のいう事も一理ある


明利の制服のサイズはよく見つかったものだと言わんばかりの極小サイズ、小学生でも着ることのできるようなものでピッタリその小さな体を包んでいる


対して鏡花の制服は背のサイズ的には適正なのだろうが、僅かに胸の部分がきついのだろうか、ゆとりがないように見える


鏡花は静希の知る中で雪奈に次いで胸のサイズが大きい、そうなると持ってきた制服では多少布地が足りなかったのだろう


「マニアックなおじさまがやってきてくれそうな格好になってるな、さすがになんとかしたほうがいいんじゃないか?」


「・・・そうね、ボタンが飛んでもバカらしいし」


鏡花がそういうと自分の制服に手を当てて能力を発動する


布地全体の体積などは変えることはできないが、フリルやリボンの余計な部分を集めることで胸部の布地を一時的に増やし、ゆとりを作る


本当に鏡花の変換能力は便利だなと思いながら問題を即時に解決してしまうその対応力に静希達は感心するしかない


「あんたらの方の準備はいいの?私たちはもう準備はやることないけど」


「あぁ、もう準備は終わってるよ・・・っていっても俺らも茶入れたり冷蔵庫から商品出すくらいしかやることないけどな」


接客と裏方ではやることがまったく違うとはいえ、すでに一般公開の開始を待つばかり


そんなことを話していると、短いハウリングと共にあたり一帯に音声での放送が始まる


どうやら一般公開の開始の放送のようだった


教員と関係者、そして校長の話を終え、そのままイベント開始の宣誓がなされる


マスコミに向けての教員の発表や、校内放送での一般公開開始の合図とともに、僅かに辺りが騒がしくなっていた


どうやら一般人がいくらか入ってきたようだが、それほど騒ぎが大きくなるということもなく進んでいるところを見ると大した人数はいないようだ


窓から見える風景としては、特に変わった様子は見られない


いつもの学校の風景だが、時折スーツ姿、あるいは軍服に身を包んだ人物が通過している


午前中で、まだ九時になるかならないかという時間だ、こんな時間にやってくるのは国家組織の関係者くらいのものである


まずは普通に授業を行っている各クラスへ向かっているのだろう、静希達の担当している店のあるほうへやってきている人物はほとんどいない


いくらやる気があっても客が来なければ接客業は何の意味もない


時間が時間のため仕方がないと言えるが、どうしたってこの空白はやりきれない


ただのんびりしようにも、サボるわけにもいかず、近くのテーブルクロスのしわを直したり、メニュー表を見やすい位置にもっていったりするが、それ以外にやることが無い


「・・・暇ね」


「そうだね」


接客を担当し、この店の制服を着ている鏡花と明利


裏方の静希達はまだ表から見えない位置にいるために多少楽ができるが、表で客に見られる二人を含めたウェイトレスたちはそうもいかない


入り口で待機する者、備品をチェックする者、ただ立って客が来るのを待っている者、それぞれであるが、接客業というものをそもそもやったことが無い二人にとってこの何もやることのない時間はかなり強い苦痛となっていた



そんな時間をただ無駄にしているのではないかと思える空白の勤務を続けること約一時間、何度か中を確認してようやく客第一号、いや同時に第二号もやって来たようだった


二人組で軍服を着た男女は店内を見渡しながら視線を上下左右に動かしている


「いらっしゃいませ、二名様ですね、こちらへどうぞ」


「・・・うわぁ・・・可愛い・・・」


明利がまずはテーブルまで案内すると女性の軍人がつい声を漏らした


褒められたことで少しはにかみながら二人をテーブルまで引率し、お冷を出してメニューを見せる


「あー・・・結構いろんなのがあるんだな・・・」


男性軍人がメニューを見ながら悩んでいると、女性軍人がたしなめるように軽く睨んで見せた


その態度にわかってるよと苦笑いしながら近くにいる明利に目を向ける


「あの、この店に五十嵐静希君がいると思ったんだけど、今いるかな?」


「え?静希君・・・ですか?」


静希の名が出たことで明利と仕事がちゃんとできるかハラハラしながら見ていた鏡花はわずかに警戒度を高める


静希と明利は多少軍人とのかかわりがある


鳥海の部隊で夏休みの間ひとしきり訓練をこなし、今も週末には射撃訓練を行っているのだ、軍人が彼の名前を出してもおかしくないが、この店に来て名指しで呼び出しとなると多少何かあるのではないかと勘繰ってしまう


「先輩からここにいるって聞いたんだけど・・・ちょっと呼んできてくれるかな?あ、私チーズケーキと季節のタルトとロイヤルミルクティーで」


女性軍人からの注文に明利はメモを取りながらもう一人の男性軍人からも注文を受けて裏へと向かっていく


「あの・・・静希君」


「お、なんだ初のオーダーか?」


表の様子を確認はしていなかったのか、陽太と備品整理を行っていた静希が振り返る


明利は静希の近くに駆け寄ってオーダーの紙を渡すと同時に耳に口を近づけようと背伸びをする


だが当然のように届かないため静希が姿勢を落とすと小さな声で話しかけてきた


「表に軍人さんが二人、男の人と女の人、静希君を呼んでくれって」


「・・・へぇ・・・んじゃちょっと行ってきますか・・・ついでに表の鏡花呼んできてくれ、この制服のまま表に出るのはまずいだろ」


メニューの商品を取り出しながら自分の着ている学校の制服を軽く触る


せっかく表にいる女子たちがウェイトレスの格好になっているのに自分だけ学校の制服では景観を損ねる


ここは鏡花の能力に期待しよう


「なに?あの人たちあんたの知り合い?それとも面倒事?」


「どっちかね?まぁあれだ、ちょっと服を変えてほしいんだ、ウェイター風に頼む」


「まぁいいけど、後で元に戻すのも面倒なんだからね」


鏡花の能力を発動し、色合いと形を少しだけ変化させられた制服は、黒と白を基調にした執事服にも似た給仕の服装へと変わる


これなら外に出ても問題ないだろう


注文の商品をトレイに乗せて、まだ客が二人しかいない店内を見ると静希はその軍人の姿を目にした


「あれ?大野さん、小岩さん」


品物をもって二人の近くにやってくると、静希はわずかに目を見開いた


そう、その二人は静希が八月にイギリスに向かった際に一緒に行動していた町崎の部下、大野と小岩だったのだ


「やぁ久しぶり、元気そうで何よりだよ」


「うわぁ美味しそうね、ねぇ、さっきの子知り合い?」


テーブルの上に商品を置くと、二人は軽く口に運びながら静希に視線を向けた


「あの・・・お二方何しに来たんです?」


この二人がいるということが不自然というわけではないが、わざわざここにやってくることに何の意味もないかと言われると、絶対にそれはないと否定できる


普通の授業中の教室に行くならまだしも、静希のいる場所にこうして足を運んでいるのだ、何かしらの用があるとみるべきである


「んー、まぁあれだよ、うちの上司からの命令でもあるんだ、活きのいい新人を探してくるようにってね」


「そのついでに、先輩からこの場所聞いたの、一応挨拶位しておこうかと思って」


二人の言葉に静希は納得してしまう


要するにこの二人は、町崎からの命令で現在学生でありながらも優秀な生徒を引き抜きやすくするために粉をかけにやってきたのだ


政府関係の人間、およびマスコミなどは普通の能力者の授業風景などを重点に置いて見て回るだろうが、委員会、そして軍や国家公務に属している職業の人間は優秀な人間を探して回る


つまり、本来この一般公開の本質ではない店の手伝いなどに従事している生徒を見て回っているのだろう


一応は仕事で来ているんだからねと付け足しているが、洋菓子を口に含んだ状態でそんなことを言われても全く説得力がない


この二人はこの二人でこの一般公開を楽しんでいるのだろう


新しい人材の発掘などと言っても、それこそこういった場所では実力など見れるはずもない、だからこそ自分たちの属している組織に興味があるか無いかを確認する程度の物だろうなと静希は納得した


継続して予約投稿


年末年始は地味にやることがあって忙しそうです、一応一月五日くらいまで予約投稿する予定ですのでご了承ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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