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J/53  作者: 池金啓太
十四話「狂気の御手と決別の傷」
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その髪の向こうに

「わかった、私が何で前原さんの求婚を断ったか・・・その理由を話す・・・」


その言葉に静希達は少し居心地が悪くなる


なにせこれは本当に自分たちは関係のない話、城島と前原の話だ


まったく関係のない自分たちが聞いていいものか少し迷ってしまう


「あの・・・俺ら席外してましょうか?」


「いや、このまま聞いておけ、同じことを二度話すのは手間だ」


そういって城島は自分の前髪を髪留を使って器用にセットし、額が露出するようにする


「これが、私が求婚を断った理由だ」


それを見て、静希達は一瞬息をのんだ


城島の額、見るのは初めてだった


彼女の瞳を前髪越しでない状態で見るのも初めてだったが、いつも隠されていた額にあるそれを見て、僅かに息を止めた


そこには、巨大な傷があった


ただの傷ではない、切り傷というものですらない


まるで骨の近くまで抉ったかのような、荒々しい傷跡


一体何をどうしたらそんな傷ができるのか、額の中心部にあるその傷はかなり深いところまでその跡をつけていて、赤黒く変色したその痕は痛々しさを物語っている


「その傷が・・・理由ですか?」


傷、顔の傷は女性にとってかなりの痛手となる


擦り傷程度ならば問題ないかもしれないが、ここまで大きければそれこそ城島のように何かで隠さなければかなり目立つものになってしまう


以前城島が、前髪で隠さないと相手が怖がるということを言っていた


なるほど、こんな傷があり、なおかつこれほど鋭い瞳を持つ女性に見られれば怖がるのも無理はない話だ


城島自身この傷を見せることはあまり好きではないのか、眉間にしわを寄せてつらそうにしている


「傷くらいだったら俺らだって結構ありますよ、俺なんて左腕ないわけですし」


静希があっけらかんと自分の左腕の義手を着けたり外したりしているが、城島は首を横に振って見せた


「この傷が理由というわけではない・・・これは理由の一つだ・・・ただ、これを見せたほうが説明が楽というだけだ」


傷が原因ではない


では一体どういうことなのだろうか


話によれば城島は自分が汚れているという言葉を使ったそうだが、傷程度なら汚れているということにはならないのではないだろうか


「・・・美紀さん、傷が原因じゃないなら、どうして・・・」


「・・・ある意味、この場にこいつらがいたのは都合がよかったのかもしれませんね」


憂いを含んだ瞳で静希達の顔を見渡すと、城島は決心を固めたのか、手をわずかに強く握る


「姉ちゃん、大丈夫か?」


城島弟聡は事情をすべて知っているのだろう、少し顔色が悪くなっている城島を気遣っている


これは多分だが、城島の家庭の話だ


それなりの複雑な家庭事情があると、結婚などが難しくなるというのは聞いたことがある


恐らく城島の家庭はそれに当てはまるのだろう


「まず・・・こいつのことから話そうか」


そういって城島は弟の頭を軽くつかんでぐりぐりと力強くなで始める


「こいつは私の弟だが・・・簡単に言えば異母兄弟だ・・・私の父の再婚相手との間に生まれた子でな」


「あー・・・先生の親ってバツイチですか」


つまり城島が生まれた後、彼女の両親が離婚し、父親についていった城島、そして父の再婚相手との間に生まれたのがこの聡というわけだ


なるほど、歳が離れているのも納得である


「いまどき離婚再婚なんて珍しくもありませんよ、その程度じゃ僕は」


前原の言葉を制止して城島はわずかに首を横に振る


「ただの家庭なら良かった・・・こいつは問題ありませんが・・・私の血は汚れている、吐き気がするほどに」


城島の言葉に、静希達も、そして前原もその言葉の意図を理解できずに首をかしげてしまった


一体城島の家庭に何があったのか、理解できないのだ


「私の母親は、私が五歳になる前に、私と父を捨てていきましてね・・・この傷は、その数年後に自分でつけたものです」


自分の額にある傷を指さして言うその顔は、僅かに笑みを含んでいた

自嘲しているのか、それとも懐かしんでいるのか


どちらにせよ、痛々しい、そして弱弱しい笑みだった


なにより、この大きな傷を自分でつけたというのが信じられなかった


しかも五歳になる前あたりから数年後ということは、少なくとも小学生くらいの年にこれを行ったことになる


自分の体を傷つけてしまうという症状は精神病などではよくある、名を自傷癖というものだが、それはあくまで自分の爪や歯で体を傷つけるというもの

だが、城島の額の傷はもはや自傷癖というレベルを超えている


「私のこの傷痕・・・これは訣別の証でもある・・・あの女と、そしてその周りの連中との・・・」


そこまで言って城島はいったん言葉を切って、深くため息をついた


「この傷のあった場所には・・・角があったんだ」


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