意外な事実
尾行する対象、というより尾行仲間が増えたことで静希達はどうしたものかと悩み始めていた
ただデートのあとをつけるだけなら話は簡単だったのだが、目標の後ろにさらにもう一人後をつけていると思われる少年が現れたことで状況が少し変わった
彼は一体誰だろうか、何故城島を尾行するのか、何が目的なのだろうか
考えても答えが出ないだけに、非常に反応に困ってしまう
しかもその少年の隠れる技術はそこまで高くないようで、軍から指導を受けた静希としてはかなりやきもきするようだった
そこに隠れたらばれるだの、もっと身をかがめろだの、もはや城島ではなく少年の方に注意が向いているように見える
そして今までは偶然かとも思ったのだが、少しの間尾行を継続することであの少年も城島達を尾行していることがほぼ確定的となってきた
一体どちらを目的として尾行しているのかは定かではないが、このままあの少年に単独行動されてはいつばれてもおかしくない状況になってきた
「ねぇ静希、あの子何とかしたほうがいいんじゃない?」
「そうだな・・・さすがにあれはひどい・・・もう何回かばれそうになってるしな・・・」
一定距離を保ったまま後姿を見守る四人としては、その初々しさというか未熟さが非常にいたたまれないのだ
「仕方ない・・・ちょっと引っ張ってくる・・・城島先生に気づかれそうになったら携帯鳴らしてくれ」
静希が慣れた体捌きで障害物から障害物へ身をひそめながら少年のすぐ後ろまであっという間に近づく
そして少年が動こうとするその前に首根っこを掴んで城島の死角となる建物の影へと強引に引き入れる
「騒ぐなよ?今騒ぐと前の二人に見つかる」
とっさに口を押えて後方にいる三人に視線を送ると城島達には見えないように手でサインを送り問題ないことを教えてこちらへとやってくる
とりあえずばれずに接触できたことを喜ぶべきか、面倒事になりそうな少年を引き入れてしまったことを悔やむべきか
それでも任務成功のためには仕方のないことだ
「ぷは!・・・あ、あんた一体何なんです!?いきなり」
「静かに、俺らも君と同じく前の二人を尾行してるんだよ、あまりに動きが酷かったから注意しに来たんだ」
「・・・俺ら・・・?」
そういいながら物陰から鏡だけ出して城島達の様子を確認する
すると案の定、先程少年が隠れていた箇所を遠目から確認しているようだった
さすがにここまで長く尾行を続けてまったく気づかれないというのは都合がよすぎるか
殺気など強い感情は含めていないが、人の視線とは独特の粘質をもった感覚となって相手に伝わる
熟練の能力者の城島が今まで気づかなかったのが奇跡と言えるかもしれない
「ったくもう静希、もう少し優しくできなかったわけ?あれじゃ誘拐と間違えられるわよ」
「ごめんね、大丈夫だった?」
「おい、奴さん移動するぞ、話は動きながらでいいだろ」
三人が静希と少年のところに合流したところで、再び尾行が開始される
一体全体何が起こっているのか少年も理解できないが、とりあえずこのやたら精練された動きで前二人を尾行する四人についていくことに決めたらしくゆっくりと足を動かしていた
「・・・あんたらもあの二人を追っかけてるんだ」
「あぁ、片方がいつも世話になってる人でな・・・まさかこんな状況に出くわすとは思ってなかったけど」
少年の表情から察するに、どうやら静希達が自分に害を与える存在ではないことは理解したようだが、一体どういう目的で前二人を追っているのか、目的が不明であるが故に僅かに警戒しているようだった
「あんたら・・・前原さんの知り合い?それとも姉ちゃんの知り合い?」
少年の言葉に、四人の動きが一瞬停止する
止まったのは動きだけではない、四人の思考も一時的に停止していた
今、この少年は何といった?
「・・・悪い少年、一応確認だ・・・君の名前を教えてもらっても構わないか?」
「俺?俺は城島聡」
名字は一緒だ、だがまだわからない、同じ性を持っている人間なんてこの日本にごまんといる、まだ確定はしていない
「も、もう一個確認させて、城島美紀って知ってる?」
必死に事実を否定したくてその言葉を聞いた鏡花だったが、その質問は確定的な反応となって返ってくることとなる
「前にいる前髪長い人でしょ、あれ俺の姉ちゃんだよ」
全員が、雷で撃たれたかのような衝撃に包まれる
城島聡
自分たちの担任教師、城島美紀の弟
そういえば目元が少し似ている、鏡花が見たことがあるかもしれないと言ったのはここだったのだ、言われてみれば細部は意外と共通点が多い
だがそれ以上に、城島に弟が、しかもこんなに幼い弟がいるとは思わなかった、その為に全員は驚愕を一つ越えたような表情をしている
「え!?っちょ!?マジか?!え?マジで城島先生の弟さん!?」
「あ、やっぱ姉ちゃんの知り合いだったんだ・・・先生ってことは、専門学校の生徒さん?」
「ごめん待って、少し待って、え!?君いくつ?何年生?!」
「俺?今年小6、来年から中学生」
足を止めて今はまず目の前の少年の事柄を問い詰めることにした静希達
まさかの小学生の弟がいるという事実に静希達は鈍器で頭を殴られたような衝撃に包まれた
今まで城島に対しては非常に多くお世話になってきたが、そういえば本当に彼女のプライベートは知らなかったなと再認識する
まさかこんなに歳の離れた弟さんがいるとは思ってもみなかったのだ
そういえば城島の正確な年齢も静希達は知らないのだと、思い返すたびに何も知らないことを実感して目の前の城島弟をまじまじと見つめる
「え?ちなみに君も能力者?」
「いや、俺は無能力者だよ・・・能力持ちは姉ちゃんだけ、親も無能力者だし・・・」
一体どういう教育をすればあのような人格が形成されるのか少し気になったが、今は疑問よりも衝撃の方が大きい
先生のデートの現場に出くわしたかと思えば、その弟と遭遇することになるとは思わなんだ
「ところで、さっきの前原さんって誰?」
「姉ちゃんと一緒に歩いてる男の人だよ、ほらあの人」
少年が二人が見える場所にこっそり移動して指をさすと、その先には城島の隣で朗らかに笑う男性がいる
なるほど、相手の名前は前原というのか、などと状況を判断する材料が増えたところでこの衝撃は覆せない
というかもはや先生のデートとかすべてがどうでもよくなるような衝撃的事実だった
「ごめんちょっと待って理解が追い付かない・・・!ていうか君は何であの二人追いかけてるの?」
「いや・・・その・・・姉ちゃん不器用だからさ、ちゃんとデートできるか心配で」
この反応に全員が「お・・・おおぅ」という何とも言い難い表情をしてしまう
小学校六年生に心配される社会人女性
何とも奇妙な絵面だが、相手が城島だということを考えるとなぜか納得できてしまう
「弟として姉が心配っていうのもどうなのよ、姉がいる二人」
静希と陽太に向けられた鏡花の言葉に、二人は少し考えるが、同時に首をかしげてしまう
何せこの二人にいる姉もかなり特殊だ
かたや戦闘以外はダメダメな切り裂き姉貴分
かたや肝心な時にしょうもないミスをすること以外はほぼ完璧な超人姉貴
この二人に対してこういう事柄の心配をするかと言われると、どう答えたらいいものか困ってしまうのだ
「ね、ねぇ、城島先生っておうちではどんな感じなのかな?」
「どんなって・・・普通だよ?新聞読んだり俺の買ってきたマンガ読んだり・・・あとチャンネル争いはよくやる、大体俺が勝つけど」
普通だ、いたって普通、それどころか普通以外のところがない
今まで城島のあの性格と仕事態度からもっと浮世絵離れした生活を送っていると思っていたばっかりに、いかにも普通な姉弟の関係を暴露され生徒としてどう反応したらいいものか非常に困惑してしまう
「城島先生って実家暮らしだったんだな・・・てっきり一人暮らししてるかと思ってた」
「姉ちゃんも一人暮らしするって言ったんだけど、うちの親がダメって・・・結婚するまでは家にいろってさ」
なんというか、意外という言葉のオンパレードだ
城島の家族というと、彼女と同じように厳しくもしっかりした人物というイメージが強かった
だが目の前にいる少年や、彼から聞く家族の話を聞く限り普通以上の何物でもない家庭が垣間見える
一体何があって彼女はあんな性格になったのか逐一質問したいところだ
「ねえ、ひょっとしてだけどさ、君以外に姉弟っているの?」
「ううん、うちは俺と姉ちゃんだけ、妹とか弟もほしいんだけどさ・・・」
さすがにさらに増える姉弟事情は避けられたが、どちらにしろ静希達は驚きに驚いた
城島がデートをしているという事実もそうだが、まさか弟がいたとは
そして彼から聞ける話がさらに意外を煮詰めたようなものばかり
今まで自分たちは城島という人物をひどく誤解していたのではないかとさえ思えてしまう
「じゃあさ、君のご両親っていったい何やってんの?」
「うちの親?普通にサラリーマン・・・を・・・や・・・あぁ・・・!」
城島弟が急に情けない声を上げて静希達の後ろを見上げる
ゆっくりと振り返ると、そこには拳を鳴らしながら鬼の形相をしている、城島美紀の姿がある
その後ろでは少し恥ずかしそうにはにかみながら頬を書いている男性前原もいた
「・・・散開!」
静希の合図で全員バラバラに全力疾走しようとするが、二歩三歩足を踏み出すと同時に静希達の体がわずかに宙に浮いて身動きが取れなくなってしまう
城島の能力による重力操作、この状態になってしまうと静希達はなす術がない
「聡がついてきていると思ったら・・・お前たちまでいるとはな・・・一体全体どういうことか・・・じっくり聞かせてもらおうか?」
先程までの笑みを浮かべていた女性はどこへ行ってしまったのか、怒りを燃やしながら拳を鳴らす彼女を見て、静希達は悟った
これは拳骨をくらうなと
日曜日なので二回分投稿
兄弟がいる人は必ずやる、それが漫画の貸し借りとチャンネル争い
これからもお楽しみいただければ幸いです