自宅から１００m以内で姿が消えた「野村香ちゃん行方不明事件」

野村香さん

１９９１年１０月１日、横浜市旭区本宿町住む会社役員の野村節二さんの二女香さんが自宅付近の書道教室へ向かったまま行方不明になった。香さんは午後２時半頃学校から帰宅した。母親の郁子さんはパートに出て、家には誰もいなかった。ひとつ違いの香ちゃんの姉が帰宅し、３時半にエレクトーン教室に出かける際には、香ちゃんはひとりで宿題をしていた。

香ちゃんは毎週火曜日に、自宅から約５４０m離れた書道教室（午後１６時から１７時まで）に通っており、この日は教室に通う日であった。朝から降り止まぬ雨のため、香ちゃんが青と白のチェックの傘を持ち、ピンクに白の縁どりが入ったゴム長靴を履いて、書道の道具が入ったキティちゃんの赤い手提げバックを持って家を出たのは、１５時５０分頃と見みられている。

香ちゃんは家の鍵を持っており、いつものようにパートを終えた郁子さんが１７時に帰宅したときは、玄関の鍵はしっかりかかっていた。『もうすぐ帰って来るだろう』と思ってて気にも止めず、郁子さんは近くのスーパーに買い物に出て、戻ったのは午後１８時半頃だったが、香ちゃんが戻っていなかったことから、書道教室に電話を入れると「もう誰もいません」という返事だった。

そこで、郁子さんが香ちゃんと一緒に通っている友だちに電話をすると「今日は教室に来なかった」と言う。郁子さんは『習字をサボってほかの友だちと遊んでいるのかもしれない』と思い、心当たりの家に電話をしたが、誰も知らないという。今度は『交通事故にでも遭ったのではないか』と心配になり、教室までの道を念入りに捜したが、香ちゃんの姿は見当たらなかった。

香さんの行方不明を受けて、野村家が小学校に連絡を入れる一方、神奈川県警旭署に通報したのは２０時３０分頃であった。通報を受けた警察が直ちに付近の聞き込み捜査を実施したが、怪しい車や人物などの目撃情報はなかった。また、警察が聞き取り調査を行ったが、家族や学校関係者の話から、香さんが家出をする理由はまったく見当たらなかった。

当時、節二さんは行方不明後の１か月間、『もし誘拐されたのなら犯人から接触があるはず』と会社を休み電話を待った。郁子さんも家にこもった。『もしかしたら、事情を知る人物が客を装って様子を見に来るかもしれない』と考えたからだ。玄関にボイスレコーダーとノートを用意し、宅配業者など自宅を訪れた人とのやりとりをつぶさに記録する生活を数年続けた。

事件から１０年が経過し、在籍していた小学校の保護者と教職員で作った「香ちゃんをさがす会」は「長期化して申し訳ない」との両親の思いを受けて解散。さらに１０年が経過し、節二さんは定年を迎え、祖父母は亡くなった。姉の梢さんは子供に関わる仕事をしている。街も当時とは様変わりした。新しい住宅が並び、書道教室だった場所はある商店になった。

情報提供を求める中学生

事件から２７年後の２０１８年１０月５日には、香ちゃんが進学予定だった市立本宿中学校の生徒２０人が相鉄線二俣川駅と鶴ケ峰駅で事件の解決につながる情報提供を求めた。だが、有力な手掛かりを得られず、事故なのか、誘拐なのか、それすら分からない。忸怩たる思いで年月を重ねつつも、両親は「若い人たちが手を貸してくれるのが希望」という。

ちなみに、本事件は２００５年９月１６日に放送されたスーパーフライデー 「人はなぜ突然消えた“ザ・神隠し”ナゾの失踪者を追え」で取り上げられた。２０１１年１２月２日放送のＮＨＫで放送された「未解決事件４　娘の帰りを待ち続ける両親」でも紹介された。警察は香さんが書道教室に向かっている最中の大通りに出るまでに何者かに誘拐されたと見ている。