室長「くふふ~。先生とレイヴンちゃんがゲヘナとトリニティに応援を依頼しに行くんだって!賑やかになりそうじゃなーい?」
課長「はぁ…私達にも声が掛かったけど、風紀委員の奴らと鉢合わせないよう万が一に備えないとね」
社員「あ、あの。み、皆さんにはレイヴンさんの様子を伺って下さい、との事、です。よ、宜しくお願いします」
※今回ちょっと長めです
ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
わたしが わるい です。
てを のばせば。あしが うごけば とどいた のに。
あかく そまる あのひと
たすけれ なかった。たすけ なかった。
わたしが、
わたしが。
わたし が。
―――
◆◇◆◇◆
-シャーレサイド-
”…ん……ちゃん…オンちゃん!?”
オンちゃんの背を押しながら建物を出た直後。部屋を出た時から呆けていた様子だったオンちゃんが、頭を抱えて立ち止まってしまった。
背中を丸めて、焦点が合わなくなった目を限界まで見開いたその様子は尋常じゃない。
ガタガタと身体を震わせて、口はパクパクと開閉して何かを呟いている。
ぶわりと体毛は逆立ち、冷や汗がだらだらと滴り落ちていた。
一体何があったのか。何を見ているのか。…付き合いの短い私には分らないのが歯痒い。
”オペレータさん、オンちゃんの様子がおかしいの!何か知らない!?”
オンちゃんの身に着ける通信端末に恐らく繋がっているであろう、
しかし彼女(彼?)もまた、この状況でパニックに陥ってしまったみたいだ。
『そんな、レイヴン…違うんです。あなたは悪くないのに…!』
端末から聞こえる合成音声はやはりオンちゃんしか見えてない様子で、私の呼び掛けに気付く事はない。
頼れるスーパーOS、アロナもタブレット画面内で「あわわ」と慌てている。可愛い…じゃなくて!
”(名前を呼びながら、身体を優しく抱き締める)”
オンちゃんの身体をいつかのように、心音が聞こえるよう胸に顔を埋めさせて抱擁する。
いつもと違い、まるで風邪を引いたように酷く体温が高い。
一瞬火傷するかと思う程だったけど、それで尻込みしている場合じゃない。
背中を毛並みに沿って梳きながら、もう片方では背中を優しくポンポンと軽く叩く。
オンちゃんが何に困っているのか。何を怖がり、恐れているのかはわからないけど。
ここには私が居る。一人じゃない。オペレータさんも心配してくれている。
兎に角、安心できるように他人の体温と心音を感じさせながら、貴方の傍にいるよと気付く様に背中を優しく叩き続ける。
”オンちゃん。オペレータさんは一緒に居るよ。私もここに居る”
獣耳の元で囁く様に呼びかけ続け、居る事を伝え続けていると、ブレていた目の焦点が徐々に合いだす。
熱が下がると共に身体の震えも小さくなっていき、立ち尽くすだけだった姿勢が頼るように寄りかかってくる。
そうなって初めて、オンちゃんの尻尾と翼が私にしがみ付く様にきつく抱き締めていた痛みに気付いた。
どうやら私も混乱していたみたいね。ちょっと羽の骨が当たって痛いけど、役得…何て考えるのは不謹慎だよね。
◆◇◆◇◆
あたたかい なにか が。
やわらかな、かんしょくがして。
落ち着く匂いが香る、誰かの気配がする。
――あれ、私は何をしていたんだったっけ?
『【…っ、レイヴン!意識が戻ったのですね】』
交信と通信機からエアの焦る声が聞こえる。戻ったってどういう事だろうか。
何の事かと思っていたが、誰かに抱き締められている事に気付く。
この匂いと感触は、先生の筈。また
もぞもぞと身体を動かすと、私の動きに気付いて先生が顔を覗き込んでくる。
”オンちゃん、大丈夫?”
心配そうな表情と声色で聞いてくるが、どういう事だろうか。
もしかしてまた疲労で倒れる寸前だったのか。うーん、コンディションは問題ない筈なのだけれど。
先生の胸の間に挟まりながら頷くと、ゆっくりと抱擁から解放される。
解放後に身体の様子を確認したら、何故か汗を掻いていたので軽く手の甲で拭う。本当に何で?
首を傾げていると、様子を見ていた先生が困ったような顔をしていた。
『シャーレ…ありがとうございます。そしてすみません、理由についてはまたの機会に…』
”…うん。わかったよ。それじゃ、帰ろっか”
『重ねて感謝します。レイヴン、帰りましょう』
エアが先生へ向けてお礼と謝罪する。先生も了承して、この場を後にしようと促した。
私が呆けている間に何かあったのだろうか?
その後先生は何故か背中を擦っていたし、硬い声色のエアも何があったかは教えてはくれなかった。何で?
その後、アビドス高等学校に戻る先生と翌日合流する約束をし、私は別れて医療施設へと戻った。
翌朝検査も受けたが、驚異的な回復力で驚かれた。…多少のケガなら
堂々と退院許可――様子見を勧められたが当然スルーした――を得て、先生と合流する。
協力者を得るため、まずはゲヘナ学園へと来た。
便利屋の皆さんにはすでにエアが手を回したらしい。相変わらず仕事が早くて頼りになる。
流石エアだと賞賛したけれど、反応はいま一つだった。表現がシンプルすぎたろうか。
そんな事を考えながら、ゲヘナ学園内の風紀委員会のある建物へと来た。
来る最中に先生と私の連名で連絡はしておいたが、私達の前に立ち塞がる影が一つ。
「はぁ?風紀委員長に会いたい?多忙な風紀委員長に、連絡一本程度で会えるとでも思っているのか?」
灰紫色のヘイローに銀髪を長髪を黒のリボンで左右に結わえ、睨み付けて来る吊り上がった赤い目に尖った耳。
紅い腕章には白い字で"風紀"と書かれ、白いシャツにはピンで黒のネクタイが止められている。
黒のスカートと同色のハイソックス、黒のブーツの間から褐色の肌をした足が見えていた。
黒の手袋を付けた手に構えるスナイパーライフルで、肩を苛立たし気に叩く女性。
【
エアからの情報も聞いて思い出す。アビドスに便利屋の皆さんを追ってきた事もあったっけ。
ゲヘナで依頼を受ける時は殆どヒナさんから
たまにアコさんとのやりとりもあったけれど、大体
私が記憶を振り返っていると、取次をお願いしていた先生から私の方へ彼女が視線を向ける。
少し考える仕草をした後、イオリさんは口端を釣り上げた。
「…そうだな。じゃぁ土下座して私の足でも舐めたら考えなくもないぞ?」
【は?】
彼女の提案にエアが冷たい声で交信してくる。しかし少し待っていてほしい。
私が先生の方を見ると、先生も私の方を振り返っていた。
うん。問題ない。
頷いて見せると先生も頷き返したので、即座に行動に移す。
私が近場にあった椅子を取り、イオリさんの後方に設置。先生が椅子を示して座らせる。
不思議そうにしていた彼女が座った直後、私は跪いてイオリさんの足に取り付き、ブーツの紐を緩めてソックスとまとめて脱がせる。
脱がせた瞬間に先生が足を掴むと、迷いなく二人同時にイオリさんの足を舐めた。
「ひゃんっ!?」
大声を上げて驚くイオリさんだったが、私達は構わず舐め続ける。
この程度、ルビコンに来る前にも経験済みだ。
むしろキレイにしている分、舐め易いまである。
いや本当、汚れも肌の荒れもない綺麗な足である。楽。
「ちょっ、考えるってだけでまだ通す何て…んっ!ちょっと!?」
どうやら片足だけでは足りないらしい。指の間を舐めるのを止めてもう片方へと取り掛かる。
同様の手順でブーツを脱がせて舐める。こっちも綺麗な物である。
エアが静かになったと思いながら舐めていたが、どうやら
目をパチパチ開け閉めしているように、波形が明滅していた。
「お、お前ら!大人の矜持とか、
”そんなものはパージした。一時の時間すら惜しいんだ”
先生が舐めるのを一時的に止め、イオリさんを見上げて答える。
私の場合はそんなもの、<
あれはあれで畑の肥料になるし、
余談として、それより役に立たないと評価されたのが
独学で生き残るのも精一杯であったし、
「だからって躊躇なくするか普通!しかも妙に手慣れた連携なのは何で!?」
イオリさんが絶叫するように尋ねて来る。
言われてみれば確かに、経験済みの私はともかく先生が手慣れているのは何故だろうか。
先生を見れば意味深に、穏やかな笑みを浮かべていた。…すぐに舐める事に戻っていったが。
「こんなド変態コンビに――」
「何だか楽しそうね?」
扉の開く音と共にヒナさんの声が割り込んでくる。
イオリさんの足に口を付けたまま目線を上げれば、建物からヒナさんが出て来る所だった。
彼女を振り返るイオリさんの顔から、血の気が引いていくのも一緒に見える。
「い、委員長…?」
「…命乞いや許しを得る為に跪く生徒達や、欲望に塗れた人々なら今まで何度も見て来た。でも、這い蹲ってでも生徒を助ける為に動く大人達を見たのは初めて」
ブーツの底を鳴らしながらヒナさんが歩み寄ってくる。
声色からして嫌悪や拒絶する気配はなく、どちらかといえば軽い驚きや呆れた雰囲気を感じる。
私の視線に気づくと、彼女は口端を少し上げて笑みを浮かべた。
「頭を上げて頂戴、先生、レイヴン。そして聞かせて頂戴。私に何を望むの?」
ヒナさんの協力的な言葉に、先生は嬉しそうに笑う。
流石ヒナさん。
今日中にこの後トリニティ総合学園にも行かなきゃいけないから、本当に時間がなくて困っていたのだ。
足は割とおいしかったけど。
そんな事を私は考えていたが、イオリさんがとても言い難そうに口をまた挟んでくる。
アビドスでもそうだったが、彼女は何でも
「いや、その、委員長…この二人は跪いてるんじゃなく、その…足を、ペロペロしてて…」
イオリさんの言葉にヒナさんの表情が訝し気に変わる。
一歩、二歩と立ち位置を変えて、彼女の足元が見えるようになる三歩目。
一瞬状況がわからず止まったヒナさんだったが、私がヨダレを残さないよう舐め上げた感触でイオリさんが声を上げるのに伴い、状況を把握して驚愕に目を見開いた。
「…?…!!??」
…これ以降の説明は止めておこう。
それは、私の
だからエア、そんなに怒らないでほしい。エアもやってほしいなら――違う?違わないの?どっち??
良く分からないが怒り気味なエアのナビゲートを受けつつ、トリニティ総合学園へと辿り着く。
仕事上何度か来たが、ちゃんとしたナビを受けると半分以上も道のりを短縮できた。
何故か毎回、治療施設へと連れ込もうとする
黄色のヘイローに桑色の髪を二つへ下げ、黄色の目と表情は少し戸惑いが見える。
アサルトライフルと逆の肩に背負ったカバンはブラックマーケットで見たオーパーツ(彼女曰く、「ペロロ様」)を模したデザインになっている。
トリニティの制服に白のカーディガンを着込み、黒のタイツと白のスニーカーを履く彼女、
オーパーツを見つけたブラックマーケットにおいて先生達と共に闇銀行を
トリニティのお偉いさんに面識があるそうで、アビドスで先に風紀委員会の皆さんの待機先を確保しに別れた先生の代わりに来た私と共に話をしてくれるらしい。
ゲヘナでペロペロ…足止めを貰った身としては助かる話である。
一応私もトリニティにはツテがあるが、トップに直接話ができるらしいヒフミさんの方が早い。
「…なるほど、御説明有難う御座います。ヒフミさんが仰った事と、そちらのレイヴンさんが届けて下さった『シャーレの先生』からの手紙の件は分かりました」
易そう、と言うか易かった。
ゆっくりとした動きで飲んでいた飲み物(紅茶)を皿に戻し、ヒフミさんからの話を聞いて頷いて見せる女性。
桃色のヘイローと亜麻色の長髪には草花を模したヘアバンドを付け、ルビコンでは見た事がない程の上質な素材で織られたらしいトリニティの制服の胸元には、(ティー)カップを模したバッヂ。
真っ白な鳥の羽に邪魔にならないよう付けた胸のガンベルトにはハンドガンが収まっている。
スカートから覗く黒のタイツと白いハイヒールを履く彼女は
トリニティ総合学園の生徒会、ティーパーティのホスト――最高意思決定者、つまり一番上――の美人さんだ。
こういう動作はエアに聞いたら優雅と言うそうで、私のようなノーマナーな奴はそのハンドガンでご退室願われそうだ。黙っていよう。話せないけど。
「この手紙が本当だとすると、このまま放置する訳には行かなそうです。唯の一企業とはいえ、PMCと言う存在が、確かに我が校の生徒達に良くない影響を及ぼしそうですね」
カップの縁を指でなぞりながら、思案するナギサさん。
しかし、例の条約なる何かしらの為に下手に動けないと(口元だけで)呟いている。
【カイザーPMCは既にトリニティにも幾らか手を伸ばしているようです。被害が顕在化していないのは、生徒側の財力が大きいお陰でまだ破綻していないからのようですね】
エアが交信で教えてくれた情報から、実際にはトリニティにも被害が出ているらしい。
そこをそのまま伝える訳にも手段もないので、私は先生からの手紙の一部分をトントンと指で突いて見せる。
すでにゲヘナ学園の一部、風紀委員会からの協力を得て動いているという一文。
ピクリと片眉を上げ、そこを改めて見たナギサさんは、ヒフミさんからの推しもあり今回は例外として対応してくれると言ってくれた。
エアが言うには対立するゲヘナへの見栄もあるという事みたいだが、有難い話である。助かります。
「あ、ありがとうございます。ナギサ様」
ヒフミさんと共に私も頭を下げる。
ヒフミさんの様子を見てナギサさんは小さく笑みを浮かべた後、私を一瞬見てから彼女へと視線を戻す。
「そうですね…確か、牽引式榴弾砲を扱う野外授業の予定がありましたね。丁度良い機会ですし、ちょっとしたピクニックを兼ねては如何でしょう」
「えっと、牽引式榴弾砲となると、
ヒフミさんが思い返すように兵装の名前を確認する。
あっていたようでナギサさんは頷いて見せ、笑顔を浮かべて見せた。
他ならぬ、ヒフミさんからのお願い事なので任せると言い、
この手厚さと心の広さ、流石は三大学園のトップだ。器が違う。
【いえ。恐らくこれも、ゲヘナへの対抗心でしょう。トリニティはこの位の支援をして上げますよと私達へ暗に伝えているのでは?】
「愛は巡り巡るモノ…ヒフミさんがいつか私に今回のようなラヴを御返ししてくれる事を、楽しみにしてますね。ふふっ」
「あ、あぅ…」
【違いましたね。この方も変態予備軍でしたか】
エアの推察の直後、彼女たちのやり取りを見て判定をひっくり返す。
わざと冗談を言ったんじゃないかな…わざとじゃないのかも…?
ヒフミさんが困ったように(苦)笑うので、否定しきれない。
「それにきっと。いえ間違いなく『シャーレの先生』にも、そちらの独立傭兵『レイヴン』さんに、も…借りを作った方が良さそうですからね」
ナギサさんが私へ視線を寄こしつつ、言葉につっかえながらそう言ってくる。
言葉がつっかえる度に片眉がピクピクと動いていたのは何故だろうか。
彼女の様子に気付き、私を見たヒフミさんが引きつった表情に変わる。
「あの、レイヴンさん…何でそんな飲み方をしてるんです?」
私は出された飲み物を残すのも失礼かと思い、飲んでいるだけだが。
(ティー)カップを両手で支えるように持ち、息を吹きかけながら舌を伸ばして突く様に飲んでいた。
いやだってこのカップ、薄すぎて口を付けたら嚙み砕きそうだし。
しかも掌は大丈夫なのに、舌は火傷しそうなのだ。熱いいやアッツいなコレ!?
そんな私達を眺めながら、こめかみに青筋を浮かべたナギサさんがぼそりと呟く。
「このような方が本当にあの正義実現委員会やシスターフッドを騒がせている、噂の独立傭兵なのでしょうか…?」
【レイヴンは本当に…ハァ】
噂とは、何の話だろうか?
交信でエアは答えてくれる代わりに、溜息を吐いていた。
御閲覧、しおり、ご感想やお気に入り頂きありがとうございます!
皆様のひと時の楽しみになっていましたら、光栄です。
今回、投稿が遅くなり申し訳ございません…仕事の方でメンタルをジリジリ焼かれまして…ア"ッヅゥイ"!今後の数か月において遅れましたら、察して頂けますと幸いです…。
今回も少しずつ、御名前記載をさせて頂きます。
一部時間順ではない場合もありますが御了承の程、お願いします。
(閲覧、しおり、ここすきは御名前が表示されず、感想は今の所個別で返信するため割愛とさせて頂いてます)
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御好評も頂いており、恐縮です…!今もまだお眼鏡に叶うと良いのですが…不安だ…それでも心が躍ります。
友達沢山…うっ、頭が。頼れる何かがあればいいんです。いいんですよきっと!
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