青空の下、猟犬は求め流浪する   作:灰ネズミ

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銃陸 朱「閲覧者に伝達!貴官等の閲覧を受け、ゲマトリアが仲間と観測データの共有を開始した」
銃陸 朱「現場で対処し、それを監視して貰いたい!」

※話数を再採番しました。本話は元26(現27)の続きです


28.理想を語る空論家。或いは本物の大人

だが黒服は先生の動きに対して緩やかに掌を向け、首を横に振るとその動きを抑制した。

 

「…先生。確かに、それは貴女が持つ唯一最大の武器です。しかし、私はそれを使う事による危険も薄っすらとですが察しています」

 

黒服は先程とは違って言葉を選ぶように話す。

それは先生の出そうとしたものが持つ力か、またはそれそのものをどこか恐れているようだった。

 

「使えば使う程、その危険性は指数関数的に増加(・・・・・・・・)していく筈です。貴女を巻き込む形で」

 

故にそのカードを大々的に使うのはなるべく控えるよう、黒服は求めて来た。

それはまるで忠告するかのようでもあった。

先生にも先生の守るべき世界がある筈で、共に食事し、随行し、御気に入りのグッズ(ブラシやオヤツ)を買う。そう言った日常を手放さないようにと。

…一部、何かおかしい話が混ざった気がする。私の気のせいだろうか。

エアの困ったような(苦笑する)気配を感じながら考えていると、黒服は話を続ける。

 

「是非そうして下さい、先生。それは私達の…いえ、探究や利益にも繋がります。あの子達の情勢(アビドスの苦難)など元々、御二人の知らなかった話。ならば放置しても良いではありませんか」

”断るよ”

 

先生の過ごす日常がゲマトリアの利益になると言う黒服は、対策委員会の皆さんなんて知らない他人なのだから放置して良いとも言う。

それよりも先生が大事だと言っているように、私には何故か聞こえた気がした。

しかし先生は一貫して断って見せた。懐から手を離したが、表情は真剣そのものだ。

 

「…何故?」

 

黒服は呆けたように黙っていたが、疑問の言葉が漏れだす。

それはやがて洪水のように溢れて、机から身を乗り出すと黒服は先生へと問いを投げつけた。

 

「何故?」

「何故?何故?何故?」

「何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?」

「何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?」

【…どうやら、理解できる言動ではなかったようですね】

 

単純な疑問だけを口にする黒服の勢いは、エアも雰囲気に飲まれる程の異様さだった。

目に見える穴も何だか、見開いているような気もする。

暫く疑問をぶつけてきた黒服だったが、額に手を当て一息入れると首を横に振って落ち着かせる。

 

「理解できません。その御心は一体?あの子達はレイヴンさんのように、獣要素など(もふけもでも)ないのにも関わらず?」

 

黒服の問いかけに対して、先生は少し困ったような笑いを浮かべる。

獣要素が大切なのだと黒服は考えていたようだが、そんな事で先生は対応を(大きくは)変えたりしない。

何時だって全力・全心・全速で、学徒達と向き合っている。

 

”あの子達の苦しみに対して、責任を取る人責務を負うべき者が誰も居なかった”

「…何が言いたいのですか?だから貴女がやると?貴女はあの子達の保護者でも、家族でもなく、貴女個人を指名してもいない、『先生』として呼び出しただけの赤の他人です。何故負わずとも良い責任を取ろうとするのですか?」

 

その様はどこか、あの人を思い出させる。

友人達と呼んでいた過去の人々の意思を継ぎ、コーラルを――大金となるソレを、全ての人から嫌われよう(理解されず)とも始末しようとした彼に。

性別も体格も違う先生の背広に、あの人の背中が薄く見えた気がした。

 

”それが、大人のやるべき事で、私が先生としてあるべき姿だから”

 

先生がそう締めくくると、黒服は身動きもせずじっと彼女を見つめていた。

エアも黙ってその様子を見ている。

沈黙と薄暗い闇に包まれた室内は、時折通り抜ける車のライトの反射だけが動いていた。

 

…嗚呼。やはり貴女はそう(・・)なのですね

 

呆れたような、でも感嘆するように。または諦めるような声色で黒服が呟く。

口のようなひび割れを動かさずに漏れた、その小さな声は私だけが聞き取れた。

目のように見える穴は変わっていない筈なのにも拘らず、眩しい物を見たかのように僅かに細められた気がする。

…または、大切な思い出を思い返しているかのように。

 

「…先生。その考えは尊いものです。私も尊敬致します。ですが意見を言わせて頂きます」

 

何かを振り払う様に軽く首を横に振った後、そこから黒服は大人とは何かを語り出した。

望む通りに社会を変え、法則や規則を設け、常識と非常識を決し、平凡と非凡の認識を分ける者。

権力、或いは知識といった力を振い、持たざる者を支配する――それが大人であると言う。

私はそれでも今は、先生には関係の無い話かと考えた。

しかし黒服が言うには、先生はこのキヴォトスの支配者にも成り得たらしい。

キヴォトスにおける全行政を担う、連邦生徒会の行政業務に不可欠であるサンクトゥムタワーの制御権を掌握した時があるのだと。

それは学園都市(キヴォトス全校)における莫大な権力と権限、内包する神秘。

一つの世界が一時的に、先生の手の上にあったらしい。

 

「――しかし貴女はそれを即座に、迷わず手放した。何故、その選択を選んだのですか?」

”…例え説明してもきっと、今の貴方ではわからないと思うよ”

 

説明の後に問われた黒服の質問に対し、今度は理由を答えず推察する先生。

その時の先生の顔は怒ってはいるものの困ったような、悲しさや寂しさが混ざったような表情を浮かべていた。

分かり合えない人は居る。それは性格もであるし、決意した意思でもあるだろう。

私が良い例だ。間違いない。

 

【レイヴン…】

「…残念です。仕方ありませんが、今回は諦めましょう。…代わりにレイヴンさん。ホシノさんが今居る治療場所を教える対価に、貴方の羽か獣毛を少し頂けないでしょうか?」

【レイヴン。駄目です渡してはいけません。この人()唯の変態です】

 

エアが何故か控えめに私の名前を呼ぶ。

何だろうと思ったが、断られて少し落ち込んだように見えていた黒服が、今度は私の羽か毛を求めて来た。

即座に彼女は取引を断るよう言い聞かせて来る。

声色がクイックターンを利かせたように変わったので、私は一瞬混乱した。

先生も黒服を睨んだ(冷たい視線を向けた)が、この程度――ただのゴミだと思うし、何に使うかも分からないが――でホシノさんの居場所を教えてくれるのなら、安いものだ。

体毛を数本引き抜くと、黒服が差し出したオーパーツと思われる容器(古代の電池)に入れて渡す。

蓋を閉めて満足そうに頷いて眺める黒服に、先生が床を踏みつけ足音を立てて話の続きを催促した。

苛立つのもホシノさんが心配なのだろう、と考えていたらエアから否定された。何故?

黒服から取引に対してお礼を言われた後、ホシノさんはアビドス砂漠のPMC基地の中央にある治験所に居ると教えられた。

 

「ミメシス…機会があればいずれ説明しますが、とあるもので観測した神秘の裏側である恐怖。それを意識ある生徒に適用する事ができるか。本来の目的はその実験でしたが…」

 

何故そのような場所に居て貰っているのかを話している最中、黒服は言葉を止めて私に目線を向けた。

確かにアサルトアーマー(コーラルのパルス爆発)を至近距離で発動した(ぶっ放した)戦犯は私である。ごめんなさい。

頭を下げると黒服はいえいえと、気にしないよう手を振った。

今は取引通り、治療に専念して貰っているらしい。治療理由についても説明済み(資料を渡した)らしい。

なので迎えに行くと良いと促された。ホシノさんにも私達が来る事は連絡済みらしい。

…あれ、そういえば元々治療の取引内容って報復しないって話だったような?治療場所や身柄については別件だったって事?

 

「もし彼女(ホシノ)が失敗したらあの狼の神を代わりに、と思ってたのですが…前提が崩れた所か、思わぬ選択肢が現れたものです。クックックッ」

 

私が疑問に思っていると、黒服は気になる事を言って含み笑いをする。

また別に出て来た疑問が気になったが、もう先生は取り合わずに背を向けてしまった。

聞きたい事も聞けたし、身柄を正式にアビドスの皆さんへ返す言質も取れたので、これ以上会話を交わすのも嫌なのだろう。

私の肩にも手を置いて部屋を後にしようとする。

私達の背中へ向けて何故か、黒服が幸運を祈ると言う言葉をかけて来た。社交辞令という奴だろうか。

ならば再教育センターで彼(一緒に送られてたスウィンバーン)に教わった通り、私も頭を下げるべきだったか?

 

「先生。ゲマトリアは貴女の事をずっと見ていますよ」

 

先生は黒服の言葉が聞こえないかのように無視して退室し、最後に扉の締まる瞬間。

 

「そしてレイヴンさん。貴方がどういった火種(・・)になるのか…見届けましょう」

 

扉が閉まる。

同時に私の意識も、現実から締め出された(記憶がフラッシュバックする)

 

「障害を…排除する…」

「621…お前の■■■■■は…」

「そうか…見つけたぞ…火種を

 

 

 

◆◇◆◇◆

-黒服サイド-

 

先生達が退室して暫くした後。椅子に深く座り直し、扉をじっと見つめ続ける。

やがてノック音と共に扉が開き、別部屋で待機していた同胞が入ってきた。

 

「…如何でしたか、先生とレイヴンさんは?」

「シャーレの先生とやらは、やはり不可解な存在ですね。そのテクストもまた未知数でした」

 

そう答えるのは男の声だが、黒服同様にその身体は異様な姿であった。

ベージュ色のトレンチコートを着込み、ステッキを持つ大柄な体格。

しかし、その首から上は存在しなかった。

代わりに片腕に抱え込むモノクロの絵画内に描かれた、シルクハットを被る後ろ向きの男が先程の会話を行っている。

ステッキを地面に突きながら、コート側の身体は首から黒い靄を燻らせながら椅子に座った。

 

「ですがあの記号の輝きには魅かれるものがあります。わたくしもいずれはお話ししたいですね」「そういうこった!

 

絵画の男は先生に対し割と声色も好意的に評価し、コートの男も大きな声で合いの手を入れる。

黒服もそれに満足そうに頷いた。好感触なようで何よりのようである。

 

「ではレイヴンさんは?」

 

黒服が改めて尋ねると、顔が見えていれば笑っていそうだった二人の声が止まる。

室内が再び暗闇と沈黙に包まれた。

 

「…不快。いえ、不愉快と言うべきでしょうか」

 

絵画の男は先程と違う声色で答える。しかし負の表現で強く否定するも、その色はそこまで濃くはなかった。

コートの男も肩を軽く竦め、そこまで深刻そうではなさそうにしている。

 

「テクストもテクスチャも乱れて乱雑、不揃いで不安定。なのに始点から一筆で描かれたような、奇妙な美しさもある。不可思議で得体が知れません。例えるのならそうですね…」

 

絵画の男が少しの間考え込む様な唸り声を漏らし、やがて妥協するように声を漏らす。

 

「階段…そうですね。強いて言うのであればマエストロ風に、『ペンローズの階段』が近いでしょうか」

「そういうこっ、た?」

「仕方ないではありませんか。今思いつく中で言葉に表せるものがそれだったのです」

 

絵画の男がキヴォトス外の芸術品を例に挙げ、それに対してコートの男は歯切れ悪く疑問の声音を漏らす。

絵画の男も納得してはなかったように、やや不満げに言い訳をする。

黒服はそのやり取りを黙って聞いていたが、顎をさすり確認を取った。

 

「階段ですか。火種(・・)ではなかったのですね?」

 

黒服の質問に、絵画とコートの男達は控えめに含み笑いを漏らす。

ひとしきり笑った後に、絵画の男が答える。

その声は、乾きを帯びていた。

 

「あれが火種のテクスチャならば、もう手遅れでしょう。――世界どころか、星を抱く巨大さでしたよ」

 




御閲覧、しおり、ご感想やお気に入り頂きありがとうございます!
いつも本作品を目にかけて下さり、感謝の極みであります。

今回も少しずつ、御名前記載をさせて頂きます。
一部時間順ではない場合もありますが御了承の程、お願いします。
(閲覧、しおり、ここすきは御名前が表示されず、感想は今の所個別で返信するため割愛とさせて頂いてます)


だんちょう様、ぬわス様、クレミナ様、れいずぃ。様、シグマニア様、
人間性の苗床マン様、sisimaru様、七篠ライア様、塩茶様、玄竜様。
お気に入り登録して頂き、ありがとうございます!
ぽち!?ぽちなのかい!?日本の心の!御好評頂いており、ありがとうございます!!
そして人間性を捧げてしまったのでしょうか。初見殺しですよね、ダクソの苗床は…(遠い目
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