赤川「貴様には、先生と共に指定座標の建築物を強行偵察(襲撃)して貰いたい」
赤川「連中はキヴォトス入りを果たして以降、水面下で方々の探究や実験を行っている」
赤川「その中には当然、ホシノの身柄も含まれている。分かるな?それを突き止めるのが貴様らの仕事だ」
赤川「G13レイヴン!
対策委員会の皆さんへは先生がホシノさんの居場所を調査してくると言い残し、一度私達は治療施設へと戻った。
色々あったが私は治療を抜け出した身。行方報告がてら退院、というより外出許可を得るためだ。
医者は
ホシノさんを迎えに行かなければならないし、居場所を知ってる黒服へ会いにも行かなければならない。
そして指定された時間と場所…日も落ちた頃に街角にあるような建物へと向かう。
パッと見は唯のビルで、変な所など何もない。なるほど、これがレッドガンの隊員が言ってた
建物に入る前に先生は一度振り返り、私の様子を見て来た。
行く前に話でもあるのだろうかと思い
『シャーレ、レイヴン。ここから先、私は黙ります。一応、御二人だけを指定していますので』
【レイヴンへの交信は続けます】
先生の持つ通信機と私への交信でエアが伝えて来る。エアの存在自体も隠し札の一つにするって事ね、了解。
一鳴きして先生とエア両方へ了承と表現し、私も後に続く。
エレベータに乗り、少しの間揺られた後。数室を横目に通り過ぎると指定の部屋を見つけ、ノックした後に入室する。
「…お待ちしておりました、先生。そしてレイヴンさん。貴方方とは一度こうして、顔を合わせて御話ししてみたかったのですよ」
時間よりも十数分早いというのにも関わらず、そこには机を挟んで異形の人型――黒服が立ちながら待っていた。…先生が言うには、時間よりも前に着くのは会社人としてマナーらしい。
傭兵としては早く現着しすぎても、作戦行動に支障が出るのでそのマナーは違和感がある。
エアも以前、任務時間より先に戦闘開始していたドーザー達に対して、血の気が多い人達という評価であった。
黒服は私達へ椅子に座るよう促して来たが、先生も私も断った。
ドーザーだったらブーブークッション位は仕掛けて来る。私は毎回引っ掛かったから良く知っているのだ。
…エアが交信で溜息を吐いている。彼女も私のキヴォトスでの成長ぶりに
黒服は断られても気にせず、シンプルながらも座り心地のよさそうな椅子に座り込む。
肘を机の上に置いて手を組むと、ゆっくりと語り出した。
「…先生の事は知っています。連邦生徒会長が呼び出した、不可解な存在。オーパーツである『シッテムの箱』の主であり、連邦捜査部『シャーレ』の先生」
黒服は先生を足先から顔へとゆっくり眺めていき、どこか満足そうに頷いて含み笑いをする。
観察するような顔の動きに、先生は居心地悪そうに表情と立ち方を変えた。
それを見ても何がおかしいのか、黒服はまた含み笑いをすると今度は私へと顔ごと視線を向けて来た。
「レイヴンさんの事も、多少は知っています。シャーレの密かなバックアップを得、独立傭兵として表舞台に登場。脅威の依頼達成率と有言ならぬ無言実行。奥の手として『
【…やはり、ホシノとの戦いも最初から見ていたのですね。ストーカーでしょうか】
全く気付かなかった私だったが、エアは何故知っているのだろうか。
彼女が話しかけて来たのは戦闘終了後どころか、アビドス高等学校に戻ってからの筈だが…?
そんな疑問を持ったが、エアは後で話すと言って流す。確かに、今はホシノさんの件が先だ。
暫く私を観察していた黒服はやはり含み笑いをすると、先生へと顔を戻す。
「クックックッ…レイヴンさんは兎も角、先生。貴女を過小評価や獣偏好と察する者も居るようですが、私達は違います」
【
黒服が小声にした部分にエアは同意する。エア?
恐らく小声の部分は先生には聞こえてないだろうが、この身体は五感も良い。けものへんこうとは何だろうか。
「…まず、はっきりさせておきましょう。私達は、貴方方と敵対するつもりはありません。むしろ
敵対するつもりはないという話に私達は黙って様子を見ていたが、続けて黒服は語る。
黒服達の計画で一番障害になる可能性があるのは、私達だという事。
黒服達にとってアビドスは小さい学校であり、問題ではないが私達の存在は小さくない為、敵対するのは避けたいという事だった。
ここに呼び出した理由を話した黒服に対し、先生は普段と違い硬い表情で尋ねる。
”貴方達は、一体何者なの?”
先生の問いかけに対し、今更気付いたといった様子で黒服は改まって見せた。
そういえば存在自体は伝えていたが、先生は直接顔を合わせるのは初めてだった。
私は何回か
【それは今考える事でしょうか?レイヴン】
「クックックッ、これは私の顔ですので。そう言えば先生には自己紹介はまだでしたね。私達は貴方方と同じ、キヴォトスの外部の者…ですが、御二人とはまた違った領域の存在です」
溜め息交じりに交信で突っ込むエアだったが、
そして先生へ向けて別な姿勢に変えてから、自己紹介をした。
「適切な名前がありましたので、今はそれを拝借しております。私達の所属は『ゲマトリア』。そして私自身は黒服、とでも。この名前は割と気に入ってましてね。…勿論、プロデューサー集団ではありませんよ?クックックッ…」
【…ハァ】
なるほど、黒服はゲマトリアプロジェクトの所属で、ホシノさんアイドル化を計画していたのか…と考えていたら、否定されてしまった。
ホシノさん程の人材を何故と思ったが、エアの溜め息と先生が困ったような顔で見て来たので私だけが少数派のようだ。何故。
黒服は少しの間、楽しそうに含み笑いをしていたが、一息入れると姿勢を整える。
そしてゲマトリアは観測者や探究者、研究者であり、イメージし難ければとりあえず不可解な存在だと思えば良いと語る。
「…一応お尋ねしますが、私達ゲマトリアと協力するつもりは御座いませんか?」
”お断りだよ”
協力の提案を黒服はしてきたが、先生が即座に断る。
その声色はあまり聞きなれない真剣さで、意志の固さを感じた。
主導はカイザーとはいえ、対策委員会の皆さんを間接的に苦しめていた組織に嫌悪感もあるのだろう。
私としては、私が怪我を負わせてしまったホシノさんを治療してくれた相手ではあるので、良くも悪くもないとは思う。
それに何かあればエアも居る上、規模は分からないが
そんな事を考えていると、エアはまた息が詰まるような声を交信に漏らす。
黒服は…何故か少し落ち込んだ様子を見せた。
「…左様、ですか。…真理と秘儀…先生には
その問いかけに対して先生は少しだけ
しかしスーツの襟を正すと、当初の目的を改めて口にする。
”…私はただ、ホシノを返して貰いに来ただけ”
「…ク、クックックッ。今少し迷いましたね先生?そんな貴女に一体何の権利があって、その様な要求をされているのでしょう?ホシノはもうアビドスの生徒ではありません。彼女からの『
先生の返事に対し、黒服は追撃するように喋り続ける。
その内容に私は少し
手紙、の部分で強調するように声量が大きくなった事から、私の知らない物が先生に託されていたようだ。
それはホシノさんの身柄を決定づけるものであったようだが、先生は否定するように首を横に振って確認はまだだと答える。
すでに先生が見た事を知っていたのか、それとも知らなかった為に意外だと思ったのか。
少しの間の後に、眉があれば片方を上げるような声色で、黒服は否定した理由を尋ねる。
「…ほう?と、いいますと?」
”『担当顧問』である私が、手紙と一緒にあった届け出にはサインをしてない。だからホシノはまだアビドス所属だし、副生徒会長だし――今でも私の生徒だから”
先生が言い切った内容を聞いて、黒服はその意味を考えるように顎へ手を添えて擦る。
黙って考え込んでいる様子だったが、理解したのか頷いて見せた。
私と言えば、サイン一つでどうにかなる問題なのか分からない。
ただシャーレで先生が積まれた紙束に苦しめられていた事を考えれば、割と強いのだろうか?
「…なるほど。貴女が『先生』である以上、担当生徒の去就には貴女のサインが必要…そう言う事ですか」
【…なるほど。キヴォトス、いえ、学校のルールですか。そのような手があったのですね】
黒服が理解した内容を話すのを聞いて、手並みを見ていたのかエアも関心している。
ルビコンでは殆どやりとりは電子であったし、サインも電子印だった。
それも彼女にすれば迂回路は幾らでもあった。アナログな手法は意外だったのか…え、違う?
エアの否定を聞いている間に、黒服は学校の生徒と先生の関係を厄介な概念だと呟いている。
”貴方達はあの子達を騙し、心を踏みにじり、その苦しみを利用した”
先生の追求に対し黒服は否定せず、他人の不幸よりも自分達の探究を優先したと認めた。
善か悪かと問われれば悪であると。
その上でそれは
アビドスに降りかかった災難の一つであり、砂嵐という天変地異も関与していない。
あくまでその機会を利用し、熱中症の者に水を提供した程度。
それが一生奴隷になっても返済不可能な値段だったのは、日常と非日常で物の価値が変わるのは当たり前であると話す。
「程度に差はあれども、世の中にはありふれた話でしょう。何も私達が気にし、すべての責任を取るべき事ではありません。私達が初めて作った事例でもなければ、例えせずとも他の誰かが似たような事をするのですから」
そう話す黒服に、先生は黙って話を聞いている。
私も思い当たることは沢山ある。過酷な環境下であったルビコンでは食料の類は貴重であったし、生命線の水は勿論。燃料だってそうだ。
コーラルという万能資源がなければ、原住民も居なかったかもしれない。
「持つ者が、持たざる者から搾取する。知識の多い者が、そうでない者から搾取する。大人なら誰もが知っている、厳然たる世の中の…
【持たざる者からの搾取、ですか…私にも痛い所ですね】
言葉を間に挟む隙もなく話していた黒服だったが、事実と断言する前に何故か間を開けた。
それは強調する為というよりは、どこか躊躇うような気がしたのは私の気のせいだろうか。
エアも搾取の件には何故か思う所があるようで、何かを悔やむように私と交信する。
痛い所と言うがエアは何も取っていないし、取ったとしたらキヴォトスでの知識位だろう。
それも生きるのに必要な事だし、アビドスの為でもある。そう思う事はないのでは?
【…っ。レイヴン、ごめんなさい…】
交信でエアは悪くないと私は伝えたが、息が詰まるような声と共にエアが謝って来る。何故?分からない。
私の困惑を見て勘違いしたのか、黒服は分かりやすく他でも良くある事だとまとめてくれた。
そして先生の様子を伺っていた姿勢から、再度姿勢を変えて私達にアビドスから手を引くよう求めて来る。
「
”断る”
【お断りです】
「…御話は最後まで聞いて欲しいのですが…」
黒服の代替案を話すのを遮り、先生(と交信でエア)が力強く拒否した。
その顔は先程よりも真剣で、怒っているようにも見える。
先程も怒ってはいたのだがその意味というか、方針が変わったかのように私には見えた。
先生の変わり様に黒服も戸惑っているようだ。エアも何となく
「どうして?どうあっても、私達と敵対する御積もりですか?レイヴンさんと違い、貴女は無力です。戦う手段などないでしょうに」
”(エンブレムの描かれたカードを取り出そうとする)”
黒服が先生へ、戦う力などないのに何故と問う。
問いの答えとしてなのか、先生は襟に手をかけ懐から何かを出そうとした。
御閲覧、しおり、ご感想やお気に入り、御評価も頂きありがとうございます!
投稿が遅くなりまして申し訳ございません…!
今回も少しずつ、御名前記載をさせて頂きます。
一部時間順ではない場合もありますが御了承の程、お願いします。
(閲覧、しおり、ここすきは御名前が表示されず、感想は今の所個別で返信するため割愛とさせて頂いてます)
sbyady様、レイアズ様、10戌様、kyonpei様、笑富士様、
マリア・ルーデル様、みさかくき様、eon17様、黒蜜兎様、蛇弟様。
お気に入り登録して頂き、ありがとうございます!
AC4~V辺りのBGMも大好きです。が、動きが早すぎて諦めた記憶が…折見て履修中な筆者ですが、本作も長い目でお付き合い頂ければ幸いです。
ヒョウカミ様。
御評価頂きありがとうございますっ!
楽しみの一つとなれているようで、嬉しい限りです!
秋ウサギ様。
誤字報告頂き、ありがとうございます!(23話、24話、26話)
いつもお世話になっております…!本主人公より抜けてる筆者ですが、これからも宜しくお願いできれば幸いです!
観測者 樹様。
誤字報告を頂き、ありがとうございます!(2話、3話、4話、7話、11話、15話)
本作品を通して見て頂けたようで、感謝です!
オマケの話:
新学校、ワイルドハントが来ましたが皆様は如何だったでしょうか?
ナギサ120連+カノエ200連でPU0人だった筆者の所のアロナは罰として、日課のなでなで禁止にしました。…今週(~8/24)まで。