青空の下、猟犬は求め流浪する   作:灰ネズミ

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切符の良い姉御「終わったようだね。あんたら(廃校対策委員会)に目を付けてたのは正解だったよ」
切符の良い姉御「約束通り、何かあれば相談しな。手を貸す位なら喜んでやろうじゃないか」



19.ぶりーふぃんぐ

少し眠気を感じ始めた頃。通信機から接続の音が聞こえて私は意識をそちらに向ける。

 

”…オンちゃん、寝てたらゴメンね。起きてる?”

「ワフッ」

 

何か大きく動きがありそうな時に、寝てなどいられない。呼吸器をはめられて返事しにくい中一声、もとい一吠えする。

それに、寝たらまた悪夢を見るかもしれない。流石に治療室(病室)でやり直し(リスタート)をキメる訳にもいかないだろうし。

そう考えていたが、先生の声以外がしない。いつもであれば対策委員会の誰かしらは冗談を言っているような頃合いと思うのだけれど。

謎の沈黙が続いており、思えば先生もどこか気まずそうな声色だった気がする。

そこに足音が二つ近付いてきて、恐らくドアを思い切り開けた音がした。

 

「先輩達、大変!これ見て!」

「アビドス自治区の関係書類含め、土地の台帳の「地籍図」を持ってきました!これを…?」

 

セリカさんとアヤネさんの声が聞こえた後、何故か間が開く。

やはり何かおかしな事になっているらしい。

先生がその間を持ち、二人へ出迎えの言葉を掛けた後、続きを促してくれた。

その結果、驚くべきことが判明する。

本来であればアビドス高等学校が所持すべき土地、建物について他学校同様、アビドスが持っている筈であった。

それが紫関ラーメンを含めた殆どのアビドス自治区が「カイザーコンストラクション」所有。カイザーコーポレーション系列の物に現在なっていたのだ。

これにはホシノさん含め、ノノミさんもシロコさんも驚く声が聞こえる。

土地の所有権移譲に伴い、紫大将さんも立ち退きを受けていた事が伝えられ、三人へ更に動揺が広がった。

どうやら所有権が残っているのは現在のアビドス高等学校がある周辺地域のみらしい。

これはカイザーの拠点に包囲されているようなもの…と、私は先生から補足して貰った。集中砲火をいつ受けてもおかしくない状況のようだ。

何故、自治区所有の土地が取引されていたのか。ホシノさんが語るには前生徒会…2年前に無くなったアビドス生徒会が取引していたらしい。

各学校所有の資産を使用できるのはその自治区の生徒会だけで、無くなってから取引自体は行われていないとの事。

 

「そっか、2年前…」

 

ホシノさんの呟く声が通信機越しに聞こえる。それは懐かしむ様な、どこか悲しみに沈んでいるような声色な気がした。

恐らくそれに気づかず、セリカさんが前生徒会に対して怒りの言葉を放っている。

確かに今苦しめられているカイザーコーポレーションへ勝手に学校の資産を売っていたら、利敵行為などに感じるかもしれない。

アヤネさんも自治区は学校のものであり、常識の考えに捕らわれて気付かなかったと後悔している声が通信機越しに聞こえる。

沈む面々の声色に、ホシノさんが声を掛ける。

 

「…これはアヤネちゃん達が入学するより前の…いや、対策委員会ができるよりも前の事なんだから」

 

そう言うホシノさんへ、シロコさん達が事情を尋ねる。

話を聞いているとホシノさんはアビドス最後の生徒会、その副会長だったらしい。

しかし2年も前の事で、しかも当事者達、前生徒会の先輩達とは実際に関わりも無く。

ホシノさんが生徒会に入った時には殆ど解散状態だったとの事。

在校生も二桁で、教職員はおろか授業も途絶えてたと彼女は語る。

学ぶべき校舎で、学ばす者も学ぶ者も居ない光景。それはきっと、私が見聞きした今のアビドス高等学校の景色よりもずっと静かで悲しいものなのだろう。

 

セリカさんが詐欺広告を持ち込み、アヤネさんがそれに苦笑いをする。

シロコさんが銀行強盗の計画を練り、ノノミさんが冗談でそれに乗って。

そんな様子を眠そうに机で突っ伏しながら、優しそうな顔で見守るホシノさん。

 

それが消えていく様子を想像して、私は一人寝台の上で寒気に襲われた。

首を振って想像と共に寒気を振り払う。

 

「…何それ、どんな生徒会よ…?」

「成績と役回りは別だよ、セリカ」

「そもそも、セリカちゃんも成績はそんなに…」

 

私が悶えている間に話が少し飛んでいたらしい。

セリカさんの不思議そうな、少し呆れたような声に対してシロコさんとアヤネさんが反応して言葉を返している。

慌てて反論するセリカさんの声が聞こえるが…やっぱりセリカさんは私と同じく頭が良くないらしい。

傭兵業を再開する前に色々と教わった時にも、たまに教材と向き合ってうなる姿を見ているのでこれには彼女に同感する。

キヴォトス(の学ぶべき基礎教養)にはうんざりする事が多すぎる。どうにかできませんか先生。

 

「うへ~。いやいや、まさにその通りだよ。生徒会なんて肩書だけで、おバカさん二人と…?二人が集まっただけだったからね。何故か生徒会何かに入っちゃって…いや~あの時はあちこちに行ったり来たりだったねぇ」

 

何かを擦り合わせるような音と共にホシノさんは言う。その声はやはり懐かしさと悲しさを感じる声色をしていた。

対策委員会の皆さんが気遣ったようで、沈黙の間が開く。

 

”…それ、オンちゃんの羽毛?”

「うへ?あっ、うん。ほら、直接来れないから羽だけでもってね~」

 

先生の確認に少し焦ったようにホシノさんが答える。

先程擦り合わせるような音が聞こえたが、どうやら私の羽を指で回していたか何かしていたらしい。

通信越しであり同席できない私に対しての気遣いに少し嬉しく、一鳴きする。

ルビコンの頃とは違い、動ける身体があり身を隠す必要もないキヴォトスではできる限り共にありたいものだ。

ホシノさんの優しさに思う所があるのは私だけではなく。

 

「…ホシノ先輩が責任を感じる事じゃない。昔の事情は知らないけど、実際に生徒会が解散になった後…アビドスに対策委員会ができたのは、間違いなくホシノ先輩のおかげ。怠け者だし色々とはぐらかしてばっかりだけど、大事な瞬間には絶対に誰よりも前に立ってる」

 

シロコさんの声を始めとして、対策委員会の皆さんがホシノさんの良い所を次々に上げていく。

そういえば風紀委員会と戦った時に、私とヒナさんとの間にも飛び降りていた。

あの時は気配やスキャンの察知外から物凄い速さで来た気がする。

私もフゴフゴと声を挟んで、ホシノさんが慌てるような青春っぽい?台詞に混ざる。

 

「オンちゃんもホシノ先輩は盾になってるって言ってる。…何となく、言っておこうかなって思って」

「えぇ…?」

 

シロコさんの締めの言葉に戸惑うホシノさん。

だからそんな風に、思いつめたような声色をしなくても良いと私は思う。通信機越しでもその羽からでも良いので伝わってほしい。

…そう言えばホシノさんはいつの間に私の羽など拾ったのだろう?

直近でアビドスに寄った予定を思い出していると、いつの間にか話は進んでいて先生からまとめを聞いた。

前生徒会がカイザーコーポレーションに土地を売ったのは推察だが借金返済のため。

当時すでに膨大だった借金を減らすためだったが、砂漠化が進んだ土地ではお金にならなくて借金を減らせず、また別の土地を売却する事の繰り返し。

先生が言うには「そういう悪質な罠の手口もある」らしい。

アビドスの返済能力を超える金を貸して、利子分の土地を売るよう勧める。

砂漠化した土地では少額にしかならず、土地を繰り返し売却し…アビドス自治区そのものが緩やかにカイザーのものになる。

ルビコンに居た頃、解放戦線の人達が良く言っていた端金程度ではどうにもならない状況。そういうものへ何十年も前から誘導していたのかもしれないと。

騙された前生徒会に対して怒るセリカさんだったが、先生が落ち着かせる。

悪いのは騙される事より騙す事だと伝える先生だったが、セリカさんは改めて考えに至ったらしく慌てていた。

しかしそれも段々と沈んだ声に変わってしまう。

 

「でも…悔しい、どうして…。唯でさえ苦しんでるアビドスに、どうしてこんな酷い事を…」

「セリカちゃん…」

 

アヤネさんも、他の皆さんも。先生さえも疑問に答えられず黙ってしまう。

ノイズしか聞こえなかった通信機に、ポツリと言葉が入る。

 

「…苦しんでる人達って、切羽詰まりやすくなっちゃうからね~。切羽詰まると、人は何でもやっちゃうもの何だよ…」

 

ホシノさんのどこか思い当たる節があるような声に、私は息を詰まらせた。

ルビコン3も、どこも限界間際の世界だった。企業も惑星原住民達も。あの惑星封鎖機構ですらコーラルを封鎖仕切れず。

それぞれの思惑と対立で精神を擦り減り切らし、一部(Radの間抜け)は依存するようにコーラルをラッパ飲みして。

私もあの人を救える手段(ルート)を探して、回らない頭を無理に回そうとして。

あの頃の私は…今の私は、切羽詰まっていないだろうか?

旧型強化人間の頃は焼けた脳でまともに考えられなかったとはいえ、昔も今も頭が悪い私には…わからない。

通信機に向けていた視線を、自分の手に向ける。

長毛に包まれ、プニプニした肉球を持つ掌を、ぼんやりと私は見つめた。

 

「…ああもう、そんな難しい事を考えるより、先にやる事があるでしょ!」

 

セリカさんの大声で考え込んでいた意識が急浮上する。

そうだ。今気にするべきはアビドスの事で、私の事ではない。

どうやらアビドス砂漠にカイザーが企む何かがあるらしく、砂漠も自治区の内なのだから実際に行って確かめるらしい。

彼女が建設的な意見を出すのは珍しい?らしく、対策委員会の皆さんは成長に感動しているようだった。

 

”じゃあ、準備ができたら行こっか。アビドス砂漠へ”

「「「「「『うん(はい)(オンッ)』」」」」」

 

 

 

”オンちゃんは留守番(入院)だよ”

『ワフ!?』

 

先生の待機命令に十数分程吠えていたが、だめだった。

この程度の怪我、ルビコン潜入前なら当たり前だったのに。何故。

 




いつも御閲覧、しおり、御感想も頂き、皆様ありがとうございます。

また今回より少しずつ、御名前記載をさせて頂きます。
一部時間順でない場合もあり申し訳ございません。
(閲覧、しおり、ここすきは御名前の公開なし。感想は今の所個別で返信のため省略)


焼土下座太郎様、魚の名前はイノシシ様、佐土様、月輝 零様、)様。
御評価頂きありがとうございます!
当初より御好評頂いており、やる気も頂き誠に感謝しています。

セラフィム様、時雨警察様、ロプトル様、Syaru0173様、NISHIZUMI MOHO様、
ガレット・ジーヴル様、V.Ⅱペイター様、アクルカ様、銅三郎様。
お気に入り登録頂き、ありがとうございます!
サラっと№2になってるヴェスパーが混ざっていて当初より気になってましたw

秋ウサギ様、B=s様。
誤字報告頂きありがとうございます!
初期から目を通して頂いており、本当に感謝しております。

山田治朗様。
御紹介頂きありがとうございます!
当作品がまさか紹介頂けるとは思ってませんでした…!
木っ端傭兵(筆者)ですがこれからも精進します!
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