青空の下、猟犬は求め流浪する   作:灰ネズミ

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投稿遅くなりまして申し訳御座いません…!
いつもは直前に浮かぶネタで前書きするのですが、取り急ぎ投稿を。後日思いついたら直します。

あの人「621。今は休め。…そうか。お前にも守りたいモノ(景色)ができたか…」



18.休み食ってる場合じゃねぇ!

 

-??サイド-

 

キヴォトスにある某高層ビルの一室。そこで対峙する二人の影があった。

一人は大柄なオートマタ。黒いスーツに映えるオレンジ色のネクタイを締め、ストールを上着にかけている。

頭部にはネクタイと同色のラインが目代わりのスリットで光り、恰幅の良い体格も相まってどこか太々(ふてぶて)しい雰囲気を纏っていた。

 

「…どういう事だ。アビドスからは手を引けと言うのか?」

 

若干の憤怒を含む声色で尋ねる先。相対するもう一人は黒のスーツとネクタイ、そして手袋をはめたその姿はスラリとした体格をしている。

そこまではキヴォトスでも人型としてよく見る様相だが、その頭部は無機質な黒地で、黒いモヤを纏った異形の姿。

ヒビ割れた穴はビジネススマイル(歪な笑み)を浮かべる口と片目に見え、青白く光が覗いていた。

 

「いいえ。私達はあくまでこの件(・・・)において例の独立傭兵には敵対しないと言うだけです。ただ…」

 

異形の人物はそこで一間入れると、目に見えるその穴を憤るオートマタへ向ける。

感情の読めないその顔に、オートマタは猛り気色ばんでいた姿勢を抑えられた。

 

「あの独立傭兵がキヴォトスを本格的に調べる前に急いだ方が良いでしょう。火を点けられては困ります(・・・・・・・・・・・・)

「…たかが傭兵ごときが、警戒に値すると?」

 

オートマタの問いかけに頷いて見せる異形の人物へ、オートマタは顎部分に指を添えて考え込む。

少し間を置いた後に承知したと短く伝え、更に思考を巡らせている素振りをし始めたオートマタ。

その様子を暫し見た後、異形の人物は席を立って部屋外へと歩き去ってゆく。

扉が閉まり、気配が消えた頃合いを見てオートマタは懐から通信機を取り出した。

 

「…私だ。例の件を進めろ。急ぐ理由ができた」

 

連絡先へ命令を出すと通信を切る。オートマタの声色には苛立ちと、僅かな焦りが滲んでいた。

 

◆◇◆◇◆

 

…知らない天井だ…。

 

意識が戻り目を開けると、リスタート地点だった紫関ラーメンではない天井が広がっていた。

どうやらやり直し(リスタート)ではなく、どこかに運び込まれたらしい。

ルビコンでは余り見ない(比較的)綺麗な白い天井から周辺へ視線を移すと、どこかの医療施設らしい。消毒薬の匂いが僅かにする。

固定されたマズルには呼吸器らしきものが付けられていて、頭が動かし難い。

獣耳をすませば、隣室らしい所から会話が聞こえた。

 

「…にちわ、大将。お見舞いに来ました」

「大将、大丈夫?」

”具合は如何ですか?”

 

声からしてアヤネさんにセリカさん。先生も居る様だ。

隣室は柴大将さんの治療室(病室)らしい。

気遣う皆さんに対し、柴大将さんの元気そうな声が聞こえる。

 

「やあ、セリカちゃん。それにアヤネちゃんに先生も。こんな早い時間からありがとう。身体の方はあの子のお陰でちょっと擦りむいただけだ。…あの子にもお礼を言いたい所なんだがな」

 

そう答えた後、少しの間沈黙が流れる。疑問に思ったが、まるで雰囲気を切り替えるかのように柴大将さんが話を続ける。

 

「バイトもできなくなっちゃってごめんな、セリカちゃん」

「そこは良いんだけれどね…」

 

謝る柴大将さんに、沈んだ声のセリカさんが言い淀んでいる。

やはり風紀委員会が修繕費を負担するといっても、店はすぐには再建できないらしい。

ルビコンでは建造技術が恐ろしい程早かったため、その点はキヴォトスより進んでいるようだ。ゴハン等はキヴォトスが圧勝だけども。

そんな事を考えていると、聞き逃せない話が聞こえてきた。

 

「そもそも、もうすぐお店も畳む予定だったからな。予定がちょっと早くなっただけだ」

 

店を…畳む?閉店という事だろうか。あの素晴らしい食事を出してくれる場所が、なくなる?

瞬間、私の記憶に過ぎ去る幾つもの風景。

 

「やるじゃねえか。素人と侮って悪かったな、G13(ガンズサーティーン)

『ミシガンの言う事は聞いとけ。それから、G13へ早く伝えとけ』

 

ルビコンで最初に僚機を組んだ二人組の片割れ、タンク使いの人(ヴォルタ)。壁越えの任務を受ける頃にはどの周回でも撃墜してて、商売を始めた時には護衛をするという約束は果たせなかった。

 

「君が居てくれると、ここも穏やかになるねぇ」

『やはり、いいね…君…。ヴェスパーに…来てくれれば…』

 

あの人以外に良く頭を撫でてくれた四つ足使いの人(ホーキンス)のんでりかしー(V.Ⅷペイター)というらしい人共々私が撃墜し、周回後にはその撫でる手を何も思わずに受ける事はできなくなってしまった。

そして。

 

「やあ戦友。今日はミールワームを揚げてみたんだ、歯応えを試してみないか?」

『もう少し早ければ…違う将来も見れただろう…!』

 

私を最後まで戦友と呼び、共に眼鏡(スネイル)へイタズラした声も恰好いい人(ラスティ)自由人(V.Ⅰフロイト)に対戦を強いられ迷っているといつも来てくれたのに。通信越しのアラート音(エマージェンシーコール)が忘れられない。

あの人を救おうとして幾つも諦めた光景を…自由に動く身体を得たキヴォトスでも手放すのか?

奥歯を噛み締め、牙がギシリと音を立てる。

 

「…グ、グルルゥ!」

 

横になっている場合ではないと、私は跳ね起きた。

医療機器がビービーと音を出すが、今はそれ所ではない。宿泊設備…寝台から飛び降りて、マズルについた呼吸器を無理矢理引きはがす。

身体のあちこちについていた点滴などのチューブもまとめて引き抜いて放り投げる。

くらりと視界が揺れるが首を振って我慢し、よろよろと扉に歩み寄る。

引き戸を開け、声の聞こえた方へ向かおうとすると驚く声が上がった。

 

”オンちゃん!?起きたの、って。横になってなきゃだめだよ!?”

 

慌てて駆け寄ってくる先生の手を払い除け、私は壁伝いに柴大将さんの治療室へ入る。

中からは目を丸くするセリカさんとアヤネさん。寝台で上半身だけ起こしている柴大将さんが私に視線を向けていた。

 

「オンちゃん!?ちょっと、大丈夫なの!?」

「オン!」

 

セリカさんが押し戻そうとするのを大きく吠えて止まらせ、室内にあった椅子を指さす。

あの素晴らしい食事場が無くなると聞いて、横になってなど居られない。

ふらふらと椅子に座り込むと、身体を支えるように先生が背中に手を添えてくれた。助かります。

「…ふう。その様子じゃ理由を聞くまで戻らねぇって感じだな。まぁ、ちょっと前から退去通知を受け取っていてね」

「た、退去通知?私達は…アビドス高校が自治区の建物所有者の筈ですし、そんな通知は出してなんて…」

 

困惑するアヤネさんに対し、柴大将さんは少しの間黙って見ていた。

本当に知らない様子の皆さんに、柴大将さんはゆっくりと口を開く。

 

「…そうか、君達は知らなかったんだな。…何年か前、アビドスの生徒会が借金を返せなくて、建物と土地の所有権が移ったんだ」

「えっ!?」

「う、嘘!?アビドスの自治区なのに!?じゃあ今は一体誰が!?」

 

初耳とばかりに驚くアヤネさんとセリカさん。先生は少し考える様子を見せた後、顔を上げて聞く。

 

”…カイザーローン、或いはカイザーコーポレーションですか?”

 

先生の質問に柴大将さんは対策委員会の二人をちらりと見た後、腕を組んで目を閉じる。

少しだけ間が開いた後、目を開くと困ったような表情を見せた。

 

「…うーん。似た名前だった気もするが…悪いな、はっきり覚えてねぇや」

 

柴大将さんは曖昧に答える。…もしかしたら大企業相手に敵対しないよう、対策委員会の皆さんを心配したのかもしれない。

そんな柴大将さんの様子に、アヤネさんが眉を下げて表情を歪める。

 

「そんな…でも、そういう事なら…。セリカちゃん、先生。お二人は先に学校へ戻っていて下さい。私は確認したい事が出来たので、調べ物をしてから向かいます」

「どういう事?よく分からないけど…私も一緒に行くから!それとオンちゃんはベッドに戻る事!」

”オンちゃんは戻しておくよ。私も伝えたい事があるから、学校で待ってるね”

 

私を指さした後、二人は急いだ様子で治療室を後にする。

その後ろ姿に先生が声をかける。了解と返した二人だったが、戻ってきて扉から顔を出す。

 

「大将、まだ引退とか考えないでよ!分かった!?」

「オンッ、オンッ」

「お、おお…」

 

私もそうだそうだと乗っておく。あの光景(アビドスの憩い)をもう一度!

柴大将さんも気圧されていたが、了承していたので一安心である。

廊下から二人に走るなと注意が聞こえたと思ったら、医者がやってきて私も怒られた。

どうやら心音も測っていたらしい。心肺停止でもしたかと慌てて器具を準備してきたとの事。

私と先生とで揃って頭を下げて謝罪し、私はまた先程の治療室(病室)に叩き戻されるのであった。

”オンちゃん…治療器具は無理矢理外さないようにね”

 

善処はします。

 

 

 

寝台に戻された後。先生から風紀委員会とその後を要約して教えて貰った。

風紀委員会の行政官、天雨(あまう)アコの狙いについて。

カヨコさんが言うにはシャーレの確保、及び不確定戦力(便利屋と独立傭兵の共同)の排除。その為に勝手に大規模な兵を動かしたらしい。

理由としてはゲヘナ学園の敵対組織に当たるトリニティ総合学園、その上層部である集まりのティーパーティーがシャーレについて情報を入手。

それを知ったアコさんがチナツさんの過去に上げた報告書を確認した結果、シャーレの持つ強権はゲヘナ・トリニティ間で結ぶ予定のとある条約に悪影響があると判断。

居場所を情報部に調べさせていた所、丁度便利屋と今話題(・・・)の独立傭兵との会合に通信越しで同席するという密告があったため、急ぎ手勢を集めてアビドスへやってきたそうだ。

 

先生が所属しているシャーレが持つ権力について薄っすら聞いていたので、シャーレが狙われるのはわかる。

便利屋の皆さんも心配される程の不確定戦力というのもわかる。一緒に受けた依頼はほぼやり直し(リスタート)なしで達成できてたし。

わからないのはそこに独立傭兵、というか私が入る点である。話題とは何だろうか。

一人で受けたものは大体やり直し(リスタート)が入るので、お偉いさんが心配に思うような戦力ではない(恐ろしい程の依頼達成率)と思うのだけれど。

私が不思議に思っていると、頭を撫でながら教えてくれていた先生の手が離れる。やる気(もふもふ)成分の補給も完了したらしい。

 

”それじゃ私はアビドス高校に行くね。話し合いの時には通信を入れるから、それまでちゃんと休む事!”

「わふ」

 

呼吸器をはめ直されたため答え難いマズルで返事をする。

心音を測る器具は外されたが、点滴等まるで強化人間時代に戻ったかのようなチューブ塗れに手間を感じる。これがいつも気怠い表情の彼(V.Ⅲオキーフ)が良く呟いていた、うんざりするという奴だろうか。

あの時貰った少し苦いフィーカは、何故か落ち着く気持ちがしたのを思い出しながら私は寝台で身体から力を抜いた。

 




投稿遅れまして申し訳ございません…それでも御閲覧、お気に入り、感想も頂き、本当にありがとうございます。
誤字報告もいつもありがとうございます!

こういう場に投稿するのが初めてのため、御名前記載も検討はしているのですが…自分がヒッソリ応援するタイプのため、そういう人もいるかな?と悩んでたりします…。
気にしなくても良ければ、次回から少しずつ載せさせて頂ければと。今まで応援してくださった方も勿論含めて。

この小説が、紹介されている…!!?ふわぁ、恐縮です…!
木っ端傭兵(遅筆投稿者)の書く稚拙な作品ですが、ひと時でも楽しみになりましたら、幸いです…っ!

アンケートにもご協力頂き、皆様ありがとうございました!
やはり本作に求められているのはもふもふ成分…!とはいえ割と良い投票差だったので、機会あればいつか別ルートも書けたらと思います。
まずは完結を優先しますが。

でも何だかスゴく眠いヨウな…夏ノ夕暮レモ 書キ タイ


追記:
先生同席のくだりを、通信越しの同席に修正しました。
ミス申し訳ございません。
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