青空の下、猟犬は求め流浪する   作:灰ネズミ

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ご友人♡「遠くから新しい友人(閲覧者)が訪ねて来る。素敵だ…本当に心が躍ります」
ご友人♡「私は物語を上手に躍らせられる(描ける)でしょうか?心配だ…けれどそれより、お届けできるのがずっと楽しみです」
ご友人♡「スロー(遅筆)スロー(遅筆)クイック(疾く展開)クイック(疾く展開)スロー(遅筆)♡」
ご友人♡「ご友人(筆者)…踊り疲れたのですね。(ここ好き)はどこだ…手向けなければ…」

ヒロイン「様子のおかしい人(残念な筆者)です」



17.手落ちたもの

ヒナさんはブーツの靴底を鳴らしながら、アコさんのホログラム付近まで歩み寄る。

1歩1歩、近付く度にアコさんの表情が焦りと恐怖に歪み、顔色が悪くなっていく。

他の風紀委員メンバーも同様に恐れからか、体を震わせていた。

 

「残念ね。誤魔化したりしなければ、まだ良かったのだけれど」

『ひ、ヒナ委員長…まだ出張中だったハズでは?』

「見過ごせない連絡を貰ったから、急いで来た」

 

先生へとヒナさんが視線を向けると、先生は苦笑いをしてみせる。

戦闘前に、どうやら対策委員会の皆さん以外にも連絡をしていたらしい。

以前ヒナさんへの慰安中、私の仕事ぶりを視察(観賞)しに来た先生と連絡先を交換していたのを思い出す。

圧を放ちながら状況の説明を求めているヒナさんに対し、言い訳を含めてアコさんが説明し始めたので、私はイオリさんを解放する。

一瞬助けを求めるような視線が向けられた気がするが、それを確認する前に彼女は埃を払いながらヒナさんの元へ向かってしまったので気にしない事にする。

便利屋の皆さんはいつの間にか姿を消していたので、私は対策委員会の皆さんの近くへ移動した。

 

「あれがゲヘナの委員長?」

「通話してたと思ったら、すでにいたのね。委員長って事は、風紀委員会のトップよね?」

 

シロコさんとセリカさんが風紀委員会の皆さんのやりとりを、遠目に見ながら話している。

警戒を解いていない事から、対策委員会の皆さんは余り面識がないようだ。

アコさんが素行の悪い生徒達を捕まえようとして大規模に風紀委員を運用したと話すと、ヒナさんは便利屋68の事であれば居ないと指摘している。

指摘されて慌てて確認し、驚く彼女にヒナさんの機嫌は更に悪化したらしい。

何だかレッドガンでのトップとG4・G5(ミシガンとヴォルタ・イグアスコンビ)のやりとりを思い出す。

多重ダム襲撃の裏切り後、撃墜された言い訳をするG5の頭に握り拳を振り落とし、その様を呆れるG4にも巻き込みの拳が同様に落ちていた。

やりとりを黙って見ていたら、恨めしそうに睨まれたがこちらもあの人を救う手立てを模索していた最中であったし、撃墜した私(裏切りの張本人)に対して何を求めているのか。

そもそもこのコンビにはやり直し(リスタート)を一杯させられたのだ。なので二人は強かったと伝えると、及第点を取れたのかトップは引いてくれた。コンビの二人も落ち着いた(満更でもない)ので正解らしかった。

 

『ゲヘナの風紀委員長…空崎(そらさき)ヒナ。外見情報も一致します、間違いなく本人のようです。ですが、ゲヘナ風紀委員長という事は…ゲヘナにおいてトップの戦闘力…せめてホシノ先輩も居て下されば…』

 

本人確認をしていたアヤネさんの通信から、改めて見渡すとホシノさんが確かにこの場に居なかった。

不思議に思っていると、ノノミさんから昼寝しに別れてから連絡がつかないと教えて貰った。

アヤネさんに再確認してみたが、相変わらず反応はないとの事。

これは厳しい状況かもしれない。ヒナさん(最強)相手にリスタート地点なしで勝てる気はしない。それにもう…。

 

「…つまり、ゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除。そういう政治的な活動の一環だったって事ね。でもアコ、私達は風紀委員会であって、生徒会じゃない。そういうのは万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)のタヌキ達にでも任せて置けば良い」

 

ヒナさんが眉間を揉み解しながら、溜め息交じりにアコさんへ謹慎を言い付ける。アコさんはそれを反論せず受け取り、通信を切ったのかホログラムが消え去る。

そしてヒナさんが先生と対策委員会の皆さんへ向くと、少しの間黙って両者は見合った。

 

「じゃあ、改めてやろうか(ケジメつけようか)

『…ゲヘナの風紀委員長と言ったら、キヴォトスでも匹敵する人物を見つけるのが難しい程の強者。ですが…ホシノ先輩が今居なくても、お話(・・)はきちんとつけませんといけませんよね』

 

シロコさんが好戦的にアサルトライフルを構える。アヤネさんも僅かに心配していたが、止める気はないようだ。

セリカさんもノノミさんも真剣な表情で、武器を構える。私も…を飲み込んで、重くなり始めた銃を構え直す。

しかし臨戦態勢に入る私達を見ていたヒナさんが片眉を上げた。

 

「…ホシノ?アビドスのホシノって…もしかして、小鳥遊(たかなし)ホシノ…?」

『はい?』

 

ヒナさんの確かめるような質問に、アヤネさんが不思議そうな声を上げる中。

気配を感じた私は数歩後ろに下がる。直後、建物の屋上から人影が目の前に落ちて来た。

地面にヒビが入る程の大きな音と撒き上がる粉塵に、皆さんの視線が集まる。

桃色の長い髪を風に揺らし、着地と共に突き刺さした大盾を彼女は引き抜きながら立ち上がった。

 

「…うへ、こいつはまた何があったんだか。見逃せない事になってるじゃん?」

 

驚く対策委員会の皆さんの視線を受けて、ホシノさんは強張っていた表情を和らがせる。

舞い上がる粉塵にクシャミしつつ彼女は遅れた事に対して謝った後、何故か驚いているヒナさんへ向けて顔を向けた。

 

「それで、この惨状はゲヘナの風紀委員会のせいって事?うーん…事情は分からないけど、対策委員会はこれで勢揃いだよ。先生もオンちゃんも居るこの状況で、改めてやり合ってみる?」

「…1年生の時とは随分変わった、人違いじゃないかと思う位に」

 

カシャリと音を鳴らしショットガンを構え直すホシノさんに対し、ヒナさんは様子を見て言う。

彼女の昔を知っているかのような言葉に、ホシノさんは疑問に思ったのか表情を変えた。

 

「ん?私の事知ってるの?」

「情報部にいた頃、各自治区の要注意生徒達をある程度把握してたから。特に小鳥遊(たかなし)ホシノ…貴女の事を忘れる筈がない。あの事件(・・・・)の後、アビドスを去ったと思ってたけど」

 

ヒナさんの話す事件とやらに、ホシノさんが黙り込む。緊張したのか身体が固まる様子に私は気になったが、口元に緩く握り込んだ手を添えてヒナさんが呟く。

 

…そうか、そういうことね…だからシャーレが…。まぁ良い、私もこれ以上戦う為にここに来た訳じゃないから。…イオリ、チナツ。撤収準備、帰るよ」

 

彼女は一人納得したように呟いた後、顔を上げてイオリさんとチナツさんへ声を掛ける。

撤収命令に驚く皆さんをよそに長大なマシンガンを仕舞い、ヒナさんは姿勢を正すと対策委員会の皆さんへ向けて頭を下げた。

三大学園に入るゲヘナ学園の風紀委員会、そのトップである彼女がアビドスに対して謝罪の姿勢をとった事に皆さんが改めて驚く。

私もやり直し(リスタート)の最中では、困惑か悲しそうな表情で戦っていたヒナさんが取った行動に驚いていた。

 

「事前通達無しでの無断兵力運用、他校の自治区で騒ぎを起こした事。そして民間人も巻き込んで危険な火器を使用した事。これらの事について私、空崎ヒナより、ゲヘナの風紀委員会の委員長として、アビドスの対策委員会。及び独立傭兵レイヴンに対して公式に謝罪する」

 

ヒナさんの謝罪に対し、対策委員会の皆さんは少しの間黙っていたが、謝罪を受け取ったのか構えていた銃口を降ろした。

私もあわせて銃口は降ろしたが、力は抜かないようにする。まだ安心はできない。

ヒナさんは続けて、風紀委員会はアビドスに無断で侵入する事をしない、破壊した施設などの修繕費も風紀委員会側で負担する事などを口頭で伝えてくる。

しかしイオリさんが便利屋の皆さんの件について食ってかかった。

その問いかけへの解答は鋭い目線によって黙らせ、手の仕草で撤収準備を促す。

慌てて撤収準備を始める風紀委員会を少しだけ眺めた後、ヒナさんは先生へと歩み寄り小声でやり取りを交わす。

 

「…先生、まずはごめんなさい。そして貴女に直接伝えておきたい事がある」

”謝罪は受け取ったよ。伝えておきたい事って?”

「…ありがとう。伝えたいのはカイザーコーポレーションの事。これはまだ万魔殿も、トリニティのティーパーティーも知らない情報だけど…アビドスの捨てられた砂漠。あそこでカイザーコーポレーションが何かを企んでる」

 

彼女から伝えられた情報に先生が考え込んでいると、ヒナさんはチラリと私を見て少し悲しそうな表情を浮かべた。

 

「廃校予定のアビドスに教える義理はなかったけれど…レイヴンにも迷惑を掛けてしまったお詫びも兼ねて、にしては虫が良すぎるかしら」

 

ヒナさんの言葉に先生も私へ視線を向ける。迷惑と言うがヒナさんに対しては私は何とも思っていない。むしろ直接やり合う事にならず感謝している位だ。

銃もミサイルも、切り札のパルスブレードを使っても勝てないヒナさんは、キヴォトスに来てから最大の障害だった。どれだけ身体に風穴を開けられた事か。

黙って見ていると今度はヒナさんの翼が下がり、髪も心なしか萎れてきたように見えてくる。

 

AP、残り10%

 

「…オンッ」

 

そのままだと話が進まなさそうなので、気にしていないと伝えるため一声。もとい一鳴きして首を横に振る。

力が抜ける為、軽い雰囲気では鳴けなかったが察してほしい。いや察されると不利になるので困る。

相反する思考をしていると、ヒナさんは目を伏せて落ち込んでしまった。何故。

 

”…オンちゃ、レイヴンには後で私からも取り持っておくから”

「うん…先生、お願い」

 

先生が心配そうに声を掛けると、ヒナさんは来た時とは反対に肩を落としながら指示を出しに戻る。

その後ろ姿はまるで敗北か、任務失敗したかのようで理由は私には分らなかった。

風紀委員会の方々も戸惑いながら、負傷兵の回収など終わらせ準備完了した所で撤退して行く。

あれほどの大規模な兵力を乱さず撤収させたヒナさんに、アヤネさんが驚いていた。

 

…ポタリ…

 

風紀委員会の姿が見えなくなった頃。隠れていた便利屋の皆さんも出てきて、先生と今回のアコさんの狙いについて話し合い始める。

これでようやく、私も力を抜ける。長く。長い溜息を吐いた。

 

…ポタリ。ポタリ、ポタポタ…

 

AP、残り…0%

 

かすむ視界の中、私は膝から崩れ落ちたのを感じて何とか片膝を突いた。

無意識に確認するように包帯を巻き直した箇所へ手を当てる。

身体から(・・・・)店の破片を引き抜いた場所から血が流れ落ち、水溜りを作り始めていた。

飲み込んでいた喉から湧き上がる液体を感じ、私は咳き込む。

 

「かふ…ゴプッ」

「勿体無い、強い人とも戦えるチャンスだったのに…?オンちゃん!?」

 

強敵との戦闘を惜しんでいたシロコさんが途中で気付き、驚く声がする。

他の皆さんも気付いたのか、何か声を上げていたようだがもう私には言葉として捉えられず。

視界に映る景色が横へ倒れ、薄暗くなる中に見えたホシノさんの顔は、どこか呆けたような表情をしていた。

その目から光が消えた気がしたが、私の意識はそこで切れた。

 




御閲覧、お気に入りや感想、ここ好きも頂き、ありがとうございます。
誤字報告に関しても、目を通して頂いて本当にありがとうございます。
感謝…圧倒的感謝…!

ヒナとはすでに、慰安を邪魔した不良達を秒殺した帰り道に、癒しを求めてコッソリ足を運んだ先生と出会っていたようです。
モフモフとフワフワのコラボで先生もバッチリ癒されたそうですよ。

そして悲報が…ストック、切れました(早)
次回お届けするのが遅れましたら申し訳ございません…。

また今後の展開に少し悩んでおり、よろしければ気軽にアンケートをポチり頂けますと幸いです。猟犬だけにポチっと。

キヴォトスにエアは…

  • 来ない。思い出の中に生き続ける
  • 来る。先生とアロナだけがキヴォ友さ
  • 着☆艦。いずれはモフケモぼでー
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