青空の下、猟犬は求め流浪する   作:灰ネズミ

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灰被り「対策委員会!その節は世話になったね」
灰被り「あんた達をビジター達の元に案内する約束だが…その前に、一つ掃除を頼みたい」
灰被り「<ゲヘナの風紀委員会>…連中は、私らや便利屋68を目の敵にしていてね」
灰被り「さあ。ビジターがやり直し(リスタート)で散らかした分は片付けて貰うよ」
灰被り「うん?この場合は余計散らかるか…」



16.ゲヘナ他勢力排除

『行政官と言う事は…風紀委員会のナンバー2…』

『あら、実際はそんな大したものではありません。あくまで風紀委員長を補佐する秘書みたいなものでして』

「本当にそうなら、そこの風紀委員達がそんなに緊張するとは思えない」

 

アコさんは補佐と自分を称していたが、言葉通りではないらしい。

シロコさんが即座に否定し、緊張感を感じる。

イオリさんは強がっていたが、言葉に詰まる辺り外れては無い様だ。

ナンバー2といえば、彼を思い出す。

髪をオールバックにし、苛立つと眼鏡の位置を頻繁に確かめていた。

ルビコンでは珍しくシワの少ない服を着こなし、初対面では神経質そうな顔に悪い笑みをしていた男。

ヴェスパーの彼(V.Ⅱスネイル)は最初こそ酷い印象しかなかったが、何度か顔を合わせる内に態度が変わっていった。

戦友(V.Ⅳラスティ)と一緒にイタズラで眼鏡を真っ黒に汚したり、説教から逃げて来た自由人(V.Ⅰフロイト)と共にシミュレーターに立て籠ったり。

彼の頭に血管が見える程に遊んだが、それでも聞こえて来た噂程ではなかった。

あの人が再教育センターから移送されたのも、上層部からの指示でそれを止めようとした側だったらしいし。

記憶を振り返っていると、何かしら指示されたらしく周囲の増援部隊が構えていた銃が下ろされた。

おお、すごい。流石対策委員会の皆さんと先生。私が突撃してた時は激しく抵抗(殲滅戦)されたのに。

 

「本当に武器を下ろした…?」

『先程までの愚行は、私の方から謝罪させて頂きます』

 

しかも敵側から謝罪も引き出した。向こうでイオリさんが命令と違うと喚いているが、状況を確認しろと叱られている。

事前準備などの辺りは、私も当時はあの人や彼女(エア)がやってくれたから気にしないでも良かったから楽だった。…あれ、それならアコさん(オペレータ)のミスなのでは?

 

『失礼しました、対策委員会の皆さん。私達ゲヘナの風紀委員会はあくまで、私達の学園の校則違反をした方々を逮捕する為に来ました。余り望ましく無い出来事もありましたが、まだ(・・)違法行為とは言い切れないでしょうし…止むを得なかったという事でご理解頂けますと幸いです』

私が疑問に思っていると、聞き逃せない言葉がアコさんの口から飛び出した。

キヴォトスにおいて、殺人は忌避されている事。

爆撃された店内には、先生と柴大将さんがいた事。

…そして二人は直撃した場合、死ぬ可能性がある事。

あのエンブレムを持つ先生が死んだら、あの人への手がかりがなくなる。それは止むを得なかった等という話ではない。

もしキヴォトスでは合法だとしても、そんなもの私には関係ない。

 

「グルルル…!」

 

無意識に威嚇するため牙を剥き、ギシギシと食いしばった奥歯から音が響く。

少し痛みを感じる程に額に力が入る。喉から今まで上げた事がない唸り声が上がるのを抑えられない。

私の変化に気付いたのか、驚いている様子のアコさんを見て先生が補足してくれた。

 

”オンちゃん落ち着いて。ごめんねアコ、砲撃された店には柴大将とオンちゃん。それに私も居たんだ”

『えっ』

 

先生の言葉にアコさんは驚いた声と、本当に予想外だったと思われる表情を見せた。

これにはイオリさんを含めた風紀委員全員が想像していなかったらしく、驚きと困惑の様子が見える。

便利屋の皆さんも「そうだそうだー!」と話にノって非難している中、対策委員会の皆さんは目を見開いて私を見て来た。何故?

 

『………他の学校が別の学校の敷地内で、堂々と勝手に戦闘行為を始めるなんて。自治権の観点からして違反しています。何より…』

 

通信機から聞こえるアヤネさんの声も身体も怒りによって震えている。机がミシリ、パキリと割れる幻聴が聞こえて来た。

見開いた目は今や睨み付けており(目が据わってて)、プレッシャーを感じる程だ。

 

『オンちゃ…大怪我する一般人の方々を巻き込んでの攻撃なんて、違法行為どころではありません!!』

 

アヤネさんが叫ぶと、対策委員会の皆さんが無言で銃を構える。彼女と同じようにいつもの表情はどこかに消えて、無表情になっている。

何で私の名前が最初に出かけたのだろうか。対策委員会の皆さんも戦闘中すら何かしら感情を感じる雰囲気だった筈だが、何故無表情になっているのだろうか。

その割に殺気に似た何かを感じる気がする。だって便利屋の皆さんが恐怖してるし。

流石に先生は笑顔で…あれ、何だかここ寒い気がする。

 

『まさかゲヘナ程の大きな学園がこんな暴挙(オンちゃんを害する)に出るとは思ってもみませんでしたが、便利屋の件も砲撃の件も譲れません』

「そうですね、彼女達の背後にいる方の正体もまだ分かっていませんし。元々今日はオンちゃんから彼女達へお願い事をするという話でしたからね」

 

対策委員会の皆さんには先生の同行をお願いする関係で、先に概要だけ伝えていた。

それはそうとノノミさん。その重いガトリング(リトルマシンガンⅤ)を構えたまま、指を引き金に添えたら疲れた瞬間誤発するのでは?

奇襲をかけるにしてもタイミングを合わせた方が良い。そう考えていると思わぬ衝撃(精神的スタッガー)から立ち直ったアコさんが表情を取り繕う。

 

『…民間人どころか先生もいらっしゃったとは、私達も予想外でした。それだけは信じて頂きたいのですが…どうやら難しそうですね』

 

アコさんは戦闘態勢を崩さない皆さんの様子を一通り見回してから肩を竦めて見せる。

 

『ゲヘナの風紀委員会は、必要でしたら戦力を行使する事もあります。私達は一度その判断をすれば、一切の考慮をしません』

 

最後通告とばかりにアコさんが話しながら指から音を鳴らすと、待機させていた増援部隊が動き出す音が響いてくる。

増援に驚く対策委員会の皆さんの後ろで、行進の足音に混ざって便利屋の皆さんが集まり、小声で相談していた。

 

「社長、逃げるなら早い方がいい。足音の量からして戦闘が始まったら、抜け出すどころかもう後戻りはできない。風紀委員会はきっと、アビドスと私達を同時に殲滅するつもり。でもアビドスが気を引いてる間なら…」

「ふふっ、ふふふふっ」

 

カヨコさんは戦術的撤退を視野にいれている様子だったが、アルさんはそれに対し不敵な笑いを漏らしていた。

不思議そうにする彼女に対し、アルさんは逆に問いかけている。

 

「ねぇカヨコ、貴女はもうとっくに私の性格、分かってるんじゃなくて?レイヴンから声を掛けられて、世話になった場所(紫関ラーメン)を瓦礫にされておいて…背中を向けて逃げる?」

 

派手な音を立ててスナイパーライフルをリロードし、便利屋の皆さんへ視線を移していく。そしてアルさんは口端を上げた笑みを(不敵に笑って)見せる。

 

「そんなのハードボイルドじゃない…いえ、三流の悪党でもしない事を私達便利屋がする訳ないじゃない!!」

「…あはー」

「わ、私やります。アル様の言う通り、食事の恩も止めて貰った恩も返さず逃げれません!」

 

アルさんの態度にムツキさんが好戦的な表情に変わる。目の色もどこか楽しそうに見えた。

ハルカさんもショットガンを抱え直して、覚悟を語って見せる。

…食事の恩はわかるけれど、爆破を止めたのは死にたくない私の勝手な押し付けな筈だが。

 

「あの生意気な風紀委員会に一発食らわせないと気が済まないわ!」

「…それは良いけど、あの兵力と真っ向から戦う気?レイヴンが居るとはいえ、アビドスと力を合わせてもギリギリだと思うし。そもそも仕事上、アビドスと敵対してる私達に協力してくれるとは思えな」

「便利屋、手を貸して。この風紀委員会、潰してやらないと」

 

アルさんの宣言に対し溜息を吐きながら、カヨコさんが懸念した瞬間。

割り込むようにセリカさんが助力を頼み込んでくる。その声はどこか冷えた雰囲気を帯びていた。

「ん。全員ぶっ転がす」

「オンちゃんも巻き込んだお仕置きもですし、先生を皆で守ります。いいですね?」

「話が早い…というか、凄い物騒だね…」

 

シロコさんは今にも飛び出しそうだし、ノノミさんも守ると言いつつ開幕を譲る気はなさそうだ。

何なら先生もお仕置き位なら問題なさそう。先生が持つ端末機からも耳鳴りと共に『やっちゃえバーサーカー!』とか聞こえる。バーサーカー…狂戦士という意味だった気がする。誰の事だろうか。

対策委員会の皆さんがすでに仲間として認めていると、アルさんは一瞬驚いていたがすぐに笑って答えて見せた。

 

「ふふっ、あはははっ!心配は無用よ!信頼には信頼で報いるわ!それが私達、便利屋68のモットーだもの!」

 

便利屋の皆さんも銃を構えて、風紀委員会の方にも緊張が走る。

開戦とばかりに私は足に力を込めた。

 

『これはこれで想定していた状況ではありましたが…ここまで意気投合が早いとは。この点も想定外でしたね。まぁいいでしょう、それでは風紀委員会、攻撃を開始しま…』

『アコ』

 

共闘の展開に驚いていた様子だったが、気を持ち直して号令をかける直前、別な通信が割り込みをかける。

アコさんの名前を呼ぶその通信主の声に聞き覚えがあり、私は足に込めた力を少し緩める。

通信機からホログラムが浮かぶが、別方向から圧を感じてスキャンをかけるとすでに現場に着いているらしい。

白くふわふわとした一杯の長い髪と、その後ろから見える大きな角。その角同様、黒字に紫のラインが描かれたヘイロー。紫の瞳は少し眠そうで、相変わらず寝不足らしい。

ゲヘナの制服に上着のコートを肩に羽織り、短いスカートと黒色のニーソックス、そして頑丈そうなブーツを履いている。

腰には私と違いコウモリに似た翼が生えており、身長とそう変わらない長大なマシンガンを携えていた。

 

『…え?ひ、ひ、ヒナ委員長!?い、い、委員長がどうしてこんな時間に…?』

『アコ、今どこ?いえ、何してるの?(・・・・・・)

 

黒の手袋の具合を確かめながら、彼女…空崎(そらさき)ヒナさんはアコさんに尋ねる。

ヒナさんは慰安の御得意様だ。追加報酬で食べ物も良くくれる。

先生と私の方へ順に一瞬だけ視線が向いたので、先生に倣いとりあえず手を振っておく。ちょっとだけ眉が上がった(機嫌を良くした)気がした。

 

『わ、私ですが?私は…そ、その…えっと…ゲヘナ近郊の市内の辺りで風紀委員のメンバーとパトロールを…』

『…そう。いつからここはゲヘナ近郊になったの?(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

セリカさんが嘘つくなと突っ込んでいると、アコさんの解答にまた眉が下がった上に目元に影が落ちたヒナさんが歩み寄ってくる。

皆さんの視界にも彼女の姿が見え始めたため、アコさんも含めてほぼ全員が驚いていた。

ヒナさんのあの表情には見覚えがある。慰安を始めて数秒後、不良達が爆破事件を起こして緊急応援を呼ばれた時の表情に似ている。

あの時は部屋内の空気が何度か下がった気配がした。

手伝おうかと身振りで聞いたが、その時は留守番を頼まれたのだったか。

 




ご閲覧、お気に入り、感想や御評価も頂き、いつもありがとうございます。
ここ好きも勿論見させて頂いてます、感謝です!
連読も頂けるとは…光栄だ。筆者も小躍りしています。

本作の621が知っている(スネイル)は独自設定です。直接交流があった場合、割とイイ奴…と言うか、性格が良い方向に変わっていった感じ。
例のログも誤解か、別人だった等の設定です。



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