青空の下、猟犬は求め流浪する   作:灰ネズミ

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犬好きおじさん「ドッグラン(もふけもポイント)をウォッチするとは、相変わらずだな。ン閲覧者ァ…」
犬好きおじさん「また見直しを行ったようだが…何度でも誤字報告してやろう(親切)」
犬好きおじさん「この感じは初作品か。上手く育てれば遅筆でも完結になる…」
犬好きおじさん「好運な事だ。ここで閲覧もして貰えるとは」



15.猟犬の狂走

最終手段、せーいとしゃーい(誠意と謝意)の心である、ハラキリも見せるべきか。

そこまで考えてパルスブレードをおなかへ構えたけど、それは先生に頭を抱き寄せられて止められた。胸に挟まれて息がしにくい。

 

”オンちゃん、そのまま力を抜いて。ゆっくり深呼吸して”

 

呼吸してと言われても胸が邪魔でやり難いのですが。

私の背中に回された先生の手がポン。ポン。と軽くゆっくりしたリズムで叩いてくる。

視界も塞がれて真っ暗だったけど、先生の体温と撫でるかのような手付きを受けている内に思考と呼吸が落ち着いてくる。

少しの間そのままだったが、私の様子が落ち着いてきたのに気付くとゆっくり身体が離された。

 

”落ち着いた?ほら、鼻をかんで…鼻から片方ずつ、息を軽く吹いてー”

 

マズルの先に柔らかな切れ端(ティッシュ)を押し付けられ、言われた通り鼻息を吹く。ぷぴー。

先生にされるがまま任せていると、誰かが近寄る気配を感じる。

 

「…あ、あの。あの、ご、ごめんなさい。私が、爆破しようとしてしまったから…」

 

消え入りそうな声色で言葉に詰まりながら、ハルカさんが謝っている。

先生に目元も拭われて見えるようになると、どうやら私に向かって謝っているらしい。

何故謝るのかわからないが、私が取り乱した理由は別であるため首を横に振る。

そしてまだ先生が手に持っていた例のカードを指さした。

 

”…このカード?オンちゃん、何か知って…”

 

先生が訪ねようとした時、頭の中にアラート音が鳴り響く。

頭上の獣耳もピクリと動き、私は天井を見上げた。この風切り音…迫撃砲?

どこに着弾するか確認しようとしたが、その前に轟音と共に店が吹き飛んだ。

 

 

 

瓦礫と化した店の破片を払い除けて立ち上がる。

便利屋の皆さんは目を回しているようで、柴大将さんは倒れた設備に半分下敷きになっている。意識があるかはわからない。

先生は…キィンと耳鳴りが聞こえた方を見ると、パルスシールドに似た何かが展開されており、無事であるようだ。

先生の姿を見て一息吐いた後、周囲を見渡して砲撃元を探す。

3kmほど離れた場所に擲弾兵達が構えているのが見えた。他にも待機している揃いの服装を見る限り、中隊以上の集まりだろうか。

数を確認していると、再度こちらへ向けて砲撃してきた。

あの人のエンブレムを持つ先生(・・・・・・・・・・・・・・)ごと撃ってくる(殺しに来た)のなら、敵だろう。

店の跡地から段々と加速しながら飛び出すと、私の頭の中で何かが引き千切れていった気がした。

 

 は

    殺

         す

 

 

 

何十回かやり直し(リトライ)して少しばかり頭が冷えてきた。

パルスブレードも惜しみなく(生身相手だろうが構わず)使ったけど、流石にこれは無理だ。

増援の増援が続いてもはや大隊くらい居そうだし、ネームドクラスが二人(とオペレータ?が一人)混ざっている。

そしてキヴォトスで出会った中で一番強い人までいる上、何故かリスタート地点が砲撃直前まで無い。

ルビコンでの執行部隊殲滅任務、敵部隊とHC(重武装機体)、お代わりのAC(キャンドルリング)を相手した時よりも酷い気がする。あれも酷かったけど。

せめて彼女の前にリスタート地点があれば良かったが、無いので先生にも頼る事にする。

できればここで役に立つ所を見せて、すぐに例のカードの情報代を稼げたら良かったのだけれど。

再び意識が戻った瞬間、私は先生をカウンターの下へ突き飛ばし、更にカウンターを飛び越えて柴大将さんに飛び掛かって押し倒す。

頭が冷えてきて何度か目の行動で確認した限り、これで二人共意識が残る筈。

砲撃で店が吹き飛んだ後、店の破片を引き抜き(・・・・)、包帯を巻き直して立ち上がる。

 

”けほっけほ…一体何が?”

 

キィンと言う耳鳴りと共に先生がカウンターの残骸から出てきて、立ち上がりながら周囲を見渡している。

私は一声、もとい一鳴きして呼び掛け、中隊ほど居る擲弾兵達を指さす。

先生は柴大将さんの怪我を確認した後、シェルターへ避難を促すと端末機を取り出した。

 

”あの制服は…アロナ、念の為所属を確認できる?”

『はい、確認します!えっと、あれはゲヘナの風紀委員会みたいです!』

 

先生が話しかけると持っていた端末機上に水色の制服を着た少女のホログラムが現れ、疑問に答えていた。

やり直し(リトライ)の合間に何度か聞こえた通り、あれはゲヘナ学園の者達らしい。

銀色の髪を左右に結わえ、褐色肌の女性が歩兵に指示を出して前進させてくる。

赤みを帯びたベージュ色の髪の女性が何かを確認していたが、肩を竦めている様子から聞く耳は持っていなさそうだ。

 

よし。殺

 

いけない。これではまたやり直し(リトライ)になる。

首を振って頭を冷やし、先生の指示を仰ぐように見つめる。

 

”あれは…チナツかな?気付いて貰えれば良いけれど…”

 

額に手をかざして風紀委員会の人達を見ていた先生は、端末機に指を這わせて考え込む。

目を回していた便利屋の皆さんも気が付いて慌て始めた時、先生は頷いて見せた。

 

”便利屋の皆。オンちゃ、いやレイヴン。緊急依頼だよ”

 

◆◇◆◇◆

 

-チナツサイド-

 

上からの指示で便利屋68を追って来たら、すでに他学園の自治区付近まで来てしまいました。

やけに多すぎる人員も相まって、これではアビドスへの侵攻などと勘違いされる可能性もあります。

情報部からの話によればあの(・・)シャーレの先生が最近よく顔を出していると聞きますし、できれば敵対になるような事は避けたい所です。

それに便利屋とはレイヴンもよく仕事を共に受けている、という話も聞いています。

あのフワフワ…いえ、物静かな方と風紀委員長が戯むれ…いえ。穏やかなひと時を過ごされる姿を覗くのは私の密かな楽しみ(癒し)でもあります。

何で治療班が前線に出たがるんでしょうね?誰が残った負傷者の対応をすると思っているのでしょうか。私でしょうね…。

少し遠い目をしながら、隣にいるイオリが兵を進めるのを見送ります。

その先には便利屋68の潜伏先と思われた店跡と…!?

 

「ちょ、ちょっと待って下さい。イオリ」

「ん?」

 

狙撃銃を肩に担ぐ彼女が片眉を上げて私に視線を寄こすのを横目に、私は端末を慌てて操作します。

あの姿、見間違いであってほしいですが…。

そんな私の願いはあっさり裏切られました。

 

「アビドス区側に民間人が映りました。確認中ですので…え!?やっぱりあの方は…まさかシャーレの先生!?それにレイヴンまで!!?」

「ん?シャーレ?レイヴン??何だそれ?」

 

最悪です。これは戦力的にも戦略的にも(・・・・・・・・・・)マズいです!

しかもイオリはレイヴンもシャーレ自体も知らない様子です。

報告書は一応回しましたよね!?

 

「ちょ、ちょっと待って下さい。シャーレの先生があっちにいるとしたら…この戦闘、行ってはいけません!」

「どういうことだ?」

 

シャーレ捜査部の部室奪還時に見た先生の指揮能力による戦力増強もですが、何より戦術面を見ても保有する権力的な部分も危険です。下手をすればゲヘナ学園全体に影響が出かねません。

と言いますか、レイヴンと敵対したら間違いなく出ます。風紀委員長に。

慌てて止める様に進言する前に、前線から銃声が鳴り響きます。前進していた風紀委員が発砲してしまったようです。

 

「ちっ、仕方ない。行くぞ!」

「あっ。あぁぁ…」

 

舞い上がる粉塵を見て、イオリが飛び出していきます。あぁ…終わりました。

レイヴンと戯れる風紀委員長(もふもふとふわふわ)写真(スチル)にヒビが入るのを幻視しながら、私も戦闘に備えます。

 

 

 

「な、何!?私達が負けただと!?」

 

途中でアビドス高等学校の戦力も合流され、私達は呆気なく負けました。

先生の指揮も入った状態で、待機中の増援もなしに中隊程度の戦力では勝てる訳がありません…。

それに、レイヴンの動きに翻弄されまともな進軍もできませんでした。

前進させようと動かした瞬間、牽制のミサイルや銃撃が火を噴いて動きを止められ。

遮蔽物に隠れながら進ませようとすれば、まるで見えているかのように回り込まれ銃撃と警棒を叩き込まれます。

戦況を覆そうと堪え切れずイオリが飛び出せば、瞬時に間合いを詰められて殴り飛ばされ、至近距離で銃弾を大量に撃ち込まれて制圧されてしまいました。

淀みない一連の動きは、まるで飛び出す事を知っている(・・・・・・・・・・・・・・)かのように思えてしまう程です。

うつ伏せに倒された背中にレイヴンが跨り、動きが抑えられているイオリさんが喚いています。

…そういえば戦闘中、何度かレイヴンの小手らしき何かからゾッとする寒気を感じましたが、あれは何だったのでしょうか。

イオリの後頭部に銃口を押し付け、黙らせたあの方の顔を見ましたが今はわかりません。

 

”久しぶり、チナツ”

「先生…こんな形で再びお目にかかるとは…。先生達がそこにいらっしゃる事を知った瞬間、勝ち目はないと判断して後退するべきでした。私達の失策です」

 

様子をじっと見ていた私に先生が近寄り声をかけてくれます。申し訳なさと不甲斐なさで身を縮こませました。

せめてアビドスが合流していなければ…いえ、最初は引き気味で遅滞作戦を行っていた事を思えば先生の事です。予め連絡していたのでしょう。

溜息を吐きたいのを堪えて居ると、アビドスの制服を着た女性のホログラムが現れます。

 

『アビドス対策委員会の奥空(おくそら)アヤネです。所属をお願いします』

「それは…」

『それは私から答えさせて頂きます』

 

言い淀むイオリさんの前に、別なホログラムが現れ言葉を遮りました。

水色の波打つ髪に、黒と赤のヘアバンド。少しばかり(・・・・・)特徴的なデザインにアレンジしたゲヘナの制服に身を包む彼女は…。

 

◆◇◆◇◆

 

『通信…?』

「アコちゃん…?」

「アコ行政官…?」

羨ましい…

 

イオリと呼ばれていた女性の動きを牽制しながら、アヤネさんとの会話に割り込んできたホログラムに私は横目を向ける。

小声で呟かれた先生の声も聞こえたが、何を羨ましがっているのだろう。開放的な彼女の服装の事だろうか。

水色の波打つ髪は黒と赤のヘアバンドで抑えられ、何故か胸部の横部分に穴を空けたゲヘナの制服。短いスカートからはガーターベルトと思われる紐が黒色の二ーソックスを留めてている。

前に先生から妙に勧められたが、ああいうのが好みなのだろうか。

アコちゃん、アコ行政官と呼ばれた彼女はちらりと先生、そして私を見た後に対策委員会の皆さんへ笑顔を浮かべて軽く頭を下げる。

一瞬私に向けた視線は睨んでいたが、今は抑える事にしたらしい。

以前受けた依頼の時から、彼女には敵意を持たれているみたい。依頼主からは気にしないで良いとは言われたが…。

 

『こんにちは、アビドスの皆様。私はゲヘナ学園所属の行政官、アコと申します。今の状況について少し説明させて頂きたいと思いますが、よろしいでしょうか?』

「アコちゃん…その…」

 

叱責を受けるのを恐れるかのように、イオリさんが彼女へ声をかける。

それに対してアコさんは反省文のテンプレートの保管場所を確認していた。

私はこの時、理由がわからなかったが後から先生に聞いた話では、アコさんが交渉を行うため言動を抑えていたのかもしれないらしい。

キヴォトスには遠回しな表現が多すぎる。刺繡でもしてよく回る舌を縫い付けておけ、というルビコンで聞いた言い回し位には分かり難い。あれもあの人に聞くまでは本当に刺繍の練習でもするのかと思っていた。

当時あの人の顔が、先生と同じように苦笑いの(困ったような)表情をしていたのを思い出す。

 




いつも御閲覧、お気に入り、更に感想や、評価も頂きありがとうございます。
誤字報告も大変助かっており、感謝致します。


暦通りのGWを得た為、(ストック)を進めていました。有給は留守だよ、筆者代理でベガスに行ってる。
先日は総力戦グレゴリオがありましたが、皆様は如何でしたでしょうか。木っ端傭兵な筆者は未だEXTREMEが越せません。BGMは好き、でも推奨レベルって何だっけ…?
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