青空の下、猟犬は求め流浪する   作:灰ネズミ

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ヒロイン「レッドウィンターからの依頼です」
ヒロイン「筆者(遅筆)が同社に持ち掛けた、キヴォトスにおけるロカ・コーラル情報」
ヒロイン「その確証を得るため、あなたに先行調査を依頼したいとのことです」
ヒロイン「のんびりすぎる長文な本作品を執筆する手段ですが…小説投稿サイトに備え付けられた、大陸間輸送用カーゴランチャー(各種多機能)
ヒロイン「これらを使い、執筆環境へと向かわせる事を提案します。所でレイヴン。私の出番はまだですか?



10.アビドスの恵みをナマで

『傭兵、および強者たるスケバン各位。これは某社系列企業、マルデタコからの依頼です』

『我々と敵対関係にあるネフティスグループが、試作型ゴリアテの入手を察知しました』

某社社員の金策ギャンブルの返済からの横流しによるゴリアテは熟練者に渡れば無視できない脅威となります』

『そこで依頼です。当該機体の搬入を狙い、これを撃破して頂きたい』

 

 

 

「ああ…俺も…ジャックポット(大当たり)が欲しかったなぁ…」

 

ターゲットである人型兵器のあちこちが爆発し、煙を吹きながらパイロットの呟きと共に崩れ落ちるのを見送る。

隣に立つ便利屋社長、アルさんが掌をこちらに向けて上げたのに気づき、一瞬首を傾げた。

何のハンドサインかと思ったが、そういえばレッドガン隊員が作戦終了後によくやっていた仕草に似ている。

試しに仕草を真似て手を上げれば、軽い音と共に手を合わせハイタッチして来た。

他の便利屋メンバーも笑っているのでどうやらあっているらしい。

 

「おっつかれさま~!やっぱりレイヴンちゃんが居ると楽だねー」

「お、お疲れ様です…。ヘイト分散、助かりました」

 

ケラケラと楽しそうに笑うムツキさんと、警戒してショットガンを抱くように持つハルカさんとも合流する。

見る度に警戒されているように感じるのだけれど、私はそんなに怪しいだろうか。

目深に被るフード。偽装しまくりの火器類。下着なしケモセーフで素足。よし、考えるのをやめよう。

試作型ゴリアテからパイロットが転げ落ちて逃げたので、意識をそちらへ向け現実逃避した。

視線で追っている内に、依頼人への完了報告と振込み確認を行ったカヨコさんも合流する。

 

「振込確認もできたよ。これで目標額にも届いた」

「お疲れ様ね、カヨコ。それじゃ前祝いも兼ねて打ち上げでもしましょうか」

 

楽しそうに会話をしていた便利屋メンバーの声がぴたりと止まる。

何か想定外でも発生したかと思い目を戻すと、全員が私を見ていた。

 

「…その。よければ貴方もどうかしら、レイヴン」

 

アルさんからの誘いに私は驚く。何度か一緒に任務を行ったし、今も一仕事したとはいえ、会話もしない私を誘うとは思わなかった。

ハルカさんは毎回警戒しているし、カヨコさんも良く疑惑の目をしていたので思ってもない誘いだ。

よく話しかけてくるムツキさんが後ろ手で近寄って前のめりになり、私を見上げてくる。

この姿勢はヴェスパーの一人(V.Ⅵメーテルリンク)が言っていた女子力の姿勢の一つ。

ムツキさんも強いAC乗りなのかもしれない。

 

「今回も一緒に仕事やったし、折角ならも~っと仲良くなりたいなってね」

「それに少し相談もある。無理にとは言わないけどどう?」

 

カヨコさんも乗ってきたので、ハルカさんはどうかと思い視線を向けるとブンブンと勢いよく首を縦に振っていた。

多分OKなのだろうと思い、それであればと了承として私も頷いて見せる。

何故かホッと息をついたアルさんが先導し、私達は食事処へと向けて歩き出した。

 

 

 

いくら過疎化が進むアビドスとはいえ、まさか数時間も店が決まらないとは思わなかった。

店内が狭い、メニューが微妙などと説明されつつ歩き続けている。

 

「(小声)社長、予算に余裕がないとはいえ流石にそろそろ決めないとまずいんじゃ?」

「(小声)だってあのレイヴンよ?半端な所だとマズいじゃない!」

 

そんな会話が聞こえてくるが、私としては無味のレーション(すでに味覚がない頃)泥水のフィーカ(泥水のような)でなければ構わない。

何ならそれこそ人間だとヴェスパーの一人(V.Ⅲオキーフ)も言っていたのでそれでも良い。

まぁ私が飲んだ事があるのは泥水と先生から貰った普通のフィーカ(コーヒー)位だけれども。

強化人間時代と違い、今は味覚もあるためあれは苦かった。いっぱいミルクとシュガーを入れて貰って真っ白にしたら飲めた。

味を思い出しているとふと腹に来る匂いに気付き、クンクンと鼻でその匂いを嗅ぎ取る。

匂いの元を辿って歩き出す私を追って、便利屋の皆さんも付いてくる。

やがて匂いの元となる店を見つけて、指で指し示すと皆さん頷き、代表としてハルカさんが確認しに入る。

店内で何点か確認のやりとりを交わすと、合格のハンドサインらしきものを出したので便利屋メンバーから順に入った。

店の入り口にはキヴォトスの文字で何とか(柴関)ラーメンと書かれている。

キヴォトスの文字は難しすぎる。何でひらがな、カタカナ、漢字の他にアルファベットまであるのか。

読取端末がなかったら傭兵業の開始ももっと後になる所だった。ルビコンを見習って統一してほしい。

あれでもルビコンも割と専門用語(スラング)が多かった気が…と考えた所で見知った顔を見つけてしまった。

何故かアビドス対策委員会メンバーの一人であるセリカさんが普段の制服とは別な衣装と白い布を被りながら、私を見て口をパクパクしている。

今の私はレイヴンとしての恰好のため、人差し指を立ててマズルの鼻先に当てる。

やはり鼻に指が当たるとむずむずするが、我慢しているとセリカさんは肩を落として呆れた表情を浮かべる。

 

どうしてここにって気になるけど、今は初見のお客とするわ。お席にどうぞ!」

 

先に座っている便利屋メンバーに続いて案内されて座る。

私が来る前にメニューを確認しており、その中の一つ(一番安い奴)で良いかと聞かれたので頷いておく。

店先に書かれた文字と同じものだったため、多分おすすめなのだろう。

 

「それじゃ紫関ラーメンを二杯お願いね!」

 

注文を聞きに来たセリカさんへムツキさんが伝えると、驚いて聞き返している。

そこへハルカさんが貧乏でごめんなさいと謝罪したが、同じ金欠境遇に思う所があったのかセリカさんは応援してから店奥へと去っていく。

店奥では料理人らしき犬獣人がセリカさんと会話を交わし、手が滑ってしまう等と怪しい言葉が聞こえる。

アビドス高等学校も借金と利息を返す似たような状況だから、彼女がわざとミスするよう伝えた訳ではないと思うけれど。

首を傾げていると、便利屋の皆さんも予算内に収まりそうと一息ついていた。

 

「次の仕事のために雇った傭兵達の支払いでギリギリだったもんね~」

「次の雇い主は大物だもの。失敗は許されないわ。あらゆるリソースを総動員して臨まないと」

 

明るく笑うムツキさんに対し、気合を入れるように腕を組むアルさんが答える。

便利屋の皆さんでも慎重になる相手なら、確かに全力を注ぐのもわかる気がする。

数日位無補給でも動けるのはキヴォトス初日のアビドス砂漠で確認している。キヴォトス人は強い。

 

「それで相談になるんだけど…アビドスの戦力に対してレイヴン。貴方の力も借りたい」

「依頼成功の暁には報酬の他にも、すき焼きも付けるわよ!」

「すっ、すき焼きとはっ…!?それは一体!?」

 

無料として置かれたおいしい水の入ったコップを両手で保持し、舌を伸ばして味わっているとカヨコさんから驚く相談をされる。

アルさん達が横で話すスキヤキというものも気になるが、今はアビドスに絡む話だ。

不良やさ迷う無人機なら良いが、もしもアビドス高等学校が相手なら大変な事になる。

驚いて鼻に跳ねた水を舌で舐め取りながら、話の続きをと視線をカヨコさんへ向ける。

 

「ここに書いてる奴らの無力化が依頼。基本報酬はこれ位の予定で、他にもアル社長が雇った傭兵達が自戦力になるね。事前情報通りなら大丈夫な筈だけれども。傭兵達は値切りに値切ったからあんまり信用できないし

 

小型端末をそっと前に滑らせてきたので見ると、見事にターゲットは対策委員会メンバーだった。

とりあえず基本報酬や後半小声になった内容は放っておくとして、相談は受けられないのが決まった。

受けてから裏切るのもありだが、アビドスとの関連が疑われる事や便利屋の戦闘力を考えるとリスクが高すぎる。

今すぐセリカさんに伝えるのも同様と考えて、少しだけ考えるふりをしてから首を横に振って見せる。

 

「そっか。アビドス関連の仕事はあまり受けないようだし、やっぱり砂漠の暑さは堪える?」

 

カヨコさんが残念そうに引き下がるが、サラリとアビドス絡みの仕事量を把握されていて内心慌てる。

理由は間違った考えだったけれど、丁度良いとばかりに乗っかって頷く。

 

「はい、お待たせしました!お熱いのでお気をつけて!」

 

タイミング良くセリカさんが料理を持ってきてくれたので、そこで話が終わって落ち着く。

あまり深く探られると更に情報が持って行かれそうだったので助かった。

文字通り盛ってこられた料理と添えられた人数分の小皿に驚いたけれど、量を間違えたなら仕方ない。

小皿に取り分けようとして食器を探したが、あるのは妙な形をしたスプーンだけで首を傾げる。

 

「あら、どうしたの…って、箸を使ったことがないのかしら?ならフォークなら大丈夫かしら」

 

きょろきょろと見渡している私に気付いたアルさんが提案してくれるので、頷いておく。

アビドス高等学校では殆ど日持ちする手で持てるものか、フォーク位しか使わなかった。ハシといえば、解放戦線にいた戦士(六文銭)が持ち歩いていると聞いた気がする。

万能食器と話していたが、多分今でも私が扱うには訓練不足だろう。

セリカさんに頼んだフォークを受け取る頃には、私の分も含めて小皿に取り分けられていた。

感謝のために便利屋の皆さんへ頭を下げる。満足げに頷いたアルさんが食事前の儀式(頂きます)をしたのに倣い、私も手を合わせた後にスープに浸されたそれを見下ろす。

半透明に透き通った葉っぱ(キャベツ)を刻んだものに、白く細長い根のような何か(もやし)切り分けられた肉(チャーシュー)は分厚く、これだけで高級品だと思わせるのに卵らしきもの(煮卵)まで付いている。

油が浮いたスープからは何かでダシ(背油と豚骨醤油)がとられているようで、濃厚な香りが食欲を刺激する。

そこから覗く太い紐のようなものはパスタ…キヴォトスではメンという名称らしい…が、たっぷり入っている。

再度便利屋の皆さんにあわせてメンから食べてみようと、スプーンとフォークでパスタのように巻いてから口に運ぶ。

瞬間、舌の上から旨味と香りが爆発的に広がる。浮いてた油は全く重くなく、まるで水のよう。しょっぱさと甘味のあるスープに麦からなる穀物のメンが絡んでスルスル入る。

肉もスープと同様の味わいが染み込んでおり、ルビコンで食したミールワームとも違う触感と味わいで脂身は舌の上で溶けて消えたかと錯覚する程。

葉っぱと白い根はほどよく煮込まれていて、水分も保持しておりさっぱりと歯応えも残している。

焼いて調理されたものと違う形の卵も、しょっぱいダシで味付けされていて美味しい。美味しい。おいしい。

気付けば視界がぼやけており、瞬きすると頬に水が伝っていた。あびどすのらーめん、うますぎる。

 

さっぱりした葉っぱと白い根。不思議な形の卵。溶けてしまうほど柔らかい肉。そして何より油をまき散らすけど、スルスル飲んでしまえるメンに絡むスープ。どいつもこいつも私を幸せにさせる。

これは死んで平伏する程美味しい。ラーメンこそがアビドス私こそが企業だ。

 

 

 

何故か深刻そうな顔をした便利屋の皆さんを置いて、おかわりも頂いてしまった。

ご馳走様です、柴大将さん。

 

 




眼鏡「このジャンクフードを食べるのはいいでしょう。折角の打ち上げです」
眼鏡「大盛りのカロリーも…まぁいいでしょう。身体作りのためにも摂取は悪くありません」
眼鏡「だが貴様はこの私を…眼鏡を油で汚した。駄犬め。クリーナー以外の選択肢はない…!(フキフキ」


いつも御閲覧や誤字報告など頂きありがとうございます。
ひと時でも楽しんで頂けているなら、筆者冥利に尽きます。

621は大将も含めて名前だと誤解しています。話せないから気付かれないのも仕方ないね。

ケモ621のルビコン時代の小説って需要在ります?

  • 1.本編で乗せれる一部で良いですよ☆
  • 2.ん。あるから全ルート書くべき
  • 3.うへ。まずは完結からじゃない?
  • 4.まだ指が回るようなら表現力を鍛えろ!
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