青空の下、猟犬は求め流浪する   作:灰ネズミ

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閲覧頂けるだけでなく、お気に入りに入れて下さる方もいらっしゃって、本当にありがとうございます。
余りの嬉しさに脳裏で某ご友人が「素敵だ…」とリピートしてきたので、早めにストック1本を投稿させて頂きます。

3/15追記:誤字報告頂き感謝です。修正しました。


2.漂流者(犬)

その後何度も脱水症状で倒れながら、特殊な体質によるやり直しを繰り返して探索範囲を広げる。

長い間自らの足で歩く事がなかったため、最初の頃の足取りはやや覚束なかった。

歩いている内に慣らしていき、早足や軽く走る程度には動ける事を確認しつつ、砂と廃墟の中を進む。

不思議な事に、全身はじわじわと痛むのに対し、恐らく陽炎が見えてもおかしくはない筈の砂漠の暑さや夜の寒さは気にならない。

その上、生身にもかかわらず意識するとソナーらしき波長を飛ばす機能…ACに備わる機能の一つ、スキャンが使えた。

理由はわからないがこの際使えるならと多用し、ようやくしっかりと防砂対策がされた建物を発見する。

スキャンの反応では幾ばくかの物資のみで、人の気配はなさそうだ。

この身体は感覚も鋭くなっていたので、目視や聴力でも警戒しながら建物内へ侵入する。

マスターキー(体当たり)で開錠した室内は埃っぽく、頻繁には使われてないらしい事がうかがえる。

しかしたまに拠点として利用されていたのか、水や恐らく保存食と思われる物。そして予備らしき外套を入手できた。

伸びたマズルでは飲みにくいボトルから苦労して水分を補給し、食べ物と思われる絵が描かれた保存食を手に取る。

 

…そういえば、この身体は固形物を食べられるのだろうか?

 

以前の身体ではチューブで体内に直接流し込まれたり、点滴を打ち込まれたりしていた時期もあった。

再教育センターにいた頃には、どろどろに煮込まれたスープを飲まされた事もある。

教育もかねていたため、誤った食器の使い方をした時など酷い目にあわされた。

昔を振り返りながら、密閉された包装を破って出てきた淡い黄土色の物体の匂いを嗅いでみる。

穀物のようなものを焼しめた様なほのかな香り。アーキバスの社員食堂(カフェ)で嗅いだような香りがする。

外装に記載された文字にも見覚えがないため、保存期間内かはわからない。

最悪、またやり直してここまで来るしかないかと覚悟を決めて噛り付く。

 

…ああ。これが食事というものだったか。焼かれた脳では感じ取れなかった風味。

 

単純な炭水化物だけではない穀物の風味と甘さ。卵の旨味に豆の香ばしさと、それらを引き締めるわずかなしょっぱさ。

思いも寄らない至福の味に思わず感涙しながら、口内から奪われた水分に乾きを覚えて水を口にする。

心と共に空腹も驚くほど紛れたので、私は大満足を覚えた。

どうやらここの保存食は恐ろしいほど満腹感と味に特化されているらしい。栄養も補給されている事を願う。

 

日も落ちてきた頃。建物内部を探索し、見つけた着火剤で暖を取る。

昼間の暑さも夜の寒さも、この身体はさほど感じないが影響はあるかもしれない。

明かりで視界も確保できるし、もし人が通りがかれば光に気付くかもしれないという狙いもある。

ぶち破った扉から見える夜空には星々と、夜でもわかる白い円環が覗いている。

円環の中心部には柱らしきものも見えていて、地表にも伸びているようだが遠いらしく、一度もたどり着けなかった。

そちら方面は砂漠化が激しいらしく、目に見えて人工物も減っていったため今は向かわない。

次はどちらへ向かうべきかと外套に包まりながら考えていると、頭部の獣耳が異音をとらえる。

武装を携えて立ち上がり、扉脇で外を探るとこちらへ向かってくる車体が見えた。

やや頼りなそうな装甲で守られた装甲車らしき車は建物前で止まると、強化外骨格のような装備で身を包んだ者達が車から降りてくる。

携えた銃火器が危険だが、初めて自分以外の人を見つけたため交渉を持ちかける事にする。

しかしここで問題が一つ発生する。

 

「扉が吹っ飛んでやがる…どっかから迷い込んだ奴がぶっ壊したのか?って、誰だ!」

「オンッ」

 

扉からゆっくり現れた私に銃を向けた人々に対し、両手を上げて敵対の意思はないとばかりに返事をする。

そう。困った事に、この身体では動物のように吠える事しかできなかった。

先程見かけた文字もわからなかったが、何故か相手の言葉は理解できるようだ。しかし言葉は話せない。

敵ではないと察してもらえるかは賭けになる。

両手を上げたままじっとする私に対し、人々は困惑しているようだったが意図は通じたのか銃口は下げてくれた。

 

「何だお前…どこから迷い込んできた?」

 

それは私も知りたい。

 

 

身振り手振りでわからない事だらけである旨を伝えると、一部は通じたのか色々と教えて貰った。

ここはキヴォトスと呼ばれる場所で、沢山ある学校が国家のようなくくりで認知され、運営されている事。

その中のアビドスと言う学区にある砂漠が今いる場所である事。

キヴォトスには動物や機械人間、人型をした女性達が住んでいる事。

因みに強化外骨格と思っていた彼らは機械人間…こちらではオートマタというらしい。

銃を常備している社会であり、ちょっとした口喧嘩から挨拶までを銃弾でやりとりするらしく、幼子すら爆発物を投げ合うそうだ。

ルビコン3も酷かったが、ここはそれ以上に酷い…と思いきやそうではないらしい。

キヴォトスの人々はちょっとの銃撃や砲弾すら痛いで済む程度に頑丈な身体らしく、よほどでない限り死なないのだとか。

尤も生死にかかわるような事柄までは行かず、そこまでするのは忌避されているとの事。

私の価値観からすると矛盾しているように思えてならない。

掌サイズの銃でも、人は撃たれたら死ぬ。

考え込んでいると私の武装に目を付けたのか、手を貸さないかと誘われた。

少し離れた所にある基地周りの巡回。たまに迷い込む不良などの警戒を数日行う事で、報酬とは別に三食付きで弾薬費持ち。

どこの馬の骨ともわからぬ私を雇うなど、人に困っているのかお人よしなのか。

判断に迷うが折角なので話に乗ることにして、その日の夜は拠点で過ごす事になった。

 


 

「…かあーってに人員増やして、どういうつもりよー?」

 

交代で眠る隊員達を起さないよう小さい声、かつ軽い口調で仲間の一人が訪ねてくる。それに対してため息をついて答えてやった。

 

「ケチられまくったせいでガワだけの武装じゃ危険だし、あのゴツい銃を使えるなら儲けものだろ」

 

中間管理層に中抜きされて見た目だけ立派な武装をコンコンと叩きながら、視線を眠る子供へと向ける。

声に反応しているのか、獣耳が時折警戒するように細かく震えている。

 

「それにあんなぼろっぼろな身体とちっちゃい背丈。そんな奴、放っておけねぇよ」

「しょーたいちょー殿はお子さんもいるからな。それと重なったかー?」

 

うるせーとばかりに肘でつついて黙らせる。部下はニシシと笑って持ち場に戻っていった。

しかし彼には言わなかったが、懸念していることはあった。

我々を見ていたようで、何にも映してなかったような瞳。

人を人として認識していないような、どこか恐ろしい物を感じた。それがどうしようもなく気になった。

 


 

翌朝から数日間、私は彼らの巡回に同行した。結局何事も起こらず、物資を使わせてしまっただけな気がする。

しかし部隊長からは同行したお礼だと、少額のお金と水や食料などの物資を分けて貰った。

流石に悪いので手持ちの弾薬を幾らか交換してもらう事にする。

 

「それで気が済むなら、貰っておこう」

 

恐らく苦笑と思われる表情のライトを顔に該当するであろう画面に浮かべて、部隊長は受け取ってくれた。

所属もできればと誘われたが、話を聞く限り相当大きな組織らしく、所属すればかなり動きが制限されそうだったため辞退する。

部隊長や隊員など個人としては善人でも、その上である上層部は信用ならない。仕事で企業からいい様に使われた苦い記憶を思い出す。

私の様子から拒否感を感じ取ったのか、それ以上は引き留めてこなかった。

 

 

 

彼らと別れて、住人がまだいると教わった方角へと向かう。

廃墟群を横目に歩き続けて、日が暮れる頃にぽつぽつと街並みが見えてきた。

ようやっと人の営みを感じる景色に幸いと足を速めるが、しかし人の気は失せて久しいらしい。

何件か家の敷地内を覗いてみても、水道などのライフラインも止まっている様子だった。

物資を幾らか分けて貰ったとはいえ、何日と無補給でいる訳にはいかない。

少し焦り始めた頃、ふと遠くに人影を見つけた。

 

あれは…人だろうか?

 

目を凝らすとズームするように視界が狭まり、対象を拡大して視認する。

小柄で華奢な体つきと制服姿に、桃色の伸ばされた髪。武装はショットガンと大盾だろうか。

頭の上には話に聞いていたヘイローと呼ばれる天使の輪のような、髪と同じく桃色の輪が見て取れる。

日暮れに浮かぶ青と黄色のオッドアイは、すでにこちらを補足している。

敵対しないよう私はまた両手をゆっくり上に上げて様子を伺った。

 

「うーん?こんな所に人なんて珍しいね~?しかもすごい格好だ」

 

少し伸びた声音とは裏腹に、纏う空気はルビコン3で戦った強者達と似たものを感じる。

下手な争いは避けるべきと考えて、包帯塗れの全身を眺めながら近寄ってくる彼女に対し動かずにいた。

格好に関してはその通りではあるが、今の私は全身体毛で覆われているため、アーキバス社員の言っていたケモセーフという奴で許していただきたい。

ある程度の距離で止まり警戒する彼女に、そういえばと思い出して胸を張って見せる。

そこには砂漠で会った部隊員からの気遣いがチャラリと音を立てる。

 

「うん?カードケースに、紙きれ?」

 

目を細めて書かれた文字に目を通すと、彼女の表情が引きつったものに変わる。

 

「わたしはきおくそうしつです。不憫だ…。何でそこだけ漢字なの?」

 

それは私にもわかりません。

 





ひと時の読み物として提供できていれば幸いです。

8/17追記:
 作中の穀物のようなもの~は、621が多分これっぽいと感じている箇所です

ケモ621のルビコン時代の小説って需要在ります?

  • 1.本編で乗せれる一部で良いですよ☆
  • 2.ん。あるから全ルート書くべき
  • 3.うへ。まずは完結からじゃない?
  • 4.まだ指が回るようなら表現力を鍛えろ!
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