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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」
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再会、そして

「やぁ陽太君、暴走して面倒かけてくれてありがとうよ、とっても面倒だったぞこら」


眼前に邪笑を浮かべる静希があらわれた光景が信じられないのか、陽太はしきりに瞬きしながら目の前にいる静希をその眼の中に収めようとする


鏡花は気を利かせて陽太の体を土から出すと、静希の体を確認するかのように手で触れながらそこにいるのが幻ではなく実体を持っている静希であることを確認していく


「静希・・・本当に・・・静希なのか・・・」


「そうだよ・・・迷惑かけ・・・うぁ!?」


「しずぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!生きてたのがよぉぉぉぉぉぉぉ!」


最後まで言う前に陽太が静希の体を抱きしめて大声を出して泣きわめき始めた


感動の再会というやつなのだろう、強い力で抱きしめられても静希は全く抵抗しようとしなかった


自分がどれだけ心配をかけたか、静希自身理解しているのだろう


「悪かったって・・・あぁもう鬱陶しい」


「うぅぅぅぅぅ、お前・・・死んじまったかとおもって・・・俺・・・おれぇ・・・!」


その陽太を見て、今までの普通の陽太であることを、鏡花はようやく確信できた


うるさくて、バカで、信頼できる、響陽太だ


「ちょっと陽太、そのくらいにしておきなさいよ」


静希と陽太を引き離して、鏡花はいつものように呆れてため息をつく


だがその表情は笑っている


いつものような、眉間にしわを寄せるようなことはない


「鏡花も、迷惑かけたな、こいつらの相手大変だっただろ」


「そりゃあもう、大変だったわよ・・・事情とかも聴きたいけど、それよりも・・・」


静希に言いたいことも聞きたいことも山ほどあるが、それよりも先に、オルビアによって抱きかかえられた明利は、呆然とこちらを見ている


静希がいるのが信じられないのか、瞼をこすりながら静希を見ている


オルビアが何か話しかけているようではあるが、まったく聞こえていないようだ


その様子を見て静希はゆっくりと明利のもとに近づいて、その頬を撫でる


「明利・・・ごめんな、心配かけた」


静希の声を聞いて、その手に触れて、ようやく静希が生きているという実感が得られたのか、明利はその眼から大粒な涙をこぼしながら静希に抱き着き大声を出して泣き始める


しきりに静希の名を叫びながら、心配した、怖かったなどと言葉にならないような声を何度もつぶやきながらその体を強く抱きしめている


言葉にならない声を何度も静希に投げかけながら明利は泣き続けている


静希は何も言わずに明利の体をしっかりと抱きとめていた


ここが危険地帯であることも忘れ、明利は泣き続けた


「鏡花、あいつの拘束をきつくしておいてくれ、陽太、あいつを運ぶの頼むぞ、無造作に引きずってくれていいからな」


いつまでもこうしているわけにもいかないのか、静希は明利を抱き上げ、陽太と鏡花に指示を飛ばす


明利の体が軽いことが幸いしたのか、全く意に介していないようだった


口だけを出した状態の目標の近くにトランプが飛翔し、その唇に釘が打ち込まれ、拘束している岩と唇を固定してしまう


その瞬間悲鳴ともつかない絶叫が聞こえる中、静希は邪笑を浮かべる


「お前のせいで、あの約束を守ることもできなくなるかもしれないんだ・・・そこんとこよく理解しろよ?」


そういいながら静希は釘を何発も打ち込んでいく


どれも急所にならない部分で、岩を貫通してほんの少しだけ肉に食い込むような形で的確に痛みを与えていく


「せいぜいいい声で泣きわめけ、俺の気が変われば少しは楽になるかもしれないからな」


目標にそう語りかける静希を見て、鏡花はようやく確信した


これは静希だと


目の前にいるのが本当に静希なのか、実は少しだけ疑っていたのだ


あんなに都合の良いタイミングで現れたのだ、疑うなという方が無理である


自らの近くにすり寄るフィアと頭を深く下げるオルビアをトランプの中に回収するその姿を見て、目の前にいるのが本当に静希であることを確信できた


「とにかく移動しよう・・・メフィの影響で多少奇形種は引きこもってるだろうけど、いつまでそれも持つかわからないからな」


状況把握が第一とでもいうかのように周囲を確認して地図と照らし合わせて静希は壁の方へと移動を始める


目標を引きずる陽太も鏡花もそれに従うようについていった


「静希、移動しながらでいいから今までどうしてたのか教えなさいよ、その左腕のこととか、どうやって生き延びたのとか」


さすがに何の説明もなしでは納得しないのか、鏡花は静希に詰め寄る


静希が生きていたことだけで十分な陽太と明利と違い、鏡花は常識的な思考ができている


少なくとも、この左腕が静希のものではなく、義手的な何かである以上、あの川のほとりに落ちていた左腕は静希のものであると考えていいだろう


爆発で片腕を欠損し、あの激流の中に飲まれた状況でどうやって生き延びたのか


「あー・・・どうやって生き延びたってことに関しては、俺は何もしてないんだよ、全部こいつらのおかげなんだ」


そういって静希は人外三人と一匹が入っているトランプを鏡花の前に飛翔させる


人外たちのおかげで生き延びた、静希はそういうがいくつか無理があるようにも思えた


確かに邪薙の力があれば爆風からも身を守れるだろうが、水の中に落ちてしまっては窒息してしまう


それになぜ邪薙の力をもってしながら左腕を欠損するような事態になってしまったのか


何より、今までどこにいたのか


疑問は尽きないのである


そんな鏡花の疑問に答えるかのように静希はぽつぽつと覚えていることを話し始めた







時間は二日目、奇形種の通り道を進み、明利が静希に突き飛ばされたところまで巻き戻る


とっさに明利を爆風の効果範囲から遠ざけようとし、邪薙に頼んで邪薙が張ることのできる三枚の障壁のうち一枚を球体と明利の間に張ってもらった


そして球体と自分の体の間に障壁を張ってもらおうと念じ、そこで静希の意識は途切れた


覚えているのは強い熱と、衝撃、そして左腕に走る激痛と、その直後に訪れた冷たい水の感覚


そうして静希の意識は完全に途切れ、次に目を覚ました時、目の前に広がっていたのはどこかも分からない、静希の知らない天井だった


木でできているであろう独特な木目と茶色をした天井に、文明の利器である照明、部屋の構造を理解しようと周囲を観察しようとしているとすぐ近くに控えているオルビアと目が合った


「マスター、お加減はいかがですか?」


「・・・オル・・・ビア・・・?」


いったい何が起こったのか、記憶を探ろうと起こったことを思い出そうとするのだが、明利を突き飛ばしたあたりからの記憶がまったく思い出せない


衝撃のせいか、それとも何かがあったのか、すっぽりと記憶だけが抜け落ちている


「ここはどこだ・・・?俺は一体・・・」


「今は安静に・・・体はかなり傷んでいるのです」


オルビアが濡れたタオルを額に当てるとその部分がジクリと痛みを伝える


僅かに火傷があるらしく、表皮がひりひりと痛むのが感じられる


痛みを感じられるということは自分は生きているということだろう


自分の体には毛布が掛けられているが、恐らくその下も傷だらけであることは想像するに難くない


半分だけ安心しながら静希は再び周囲の様子を観察する


どうやらここはどこかの部屋らしい、もっともここがどこかまではわからないが、しっかりと電気が通っているところを見るとどこかの誰かの家のようだ


状況から察するに自分は目標からの攻撃を受け気絶し、ここに運び込まれたのだろう


「安静に・・・してられるか・・・!あいつらは無事なの・・・!?」


体を起こそうと腕に力を入れたところで、その体に違和感が生じた


右腕と同じように左腕に力を込めようとしたのに、左腕がまったく反応しないのだ


そのまま体の左腕からベッドに体をうずめると、左腕の上腕部から激痛が走る


「あ・・・?ああぁぁあぁ!?・・・な・・・なん・・・俺の・・・腕・・・!?」


静希は見た、毛布に隠されていた左腕


上腕から先の腕が無くなっていたのだ


「マスター!気を確かに!」


呼吸が荒くなる、左腕が痛む、ないはずの左腕が


自分の腕がない、そんな状況になってどうやって平静を保てというのか


僅かに血のにじんだ包帯をぐるぐる巻きにされ、どうやら止血自体はほぼ完璧に終わっているようだったが、腕がないという現実に、頭をハンマーでたたかれたような衝撃が静希を襲った


そして静希の悲鳴を聞きつけたのか、どこかに行っていたメフィと邪薙が部屋にやってきた、邪薙の頭の上には使い魔であるフィアも乗っている


「シズキ!意識が戻ったのね!」


相変わらず空中を浮遊する悪魔メフィストフェレスの表情は喜びに満ちている


どうやら彼女は本気で心配してくれていたようだ、彼女がこんな表情を見せるのが非常に珍しいために、静希は激痛の中で少し戸惑ってもいた


「メフィ・・・邪薙・・・一体どうなったんだ?俺はどうしてこんなざまになってる・・・?」


静希の言葉に、一番大きく反応したのは邪薙だった


何とも悲痛な表情をして歯を食いしばっている


「シズキ・・・その腕に関しては・・・私の責任だ・・・!」


オルビアに体を支えてもらいながら上半身だけを起こすと、邪薙は跪いて自らの頭を床に叩き付けた


「すまない・・・!お前の守り神を名乗っておきながら・・・!人間如きの能力からも守ることができなかった・・・!これ程・・・守り神として・・・これ程情けないことはない・・・!」


神が頭を下げる


そんな光景を静希は初めて見た


その声は震え、怒りに満ちているようだった


その怒りの対象は、おそらく邪薙自身だろう、静希を守り切れなかった、自らへの自責


守り神として、傷を負わせてしまったことへの、強い責任を感じているのだ


「邪薙はよくやりました・・・問題は、目標の能力が、マスターの腕に近すぎたのです」


オルビアの説明によれば、明利の方に一枚の障壁を張り、後の二枚で静希を守護する単純作業のはずだったのだが、起爆の中心ともいえる球体が静希の腕に接近しすぎたせいでその隙間に障壁を張ると静希の体にも傷を負わせる可能性があったのだという


そこで邪薙は苦渋の決断をした


静希の左腕を見限り、体の守護を最優先にする


二枚の障壁を工夫して腕に対して平行ではなく垂直に折り重ねるように展開し、少し傾斜を作るように爆発物と静希の体の間に滑り込ませたのだという


あれほど近くで爆発が起こって静希の体にほとんど火傷がないのはそういうわけだったのだろう


結果的に静希の左腕は吹き飛ばされたわけだ


「邪薙、顔を上げてくれ・・・お前のおかげで俺は命拾いしたんだ・・・お前はよくやってくれたよ・・・」


「・・・だが・・・それでも・・・すまない・・・!」


邪薙は頭を上げなかった


神としての誇りか、握り拳を作ったまま、その頭を床につけ続けている


その声も体も小さく震え、今までの中で一層強く自分を責めているのだろう


誤字報告が五件溜まったので複数まとめて投稿


誰も静希が死んだと思ってくれてなくてちょっと悔しかったです


今度静希がやばいことになることがあれば本気で死なせることも視野に入れることにします、なんか悔しいし



これからもお楽しみいただければ幸いです

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