接触 戦闘開始
目標へと全力疾走する明利達が、それを見つけたのは、走り出してから数分後だった
少し遠巻きからその姿を確認してそれが軍の部隊の人間ではないことを確認することができる
黒い髪に黒い服、身長は百八十ほどだろうか、歳の程はおおよそ三十過ぎ
この年齢でこのような行動をしていることから判断するに、能力者の犯罪者であることはほぼ確定的だ
目標との距離はおおよそ二十メートル
相手もあたりを探索しているが、どうやら彼に索敵の能力はないようでこちらには気づいていない様子だった
「さて・・・どうやって捕獲しましょうか・・・いつも通り陽太が突っ込んで私がフォローして・・・って二人とも聞いて・・・」
返事を全くしない二人を見ると、明らかに様子がおかしい
木の隙間からとらえることのできるギリギリの距離で、二人の視線はあの男から離れない
「陽太君・・・あの人?」
「・・・あぁ・・・そうだ・・・あの面・・・忘れるもんかよ」
二人は視線を逸らさない
その顔やその体格を脳に刻み付けるように凝視して歯を食いしばる
「あいつが・・・静希を・・・!」
陽太の様子が徐々に変わっていく
瞳孔が開き、体の節々から漏れ出るように炎が顕現し始めている
「明利、離れて!」
急に周囲の温度が上がったのと同時に鏡花は明利を陽太から引き離す
次の瞬間、陽太の体が炎に包まれた
まるで幽閉されていた獣がようやく自由になったような、そんなそぶりを見せながら陽太の炎は湧き上がる
炎がやがて形を作っていき、いつものような、いや、いつもより禍々しい鬼の形へと変貌していく
その瞳は相変わらず目標を見続けている、口の中からわずかに炎を漏らしながら、その炎は際限なく体から溢れ続けているのがわかる
あれが敵だ、討ち滅ぼすべき、自分の敵だ
それを陽太は自覚したのか、大きく息を吸い込んで、咆哮した
その場から離れ始めていた鏡花は、最初それが陽太の声だとわからなかった
一瞬別のところから奇形種でもやってきたのではないかと思えるほどに、それは人の声とはかけ離れた声だった
その咆哮が聞こえたのだろう、目標も周囲を警戒し、木の奥にいる陽太に気づいたようだった
鏡花たちは陽太を囮にして目標の死角へと移動し続けていた
自分たちにできるのは陽太のフォローだ、陽太が戦闘を始めたらその場にいては邪魔になる
こうするしかできないのだ
陽太が目標をにらむと、相手も同じように警戒を高めていく
自分が相対しているのが人間かどうかなど関係ない
あれは危険だ
熟練の能力者である彼はそれを瞬時に把握していた
もう一度咆哮をすると同時に陽太が高速で突進を始めた
いや、始めたと思ったら、すでに目標の眼前にまで近づいていた
樹の間を縫うように高速で接近しその拳を振りかぶり叩き付けようとする
その速度に一瞬驚いたようだったが、横に飛んで軽く回避されてしまう
その速さゆえに急停止できなかった陽太は転がりながら手足を使って強引に自らの体を止め、すぐさま飛びかかる
瞬間、相手の能力が発動する
陽太が直進し、通過するその場所に赤い球体が飛翔し、陽太がその球体に触れる少し前に爆音を奏でながら周囲に炎をまき散らす
陽太の体を炎と衝撃がつつむ中、彼は少しため息をついて彼の生死を確認しようと遠巻きに目を凝らした
自分の能力はかなり攻撃力が高い
並の強化能力を持っているだけでは手足の一、二本は持っていく代物だ
それを防御もなしに直撃したのだ、あれで殺せてはいなくとも気絶位はさせたと思っていた
だが次の瞬間、爆炎を引き裂いて再度陽太が突進してくる
眼前に迫る拳に、今度はかなり全力で横へと跳躍した
自分の服をその拳が掠める中、転がるようにして攻撃を回避すると、今度こそその姿をしっかりと確認することができた
再度手足を使って強引に停止した陽太の姿はまさしく鬼、最初赤い毛を纏った獣か何かだと勘違いしたのだが、あれは炎であると即座に気づいた
炎を纏って身体能力強化をかけているのだと理解した彼は、陽太が最も相性の悪い相手であると理解したらしい
陽太にとって炎は致命傷にならず、かなり強い身体能力強化がかかっているらしい、衝撃もほぼ無効化されていると思っていいだろう
自分に向けて明確な敵意を向けているあの化け物は、恐らくは人間の能力者
何故自我が無くなっているのかは知らないが、それならそれでやりようはいくらでもある
集中し、眼前の鬼に向けて両の手を使い能力を発現する
それに呼応するように陽太は咆哮してまた目標に向けて突進する