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J/53  作者: 池金啓太
十三話「その森での喪失」
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決意とそれぞれの

「本題?あんた何言ってんの?」


静希が死んだことが本題ではない


陽太のその物言いに鏡花はわずかに頭に来ていた


今の陽太の状況は異常だ、明らかに正常な思考をしていない


だからと言って親友とも呼べる静希の死をそっち程度の扱いをしていいはずがない


「後藤さんから聞いたが、穴は全部塞いで犯人に逃げ場は無い、平坂さんの方も先生ががんばってくれて問題ないそうだ・・・もう俺らが何もしなくても事件は解決するだろうって」


「・・・」


陽太の静かな言葉を明利は放心しながら聞いていた、本当に聞こえているのかも定かではないが、それでも陽太は言葉を続ける


「俺は明日、森の中に入って静希の仇を討ちに行く」


「は!?」


「っ!」


陽太の言葉に鏡花が驚き、明利がわずかに反応する


先程の話から一転、何もしなくてもいい状況なのに陽太はさらに事件に首を突っ込もうとしている


いや、もはや本来の事件は違うのだろう


これは静希の幼馴染である陽太の問題なのだ


「誰も起きてない早朝、四時過ぎくらいに起きて、日の出少し前くらいに出発してあいつを探して一発ぶんなぐる、そのついでに拘束して軍に引き渡すつもりだ、お前らにも協力してほしい」


すでに早朝から行動する理由もない今、早朝からの行動であれば相手もこちらも動いていないことがあり得る


この時期の日の出は五時半くらい、五時に出発したとして日は登っていないまでも空が白んでくる時間のはず、完全な暗闇とはいかない上に奇形種もほとんどが寝ているだろう


ライトや光源を持っていれば問題なく行動が可能な範囲である


平坂の奇形種の調査という目的がなくなった今、軍の人間もわざわざ視界の悪い日の出前には動くことはしないだろう


「やるかやらないかはお前達が選べ、お前たちが来なくても俺はいく」


「・・・確認するけど・・・捕獲なの?・・・その・・・殺すんじゃなくて・・・」


陽太の言葉にあった拘束という言葉に、鏡花はわずかな違和感を覚えた


陽太ならこの場面で殺してやると言いそうなものだ、少なくとも今までの陽太を見てきてそういうだろうと鏡花は思っていた


「俺だって殺してやりたいさ・・・でも静希ならたぶん、こう言うんじゃないか?『簡単に殺してやらない・・・生き地獄を味わわせてやる』って・・・」


それは確かに静希のいいそうなセリフだ


静希なら敵を一撃のもとに楽にさせるようなことはしないだろう


苦痛を味わわせて回復して、何度も何度も何度も何度もその体と心に痛みを植え付ける


今まで一緒にいた静希は、そういう男だった


「晩飯貰ってくる・・・俺が帰ってくるまでに決めてくれ」


夕食をこの部屋に持ってくるつもりなのか、陽太が席を離れ部屋から出ていくと、その場にわずかな静寂が訪れる


状況についていけない鏡花はもう頭も心もぐちゃぐちゃだった


おかしくなってしまった明利と陽太に、もうどうしたらいいかわからなくなってしまっているのだ


「・・・静希君に・・・」


「え?なに?」


明利のつぶやきに、鏡花はとっさに反応した


何を言うつもりなのかもわからず、自分の腕の中にある静希の左腕を見つめる明利に鏡花は視線を向け続けている


「・・・言いたいこと・・・たくさん・・・あったんだ・・・ずっと・・・言えなかったけど、言いたいこと、言いたかったこと・・・たくさん・・・たくさん・・・!」


言葉を紡ぐ中で明利の目から涙がこぼれ、今まで抑えられていただろう感情が噴き出したかのように泣き始めてしまう


そんな明利を見ていられなかったのか、鏡花は明利の小さな体を抱きしめて歯を食いしばる


その眼からはわずかに涙が浮かんでいる


明利は今になって、静希が死んだということの実感が出てきたのだろう


泣き始めてしまったらもう止まらなかった


声を、涙を、鼻水を、鏡花がいることも憚らずに悲しさと後悔を押し流すように泣き続ける


その声は夕食をとってきた陽太にも聞こえてきた


食堂から配膳台を借りてきて三人分持ってきたところで、陽太はその声を聞いていた


幼馴染が泣いている


静希が死んだことで、悲しさに耐えられずに、声を出して泣いている


だというのに、陽太の瞳からは一滴も涙がこぼれなかった


自分の頬をわずかに触って、濡れない指先を眺めて呆然と立ち尽くすしかできなかった


泣き声が少しおさまったところで、陽太は部屋に入る


配膳台ごと部屋の中に入れ、少しだけ冷めてしまった料理を近くにあったテーブルの上に並べていく


無表情でただ料理を置いていく陽太を見て、鏡花はまた涙が流れそうになった


異常になった、なってしまった自分の友人たちをみて、どうすることもできない自分が情けなくて


「答えは出たか?明日、どうするか」


僅かに収まった泣き声のおかげで、陽太の言葉はしっかりと明利の耳にも鏡花の耳にも届いていた


数秒間、反応がない中、陽太は少し冷めた食事を口の中に入れ始める


食べながら答えを待つつもりらしい


鏡花は迷っていた


班長としては、これ以上危険な真似をする陽太を止めるのが自分の仕事だと理解している


すでに自分たちが出る必要はなく、何より出ても危険に晒されるだけ、得られるものは自己満足にも満たない何かだろう


それでも陽太は行こうとしている、自分の幼馴染の意志を携えて、仇を取りに行こうとしている


殺さない、最も残虐な方法で


鏡花が迷っていると、鏡花の腕の中で泣いていた明利がゆっくりと動いてその腕から逃れていく


そして自分の腕で流れた涙と鼻水を拭っていく


目は真っ赤に充血し、鼻も赤く、誰が見ても泣き腫らしたということがわかる状態だった


それでも、その眼は強い意志を秘めている


「行く・・・私も行くよ・・・」


「ちょっ!明利・・・あんたまで・・・」


まっすぐに陽太を見つめる明利に、鏡花は驚愕しながら二人を見比べる


陽太だけならまだわかるが、まさか明利までこんな発言をするとは思わなかった


普段なら行かなくてもいいなら行かないというかもしれない、怖いことは苦手とし、はっきりと自分の意思を伝えることが苦手な彼女なら答えを濁すこともあるかもしれない


だが、今の明利ははっきりと行くと、そう言った


「一応確認しとくけど、わかってんのか?相手は能力者、死ぬかもしれないぞ?」


爆炎という能力がわかっている以上、陽太の安全はほぼ確定的だ


なんせ炎はすべて無効、衝撃などもほとんどダメージにならないのだから


能力を発動した状態の陽太に打撃などでダメージを与えるにはエルフか悪魔級の攻撃をしなくてはならない


だが明利は違う


身を守るような術はなく、あるのは索敵と少し成長速度を上げる強化能力と応急処置レベルの治療


そんな明利が危険地帯に首を突っ込むこと自体自殺行為なのだ


「・・・わかってる、危ないってことは、十分理解してる・・・でも行く、止められても行く」


「・・・そうか、わかった・・・」


明利の索敵があるかどうかで陽太の言う作戦の成功率はかなり上下する


何せかなり広く視界も狭い森の中でどこにいるかもわからない相手を右往左往して探さなければならないのだ


だが明利がいればすでにかなりの索敵を終えているためにかなり高確率で対象を見つけることができるだろう


彼女の索敵範囲を伸ばしながら行動するという意味でも早朝での行動は意味を成すのだ


「鏡花、お前はどうする?ついてくるか?残るか?・・・それとも、止めるか?」


陽太の言葉に鏡花は一瞬身を強張らせる


止めるべきだ、班長として、これ以上危険な目に遭わせる訳にはいかない


鏡花の脳裏に、今までの静希の思い出がフラッシュバックする


走馬灯にも似た、まるで最後の思い出とでもいうような、回想の数々


そして最後に見えたのは、明利の泣き顔だった


「班長として・・・これ以上あんたたちを危険なところに行かせるわけにはいかない・・・冷静に考えれば、正しいことなんてすぐにわかる・・・止めるのが、ここは正しい判断よ」


その言葉に、明利と陽太はわずかに眉をひそめたが、同時に鏡花は大きくため息をついた


「でもね・・・ダメだわ・・・あんたらと一緒にいて私もバカになったかな・・・」


「・・・それじゃあ・・・」


明利の言葉に、鏡花はあきらめたような笑みを浮かべてお手上げのポーズをする


笑みとは対照的に、その瞳は、諦めたというものではなく何かを決めたような、そんな感情を読み取ることができる


「あんたらが好き勝手暴れて、私が後始末・・・だもんね、この班は、そういう班だもんね・・・私はそういう班が好きだったんだから」


文句を言いながらも、いやいやながらでも、鏡花はこの班の空気が嫌いではなかった


むしろ好ましかった、自分がしっかりと存在出来て、自分と対等でいてくれるバカな奴らがいる、そんな破天荒なこの班が


「私は最後まで、この班の班長よ、あんたらは好き勝手暴れなさいよ、私が行って、ちゃんと後始末してあげるから」


その言葉に、明利はわずかに笑みを取り戻していた


それはとても弱弱しく、僅かに申し訳なさそうにしている笑みだった


そして陽太は笑わない、僅かに息をついて鏡花の方から視線をそらさなかった


「悪いな・・・いつも迷惑かけて」


「そう思ってるならもう少し自重しなさいっての・・・本気でそう思ってるならね」


鏡花の言葉に、陽太は何の返答もしないで食事を終えて息をつく


「明日早いからな、早めに寝ておけよ?俺はもう寝る」


配膳台と食事を残したまま、陽太はその場から去っていく


この後始末も頼むということなのか、ただ単に忘れただけなのか


どちらにしろ鏡花はまったくもうとため息をついて、もう冷めてしまった食事を食べ始める


それを見て明利も、冷めてしまった料理を口の中に入れていく


栄養を蓄えなくてはいざという時に動けない


食べておく必要があるのだ、今、こうしていられるうちに


「鏡花さん・・・お願いがあるんだけど」


「ん?なに?」


食事を終えて片付けようとしている中、明利のつぶやきで鏡花は振り返った


明利は窓から外の景色を眺めている


その瞳が何を映しているのか、鏡花には理解できなかった


「今日は・・・一人にしてくれないかな・・・無理を言ってるのは・・・わかってるけど・・・」


女子に割り振られた部屋はこれだけだ、ここから出るということはどこかに行かなくてはならない


それがどれだけ迷惑なことか、明利だってわかっているだろう


だが明利がどういう状況なのか、鏡花だって理解していた


一人になって気持ちの整理をつけたい時だってある、いや明利は気持ちの整理をつけなくてはならないのだ


明日、しっかりと行動するために


少し立ち直ったように見えているが、まだ明利は危うい状況だ、少しでも安静にさせておくのがベストだろうと、鏡花は判断した


「わかったわ、今日は陽太のとこにでも潜り込むことにする」


「・・・ごめんね」


「いいわよ、気にしないで、あいつが手を出して来たらフルボッコにしてやるんだから!」


そんな風に気丈に振る舞って鏡花は配膳台に食べ終えた食器を置いてとりあえず食堂に持っていくことにする


あの時は思わずわかったなどと言ったが、実際にはどうしたものか


城島の部屋はわからないから誰かに聞かなくてはならないし、もしあってもほかの人が一緒にいたら使えないかもしれない


何より明日無断で攻勢に出ようというのに監督役である城島のところにいては自由に動けない可能性がある、この時点で城島の部屋というのは選択肢から消えていた


陽太の部屋ならば、確実に静希の使っていたベッドが空いているだろうが、男子と同じ部屋で寝泊まりするなど小学生以来だ


そんなことを気にしていられる精神状態ではないが、少しくらい緊張してしまうのだ


食器を片付けた後、陽太に部屋に入れてもらえるように交渉しようとノックするが返事がない


もしかしたらもう寝てしまったのだろうかとドアをわずかに開けると、部屋は真っ暗だ


目を凝らして陽太が寝ているかどうか判断しようと思ったのだが、何かおかしい


鏡花は部屋の電気をつけて中を確認すると、そこには誰もいなかった


「陽太・・・?」


てっきりすでに床に就いているものと思っていたが、どちらのベッドにも陽太の姿はなく、彼のものである携帯が置かれているのみだ


どこかに行っているのか、それにしてもいったいどこに?




冷静になった時の陽太には気をつけろ





静希の忠告が脳裏に過る中、鏡花は陽太を探すために行動を開始していた


ロビーまで来ると、そこにはまだ何人かの部隊の人間が話していた、死者が出たことで多少浮足立っているものの、まだ平静を保てているようだ


「あのすいません、陽太を・・・うちの班の前衛を見ませんでしたか?」


鏡花に唐突に話しかけられたことで隊員は少し驚いたようだが、その姿を見てわずかに表情を変える


気の毒そうな、残念そうな、哀れみにも似た表情であることがわかった


「あぁ・・・彼、大丈夫なのかい?ふらふら歩いてどっか行っちゃったけど・・・」


「どこに行きましたか!?」


「え・・・いや、外に出ていったのを見ただけで、どこに行くかまでは・・・」


それだけ聞いて鏡花は走って玄関から外へと出ていく


近くに陽太の姿はない、すでに暗くなったこの近辺では視覚での捜索は難しいだろう


「あのバカ・・・何で携帯をもっていかないのよ・・・!携帯電話の意味考えなさいよね!」


携帯していなければ携帯電話とは言えない、とはいえそんな悪態をついている場合でもない


先程自分も言った、後始末は自分の仕事である


静希が気をつけろと言ったのだ、自分に対して、そういったのだ


ならば自分は今の陽太を放っておくわけにはいかない


何をするか、どうなるのかわからない危険物状態の陽太を放っておけるほど、鏡花は耄碌していないのだ


とはいえ探すと言っても陽太がどこにいるか、あたりを散策するも、建物の近くには陽太の姿はない


いったいどこに行ったのかと考える中、ではこの状況でなぜ外に出歩いたのかという考えにいたる


何か理由がある


陽太自身早く寝ることを勧めておきながら、自分がそれをしない理由


そして陽太がああなった原因を思い出して、鏡花は確証のないまま走り出した


鏡花が向かったのは地下水が川と合流する場所、ちょうど死者が大量にいたあの場所である


瓦礫も撤去され、死体もすべて片づけられてそこにはもうただの川以外の景観を見出すことはできない


周囲からは時折風の音と、水のせせらぎが聞こえるだけ


完全な静寂とは言えないが、風情のある場所だった


水場が近いからか、宿舎付近よりもわずかに気温が低いようにも思える


そんな場所に、陽太はいた


日曜日と誤字報告五件たまったので三回分まとめて投稿


誤字の多さを考えるともう一日くらい複数投稿の日を増やしてもいいかもしれないと思う今日この頃


これからもお楽しみいただければ幸いです

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