目覚めと困惑
「結果的に、あの後何度か目標と接触、戦闘を繰り返しながら一時的に森の全域をマッピングすることに成功して、全ての穴をふさぐことに成功したんだ、これで目標は本当に袋の鼠・・・というわけだが」
「そうっすか、平坂さんの方は?」
これで目標を追うのに時間をかけられるが、今必要なのは平坂の行方だ
正直森の中にいる方よりもそちらの方が重要度は高い
もう一人の犯人の可能性が消えない以上、そしてその可能性が濃厚になっている以上、陽太たちが本来気にするべきはそっちなのだ
「城島先生から方々に掛け合ってくれてね、予定よりずっと早く洞窟の入り口を完全に包囲できたらしい、先遣隊としていくつかの部隊が突入しているとも聞いた・・・距離的と時間的に確保と保護も時間の問題だろうと思う」
どうやら外につながる道は随分と長いものらしい、少なくとも間に合ったと後藤は判断しているようだった
こうなってしまうとすでに陽太たちがこの場にいることに意味はない
陽太たちの実習内容は平坂の護衛
護衛対象はすでに誘拐され、そちらの方もすでに解決にめどが立っている
今から移動してそちらに加わろうにも全員心身共に大きく疲弊している、まともに行動できるとは思えなかった
「君たちはとにかく休みなさい、後のことは任せて・・・部屋は好きに使ってくれて構わないから」
そういって後藤はその場から足早に去っていく
恐らくは森の方にいる部隊に指示を送りに行ったのだろう
時間をかけられるとはいってもそれも早いに越したことはない
一刻も早く解決して学生たちを早く本当の意味で休ませてやりたいのだろう、こんな状況になってしまってかける言葉が見つからないというのもそうだが、あれ以上憔悴しきった三人を見ていられなかったというのもある
宿舎に戻って明利を女子の部屋に寝かせ、食事をとりながら待っているあいだ、陽太も鏡花も一言も声を発することはなかった
異常な状態になってしまっている陽太と、頭と心の整理がつかない鏡花
この二人が一緒にいてここまで長い沈黙を続けるのは今までなかったことだった
睡眠薬の効果時間の二時間を過ぎても、静希の左腕を掴んで離さない状態の明利は起きなかった
恐らく限界まで体を酷使したせいで疲労が蓄積していたのだろう
無理もない、体力に自信のある陽太でさえ少し疲れてしまっているのだから
それが肉体的か、精神的かはわからないが
何度かその様子を城島が見に来たが、あまりの三人の変わりようにわずかに拳を握ってから何も言わずに退室していた
彼女も部隊の人間が死ぬということは体験しているだろう
だが陽太や明利にとって静希は幼いころから一緒にいた友人だ
そのショックは計り知れない
だからこそ、何もいう事が出来なかった
明利が目を覚ましたのは十九時になろうというところだった
すでに日は落ち、そろそろ夕食になろうという頃に、穏やかな寝息を立てていた明利はゆっくりと目を覚ました
「起きたか・・・」
その場で明利が目覚めるのを待っていた陽太と鏡花がその顔をのぞき込むと、明利はあたりを見回しながら今どういう状況なのかわかっていないようだった
「あれ・・・?ここは?私・・・何で眠って・・・?」
一度意識を失ったことで少し記憶が混濁しているのか、今の状況が本気で理解できないようだった
当然と言えば当然かもしれない、あれだけの興奮状態の中で強制的に昏睡させられたのだ
「明利、大丈夫?どっか痛かったりしない?」
「鏡花さん・・・?・・・陽太君も・・・あれ?静希君は?静希君はどこ?」
その言葉に鏡花は目を見開いた
記憶障害、と言えるほどのものだろうか、急激な感情と状況の変化に頭が追い付いていないのか、明利はしきりに静希の姿を探していた
「ねえ二人とも、静希君はどこ?どこに行ったの?ねぇ!」
静希の名を呼ぶうちに記憶が徐々によみがえってきたのか、明利の声に力がこもる、その眼は徐々に恐怖に染まっているように見えた
信じられない、信じたくないといった様子で明利は鏡花の服の裾を必死につかみながら静希はどこかと尋ねている
「あれは夢なんだよね!?静希君が・・・静希君の腕が・・・あれは私の見た夢なんだよね!?そうなんでしょ!?」
明利の悲痛な声が部屋の中に響く中、陽太が鏡花の服を掴んでいた明利の手をやさしく掴んで離させる
その表情は何もない、悲しみも哀れみも、怒りさえもない本当の無表情
今まで陽太のこんな顔を見ていない明利は一瞬ひるんで言葉を止めた
「明利、俺・・・ウソ下手だからさ、はっきり言っておく・・・静希は死んだと思う」
死体を確認していない以上、確定ではないものの、あの状態で生き残れる可能性は限りなく低い
少なくともあれに巻き込まれた軍の人間は全員死んでいた、大した能力を持たない静希が生き残れるとは思えない
「そん・・・うそ・・・嘘だよ・・・静希・・・君が・・・」
「本題はそっちじゃない・・・これからの話をするぞ」